プラス的 異世界の過ごし方

seo

文字の大きさ
上 下
363 / 849
9章 夏休みとシアター

第363話 子供だけでお出かけ⑦お返し

しおりを挟む
「そうですか。……恩人のお名前を教えてください。恩人にはたっぷりお礼をしませんと。両親にも伝えないといけませんから」

 アニキ分の濁声の主はニヤッと笑った。獲物がかかったことを喜ぶように。
 敵は9人だと記憶しているが、目の前にいるのは5人だ。

 とマップに目を走らせ、少し離れたところに黄色の点と紺色の点が2つあり、寄ってきた赤い点が紺色に変わるのを見た。
 黄色は知っている人。
 あ、ニアが敵を減らしているんだ。
 兄さまたちもボードに目を走らせたから、わかっただろう。

 今まで思い切り攻撃魔法をぶっ放したのは魔物にだけだ。人に対してしたことはない。試合をしたことはあるけれど、あれには制限はあるし、もちろん本気の攻撃魔法は使わない。
 でも、今なら人に対してでも思い切り攻撃したい気持ちになっている。

『気が昂っているようだ』

 もふさまは何でもわかっちゃうんだから。
 そうだね、抑えないと。誰に頼まれたのか口を割らせないといけないから、意識は残さないとね。

 彼らは統制がとれてない。襲撃する目的で一応チームなんだろうけど、個々に動いている。石を転がして横転させたのも、アニキがそう命令したわけじゃなさそうだ。そんなずさんな人たちが、ポポ族のお兄さんにぬいぐるみを取らせてくるなんて思いつくかな?
 そんなまどろっこしいことを考えたりしないと思う。だからバックに誰かいる。そっちを捕まえないと、また同じようなことが起こるかもしれない。それは絶対に嫌だ。

「恩人なんて思わなくていいから、教えて欲しいことがある」

 アニキが一歩踏み出す。
 もふさまが襲い掛かろうとするのをわたしは止めた。
 アニキはわたしの目の前にお腹を切られたぬいぐるみを突き出した。

「この中のふわふわしたのはどこで手に入れた?」

「……それは昨日出会ったお兄さんに差しあげた物ですわ。どうしてあなたが持っていらっしゃいますの?」

「なぜって、あの野郎に取りにいかせたのが俺らだからだよ。妹を人質にとってこれを盗ってこいとよ。んなめんどーなことしなくても良さそうなもんだが。で、結局、わからず仕舞いでこの中のこれはどこで手に入れているのか、聞くしかないんだからな」

 ふぅん。予想通りだね。この人たちも間に入っているだけだ。

「やっぱり渡せねーとか言って逆らわなきゃ、無事にかえしてやるつもりだったのによー。ボコボコにしてやって、妹は売ってやった。お前らも逆らうんじゃねーぜ? 大人しく答えれば、悪いようにはしねーからよ」

 冷静になれ。自分に言い聞かせる。
 ボコボコにしたとか売ったとか、そんな言葉を並べればわたしたちが怖がると思ったのだろう。

「お兄さんはどこにいるの? 妹はどこに売ったの?」

「そんなこと聞いてどーすんだ?」

「なぜ、子供の私たちが、仕入れ先を知っていると思うんです?」

 兄さまが尋ねた。

「シュタイン領ではちっこいうちから事業に関わらせているって聞くぜ。それからお前たちを子供だって思わないようにもな」

 これはわたしたちが知っているって確信してるね。

「ギブアンドテイクならいいですよ」

「ぎぶ? なんだって?」

 わたしはため息を落とす。

「お互いに与え合うという意味です。仕入れ先を聞いてこいと誰に頼まれたのか教えてくれたら、仕入れ先、教えてもいいですよ」

 一番知りたいのはポポ族の人がどこにいるかと、妹を誰に売ったかをだが、それを知りたいと教えてしまって、何かの取引材料にされたら厄介だ。
 男は考え込んでいる。
 顔をあげてニヤリと歪んだ笑みを浮かべた。

「シュタイン家の子供たちを襲撃して、ぬいぐるみの中の何とかの住処の仕入れ先を俺たちに依頼したのは、港町ゲルンを根白にしてるクレソン商会だ。ま、あいつらはペネロペの下請けだけどな」

 ご丁寧に黒幕たちを教えてくれた。

「こっちは〝与えて〟やったぜ。仕入れ先を教えろ」

 冷静になるんだ。自分を戒める。
 知りたいことがわかったら、すぐにわたしたちを捕まえるつもりだ。アイコンタクトや、すぐに短剣を握り直したりしてバレバレだ。

 ふ・ざ・け・る・な!

