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6章 楽しい学園生活のハズ
第226話 ワイルド先生
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「悔しかったんです。……ごめんなさい」
学園側は悪くない。わかっていたけれど、気持ちを抑えられなかった。
「わたしは試験に遅れたため15分しか筆記試験を受けられませんでした。受けさせてもらえたのも温情だとは思っています。けれど23問しか解けませんでした」
23問はイタイ。それも合っているかはわからない。
「貴族なら落ちるのは稀だって言われているのに、筆記もダメで、魔力もそうあるわけではないし、運動もできる方ではありません。わたし、落ちちゃいます。せっかく兄さまたちと学園に通えると思ったのに。友達を作って何かできると思ったのに。そりゃあ、筆記試験を遅れずに受けられたとしても結果は同じかもしれません。でも少なくとも筆記試験を最初から受けられていたら、気持ちは違ったと思います。全力で挑んでダメだったのなら、それはそれでイタイですけれど、納得できます。評判を下げたり、みんなの足を引っ張ることにも心から謝れます。でもこんな心残りがあるままなら、わたししっかり謝れないです。ずっと閉じ込められたせいで通えなくなったってそのせいにしちゃうと思うんです」
家族はわたしを認めてくれているけれど、家族の足を引っ張っていると言われがちだ。家族はすかさずわたしの考えたり作ったりしたことで家も領地も豊かになったと言ってくれるけれど、それも前世の記憶のおかげで、実際わたしが考えたことではない。魔力も人より多い。でも目立ちたくないからと言う理由で少なめに設定しているのも、わたしには魔法を第3の手のようには使うことができないからだ。人より柔軟な発想はあるみたいだが、自分ではそれを生かせない。こちらの世界で11年も生きているのに、感覚がまだこちらが〝異世界〟なのだ。試合と言われれば魔法を考える。ダンジョンに行けばそれなりに身を守り攻撃することもできる。でもそういう場に行きスイッチがはいらないと、何もできない。
できないことって見破られるの早いよね。知り合いはこぞって庇ってくれるからスルーしがちだったんだけど。出会う人が増えてくると、そこは弱味になり、攻撃されたりした。
要するにそこがコンプレックスなので、せめて学園では恙無く生活を送り、わたしが普通なところを見せたかった。
心の奥からそんな感情が顔をだし、哀しくなってくる。
「学園の中ではそのことを考えないように我慢するつもりでしたけれど、面接で家族を悪く言われて頭にきたから、……先生たちも嫌な気持ちになればいいと思ってあんなことを言ったんです、ごめんなさい」
先生がハンカチを差し出してくれた。
持っているけれど、受け取って涙を拭いた。
「君は試験を精一杯受けたかった。でもそれが叶わずとても悔しかった。それを我慢していたが、面接で先生にも敵視されていると感じて攻撃をした、と言うところかな」
静かに頷く。
筆記試験は自信があった。だから、運動ができなくても、魔力は普通に劣るぐらいだしなんとかなると思った。
わたしだけ落ちて、あそこの真ん中のはどうしようもないなとか誰かに言われるんだ。でも家族はみんなわたしを励まそうとしてくれて。未来が見えるようだよ。わたしの悪口を言う人にみんな突っかかるだろうし、わたしが学園に通わないとなったら、兄さまとか辞めるとか言いそう。
「兄さまも学園辞めちゃう!」
「待て待て待て待て。どこまで想像を膨らませているんだ。まだ結果は出ていないのだから、わからないだろう?」
「外国語で質問して、わたしをふるい落とそうとしてたじゃないですか。閉じ込められただけじゃなくて、先生からもなぜか疎まれていて、この状態で受かるなんて夢は見られません!」
「……リディア・シュタイン、かなり面白いな」
クククッと喉の奥で笑っている。
「笑い事ではないので腹立たしいですが、どこかで寄り道して泣くつもりだったのに、ここで済ませられたのでおさめます」
「なぜ、寄り道して泣くんだ?」
「家で泣いたらみんなが心配するからです。大ごとになってしまいそうだし。わたしが悲しがったら、みんな学園を辞めそうで……」
頭に重みが。先生の大きな手がわたしの頭の上に乗っていた。
「学園に入りたいと言ったな。何がしたいんだ?」
「父さ……父が勉強はどこででもできるけれど、学園でしか学べないこともあるって言いました。同年代の子がいっぱいいて、専門的なことを教えてくれる先生もいる。勉強以外に人との付き合い方、いろいろな考えを学べるって。人を思い合ったり、力を合わせることを体験できるって。それを聞いてから学園で友達を作って楽しいことをいっぱいしたかったんです」
「入学試験の結果でクラス分けをする。筆記試験に遅れたことからも、もし合格できたとしても貴族のクラスには入れないだろう」
試験結果の能力順にクラス分けされることは聞いていた。魔力もふんだんにある貴族が大体成績が優秀なことから、上のクラスから爵位が高い者が集まるという。下のクラスは平民のみってのもよくあることだと。
「最下位のクラスはほぼ平民だ。そこに入ることになった貴族は一度も通うことなく辞める。平民と同じクラスではいられないとな。お前はどうだ? リディア・シュタイン」
「わたしは領地に平民のお友達もいっぱいいます。少ないけど貴族のお友達もいます。時々みんなで遊べたらなとは思いますが、どちらも楽しいです」
「大人のように話したりもするが、そういう顔をしていると、11歳に見えるな」
?
