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3章 弱さと強さと冬ごもり
第118話 名も無いダンジョン⑨帰還
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「このダンジョンは外に出るための出口はあるのでしょうか? それとも来た道を戻るしか?」
「……マスター作った魔具、フラッグがあるでち。これで外に出られて、次はここに来られるでち」
おおーーーーーーーー、魔使いさん、どこまで優秀なんだ。魔具も作れたんだね。そういえばハウスさんから聞いた気がするや。忘れていたけど。
「では、みんな、家が心配だから帰るぞ、ひよこもみんないるか?」
わたしはアオを抱きしめ、みんなセットになっているひよこちゃんを確認したみたいだ。
「アオ、頼む。外に出てくれ」
「はい、父さま。脱出でち」
ダンジョンの前に出た。あれ、いつの間にか夕方だ。夜に近い。
「急ぐぞ」
父さまが言って、わたしを抱き上げ、アオはアルノルトさんが抱えた。
そして走り出す。
けっこう距離あったけど、兄さまたちも根をあげず走り通したよ。
サブハウスに入って、サブルームに転移する。
「アオ、ここ以外行ける、だよね?」
アオが頷いた。アオと今は離れてはいけない気がする。ひとりにしてはいけないような。
「一緒来て」
「え?」
「話ある。急ぐから、一緒、来て」
アオの表情が引き締まった。
「わかったでち」
「メインルームに転移」
『お帰りなさいませ』
ひれ耳美人ににっこり微笑まれる。
「何があった?」
父さまが感情を押し殺して尋ねる。
『お怒りです』
「?」
みんな理解が追いつかない。
『奥さまたちが、とてもお怒りになっております』
にっこり笑って言われても……。
立ち直ったのはアルノルトさんが早かった。
「アオくん、ハウスの方も一緒に来てもらえるだろうか?」
「……いいでちけど、なんででちか?」
「申し訳ないが、利用させてくれ。君が一緒だと怒りが和らぐはずだから」
『まぁ、アルノルトさま、アオを利用しようだなんて、聞き捨てなりませんわ』
「利用しますが、悪いようにはしません。妻や奥さまはかわいいものが好きです。アオくんを見たら絶対に喜びます。アオくんにも旨味があります。妻は料理上手です。ダンジョンでの食事が気に入ったのなら、後悔はさせません」
「ハウスさんは、ご飯、食べれる? だったら」
わたしが言いかけると、ハウスさんは父さまに抱っこされたわたしの顔に顔を近づける。
『マスターは相変わらずなんてかわいいのでしょう。お気持ちだけで充分です。私はマスターの魔力が一番ですの。アオはどうしたいですか?』
「おいら……リディアと一緒に行くでち」
ハウスさんはにっこり笑う。
『わかりました。では、転移』
居間だ。ラグが敷かれている。
「ずいぶんゆっくりしたお帰りでしたのね?」
わたしたちの姿を認め、椅子から立ち上がった母さまは笑顔だ。
「こんな時間まで連絡のひとつもなしに! コッコの雛までいなくなって、私たちがどんなに心配するか考えなかったのかしら? 家の守りの執事さんは!」
ピドリナさんは鼻息荒くアルノルトさんに指を突きつけた。
アルノルトさんは即座に謝る。
「申し訳ありませんでした。仮想補佐から連絡が入るかと思いましたが、一度戻り、私の口で説明するべきでしたね」
「リディー」
母さまがわたしのほっぺを両手で挟む。
「具合はどう?」
「平気」
一瞬、具合が悪いことにした方がなし崩し的になるかと考えがよぎったが、嘘をつく上に心配をかけることになるので、ありのままを伝えた。
「あら、でもちょっと熱いわね」
父さまから奪うようにして、母さまがわたしを抱きかかえる。
「フランツ。質問に答えてね」
「はい、母さま」
「今、何時かしら?」
「6時半です」
兄さまはおじいさまが引っ越し祝いに持ってきてくれた柱時計をチラッと見て言った。
「どこに行ってきたのか、行くことになったのか、説明できるかしら?」
にこりと笑っているし、口調は優しいが、お怒りなのはひしひしと感じる。
兄さまは言葉を慎重に選んで、攻略ノートにあったダンジョンを探しに行ったと告げた。
「リディーはどうしてそんなにデュカートの毛皮が欲しいの?」
わたしはもふさまと一緒に寝られないので、代わりの暖かい毛皮が欲しいことと、領地のみんなは雪の降った時しか暖炉を使わないそうで話を聞いているだけで寒かったから、いっぱい取れたら、みんなにあげたかったんだと伝えた。
でも、もしこれからもダンジョンへ行けたとしても、デュカートの毛皮は増えない。替わる何か暖かいものを見繕わなくては。
母さまはアラ兄にダンジョンはどんなところかを尋ねた。
アラ兄はひよこも戦って勝ったんだと、心配するような強い魔物は出なかったことをアピールしながらダンジョンの様子を伝えた。
「ロビン、ダンジョンは楽しかった?」
「うん! 砂糖もすげーし、ひよこも強いし。リーが木に摘み上げられたときは焦ったけど、合流した時には魔物にかわいがられてた。さすが、おれの妹だ」
「あなた?」
母さまの声がブリザード。キンキンに冷えている。
「すまない。自分の腕を過信していたようだ」
父さまが深く腰を曲げた。
「申し訳ありません。私もこれから鍛錬いたします」
次に謝ったアルノルトさんの隣で、なぜか、もふさまがフセをする。
まずい、わたしが自分の身を守れなかったことで、みんなに打撃を与えている。
「ごめんなさい。気をつけた、けど、早くて、わからなかった」
母さまを見上げて、訴えかける。
「私も何もできなかった」
「おれも」
「オレも」
兄さまたちが、うなだれる。
ひよひよ
ひよ
ひよ
ひよこちゃんたちも鳴きだした。
「おいら大丈夫だと思ったから、そのままさせたでち。サイレントリーフは赤ちゃんが狩り場にいるのは危険だと思って、デュカートの住処にリディアを送ったでち」
赤ちゃん!? 聞き捨てならないんだけどっ!
