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7章 闘います、勝ち取るまでは
第311話 聖女候補誘拐事件⑪「聖女ではなかった」
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街中はなかなか賑わってるけど、さほど大きな街ではない。
宿も普通な感じ。宿にはお風呂があるだろうことが魅力だ。けど泊まるのに子供たちだけじゃ目立つか……。
教会の様子を見に行こう。大きな街じゃないと神殿がないのは外国も同じなようだ。
教会前には人だかりができていた。
同じような白っぽい上下の服の人たち。
《神官さま、聖女候補さまが拐われたと聞きました。どうしてそんな恐ろしいことが……》
《人類の希望を拐うなんて世の末だ》
《これは神から見放されたということなのでしょうか?》
《もう10日以上行方がわからないとか。天に召されているかもしれません》
神官っぽい服を着た人が、慈悲深い笑みを浮かべる。
《皆さん、静粛に。神が人類を見捨てることはありません。拐われ戻らないなら、それも神の思し召し、聖女候補ではなかったのです》
!
《ですから、嘆くことはありません。聖女でもないのに祭り上げられているから、神がその命をつまみ取ったのでしょう。偽りの魂は神の怒りに触れた……》
やけにエラの張った神官は哀愁を浮かべて胸に手を置いた。
何それ!? 本気で言ってんの? それが神官の言うこと? 神官の考えなの?
わたしは踵を返した。
わたしは最初、神殿にいい感情を持っていなかった。力あるものを囲むと言うような話を聞いていたからだ。
でも神官長の子息であるルシオと話すようになり、その考えは変わった。
未来はどうなるか誰にもわからないのに、アイリス嬢を聖女候補と神殿が認めることで、彼女を不幸にするんじゃないかとルシオが危惧していたからだ。
けれど始めてしまった以上、全ての人が幸せでいられるようないい案がないなら、今のことを続けて、せめて聖女候補が幸せであるよう手伝うしかないという考えを聞いた時に、神殿に対する印象が変わった。
聖女候補の〝おつとめ〟って大変なことだとルシオから聞いたことがある。
保護してもらう代わりに、アイリス嬢はおつとめをしてきたはずだ。ユーハン嬢も、きっとそうだろう。
神官から、聖女候補になる条件をクリアしていると認められたばっかりに。
彼女たちは自分の役目を果たしてきた。その彼女たちが、自分たちの意思に関係なく拐われたのに、聖女候補じゃなかったから拐われたですって? それにもう死んでるって言いたそうだ。
神が誘拐に手を貸したと言いたいの? 神の思し召しだと?
酷い、酷すぎる!
テントに帰るとふたりに出迎えられた。
「どうしましたの?」
「リディアさま、泣いてますの?」
「何があったんです?」
「この街に寄るのはやめましょう」
わたしは少し背伸びをしてふたりに抱きついた。
「シュタイン嬢……」
「リディアさま……」
「何がありましたの?」
「何もない。けど、情報は得られなかった。ごめん」
「嘘ですわね」
「嘘じゃないよ」
「なら、教会に行きましょう」
「ダメ!」
「あら、なぜ?」
「……わたし神殿は聖女候補の味方って言ったけど、ここ外国だからよくわからないでしょ。……それから、聖女の力を使う時、証がないと生命を削るとか言ってたじゃない? 誘拐犯たちは。全部信じるわけじゃないけど、それ、帰ったらメリヤス先生にでも聞くべきだと思う。確かめたほうが絶対いい」
「教会で何か聞いたのね?」
「な、何を?」
笑い飛ばそうとして失敗する。
「あなたが急に意見を変えるなんて、それぐらいしか理由はないじゃない?」
「そんなんじゃない……」
「リディアさま、頭のよくないあたしだってわかりますよ」
……………………。
結局、わたしは聞いたことを話してしまった。
ユーハン嬢は指でわたしの目の下を拭う。
「こんなこと、傷つくことではなくてよ?」
アイリス嬢も苦笑している。
ふたりは衝撃を受けてない?
「聖女に本当になるかわからない、聖女になる可能性があるという存在なだけ。それは私たちが一番わかっていますけれど、そうはっきり言ってくる方もいらっしゃいますのよ? 聖女さまと崇めてくる方々もいらっしゃるけど、同じ数だけ蔑む方々もおります。そんなことにいちいち傷ついていたら生きていられませんわ」
そんなぁ。
「ありがとう、私たちのために傷ついてくれて」
「ありがとう、リディアさま。リディアさまのように思ってくれる方もいるから、あたしたち立っていられるんです」
ふたりは辛い思いもいっぱいしてきたんだね。そして乗り越えてきたんだ。
「それにしてもシュタイン嬢は少し濁った水に慣れるべきですわ。そんな澄み切った瞳をしていたら、これから貴族社会を生きていくのがお辛いわ」
「あたしも、そう思います。でもどうしてかしら、同時に、リディアさまには澄み切ったままでいて欲しいとも思うわ」
「初めて気が合ったわね、カートライト嬢」
「ユーハン嬢は、もう少しいつも言葉を選ぶべきですわ」
アイリス嬢とユーハン嬢の言い合いになっていて、そんなふたりが頼もしくてわたしは笑った。笑ってしまった。
「でも、それにしてもその神官はいい度胸ですわ」
「本当に。そこまで露骨だと、怪しいですね」
「怪しい?」
「ええ、まるで聖女候補が帰らないと知っている、みたいですわ」
帰らないと知っている?
