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8章 そうしてわたしは恋を知る
第343話 兄の制裁
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アベックス男子寮の前で待っていると、ロビ兄とアラ兄が出てきた。一緒じゃないから兄さまは先に行ったのだろう。ロビ兄はわたしから目を逸らした。
ってことはわたしが耳にしたのは事実なんだ。
「ロビ兄?」
訝しむように名を呼べば、わたしに視線を戻す。
「リー、おはよう」
「おはよう、目を逸らしたってことはあの噂は本当なのね?」
アラ兄がサッと動く。わたしとロビ兄の腕を掴んで、通園路から外れ森の方へと引っ張っていく。
「ケイズさまに何を言ったの?」
ケイズさまがわたしを慕っていると言ったことは休み時間のたびに広がっていき、そして寮に帰ってから、放課後アラ兄かロビ兄がケイズさまを呼び出したという情報がわたしの耳に入った。
「リーには婚約者がいる。だからこれ以上かき回すようなことはやめてくれと言っただけだ。なんで? リーだってそんなこと言われても困るだろ」
「それはそうだけど。……自分で言えるのに」
ケイズさまは間違ったと思った行動のことも自分の言葉でわたしに謝ってくれた。だからわたしも、わたしがちゃんと話したいと思うのに。
「リー、少しは兄さまの気持ちを考えてあげなよ」
ロビ兄はそう言って、ズンズン歩いて行ってしまった。
ロビ兄、怒ってる?
「……オレたちも行こうか」
アラ兄に促されて、わたしも歩き出す。もふさまもトテトテとついてきた。
「……リーに思いを寄せるなんて見どころのある奴だって、ロビンもケイズ子息を気に入っているんだよ」
え?
「でもケイズ子息のためにあえて悪者になったんだ」
「……どういうこと?」
わたしはアラ兄の服を引っ張る。
アラ兄は足を止めてわたしを見た。
「婚約者のいる娘に公開プロポーズまがいのことをしたんだ、何を言われるかわからない。だからロビンが先手を打ったんだ。ロビンが横暴だと非難が集まれば集まるほど、ケイズ子息に被害はいきにくい」
………………………………。
そんな考えがあったなんて……。
「あの子は入園してすぐに、リーの周りをうろちょろしだしたから」
「え?」
「気づいてなかった? よくリーを見ていたよ」
「ええっ」
わたしは手で頬を押さえた。アラ兄の目が細まる。
「……なんでちょっと嬉しそうなの?」
「……だって、告白されたの初めてなんだもん」
リディアの〝初めて〟だ。
「はぁ? 何言ってんだ? 兄さまにいつも言われてるだろ?」
「……兄さまは、フリをしてくれているのかもしれない」
アラ兄の顔が歪む。
「リー……本気でそう思ってるの?」
思わず唇を噛みしめてた。
「だって!」
「だって?」
「兄さまはわたしが王族と結婚しなくてもいいように助けるために婚約してくれた。兄さまに好きな人ができたら、わたし、わたし……」
「……ふたりとも肝心なことを話してないんじゃないかな? リーが不安に思っていること、リーの気持ち、兄さまにちゃんと話してみなよ」
アラ兄が歩み寄って、優しくハグしてくれた。不安を溶かそうとするかのように。
「ケイズ子息は兄さまがリーの悪い噂に対して何にもしなかったって言ったんだって? リーもそう思ってる?」
「……噂はどうにかできるものじゃないよ。それこそ、人の誰もいないところに行くぐらいしか」
「兄さまは5年生を殴ったんだ」
!
「な、なんで?」
「そりゃ、リーを悪く言ったからさ。兄さまの凍えるような迫力で、みんな止めることもできず固まったって。殴られたのは公爵子息だったけど、2つも下の兄さまにやられたとは言い難いみたいで、この件に関して箝口令が敷かれたんだ。それからもリーの悪い噂を口にする人に掴みかかりそうになっていたけど、生徒会の方がとにかく兄さまを止めてたみたいだよ」
「……知らなかった」
「リーを傷つけたくないからね。そりゃ言わないようにするさ」
そうだったんだ。広まる噂はどうこうできるものじゃないのに、兄さま怒ってくれてたんだ……。
「……わたし、兄さまとちゃんと話す」
「うん」
「学力テストが終わったら、兄さまに時間をとってもらう」
アラ兄が頭を撫でてくれた。
今日は学力テストだ。テストを終えれば、明日は終業式で夏休みとなる。長い休みなので、よほどの理由がない限りはみんな家に帰るそうだ。
学力テストはなかなか曲者。時間は2時間で終わった人から答案用紙を提出し、退出を許される。すべての総合のテストなので何が出るかわからないし、曲者っていうのは1年生から3年生までが同じ試験。つまり3年生レベルの問題。4年生と5年生が同じ、こちらは5年生レベルのもの。試される知識の範囲は広く、上級生のレベルに合わせているので、下級生は圧倒的に不利なのだ。
その後に兄さまと話すことを考えると、どきどきするから、それは出たとこ勝負であまり考えないようにする。今は学力テストに集中しよう。
ってことはわたしが耳にしたのは事実なんだ。
「ロビ兄?」
訝しむように名を呼べば、わたしに視線を戻す。
「リー、おはよう」
「おはよう、目を逸らしたってことはあの噂は本当なのね?」
アラ兄がサッと動く。わたしとロビ兄の腕を掴んで、通園路から外れ森の方へと引っ張っていく。
「ケイズさまに何を言ったの?」
ケイズさまがわたしを慕っていると言ったことは休み時間のたびに広がっていき、そして寮に帰ってから、放課後アラ兄かロビ兄がケイズさまを呼び出したという情報がわたしの耳に入った。
「リーには婚約者がいる。だからこれ以上かき回すようなことはやめてくれと言っただけだ。なんで? リーだってそんなこと言われても困るだろ」
「それはそうだけど。……自分で言えるのに」
ケイズさまは間違ったと思った行動のことも自分の言葉でわたしに謝ってくれた。だからわたしも、わたしがちゃんと話したいと思うのに。
「リー、少しは兄さまの気持ちを考えてあげなよ」
ロビ兄はそう言って、ズンズン歩いて行ってしまった。
ロビ兄、怒ってる?