「デュカートも赤ちゃんを攻撃したりしないでち。だから大丈夫思ったんでち。そのままにさせたのは、おいらが悪いでち」
声が尻つぼみになる。
母さまとピドリナさんが、さらに下からの声に気づいてアオに目を止めた。
「あなたはどちらさま?」
「サブハウス、管理人のアオでち」
母さまたちはアオの話を聞いて、わたしたちからも一通りの話を聞く。
「リディーがひとり離れたのはよくないけれども、何があっても、それは責めることはできないわ。母さまが言いたいのは、出かけるときには前もってきちんと伝えることと言いたいの。どこに何人で行って、いつ頃帰ってくるのか。みんな家の中にいると思っていたのに、どこにも姿がなくて、探しているとハウスさん経由で仮想補佐さんからあなたたちが前マスターのよく行くところに行ったと言われたわ。主人さまもコッコ の雛もいなくて、私たちがどれだけ心配したと思うの? それにこんな遅くまで、具合の悪かったリディーも連れて」
ごもっともなので、わたしたちはただ、うなだれるしかできない。
「あとは個々にお灸を据えるとして、順番にお風呂に入りましょう。アオちゃんもお腹空いたでしょう? お風呂が終わったら、すぐにご飯にしましょうね」
え、これで終わりじゃないの?
顔がひきつるが、今とりあえずお開きになるのだから、アルノルトさんの作戦は成功のようだ。
それからわたしたちは順番にお風呂に入った。
アオは兄さまたちと入った。お湯に浸かるペンギン……見かけがペンギンなので違和感があるが、アオはお風呂を気に入ったみたいだ。ピドリナさんのご飯も、もりもり食べていた。ひよこちゃんたちは米粒をガツガツ食べて。みんなで今日のダンジョンの話をしながらピドリナさんのご飯をおいしくいただいた。
「……マスター作った魔具、フラッグがあるでち。これで外に出られて、次はここに来られるでち」
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わたしはアオを抱きしめ、みんなセットになっているひよこちゃんを確認したみたいだ。
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「急ぐぞ」
父さまが言って、わたしを抱き上げ、アオはアルノルトさんが抱えた。
そして走り出す。
けっこう距離あったけど、兄さまたちも根をあげず走り通したよ。
サブハウスに入って、サブルームに転移する。
「アオ、ここ以外行ける、だよね?」
アオが頷いた。アオと今は離れてはいけない気がする。ひとりにしてはいけないような。
「一緒来て」
「え?」
「話ある。急ぐから、一緒、来て」
アオの表情が引き締まった。
「わかったでち」
「メインルームに転移」
『お帰りなさいませ』
ひれ耳美人ににっこり微笑まれる。
「何があった?」
父さまが感情を押し殺して尋ねる。
『お怒りです』
「?」
みんな理解が追いつかない。
『奥さまたちが、とてもお怒りになっております』
にっこり笑って言われても……。
立ち直ったのはアルノルトさんが早かった。
「アオくん、ハウスの方も一緒に来てもらえるだろうか?」
「……いいでちけど、なんででちか?」
「申し訳ないが、利用させてくれ。君が一緒だと怒りが和らぐはずだから」
『まぁ、アルノルトさま、アオを利用しようだなんて、聞き捨てなりませんわ』
「利用しますが、悪いようにはしません。妻や奥さまはかわいいものが好きです。アオくんを見たら絶対に喜びます。アオくんにも旨味があります。妻は料理上手です。ダンジョンでの食事が気に入ったのなら、後悔はさせません」
「ハウスさんは、ご飯、食べれる? だったら」
わたしが言いかけると、ハウスさんは父さまに抱っこされたわたしの顔に顔を近づける。
『マスターは相変わらずなんてかわいいのでしょう。お気持ちだけで充分です。私はマスターの魔力が一番ですの。アオはどうしたいですか?』
「おいら……リディアと一緒に行くでち」
ハウスさんはにっこり笑う。
『わかりました。では、転移』
居間だ。ラグが敷かれている。
「ずいぶんゆっくりしたお帰りでしたのね?」
わたしたちの姿を認め、椅子から立ち上がった母さまは笑顔だ。
「こんな時間まで連絡のひとつもなしに! コッコの雛までいなくなって、私たちがどんなに心配するか考えなかったのかしら? 家の守りの執事さんは!」
ピドリナさんは鼻息荒くアルノルトさんに指を突きつけた。
アルノルトさんは即座に謝る。
