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8章 そうしてわたしは恋を知る
第345話 耳鳴り
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「そのことは、家で対処しますので」
やんわりとウチの問題だからと告げる。
メロディー嬢は的確に受け取ったようで傷ついた顔をした。
両手で口元を覆い、微かに震えている。
え?
「申し訳ございません。私余計なことを言ったのですね。ランディラカさまという方がいらっしゃるのに失礼ですし、シュタイン嬢もお困りだと思ったのです」
だから詳しく言わなくていいってば。
「自分で対処しますから大丈夫ですわ。ご心配ありがとうございます」
そう締めくくれば、触れてくれるなのサインが伝わったようで、話題を変えてきた。
「シュタイン嬢は婚約者のランディラカさまとどこでお会いになりましたの?」
婚約者の話は嬉しいものだと言ったからだろう、今度は兄さまのことを聞いてきた。
「フランツさまは曽祖父の養子ですので、辺境で暮らしていた時から一緒におります」
「シュタイン嬢の婚約者にするために、ランディラカさまを養子にされたのかしら?」
「さぁ、わたしにはわかりません」
「ランディラカさまの実のご両親のことをシュタイン嬢はご存知ですの?」
「……なぜ、そんなことをお聞きになるんですか?」
メロディー嬢はにっこりと笑った。
「あら、婚約者の話をされると嬉しいとシュタイン嬢がおっしゃったからですわ。間違っていましたかしら?」
「わたしの尋ね方がよくなかったようですね。婚約者の話を聞くのは、婚約者のことを知りたいのではなくて、令嬢がお相手の婚約者をどう思っているかを聞きたいからですわ。つまるところ令嬢のことが知りたくて尋ねるのです。きっとわたしの質問が、メロディー嬢が婚約者の第1王子さまをどう思っているかではなく、第1王子さまのことをただ尋ねたように聞こえてしまいましたのね」
あなたはわたしが婚約者をどう思っているかを聞きたいんじゃなくて、兄さまのことをただ知りたいように聞こえるんですけど、と言ってやる。
微かに目を大きくした。
「私の出自に関心がおありですか?」
「兄さま……」
兄さまが横に来ていて、メロディー嬢を見下ろす。
「メロディー嬢、私に関することはリディーではなく、私にお聞きください」
メロディー嬢は笑顔を張り付かせたまま言った。
「ではお言葉に甘えて。ランディラカさまの実のご両親はどちらの方ですの?」
なんでそんなことを聞くの?
「気を悪くなさらないとよろしいのですが、休み明けにパーティーをする予定です。ぜひ、シュタイン嬢とパートナーの方と一緒にお誘いしたいと思っておりますわ。シュタイン家の出自は確かですが、パートナーのランディラカさまはどうなのかと思って、気になりましたの」
うわー、超失礼!
「私は養子になった時から、前ランディラカ辺境伯が父と思っております。それ以外に親はありません。それから、リディーは今年はまだパーティーに参加させません、申し訳ありませんが」
「……氷の君、婚約者のシュタイン嬢以外には本当に冷たいんですのね。でも、私にそんな態度をとってよろしいのかしら?」
一気に雰囲気が悪くなった。
「コーデリア嬢? どうかしたのかい?」
「ロサさま、なんでもありませんわ。婚約者の方がシュタイン嬢を独り占めするから、少し悔しくなりましたの」
「あはは、フランツは婚約者のことになると、頭に血がのぼってしまうんだ。それだけ大切に思っているってことだ、許してやってくれ」
ロサにおさめられたら、双方納得するしかない。話はここまでだ。
一呼吸おいてメロディー嬢は言った。
「シュタイン嬢はメピアの花をご存知かしら?」
「……存じあげません」
クスッと笑ってから、そのまま静かに微笑んだ。見るものを魅了する笑み。わたしの言葉に満足したように。わたしが知らなかったことを喜ぶように。
「もう季節は終わってしまいましたけど、雨が降ると花開きますの。白い可憐な花ですのよ。メピアを讃える歌があって……小さい頃そんな歌を私に歌ってくださった方がいました」
いい思い出なんだろう。メロディー嬢の頬が色づいた。
そして胸の前で手を合わせた。
「シュタイン嬢、お願いがありますの」
嫌な予感しかしない。
「な、なんでしょう?」
「昨夜、置き手紙がありまして。私、脅迫されてますの」
は?
何いってんだ?寄りの衝撃を受けたのはわたしだけではなく、みんな手を止めメロディー嬢を見る。
「脅迫とは穏やかではないですね、どういうことですか?」
ロサがメロディー嬢に近寄った。
ピキーンと高い音がしたような気がした。
ジジジジジジジジジジジジジジジジジジ
何? 耳鳴り?
もふさまが体を少し起こして壁で見えない外を見るような仕草をした。
「よくあることですわ。婚約者から降りるように定期的に手紙がきますのよ」
よ、よくあるの?
「騎士団に届けましたか?」
「最初の頃は。でも結局相手は分からずじまい。……複数の方がいらっしゃるのだけはわかったようですけど。ですから、今は届けておりません。気をつけるよう言われるだけですから」
「なぜ、私に言わなかった?」
ロサがメロディー嬢の手を掴む。
「……未来の義弟の手を煩わせたくなかったからですわ」
「第1王子殿下には言ったのですか?」
兄さまが鋭くいうと、メロディー嬢は目を伏せた。
「……言っておりません」
一瞬の沈黙の後、彼女はわたしを見る。
「ただ、今回は寮の部屋の扉に手紙がありましたの。学園内は安全だと思っていただけに少し怖くなってしまって。それで護衛をランディラカさまに受けていただけないかと思い、シュタイン嬢に許可いただきたいのですわ」
突っ込みどころ満載なんだけど。
耳鳴りが酷くて、頭がガンガンしてきた。
やんわりとウチの問題だからと告げる。
メロディー嬢は的確に受け取ったようで傷ついた顔をした。
両手で口元を覆い、微かに震えている。
え?