 風が起こった。髪が自分の風で巻き上がっているのを感じる。
 兄さまが振り返ってわたしを見る。

「リディー」
「リー」
「リー」

 わかってる。思い切りなんかやらない。だけど。

「おっと、坊ちゃんたちは取引に口を挟まないでくれ。嬢ちゃん、約束は守ってくれよ」

 兄さまたちが止めようとしているのは、仕入れ先を告げることだと思ったようだ。

「もちろん、約束は守りますわ。仕入れ先はダ・ン・ジョ・ンよ」

 一瞬惚けた顔をしている。
 感謝してほしい。わたしは事実を述べたのだから。約束を守るような価値のない人に。雪くらげの住処はダンジョン産だ。ミラーダンジョンの海エリアに生息する雪くらげ。その住処を集めて使っているんだもん。

「馬車を襲撃しておいて、助けてやったなんて、よく言うわ。みんなが受けた痛み、返すわね」

 わたしは魔力を解放した。巻き起こった風は悪党たちに向かった。男たちは残らず風の渦に翻弄される。山側の木がワサワサと恐ろしいほどにしなり、枝がバキバキ折れる音がした。その音で我に返る。
 意思のままに風がピタリと止まる。竜巻に巻かれていた人たちがボタボタと地面に落ちてバウンドする。あ、腕の角度が変。あっちは血が出てる。
 ……わたしは〝人〟を攻撃した。
 兄さまがひどい有様になった男たちの山から目が離せないでいるわたしの目を手で覆った。
 わたしはその手を解いた。わたしが自分の意思で、わたしがやったことだから。ちゃんと向き合う。

 兄さまに強く引かれて、胸におさまる。

 山側からゴロゴロと転がってきたものが、気を失った倒れた男たちにぶつかって止まった。転がってきたのは、気を失ってる〝人〟だった。わたしが竜巻で巻き上げた人たちと同じぐらい傷ついている。
 最後にニアが飛んで降りてきた。
 そして口笛を吹く。

「大人5人を倒したか。みんな本当に強いんだな」

 アラ兄とロビ兄が鞄から縄を取り出して、男たちを縛っていく。

 9人を縛り上げひとところにまとめ、顔に水をかけて起こした。
 目を覚ました男たちは傷いっぱいの自分の姿に愕然とし、痛いのだろう、うめき声をあげた。そして縛りあげられていることに驚いている。

「だ、騙したな!」

 お前が言うか。アニキ分は傷だらけだけど元気そうだ。
 小さく息をつく。

「騙してなんかいませんわ。仕入れ先も本当のことを言ってますし、保護して差しあげているのに、心外ですわねぇ」
しおりを挟む
感想 45

あなたにおすすめの小説

生まれ変わりも楽じゃない ~生まれ変わっても私はわたし~

こひな
恋愛
市川みのり 31歳。 成り行きで、なぜかバリバリのキャリアウーマンをやっていた私。 彼氏なし・趣味は食べることと読書という仕事以外は引きこもり気味な私が、とばっちりで異世界転生。 貴族令嬢となり、四苦八苦しつつ異世界を生き抜くお話です。 ※いつも読んで頂きありがとうございます。誤字脱字のご指摘ありがとうございます。

女性として見れない私は、もう不要な様です〜俺の事は忘れて幸せになって欲しい。と言われたのでそうする事にした結果〜

流雲青人
恋愛
子爵令嬢のプレセアは目の前に広がる光景に静かに涙を零した。 偶然にも居合わせてしまったのだ。 学園の裏庭で、婚約者がプレセアの友人へと告白している場面に。 そして後日、婚約者に呼び出され告げられた。 「君を女性として見ることが出来ない」 幼馴染であり、共に過ごして来た時間はとても長い。 その中でどうやら彼はプレセアを友人以上として見れなくなってしまったらしい。 「俺の事は忘れて幸せになって欲しい。君は幸せになるべき人だから」 大切な二人だからこそ、清く身を引いて、大好きな人と友人の恋を応援したい。 そう思っている筈なのに、恋心がその気持ちを邪魔してきて...。 ※ ゆるふわ設定です。 完結しました。

どうして私が我慢しなきゃいけないの?!~悪役令嬢のとりまきの母でした~

涼暮 月
恋愛
目を覚ますと別人になっていたわたし。なんだか冴えない異国の女の子ね。あれ、これってもしかして異世界転生?と思ったら、乙女ゲームの悪役令嬢のとりまきのうちの一人の母…かもしれないです。とりあえず婚約者が最悪なので、婚約回避のために頑張ります!