わたしたちは同時に人差し指を突き出していた。
「「「黒幕」」」
誘拐犯2が黒幕と繋がり指示を受けていた。その間に砦を長く開けていたような様子はなかった。ということは、買い物の時についでに聞いてくるとか、黒幕かその仲間が近くにいるはずだ。
「黒幕がいるなら、ご挨拶しなくちゃですわね」
アイリス嬢がニヤッと笑った。
「そうですわね。黒幕だって暴露して差し上げないと」
「ええ? でも黒幕かどうかは、はっきりとはわからないよね?」
「絶対、黒幕よ。黒幕じゃないとしても仲間だわ。あなた顔覚えているわね?」
まぁ、えらくエラが張ってたから見分けはつくと思うけど。
「シュタイン嬢、私たちも街の人に気づかれないようにして、中に入れます?」
「わたしに抱きついて貰えば大丈夫だと思う。でもわたしたちを知っている人には効きにくいし、意思の強い人が絶対ここにいると思いながら見たら、見えてしまうの」
「なるほどね、それ使えるわ。きっと誘拐犯2はまたここに来て、その神官に接触するでしょう。そこを押さえたら、黒幕確定でしてよ」
「確定したらどうするの?」
「そうですわね……。あなたが誘拐を命令した人ですね、なんでも言うことを聞くから殺さないでと足にすがりつくのはどうかしら? もちろんたくさんの人が見ている前でね。休息日ならミサをやるはずだわ、絶対に。そこで正体を暴いてやるのよ」
「子供の戯言にされるんじゃない?」
「大丈夫、私たちにはカートライト嬢がいるわ。カートライト嬢の桃色の髪は有名だし、そうそうその色の方はいないもの。だからこそ聖女の再来だと騒がれた」
「え、でも」
「女の涙は高くつくことを教えて差し上げないとね」
涙って……、ふたりはわたしが泣いたから?
だから、その仕返しをしようとしているの?
宿も普通な感じ。宿にはお風呂があるだろうことが魅力だ。けど泊まるのに子供たちだけじゃ目立つか……。
教会の様子を見に行こう。大きな街じゃないと神殿がないのは外国も同じなようだ。
教会前には人だかりができていた。
同じような白っぽい上下の服の人たち。
《神官さま、聖女候補さまが拐われたと聞きました。どうしてそんな恐ろしいことが……》
《人類の希望を拐うなんて世の末だ》
《これは神から見放されたということなのでしょうか?》
《もう10日以上行方がわからないとか。天に召されているかもしれません》
神官っぽい服を着た人が、慈悲深い笑みを浮かべる。
《皆さん、静粛に。神が人類を見捨てることはありません。拐われ戻らないなら、それも神の思し召し、聖女候補ではなかったのです》
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《ですから、嘆くことはありません。聖女でもないのに祭り上げられているから、神がその命をつまみ取ったのでしょう。偽りの魂は神の怒りに触れた……》
やけにエラの張った神官は哀愁を浮かべて胸に手を置いた。
何それ!? 本気で言ってんの? それが神官の言うこと? 神官の考えなの?
わたしは踵を返した。
わたしは最初、神殿にいい感情を持っていなかった。力あるものを囲むと言うような話を聞いていたからだ。
でも神官長の子息であるルシオと話すようになり、その考えは変わった。
未来はどうなるか誰にもわからないのに、アイリス嬢を聖女候補と神殿が認めることで、彼女を不幸にするんじゃないかとルシオが危惧していたからだ。
けれど始めてしまった以上、全ての人が幸せでいられるようないい案がないなら、今のことを続けて、せめて聖女候補が幸せであるよう手伝うしかないという考えを聞いた時に、神殿に対する印象が変わった。
聖女候補の〝おつとめ〟って大変なことだとルシオから聞いたことがある。
保護してもらう代わりに、アイリス嬢はおつとめをしてきたはずだ。ユーハン嬢も、きっとそうだろう。
神官から、聖女候補になる条件をクリアしていると認められたばっかりに。
彼女たちは自分の役目を果たしてきた。その彼女たちが、自分たちの意思に関係なく拐われたのに、聖女候補じゃなかったから拐われたですって? それにもう死んでるって言いたそうだ。
神が誘拐に手を貸したと言いたいの? 神の思し召しだと?