「申し訳ございません。私余計なことを言ったのですね。ランディラカさまという方がいらっしゃるのに失礼ですし、シュタイン嬢もお困りだと思ったのです」
だから詳しく言わなくていいってば。
「自分で対処しますから大丈夫ですわ。ご心配ありがとうございます」
そう締めくくれば、触れてくれるなのサインが伝わったようで、話題を変えてきた。
「シュタイン嬢は婚約者のランディラカさまとどこでお会いになりましたの?」
婚約者の話は嬉しいものだと言ったからだろう、今度は兄さまのことを聞いてきた。
「フランツさまは曽祖父の養子ですので、辺境で暮らしていた時から一緒におります」
「シュタイン嬢の婚約者にするために、ランディラカさまを養子にされたのかしら?」
「さぁ、わたしにはわかりません」
「ランディラカさまの実のご両親のことをシュタイン嬢はご存知ですの?」
「……なぜ、そんなことをお聞きになるんですか?」
メロディー嬢はにっこりと笑った。
「あら、婚約者の話をされると嬉しいとシュタイン嬢がおっしゃったからですわ。間違っていましたかしら?」
「わたしの尋ね方がよくなかったようですね。婚約者の話を聞くのは、婚約者のことを知りたいのではなくて、令嬢がお相手の婚約者をどう思っているかを聞きたいからですわ。つまるところ令嬢のことが知りたくて尋ねるのです。きっとわたしの質問が、メロディー嬢が婚約者の第1王子さまをどう思っているかではなく、第1王子さまのことをただ尋ねたように聞こえてしまいましたのね」
あなたはわたしが婚約者をどう思っているかを聞きたいんじゃなくて、兄さまのことをただ知りたいように聞こえるんですけど、と言ってやる。
微かに目を大きくした。
「私の出自に関心がおありですか?」
「兄さま……」
兄さまが横に来ていて、メロディー嬢を見下ろす。
「メロディー嬢、私に関することはリディーではなく、私にお聞きください」
メロディー嬢は笑顔を張り付かせたまま言った。
「ではお言葉に甘えて。ランディラカさまの実のご両親はどちらの方ですの?」
なんでそんなことを聞くの?
「気を悪くなさらないとよろしいのですが、休み明けにパーティーをする予定です。ぜひ、シュタイン嬢とパートナーの方と一緒にお誘いしたいと思っておりますわ。シュタイン家の出自は確かですが、パートナーのランディラカさまはどうなのかと思って、気になりましたの」
うわー、超失礼!
「私は養子になった時から、前ランディラカ辺境伯が父と思っております。それ以外に親はありません。それから、リディーは今年はまだパーティーに参加させません、申し訳ありませんが」
「……氷の君、婚約者のシュタイン嬢以外には本当に冷たいんですのね。でも、私にそんな態度をとってよろしいのかしら?」
一気に雰囲気が悪くなった。
「コーデリア嬢? どうかしたのかい?」
「ロサさま、なんでもありませんわ。婚約者の方がシュタイン嬢を独り占めするから、少し悔しくなりましたの」
「あはは、フランツは婚約者のことになると、頭に血がのぼってしまうんだ。それだけ大切に思っているってことだ、許してやってくれ」
ロサにおさめられたら、双方納得するしかない。話はここまでだ。
一呼吸おいてメロディー嬢は言った。
「シュタイン嬢はメピアの花をご存知かしら?」
「……存じあげません」
クスッと笑ってから、そのまま静かに微笑んだ。見るものを魅了する笑み。わたしの言葉に満足したように。わたしが知らなかったことを喜ぶように。
「もう季節は終わってしまいましたけど、雨が降ると花開きますの。白い可憐な花ですのよ。メピアを讃える歌があって……小さい頃そんな歌を私に歌ってくださった方がいました」
いい思い出なんだろう。メロディー嬢の頬が色づいた。
そして胸の前で手を合わせた。
「シュタイン嬢、お願いがありますの」
嫌な予感しかしない。
「な、なんでしょう?」
「昨夜、置き手紙がありまして。私、脅迫されてますの」
は?
何いってんだ?寄りの衝撃を受けたのはわたしだけではなく、みんな手を止めメロディー嬢を見る。
「脅迫とは穏やかではないですね、どういうことですか?」
ロサがメロディー嬢に近寄った。
ピキーンと高い音がしたような気がした。
ジジジジジジジジジジジジジジジジジジ
何? 耳鳴り?
もふさまが体を少し起こして壁で見えない外を見るような仕草をした。
「よくあることですわ。婚約者から降りるように定期的に手紙がきますのよ」
よ、よくあるの?
「騎士団に届けましたか?」
「最初の頃は。でも結局相手は分からずじまい。……複数の方がいらっしゃるのだけはわかったようですけど。ですから、今は届けておりません。気をつけるよう言われるだけですから」
「なぜ、私に言わなかった?」
ロサがメロディー嬢の手を掴む。
「……未来の義弟の手を煩わせたくなかったからですわ」
「第1王子殿下には言ったのですか?」
兄さまが鋭くいうと、メロディー嬢は目を伏せた。
「……言っておりません」
一瞬の沈黙の後、彼女はわたしを見る。
「ただ、今回は寮の部屋の扉に手紙がありましたの。学園内は安全だと思っていただけに少し怖くなってしまって。それで護衛をランディラカさまに受けていただけないかと思い、シュタイン嬢に許可いただきたいのですわ」
突っ込みどころ満載なんだけど。
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