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2章 わたしに何ができるかな?
第70話 手応えあり
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それから細かい打ち合わせとなった。
ハリーさんとアラ兄が主導権を握り、出費などの計算をしていく。
手続きのことはホリーさんと兄さまが話を進め、買い出しにはロビ兄とシヴァが選ばれたみたいだ。
わたしは母さまの隣で、もふさまを抱え込みお昼寝をした。
起きたときにはいろんなことが決まっていて、明日から3日限定で屋台を開くことになっていた。
素早い。本職である商売人はスゴイ。その決断力と俊敏な行動力が未来に繋がる気がする。タイミングを逃さないんだ。わたしも真似しよう。できることはすぐにやって、ベストタイミングの波に乗れるようにならなくちゃ。
ひとり心を固めていると、兄さまに声を掛けられた。
「リディー、広場の屋台を巻き込むっていってたよね? それはどういうこと?」
ああ、それもあったっけ。わたしが話すと、みな驚いたようだ。
「ねぇ、リー、どうして最初からそう持ちかけないの?」
「新参者のいうこと、誰も聞かない、でしょ? 売れるかも、わからない」
でも売れている実績を見た後なら。相乗効果で売れるものを提案したら、頑なに嫌がる人もいるかもしれないけれど、やる価値あるかもと考える人も出てくるんじゃないかな。だって売り上げが増える可能性が出るんだもん。
次の日、朝早くから行動を開始した。みんなでハリーさんのお家に行った。
ハリーさんのお店は裏が自宅で、そこも広々としている。部屋数は少ないけれど、炊事場は割と広かった。コンロも3つあり、オーブンも大きめだ。
そこでご飯を炊き、おにぎりを握った。ワセランでは嬉しい誤解があった。1枚15ギルもしてたっかーと思ったのだが、その1枚はお菓子を包んでいた大きさではなくて、畳1畳分ぐらいの大きさだったのだ。これをおじいさまに、ちょうどいい大きさにカットしてもらった。
包んではバッグに入れていく。おにぎりは冷めてもおいしいのも、いいところだけどね。
父さまとおじいさまは自警団の詰所に行った。シヴァはわたしたちのことを任されたようだ。
母さまと兄さまには、炊事場でジャムやタレを作っていてもらう。
荷物を持って、広場へと向かった。
準備を始めている近くの他の屋台の主人たちに、3日間限定でやります、よろしくお願いしますと挨拶をして、おにぎりを配っていく。
3日限定ということもあってか、みんなにこやかに迎えてくれた。大所帯だなぁと笑われる。
双子が土魔法でテーブルを作り出す。その上に真っ白なテーブルクロスをかけた。
アラ兄が書いた「おにぎり1つ130ギル」と書いた幟を立てる。
ワセランで包んだおにぎりを並べていけば、準備完了だ。硬貨を入れる袋もあるし、お釣りも用意した。
串焼き屋のお肉の焼ける匂いが漂いだすと、それに誘われたように串焼き屋に列ができた。スープ屋にもパン屋にも果物屋にも。
広場中央の屋台で閑古鳥が鳴いているのは、おにぎり屋だけだ。ハリーさんは肩を落としたけれど、わたしは心配していなかった。誰かが食べ始めれば弾みがつくと思っていたからだ。
買いには来ていないけど、チラチラ見ているしね。
お腹が空いてきたので、みんなでおにぎりを食べた。わたしたちのは奮発して中に佃煮が入っている。冷めたおにぎりもおいしい。塩のあんばいが良くて、何個でも食べられそうだ。わたしはわざとワセランを剥がして、両手で持って食べた。もちろん事前に手はしっかりと洗った。
最後に手にくっついた米粒を、ひと粒ずつ口で食べて手をきれいにしていく。何気にわたしはこの最後の米粒をいただくのが好きだ。その時にいつも思い出す。お米には神さまが宿っているって。