「……いつもは老けてるってことですか?」
新しい評価きたーと涙がまた出そうになる。だって、容姿も家族の和から外れているのに、さらに老けてるってどこまで残念な存在なんだ。
「ぶっ。ふ、老けてる、そう取るのか。お前たちの世代には大人も老けることか、確かにな」
目の前の先生は大笑いをしている。驚いて涙が引っ込んだ。
少しの間笑って気が済んだのか、目尻の涙を指で拭いわたしに向き合う。
「あの先生も悪い人じゃないんだがな、あの先生には先生の信念があり、応援していることがある。君の兄たちは第二王子殿下に気にいられているだろう? 彼は第二王子殿下の側近たちに厳しくするきらいがある。まさか受験生にも持ち込むとは思わなかった、俺の監督不行届きだ、申し訳なかった」
頭を下げる。
「……謝罪を受け取りました」
大人に筋を通されたら、そりゃ受け取るしかない。
顔をあげた先生は幾分優しい表情をしていた。鈍い色の金髪、長めの前髪から見え隠れする瞳は深い青で、思ったより切れ長の目だ。目を出したら男っぷりも上がるだろうに。
「閉じ込めた者を探すつもりなのか?」
わたしは頷いた。
「どうやって調べるんだ?」
「わたしは顔を見ています」
「魔具を使っていると思うぞ、顔を変えているだろう」
「先生、わたし、小さい頃危ない目にあったことがあるので家族が過保護でして、わたしも魔具を持っているんです」
魔力の高いレオがチューニングしてくれた魔具がね。わたしに悪さしたら、姿形が変わっても、魔力は騙せない。
「なるほどな」
先生は頷いた。
「みつけて罰するのか?」
「どうしてあんなことをしたのか聞きます。わたしが閉じ込められたのが証明されても、試験の結果は変わらないでしょうか?」
「君が嘘をついたとは思っていない。殿下も関わっているようだし、閉じ込めた者の存在がみつからなくても、閉じ込められたことは立証されている。でも試験というのはその時に一斉にその場でやることに意味がある。予備日でも設けられるなら、その時体調が悪かった者や、同じように困った境遇に陥り諦めた者もいるだろうから。公正を期すために例外は認められないんだ」
そうだろうとは思っていたけれど、やっぱり閉じ込めた人をみつけても、試験結果が変わることはないんだ。
ドアの開く音がした。
「だから、今先生と話しているから……」
誰かを止めているような声のした方を見れば兄さまがいた。その手はイザークに引っ張られている。
「兄さま……」
兄さまは急ぎ足でわたしの横まできて、キッと先生を睨め付ける。
「先生、彼女の顔に涙の跡があるのはどういうことでしょう?」
「あ、これは」
兄さまのジャケットの裾を引っ張る。
「ランディラカ・シュタイン……、ああ、親戚か」
「婚約者です」
「……ああ、なるほどな」
何やら先生は納得している。
「兄さま、違うの。泣いたのは試験がちゃんとできなかったからで……」
「リディア・シュタイン、話は以上だ。もう帰っていいぞ」
先生を見上げれば頷いた。面接は終了のようだ。
わたしは立ち上がり、先生に礼をする。
「失礼します」
溢れ出てきた感情は嫌なものもあったが、泣いたからちょっとスッキリした。
「モットレイ、執行部に連れて行っていいぞ。ランディラカは先生と少し話をしよう」
「わかりました。リディー、イザークと執行部に行っていて。イザーク、頼んだ」
イザークが頷く。
この学園広いから、口頭で言われてもたどり着けそうもないからね。
わたしたちは先生に挨拶をして職員室を出た。
学園側は悪くない。わかっていたけれど、気持ちを抑えられなかった。
「わたしは試験に遅れたため15分しか筆記試験を受けられませんでした。受けさせてもらえたのも温情だとは思っています。けれど23問しか解けませんでした」
