プラス的 異世界の過ごし方

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8章 そうしてわたしは恋を知る

第340話 図書室へ避難

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 わたしは部室が好きなんだよ。
 みんなそれぞれに好きなことをやっているけれど、それがまた心地いい。お菓子を作ったりもできるし。エッジ先輩のおいしいお菓子をもらえるし。部長もユキ先輩も優しいし、ほのぼのしているし。

 なんだけど、部活の終わりにメロディー嬢が迎えにくるようになった。一緒に寮まで帰りましょうと。途中まで一緒だからね。そしてなぜだかわからないけれど、アイリス嬢もくるようになった。アイリス嬢は学園から出たら反対方向なのにわざわざ送ってくれるんだ。そしてふたりは相性が悪い。声を荒げることはないけれど、永遠に不毛なやりとりをしている。主にわたしを挟んで。兄さまが迎えに来てくれるとアイリス嬢がさらにハイテンションになるので、兄さまは帰りの迎えはパスするようになった。

 あまりに気疲れするので、わたしは部室じゃないところでしばらく活動すると届出をした。ふたりにクラブを休むとも。そして図書室でこそこそしている。


 ただ困ったことは、図書室にくるとうっかり本を読んでしまうことだ。学園祭の読み聞かせの物語を完成させるべきなのに。

 クラブがあるから放課後は忘れ去られた存在なのかと思いきや、けっこう人がいてすれ違う。図書室がすっごく広く感じるのは4階までここだけ吹き抜けになっているからだろう。階の間に中二階が設置されていて空間をうまく使っている。

 天井まである本棚の本をどうやって取るんだろうと思っていたら、1階の本棚にはハンドルがついていた。縦のラインで、そう、あの立体駐車場! パレットに乗せて仕舞い込んでいるみたいな機械式の! あれみたいに上下の本棚を入れ替えるようで、ハンドルを回すと本棚が上にあがっていって、一番上の本棚は壁に入り込んで下まできて一番下の本棚のところに現れる。
 壁に入って移動するのは魔法なんじゃないかと思う。それなら全部ボタンひとつで好きな本棚を呼び出せるような魔法にすればよかったのに、最低限の魔法しか使わずにアナログっていうか地味にハンドルで回すところに落ち着いたのが面白い! 心踊ったので、わたしは今日だけで3ヶ所もハンドルを回してみた。ただやりたくて。

 ロサだ。
 カーテシーで挨拶をする。
 調べ物をしているのか、何冊か本を抱えていた。

「クラブに行かないのか?」

「ええ、ちょっと」

 メロディー嬢がうざいとも言えないので、言葉を濁しておく。

「あ、ロサ」

「ん、なんだ?」

 呼び止めてから、しまったと思った。
 でも……やっぱり聞いてしまえ。

「昔、警戒するべきは第1王子さまだって忠告してくれたじゃない? あれって、どういう意味だったの?」

 ロサの目が驚いている。

「なぜ、今頃、兄上を気にするんだ?」

 メロディー嬢との会話に触発されて、なんか気になったと言えるはずもなく……結果、黙《だんま》りとなる。

「あれは……忘れてほしい」

「忘れる?」

「あの頃、何もわかってなかったんだ。大人のいうことを鵜呑みにしていた。私と兄上が争うのを望んでいる人たちがいて、それに踊らされていたんだ。兄上は聡明で全てを悟っている方だった。どんな噂を聞いたのかはわからないけど、昔私の言ったことを気にして怯えなくても大丈夫だ。兄上は無駄なことはしない方だから」

 そうなんだ。
 王さまと父さまの約束もあるから、わたしが王族に関わることはないんだけど、メロディー嬢とのやりとりで気が昂ったみたいだ。




 揺すられて目が覚める。
 ん? 辺りは暗い。
 ぼんやりと人の顔が見える。ロサ?

「リディア嬢、起きたか? 声をあげないで聞いてくれ。大変まずい状況だ」

 まずい状況?
 わたしは目を擦った。

 なんだっけ? 本を探していて、面白そうなのがあったから屈んで手を伸ばした。横に窓があって外が見えたんだ。第4校舎前の中庭、そこをロビ兄がエンミュに乗って走っていくのが見えた。
 すごーい、魔導騎士クラブの練習風景が見える特等席じゃん。
 いい場所をみつけたと座り込み、ロビ兄を見ていたんだけど……いつのまにか、もふさまを抱え込んだまま眠ってしまったようだ。もふさまも起きて大きく伸びをする。
 なんで暗いんだ?

「すまない。あまりに気持ちよさそうに眠っているから。閉館前に起こしてやろうと思っていたのだが」

「だが?」

「私も今起きたところだ」

 っていうことはこの暗さは物理的に暗くなったからで。
 ……閉館した?
 ここちょっと入り組んだところだし、床に座り込んでいたから見過ごされたんだろう。

「ひょっとして鍵が?」

「ああ、かかっている」

 なんてこった。

「私の護衛が確認の時間を過ぎたから探しているはずだ。だから、間もなくここに人がやってくる。鍵がかかったことは大して問題ではない。まずいというのは、その時に私と君がふたりでここにいた事実だ」

 ああ、成人前といっても婚約者でもない男女が閉館した図書室にふたりでってことか。
 あ、今日の迎えはアラ兄だったはず。図書室から出てこなくて探しまくり、心配かけてるかも。

「そこで、少し工作を頼みたい」

「工作?」

「先に私だけが出る。リディア嬢はここでじっとしていてくれ。フランツをすぐ迎えに来てもらうよう手配をするから」

「あ、それなら大丈夫です。自力で脱出します」

「……じ、自力で? 鍵を壊すのか?」

「いいえ、お遣いさまがいるから大丈夫です」

 魔法陣が作動してから、わたしと聖樹さまの繋がりが濃くなったみたいなんだよね。だから多分できると思う。

「本当か?」

「はい」

「すまない」

 すまないって、一緒に出ていって立場が悪くなるのはわたしの方だ。それを回避するためのことを考えてくれたわけだしさ。ロサはいい奴だよね。
 聞かないつもりだったけど。知らんぷりするつもりだったけど。

「ロサ」

「ん?」

「ロサの好きな人って、メロディー嬢?」

「メロディー嬢は兄上の婚約者だ」

 そう静かに言った。答えになってないけど。

「そういえばメロディー嬢と街に出かけたと聞いたよ。彼女から何か聞いたの?」

「メロディー嬢からは何も聞いてない。わたしが日射病で倒れて運んでくれた時、とても親しげだったからそうなのかな?って思ったんだ」

 ロサの目が幾分、見開かれたように感じる。
 ロサはわたしの手を取って椅子に座らせた。もふさまがブルブルっと体を震わせてから、わたしの足元に座り直す。

「小さい時、そう思っていたこともあった」

 少し哀しげな声。

「兄上は第1王子だけど、体が弱いことで肩身の狭い思いをされていた。その婚約者である彼女もとても辛い目にあっていたんだ。王族の婚約者の作法見習いで城に来ていて、いつも泣いていた。私は婚約者なのに何もしない兄上がひどいと思えて、彼女に約束したんだ。守るって。泣かないようにしてあげるって。彼女は兄上を怖がっていて。私が婚約者になってくれないかって言った。私はそれに頷いたんだ」

 泣きはらした目の小さなメロディー嬢と、小さなロサが約束を交わす。そんなシーンが見える気がした。
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