それが、いろいろ情報が錯綜していて、わたしが聞いて覚えていたのは一粒のお米には88人の神さまがいるってものだった。お米を残したら目がつぶれるとも聞いたな。そんな話が出た時に、7人でしょと言われて、そうだっけ?となった。流通しているのは、確かに7人の神さまのようだった。米を作るまでに88行程作業があり、米という漢字は八十八と書くそうだ。それと数がごっちゃになったのかと思うんだけど、わたしが聞いたのは88人?の神さまだった。こんな小さな米粒に88神?も入っていたら常におしくらまんじゅうだろうなと思って、わたし的には米って88人もの神さまを閉じ込めるなんてスゴイと思っていた。そしてその一粒に88人もの神さまが入ったお米を食べるのはスッゴイことだと思っていた。ご飯を口いっぱいに頬張っているときは思い出さないんだけど、こう残ったひと粒を口にする時、なぜか思い出すのだ。
ふと顔を上げると、ひとりの少年がわたしを見ていた。わたしと目が合うと、驚いて目をそらして、そしておにぎりをひとつ買った。
ハリーさんの笑顔が素晴らしかった。とても嬉しかったようだ。
少年は包み紙を外して両手で持ってその場ですぐに食べ始めた。一口食べた後、残りをすごい勢いで口に詰め込むから、喉をつまらせるんじゃないかと思った。そしてわたしを真似たかのように掌や指についたお米を啄むようにして食べた。
食べ切った後、もう一度おにぎりを買ってくれた。
「すっごい、うまいね!」
「ありがとうございます」
ハリーさん、泣きそうだ。
それを皮切りに、パラパラ、ゾロゾロと、いつの間にか長蛇の列ができていた。何人かが少年と同じように買ってすぐに食べてもう一度買ってくれたりしたからだ。それを見て、興味を持ったのだろう。150個はお昼には完売してしまった。途中でロビ兄がハリーさんの家と走り、追加する旨を伝えに行った。
午後からまた売りますと張り紙をしておく。
隣の串焼き屋さんが話しかけてきた。ずいぶん景気良く売れたな、と。話しているうちにハリーさんが調味料屋をやっていることに気づいたようだ。
その隙を逃さずに言ってみた。
「塩焼きも好き、けど、お肉やおにぎりにあうタレ、あるんです」
「お嬢ちゃん、タレ、かい?」
わたしは小皿に作ってきたジョウユと砂糖のタレを入れる。
そして串焼きを1本買った。串焼きをタレに絡めてどうぞと出す。
「いや、これは嬢ちゃんが買った……」
「ひとつだけ、食べて、みて」
ハリーさんも頷いたので、串焼き屋さんはお肉を口の中に入れた。
目を見開く。
「何だこりゃ!」
わたしはすかさず、わたしたち用のおにぎりを提供する。
お肉を頬張り、ご飯を食べる。
「これは!」
おいしいでしょう? 力が湧いてくる気がするでしょう?
ふふふ、と悪魔の笑みを浮かべていると、お客さんの波が小休止したところだったからか、スープ屋、パン屋、果物屋さんも集まってきた。
わたしはハリーさんの足を肘でついた。
「おにぎりにあう、こんなスープがあるんですよ」
スープ屋さんにはお味噌汁を。パン屋さんにはご飯の後に甘いものを食べたくなるからとジャムを挟んだパンを。果物屋さんには、ジャムがあるとパンがもっとおいしくなるとジャムを挟んだパンを渡す。そして、これらを作れる調味料をハリーの店で売っていますと、伝える。
「このスープの調味料が欲しいわ! 作り方も教えてくれるの?」
「俺もこのタレ欲しい!」
「このジャムを作りたいわ」
「作ったジャムをうちに売ってくれる?」
ここまでうまくのってくれると思わなかったので、少し驚く。
3日間限定のおにぎり屋は大成功だった!
毎日飛ぶように売れた。午前と午後で200個ずつ作りそれでも完売した。
みんな口上で、一緒に食べるとおいしいよと言ったことから、中央の屋台全部のお店で買う人が増えた。
3日限定だと言うと、とても残念がられ、そのあとはハリーの店で数は少ないがおにぎりを売ることにしたそうだ。
スープ屋はお味噌スープも売り出すようになり、おにぎりと一緒に食べる人も増えたそうだ。
串焼きのタレも大好評で、ジョウユ、ミソン、ジャムパンにはシナモンが使われていると知ると、ハリーの店で調味料を買う人が増えた。
ハリーさんはお店を続けることにした。やったね!