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家族はわたしを認めてくれているけれど、家族の足を引っ張っていると言われがちだ。家族はすかさずわたしの考えたり作ったりしたことで家も領地も豊かになったと言ってくれるけれど、それも前世の記憶のおかげで、実際わたしが考えたことではない。魔力も人より多い。でも目立ちたくないからと言う理由で少なめに設定しているのも、わたしには魔法を第3の手のようには使うことができないからだ。人より柔軟な発想はあるみたいだが、自分ではそれを生かせない。こちらの世界で11年も生きているのに、感覚がまだこちらが〝異世界〟なのだ。試合と言われれば魔法を考える。ダンジョンに行けばそれなりに身を守り攻撃することもできる。でもそういう場に行きスイッチがはいらないと、何もできない。
できないことって見破られるの早いよね。知り合いはこぞって庇ってくれるからスルーしがちだったんだけど。出会う人が増えてくると、そこは弱味になり、攻撃されたりした。
要するにそこがコンプレックスなので、せめて学園では恙無く生活を送り、わたしが普通なところを見せたかった。
心の奥からそんな感情が顔をだし、哀しくなってくる。
「学園の中ではそのことを考えないように我慢するつもりでしたけれど、面接で家族を悪く言われて頭にきたから、……先生たちも嫌な気持ちになればいいと思ってあんなことを言ったんです、ごめんなさい」
先生がハンカチを差し出してくれた。
持っているけれど、受け取って涙を拭いた。
「君は試験を精一杯受けたかった。でもそれが叶わずとても悔しかった。それを我慢していたが、面接で先生にも敵視されていると感じて攻撃をした、と言うところかな」
静かに頷く。
筆記試験は自信があった。だから、運動ができなくても、魔力は普通に劣るぐらいだしなんとかなると思った。
わたしだけ落ちて、あそこの真ん中のはどうしようもないなとか誰かに言われるんだ。でも家族はみんなわたしを励まそうとしてくれて。未来が見えるようだよ。わたしの悪口を言う人にみんな突っかかるだろうし、わたしが学園に通わないとなったら、兄さまとか辞めるとか言いそう。
「兄さまも学園辞めちゃう!」
「待て待て待て待て。どこまで想像を膨らませているんだ。まだ結果は出ていないのだから、わからないだろう?」
「外国語で質問して、わたしをふるい落とそうとしてたじゃないですか。閉じ込められただけじゃなくて、先生からもなぜか疎まれていて、この状態で受かるなんて夢は見られません!」
「……リディア・シュタイン、かなり面白いな」
クククッと喉の奥で笑っている。
「笑い事ではないので腹立たしいですが、どこかで寄り道して泣くつもりだったのに、ここで済ませられたのでおさめます」
「なぜ、寄り道して泣くんだ?」
「家で泣いたらみんなが心配するからです。大ごとになってしまいそうだし。わたしが悲しがったら、みんな学園を辞めそうで……」
頭に重みが。先生の大きな手がわたしの頭の上に乗っていた。
「学園に入りたいと言ったな。何がしたいんだ?」
「父さ……父が勉強はどこででもできるけれど、学園でしか学べないこともあるって言いました。同年代の子がいっぱいいて、専門的なことを教えてくれる先生もいる。勉強以外に人との付き合い方、いろいろな考えを学べるって。人を思い合ったり、力を合わせることを体験できるって。それを聞いてから学園で友達を作って楽しいことをいっぱいしたかったんです」
「入学試験の結果でクラス分けをする。筆記試験に遅れたことからも、もし合格できたとしても貴族のクラスには入れないだろう」
試験結果の能力順にクラス分けされることは聞いていた。魔力もふんだんにある貴族が大体成績が優秀なことから、上のクラスから爵位が高い者が集まるという。下のクラスは平民のみってのもよくあることだと。
「最下位のクラスはほぼ平民だ。そこに入ることになった貴族は一度も通うことなく辞める。平民と同じクラスではいられないとな。お前はどうだ? リディア・シュタイン」
「わたしは領地に平民のお友達もいっぱいいます。少ないけど貴族のお友達もいます。時々みんなで遊べたらなとは思いますが、どちらも楽しいです」
「大人のように話したりもするが、そういう顔をしていると、11歳に見えるな」
?