酷い、酷すぎる!
テントに帰るとふたりに出迎えられた。
「どうしましたの?」
「リディアさま、泣いてますの?」
「何があったんです?」
「この街に寄るのはやめましょう」
わたしは少し背伸びをしてふたりに抱きついた。
「シュタイン嬢……」
「リディアさま……」
「何がありましたの?」
「何もない。けど、情報は得られなかった。ごめん」
「嘘ですわね」
「嘘じゃないよ」
「なら、教会に行きましょう」
「ダメ!」
「あら、なぜ?」
「……わたし神殿は聖女候補の味方って言ったけど、ここ外国だからよくわからないでしょ。……それから、聖女の力を使う時、証がないと生命を削るとか言ってたじゃない? 誘拐犯たちは。全部信じるわけじゃないけど、それ、帰ったらメリヤス先生にでも聞くべきだと思う。確かめたほうが絶対いい」
「教会で何か聞いたのね?」
「な、何を?」
笑い飛ばそうとして失敗する。
「あなたが急に意見を変えるなんて、それぐらいしか理由はないじゃない?」
「そんなんじゃない……」
「リディアさま、頭のよくないあたしだってわかりますよ」
……………………。
結局、わたしは聞いたことを話してしまった。
ユーハン嬢は指でわたしの目の下を拭う。
「こんなこと、傷つくことではなくてよ?」
アイリス嬢も苦笑している。
ふたりは衝撃を受けてない?
「聖女に本当になるかわからない、聖女になる可能性があるという存在なだけ。それは私たちが一番わかっていますけれど、そうはっきり言ってくる方もいらっしゃいますのよ? 聖女さまと崇めてくる方々もいらっしゃるけど、同じ数だけ蔑む方々もおります。そんなことにいちいち傷ついていたら生きていられませんわ」
そんなぁ。
「ありがとう、私たちのために傷ついてくれて」
「ありがとう、リディアさま。リディアさまのように思ってくれる方もいるから、あたしたち立っていられるんです」
ふたりは辛い思いもいっぱいしてきたんだね。そして乗り越えてきたんだ。
「それにしてもシュタイン嬢は少し濁った水に慣れるべきですわ。そんな澄み切った瞳をしていたら、これから貴族社会を生きていくのがお辛いわ」
「あたしも、そう思います。でもどうしてかしら、同時に、リディアさまには澄み切ったままでいて欲しいとも思うわ」
「初めて気が合ったわね、カートライト嬢」
「ユーハン嬢は、もう少しいつも言葉を選ぶべきですわ」
アイリス嬢とユーハン嬢の言い合いになっていて、そんなふたりが頼もしくてわたしは笑った。笑ってしまった。
「でも、それにしてもその神官はいい度胸ですわ」
「本当に。そこまで露骨だと、怪しいですね」
「怪しい?」
「ええ、まるで聖女候補が帰らないと知っている、みたいですわ」
帰らないと知っている?
わたしたちは同時に人差し指を突き出していた。
「「「黒幕」」」
誘拐犯2が黒幕と繋がり指示を受けていた。その間に砦を長く開けていたような様子はなかった。ということは、買い物の時についでに聞いてくるとか、黒幕かその仲間が近くにいるはずだ。
「黒幕がいるなら、ご挨拶しなくちゃですわね」
アイリス嬢がニヤッと笑った。
「そうですわね。黒幕だって暴露して差し上げないと」
「ええ? でも黒幕かどうかは、はっきりとはわからないよね?」
「絶対、黒幕よ。黒幕じゃないとしても仲間だわ。あなた顔覚えているわね?」
まぁ、えらくエラが張ってたから見分けはつくと思うけど。
「シュタイン嬢、私たちも街の人に気づかれないようにして、中に入れます?」
「わたしに抱きついて貰えば大丈夫だと思う。でもわたしたちを知っている人には効きにくいし、意思の強い人が絶対ここにいると思いながら見たら、見えてしまうの」
「なるほどね、それ使えるわ。きっと誘拐犯2はまたここに来て、その神官に接触するでしょう。そこを押さえたら、黒幕確定でしてよ」
「確定したらどうするの?」
「そうですわね……。あなたが誘拐を命令した人ですね、なんでも言うことを聞くから殺さないでと足にすがりつくのはどうかしら? もちろんたくさんの人が見ている前でね。休息日ならミサをやるはずだわ、絶対に。そこで正体を暴いてやるのよ」
「子供の戯言にされるんじゃない?」
「大丈夫、私たちにはカートライト嬢がいるわ。カートライト嬢の桃色の髪は有名だし、そうそうその色の方はいないもの。だからこそ聖女の再来だと騒がれた」
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