「お子様たちみんな素晴らしいですが、リディアちゃんは特に将来が楽しみですね」
とホリーさんに言われたが、そうでないことをわたしは知っている。
今、5歳児で記憶があるから少し賢く映るかもしれないが、頭がいいわけではない。二十歳過ぎればただの人って言葉があったけれど、わたしだと二十歳まで持たないね、10歳ぐらいで、明らかに普通になる。いや、以下かもしれない。頭の良さなら兄さまやアラ兄、ロビ兄の方がズバ抜けている。
でも、だからって嘆いても仕方ない。わたしはわたしの持っている能力で生きていくしかないのだから。わたしに何ができるだろう? 何をなし得ることができるだろう? それはまだあやふやだけど、それが誰かの力になれたらいいな。喜ばせたり、頑張ろうっていう気にさせたり、希望に繋がったらいいな。明日が来るのが待ち遠しくなるぐらい、楽しい日を過ごして行けたらいい。そうやって楽しく暮らしながら、いつか目指す〝困る大物〟になるんだ。
宿に自警団の人が報告に来てくれた。
人売りの元締めには逃げられたようだ。
カークさんはみつからず、探してくれていた風に飛ばされた隷属の札の抜け殻もみつからなかったそうだ。青のエンディオンの人たちが去年訪れた町は呪符が売られていないか、それぞれの町で見回りを強化したそうだが、今のところまだみつかっていない。
カークさんにわたしのことを依頼した貴族の手がかりも皆無だ。イダボアに来る前の町で頻繁に誰かとカークさんは会っていたらしいのだが、それ以上はまだ掴めていない。
屋台も終わったことだし、わたしたちは領地に帰ることにした。
ホリーさんとハリーさんに見送られて、家に帰ってきた。ホリーさんは本格的な冬が来る前に一度領地に行くと約束してくれた。そのときに〝お礼〟を持ってきてくれるというから、すっごく楽しみだ!
<2章・完>
ハリーさんとアラ兄が主導権を握り、出費などの計算をしていく。
手続きのことはホリーさんと兄さまが話を進め、買い出しにはロビ兄とシヴァが選ばれたみたいだ。
わたしは母さまの隣で、もふさまを抱え込みお昼寝をした。
起きたときにはいろんなことが決まっていて、明日から3日限定で屋台を開くことになっていた。
素早い。本職である商売人はスゴイ。その決断力と俊敏な行動力が未来に繋がる気がする。タイミングを逃さないんだ。わたしも真似しよう。できることはすぐにやって、ベストタイミングの波に乗れるようにならなくちゃ。
ひとり心を固めていると、兄さまに声を掛けられた。
「リディー、広場の屋台を巻き込むっていってたよね? それはどういうこと?」
ああ、それもあったっけ。わたしが話すと、みな驚いたようだ。
「ねぇ、リー、どうして最初からそう持ちかけないの?」
「新参者のいうこと、誰も聞かない、でしょ? 売れるかも、わからない」
でも売れている実績を見た後なら。相乗効果で売れるものを提案したら、頑なに嫌がる人もいるかもしれないけれど、やる価値あるかもと考える人も出てくるんじゃないかな。だって売り上げが増える可能性が出るんだもん。
次の日、朝早くから行動を開始した。みんなでハリーさんのお家に行った。
ハリーさんのお店は裏が自宅で、そこも広々としている。部屋数は少ないけれど、炊事場は割と広かった。コンロも3つあり、オーブンも大きめだ。
そこでご飯を炊き、おにぎりを握った。ワセランでは嬉しい誤解があった。1枚15ギルもしてたっかーと思ったのだが、その1枚はお菓子を包んでいた大きさではなくて、畳1畳分ぐらいの大きさだったのだ。これをおじいさまに、ちょうどいい大きさにカットしてもらった。
包んではバッグに入れていく。おにぎりは冷めてもおいしいのも、いいところだけどね。
父さまとおじいさまは自警団の詰所に行った。シヴァはわたしたちのことを任されたようだ。
母さまと兄さまには、炊事場でジャムやタレを作っていてもらう。
荷物を持って、広場へと向かった。
準備を始めている近くの他の屋台の主人たちに、3日間限定でやります、よろしくお願いしますと挨拶をして、おにぎりを配っていく。