「……オレたちも行こうか」
アラ兄に促されて、わたしも歩き出す。もふさまもトテトテとついてきた。
「……リーに思いを寄せるなんて見どころのある奴だって、ロビンもケイズ子息を気に入っているんだよ」
え?
「でもケイズ子息のためにあえて悪者になったんだ」
「……どういうこと?」
わたしはアラ兄の服を引っ張る。
アラ兄は足を止めてわたしを見た。
「婚約者のいる娘に公開プロポーズまがいのことをしたんだ、何を言われるかわからない。だからロビンが先手を打ったんだ。ロビンが横暴だと非難が集まれば集まるほど、ケイズ子息に被害はいきにくい」
………………………………。
そんな考えがあったなんて……。
「あの子は入園してすぐに、リーの周りをうろちょろしだしたから」
「え?」
「気づいてなかった? よくリーを見ていたよ」
「ええっ」
わたしは手で頬を押さえた。アラ兄の目が細まる。
「……なんでちょっと嬉しそうなの?」
「……だって、告白されたの初めてなんだもん」
リディアの〝初めて〟だ。
「はぁ? 何言ってんだ? 兄さまにいつも言われてるだろ?」
「……兄さまは、フリをしてくれているのかもしれない」
アラ兄の顔が歪む。
「リー……本気でそう思ってるの?」
思わず唇を噛みしめてた。
「だって!」
「だって?」
「兄さまはわたしが王族と結婚しなくてもいいように助けるために婚約してくれた。兄さまに好きな人ができたら、わたし、わたし……」
「……ふたりとも肝心なことを話してないんじゃないかな? リーが不安に思っていること、リーの気持ち、兄さまにちゃんと話してみなよ」
アラ兄が歩み寄って、優しくハグしてくれた。不安を溶かそうとするかのように。
「ケイズ子息は兄さまがリーの悪い噂に対して何にもしなかったって言ったんだって? リーもそう思ってる?」
「……噂はどうにかできるものじゃないよ。それこそ、人の誰もいないところに行くぐらいしか」
「兄さまは5年生を殴ったんだ」
!
「な、なんで?」
「そりゃ、リーを悪く言ったからさ。兄さまの凍えるような迫力で、みんな止めることもできず固まったって。殴られたのは公爵子息だったけど、2つも下の兄さまにやられたとは言い難いみたいで、この件に関して箝口令が敷かれたんだ。それからもリーの悪い噂を口にする人に掴みかかりそうになっていたけど、生徒会の方がとにかく兄さまを止めてたみたいだよ」
「……知らなかった」
「リーを傷つけたくないからね。そりゃ言わないようにするさ」
そうだったんだ。広まる噂はどうこうできるものじゃないのに、兄さま怒ってくれてたんだ……。
「……わたし、兄さまとちゃんと話す」
「うん」
「学力テストが終わったら、兄さまに時間をとってもらう」
アラ兄が頭を撫でてくれた。
今日は学力テストだ。テストを終えれば、明日は終業式で夏休みとなる。長い休みなので、よほどの理由がない限りはみんな家に帰るそうだ。
学力テストはなかなか曲者。時間は2時間で終わった人から答案用紙を提出し、退出を許される。すべての総合のテストなので何が出るかわからないし、曲者っていうのは1年生から3年生までが同じ試験。つまり3年生レベルの問題。4年生と5年生が同じ、こちらは5年生レベルのもの。試される知識の範囲は広く、上級生のレベルに合わせているので、下級生は圧倒的に不利なのだ。
その後に兄さまと話すことを考えると、どきどきするから、それは出たとこ勝負であまり考えないようにする。今は学力テストに集中しよう。
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