「申し訳ありませんでした。仮想補佐から連絡が入るかと思いましたが、一度戻り、私の口で説明するべきでしたね」
「リディー」
母さまがわたしのほっぺを両手で挟む。
「具合はどう?」
「平気」
一瞬、具合が悪いことにした方がなし崩し的になるかと考えがよぎったが、嘘をつく上に心配をかけることになるので、ありのままを伝えた。
「あら、でもちょっと熱いわね」
父さまから奪うようにして、母さまがわたしを抱きかかえる。
「フランツ。質問に答えてね」
「はい、母さま」
「今、何時かしら?」
「6時半です」
兄さまはおじいさまが引っ越し祝いに持ってきてくれた柱時計をチラッと見て言った。
「どこに行ってきたのか、行くことになったのか、説明できるかしら?」
にこりと笑っているし、口調は優しいが、お怒りなのはひしひしと感じる。
兄さまは言葉を慎重に選んで、攻略ノートにあったダンジョンを探しに行ったと告げた。
「リディーはどうしてそんなにデュカートの毛皮が欲しいの?」
わたしはもふさまと一緒に寝られないので、代わりの暖かい毛皮が欲しいことと、領地のみんなは雪の降った時しか暖炉を使わないそうで話を聞いているだけで寒かったから、いっぱい取れたら、みんなにあげたかったんだと伝えた。
でも、もしこれからもダンジョンへ行けたとしても、デュカートの毛皮は増えない。替わる何か暖かいものを見繕わなくては。
母さまはアラ兄にダンジョンはどんなところかを尋ねた。
アラ兄はひよこも戦って勝ったんだと、心配するような強い魔物は出なかったことをアピールしながらダンジョンの様子を伝えた。
「ロビン、ダンジョンは楽しかった?」
「うん! 砂糖もすげーし、ひよこも強いし。リーが木に摘み上げられたときは焦ったけど、合流した時には魔物にかわいがられてた。さすが、おれの妹だ」
「あなた?」
母さまの声がブリザード。キンキンに冷えている。
「すまない。自分の腕を過信していたようだ」
父さまが深く腰を曲げた。
「申し訳ありません。私もこれから鍛錬いたします」
次に謝ったアルノルトさんの隣で、なぜか、もふさまがフセをする。
まずい、わたしが自分の身を守れなかったことで、みんなに打撃を与えている。
「ごめんなさい。気をつけた、けど、早くて、わからなかった」
母さまを見上げて、訴えかける。
「私も何もできなかった」
「おれも」
「オレも」
兄さまたちが、うなだれる。
ひよひよ
ひよ
ひよ
ひよこちゃんたちも鳴きだした。
「おいら大丈夫だと思ったから、そのままさせたでち。サイレントリーフは赤ちゃんが狩り場にいるのは危険だと思って、デュカートの住処にリディアを送ったでち」
赤ちゃん!? 聞き捨てならないんだけどっ!
「デュカートも赤ちゃんを攻撃したりしないでち。だから大丈夫思ったんでち。そのままにさせたのは、おいらが悪いでち」
声が尻つぼみになる。
母さまとピドリナさんが、さらに下からの声に気づいてアオに目を止めた。
「あなたはどちらさま?」
「サブハウス、管理人のアオでち」
母さまたちはアオの話を聞いて、わたしたちからも一通りの話を聞く。
「リディーがひとり離れたのはよくないけれども、何があっても、それは責めることはできないわ。母さまが言いたいのは、出かけるときには前もってきちんと伝えることと言いたいの。どこに何人で行って、いつ頃帰ってくるのか。みんな家の中にいると思っていたのに、どこにも姿がなくて、探しているとハウスさん経由で仮想補佐さんからあなたたちが前マスターのよく行くところに行ったと言われたわ。主人さまもコッコ の雛もいなくて、私たちがどれだけ心配したと思うの? それにこんな遅くまで、具合の悪かったリディーも連れて」
ごもっともなので、わたしたちはただ、うなだれるしかできない。
「あとは個々にお灸を据えるとして、順番にお風呂に入りましょう。アオちゃんもお腹空いたでしょう? お風呂が終わったら、すぐにご飯にしましょうね」
え、これで終わりじゃないの?
顔がひきつるが、今とりあえずお開きになるのだから、アルノルトさんの作戦は成功のようだ。
それからわたしたちは順番にお風呂に入った。
アオは兄さまたちと入った。お湯に浸かるペンギン……見かけがペンギンなので違和感があるが、アオはお風呂を気に入ったみたいだ。ピドリナさんのご飯も、もりもり食べていた。ひよこちゃんたちは米粒をガツガツ食べて。みんなで今日のダンジョンの話をしながらピドリナさんのご飯をおいしくいただいた。
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