公爵夫人アリアの華麗なるダブルワーク〜秘密の隠し部屋からお届けいたします〜

白猫
恋愛
主人公アリアとディカルト公爵家の当主であるルドルフは、政略結婚により結ばれた典型的な貴族の夫婦だった。 がしかし、5年ぶりに戦地から戻ったルドルフは敗戦国である隣国の平民イザベラを連れ帰る。城に戻ったルドルフからは目すら合わせてもらえないまま、本邸と別邸にわかれた別居生活が始まる。愛人なのかすら教えてもらえない女性の存在、そのイザベラから無駄に意識されるうちに、アリアは面倒臭さに頭を抱えるようになる。ある日、侍女から語られたイザベラに関する「推測」をきっかけに物語は大きく動き出す。 暗闇しかないトンネルのような現状から抜け出すには、ルドルフと離婚し公爵令嬢に戻るしかないと思っていたアリアだが、その「推測」にひと握りの可能性を見出したのだ。そして公爵邸にいながら自分を磨き、リスキリングに挑戦する。とにかく今あるものを使って、できるだけ抵抗しよう!そんなアリアを待っていたのは、思わぬ新しい人生と想像を上回る幸福であった。公爵夫人の反撃と挑戦の狼煙、いまここに高く打ち上げます! ➡️登場人物、国、背景など全て架空の100%フィクションです。

野草から始まる異世界スローライフ

深月カナメ
ファンタジー
花、植物に癒されたキャンプ場からの帰り、事故にあい異世界に転生。気付けば子供の姿で、名前はエルバという。 私ーーエルバはスクスク育ち。 ある日、ふれた薬草の名前、効能が頭の中に聞こえた。 (このスキル使える)   エルバはみたこともない植物をもとめ、魔法のある世界で優しい両親も恵まれ、私の第二の人生はいま異世界ではじまった。 エブリスタ様にて掲載中です。 表紙は表紙メーカー様をお借りいたしました。 プロローグ〜78話までを第一章として、誤字脱字を直したものに変えました。 物語は変わっておりません。 一応、誤字脱字、文章などを直したはずですが、まだまだあると思います。見直しながら第二章を進めたいと思っております。 よろしくお願いします。

無一文で追放される悪女に転生したので特技を活かしてお金儲けを始めたら、聖女様と呼ばれるようになりました

結城芙由奈@12/27電子書籍配信中
恋愛
スーパームーンの美しい夜。仕事帰り、トラックに撥ねらてしまった私。気づけば草の生えた地面の上に倒れていた。目の前に見える城に入れば、盛大なパーティーの真っ最中。目の前にある豪華な食事を口にしていると見知らぬ男性にいきなり名前を呼ばれて、次期王妃候補の資格を失ったことを聞かされた。理由も分からないまま、家に帰宅すると「お前のような恥さらしは今日限り、出ていけ」と追い出されてしまう。途方に暮れる私についてきてくれたのは、私の専属メイドと御者の青年。そこで私は2人を連れて新天地目指して旅立つことにした。無一文だけど大丈夫。私は前世の特技を活かしてお金を稼ぐことが出来るのだから―― ※ 他サイトでも投稿中

世の中は意外と魔術で何とかなる

ものまねの実
ファンタジー
新しい人生が唐突に始まった男が一人。目覚めた場所は人のいない森の中の廃村。生きるのに精一杯で、大層な目標もない。しかしある日の出会いから物語は動き出す。 神様の土下座・謝罪もない、スキル特典もレベル制もない、転生トラックもそれほど走ってない。突然の転生に戸惑うも、前世での経験があるおかげで図太く生きられる。生きるのに『隠してたけど実は最強』も『パーティから追放されたから復讐する』とかの設定も必要ない。人はただ明日を目指して歩くだけで十分なんだ。 『王道とは歩むものではなく、その隣にある少しずれた道を歩くためのガイドにするくらいが丁度いい』 平凡な生き方をしているつもりが、結局騒ぎを起こしてしまう男の冒険譚。困ったときの魔術頼み!大丈夫、俺上手に魔術使えますから。※主人公は結構ズルをします。正々堂々がお好きな方はご注意ください。

婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪

naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。 「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」 まっ、いいかっ! 持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

処理中です...