3日限定ということもあってか、みんなにこやかに迎えてくれた。大所帯だなぁと笑われる。
双子が土魔法でテーブルを作り出す。その上に真っ白なテーブルクロスをかけた。
アラ兄が書いた「おにぎり1つ130ギル」と書いた幟を立てる。
ワセランで包んだおにぎりを並べていけば、準備完了だ。硬貨を入れる袋もあるし、お釣りも用意した。
串焼き屋のお肉の焼ける匂いが漂いだすと、それに誘われたように串焼き屋に列ができた。スープ屋にもパン屋にも果物屋にも。
広場中央の屋台で閑古鳥が鳴いているのは、おにぎり屋だけだ。ハリーさんは肩を落としたけれど、わたしは心配していなかった。誰かが食べ始めれば弾みがつくと思っていたからだ。
買いには来ていないけど、チラチラ見ているしね。
お腹が空いてきたので、みんなでおにぎりを食べた。わたしたちのは奮発して中に佃煮が入っている。冷めたおにぎりもおいしい。塩のあんばいが良くて、何個でも食べられそうだ。わたしはわざとワセランを剥がして、両手で持って食べた。もちろん事前に手はしっかりと洗った。
最後に手にくっついた米粒を、ひと粒ずつ口で食べて手をきれいにしていく。何気にわたしはこの最後の米粒をいただくのが好きだ。その時にいつも思い出す。お米には神さまが宿っているって。
それが、いろいろ情報が錯綜していて、わたしが聞いて覚えていたのは一粒のお米には88人の神さまがいるってものだった。お米を残したら目がつぶれるとも聞いたな。そんな話が出た時に、7人でしょと言われて、そうだっけ?となった。流通しているのは、確かに7人の神さまのようだった。米を作るまでに88行程作業があり、米という漢字は八十八と書くそうだ。それと数がごっちゃになったのかと思うんだけど、わたしが聞いたのは88人?の神さまだった。こんな小さな米粒に88神?も入っていたら常におしくらまんじゅうだろうなと思って、わたし的には米って88人もの神さまを閉じ込めるなんてスゴイと思っていた。そしてその一粒に88人もの神さまが入ったお米を食べるのはスッゴイことだと思っていた。ご飯を口いっぱいに頬張っているときは思い出さないんだけど、こう残ったひと粒を口にする時、なぜか思い出すのだ。
ふと顔を上げると、ひとりの少年がわたしを見ていた。わたしと目が合うと、驚いて目をそらして、そしておにぎりをひとつ買った。
ハリーさんの笑顔が素晴らしかった。とても嬉しかったようだ。
少年は包み紙を外して両手で持ってその場ですぐに食べ始めた。一口食べた後、残りをすごい勢いで口に詰め込むから、喉をつまらせるんじゃないかと思った。そしてわたしを真似たかのように掌や指についたお米を啄むようにして食べた。
食べ切った後、もう一度おにぎりを買ってくれた。
「すっごい、うまいね!」
「ありがとうございます」
ハリーさん、泣きそうだ。
それを皮切りに、パラパラ、ゾロゾロと、いつの間にか長蛇の列ができていた。何人かが少年と同じように買ってすぐに食べてもう一度買ってくれたりしたからだ。それを見て、興味を持ったのだろう。150個はお昼には完売してしまった。途中でロビ兄がハリーさんの家と走り、追加する旨を伝えに行った。
午後からまた売りますと張り紙をしておく。
隣の串焼き屋さんが話しかけてきた。ずいぶん景気良く売れたな、と。話しているうちにハリーさんが調味料屋をやっていることに気づいたようだ。
その隙を逃さずに言ってみた。
「塩焼きも好き、けど、お肉やおにぎりにあうタレ、あるんです」
「お嬢ちゃん、タレ、かい?」
わたしは小皿に作ってきたジョウユと砂糖のタレを入れる。
そして串焼きを1本買った。串焼きをタレに絡めてどうぞと出す。
「いや、これは嬢ちゃんが買った……」
「ひとつだけ、食べて、みて」
ハリーさんも頷いたので、串焼き屋さんはお肉を口の中に入れた。
目を見開く。
「何だこりゃ!」
わたしはすかさず、わたしたち用のおにぎりを提供する。
お肉を頬張り、ご飯を食べる。
「これは!」
おいしいでしょう? 力が湧いてくる気がするでしょう?