「……いつもは老けてるってことですか?」
新しい評価きたーと涙がまた出そうになる。だって、容姿も家族の和から外れているのに、さらに老けてるってどこまで残念な存在なんだ。
「ぶっ。ふ、老けてる、そう取るのか。お前たちの世代には大人も老けることか、確かにな」
目の前の先生は大笑いをしている。驚いて涙が引っ込んだ。
少しの間笑って気が済んだのか、目尻の涙を指で拭いわたしに向き合う。
「あの先生も悪い人じゃないんだがな、あの先生には先生の信念があり、応援していることがある。君の兄たちは第二王子殿下に気にいられているだろう? 彼は第二王子殿下の側近たちに厳しくするきらいがある。まさか受験生にも持ち込むとは思わなかった、俺の監督不行届きだ、申し訳なかった」
頭を下げる。
「……謝罪を受け取りました」
大人に筋を通されたら、そりゃ受け取るしかない。
顔をあげた先生は幾分優しい表情をしていた。鈍い色の金髪、長めの前髪から見え隠れする瞳は深い青で、思ったより切れ長の目だ。目を出したら男っぷりも上がるだろうに。
「閉じ込めた者を探すつもりなのか?」
わたしは頷いた。
「どうやって調べるんだ?」
「わたしは顔を見ています」
「魔具を使っていると思うぞ、顔を変えているだろう」
「先生、わたし、小さい頃危ない目にあったことがあるので家族が過保護でして、わたしも魔具を持っているんです」
魔力の高いレオがチューニングしてくれた魔具がね。わたしに悪さしたら、姿形が変わっても、魔力は騙せない。
「なるほどな」
先生は頷いた。
「みつけて罰するのか?」
「どうしてあんなことをしたのか聞きます。わたしが閉じ込められたのが証明されても、試験の結果は変わらないでしょうか?」
「君が嘘をついたとは思っていない。殿下も関わっているようだし、閉じ込めた者の存在がみつからなくても、閉じ込められたことは立証されている。でも試験というのはその時に一斉にその場でやることに意味がある。予備日でも設けられるなら、その時体調が悪かった者や、同じように困った境遇に陥り諦めた者もいるだろうから。公正を期すために例外は認められないんだ」
そうだろうとは思っていたけれど、やっぱり閉じ込めた人をみつけても、試験結果が変わることはないんだ。
ドアの開く音がした。
「だから、今先生と話しているから……」
誰かを止めているような声のした方を見れば兄さまがいた。その手はイザークに引っ張られている。
「兄さま……」
兄さまは急ぎ足でわたしの横まできて、キッと先生を睨め付ける。
「先生、彼女の顔に涙の跡があるのはどういうことでしょう?」
「あ、これは」
兄さまのジャケットの裾を引っ張る。
「ランディラカ・シュタイン……、ああ、親戚か」
「婚約者です」
「……ああ、なるほどな」
何やら先生は納得している。
「兄さま、違うの。泣いたのは試験がちゃんとできなかったからで……」
「リディア・シュタイン、話は以上だ。もう帰っていいぞ」
先生を見上げれば頷いた。面接は終了のようだ。
わたしは立ち上がり、先生に礼をする。
「失礼します」
溢れ出てきた感情は嫌なものもあったが、泣いたからちょっとスッキリした。
「モットレイ、執行部に連れて行っていいぞ。ランディラカは先生と少し話をしよう」
「わかりました。リディー、イザークと執行部に行っていて。イザーク、頼んだ」
イザークが頷く。
この学園広いから、口頭で言われてもたどり着けそうもないからね。
わたしたちは先生に挨拶をして職員室を出た。
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