ふふふ、と悪魔の笑みを浮かべていると、お客さんの波が小休止したところだったからか、スープ屋、パン屋、果物屋さんも集まってきた。
わたしはハリーさんの足を肘でついた。
「おにぎりにあう、こんなスープがあるんですよ」
スープ屋さんにはお味噌汁を。パン屋さんにはご飯の後に甘いものを食べたくなるからとジャムを挟んだパンを。果物屋さんには、ジャムがあるとパンがもっとおいしくなるとジャムを挟んだパンを渡す。そして、これらを作れる調味料をハリーの店で売っていますと、伝える。
「このスープの調味料が欲しいわ! 作り方も教えてくれるの?」
「俺もこのタレ欲しい!」
「このジャムを作りたいわ」
「作ったジャムをうちに売ってくれる?」
ここまでうまくのってくれると思わなかったので、少し驚く。
3日間限定のおにぎり屋は大成功だった!
毎日飛ぶように売れた。午前と午後で200個ずつ作りそれでも完売した。
みんな口上で、一緒に食べるとおいしいよと言ったことから、中央の屋台全部のお店で買う人が増えた。
3日限定だと言うと、とても残念がられ、そのあとはハリーの店で数は少ないがおにぎりを売ることにしたそうだ。
スープ屋はお味噌スープも売り出すようになり、おにぎりと一緒に食べる人も増えたそうだ。
串焼きのタレも大好評で、ジョウユ、ミソン、ジャムパンにはシナモンが使われていると知ると、ハリーの店で調味料を買う人が増えた。
ハリーさんはお店を続けることにした。やったね!
「お子様たちみんな素晴らしいですが、リディアちゃんは特に将来が楽しみですね」
とホリーさんに言われたが、そうでないことをわたしは知っている。
今、5歳児で記憶があるから少し賢く映るかもしれないが、頭がいいわけではない。二十歳過ぎればただの人って言葉があったけれど、わたしだと二十歳まで持たないね、10歳ぐらいで、明らかに普通になる。いや、以下かもしれない。頭の良さなら兄さまやアラ兄、ロビ兄の方がズバ抜けている。
でも、だからって嘆いても仕方ない。わたしはわたしの持っている能力で生きていくしかないのだから。わたしに何ができるだろう? 何をなし得ることができるだろう? それはまだあやふやだけど、それが誰かの力になれたらいいな。喜ばせたり、頑張ろうっていう気にさせたり、希望に繋がったらいいな。明日が来るのが待ち遠しくなるぐらい、楽しい日を過ごして行けたらいい。そうやって楽しく暮らしながら、いつか目指す〝困る大物〟になるんだ。
宿に自警団の人が報告に来てくれた。
人売りの元締めには逃げられたようだ。
カークさんはみつからず、探してくれていた風に飛ばされた隷属の札の抜け殻もみつからなかったそうだ。青のエンディオンの人たちが去年訪れた町は呪符が売られていないか、それぞれの町で見回りを強化したそうだが、今のところまだみつかっていない。
カークさんにわたしのことを依頼した貴族の手がかりも皆無だ。イダボアに来る前の町で頻繁に誰かとカークさんは会っていたらしいのだが、それ以上はまだ掴めていない。
屋台も終わったことだし、わたしたちは領地に帰ることにした。
ホリーさんとハリーさんに見送られて、家に帰ってきた。ホリーさんは本格的な冬が来る前に一度領地に行くと約束してくれた。そのときに〝お礼〟を持ってきてくれるというから、すっごく楽しみだ!
<2章・完>
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