プラス的 異世界の過ごし方

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2章 わたしに何ができるかな?

第42話 大きい村①兄さまたちの事情

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 次の日は大きい村に行った。熱湯をかける算段はついたから、今度は大きな村でもやっていかないと。だが、小さい村と違って大きい村は厄介だった。

 まず、人数が多く、みんなの考えが違いすぎるのだが妥協しようという気がない。村長がいるにはいるけれど、土地枯れにショックをうけ長いこと寝込んでいるそうだ。そして、それを補うまとめられる人がいない。お前らが土地をダメにしたオーラを出しているだけ。熱湯話をしてもそれは土地がダメになったら困る奴がやればいいとまで言い出す始末。希望を持てなくて辛い気持ちには違いないだろうけど、土地に異変が起こったのを受け入れられず不貞腐れている感じだ。
 子供を連れてきて、遊びにでもきたのかと父さまを侮辱する。
 思わず、わたしたちは子供同士で遊んで邪魔をしないから、大人の話を進めればといったら、兄さまに口を押さえられた。

 大きな村では、広場にテントをはり野営をすることになる。近くの家のトイレを借りることになった。そのトイレを貸してくれるという家の女性は、他の大陸から来たそうだ。褐色の肌に藍色の髪のモリーさん。ちょっとふくよか。彼女は結婚した人の故郷へとついてきたのだが、一昨年旦那さんが亡くなり、旦那さんのお父さんとのふたり暮らしになったという。旦那さんのお父さんの〝オトーサン〟は、この頃物忘れが多く、会話が繋がらないのだとか。作物が育たなくなってから、親切だった村の人たちは自分の家のことだけで精一杯になり、話す人もいなかったので、人と話すのは久しぶりで嬉しい……と母さまと話すのをなんとはなしに聞いていた。


 テントを初めてみる子供たちが近寄ってくる。それはなんだといって手伝ってくれたりと人懐っこい子もいれば、あいつらのせいで土がダメになったんだと大人のようなことをいうガキもいた。
 ビリーたちが昨日帰りがけに大きい村にはわたしたちを目の敵にする奴がいるかもしれないと教えてくれて、土地をこんなふうにした前領主繋がりで絡まれるのかと思っていたが、それだけじゃなくて、イライラしているのを何かにぶつけたくて、それを探しているような気がした。

「おい、お前、いくつだ?」

 小突かれた。兄さまたちが見えない時にやるなんてタチが悪い。保護者がいないところを見計らっている。ひと段落してみんなそれぞれに散っていったので、わたしはひとりだった。もふさまも見当たらない。

「5歳」

 聞かれたので答えておく。

「お前、本当に貴族かよ? 貴族のイヘンもないな」

 イヘン? 貴族の異変ってそりゃなんだ?

「威厳? 気品?? 言いたかった?」

 思わず尋ねると、顔を赤くした。

「おい、チビ。お前だけこまっしゃくれて、ちっこくて、似てないな」

 わたしは驚いた。
 マジか!?

 実は鏡を見たことがない。父さまイケメン、母さま美女。兄さまたちもイケメンだから、遺伝子的にわたしも可愛いんじゃないかと勝手に思っていたんだけど、そんなぁ! この人生、チヤホヤされてウハウハを味わえると思ってたのに……。
 それにみんな、可愛いって言ってくれるから……身内だもん、そりゃ可愛いいうわなー。

「拾われっ子!」

 !

 捨て台詞のように言って立ち去る。
 戻ってきた双子がわたしの表情を見て、走っていった子たちの背中を睨みつけた。

「どうしたの? 何言われた?」

「……ちっちゃいって。似てない。こまっしゃくれてる。拾われっ子」

 似ていないというのは、確かめられないからなんとも言えないが、思い当たることはある。わたし以外みんな器用なんだよね。めんどくさがりもわたしだけ。不器用なのも、大雑把なのも、ガサツなのもわたしだけ。確かに魔力がいっぱいあったり、属性が多かったりする。もしかして、わたし本当に……。

「リーがちっちゃいのは当たり前だよ。まだ5歳になったばかりだもの」

「そうだよ」

 双子はわたしを盛り立てようと一生懸命だ。

「ロビ兄とアラ兄と、ひとつしか違わない」

 なのに、体の大きさは結構違う。能力も、体力も力だって。さらにもうひとつ上の兄さまとは劇的に違う。2年後ああなれるとも思えないし、わたしだけちびっちゃくて、いろいろ足りてない。

「そりゃぁ、オレたち本当は8歳だもの」

 はい? 

「リーは父さまと母さまの子だよ。違うのはおれたちだ」

 ええっ?? 何言ってるの?

「オレたちは母さまの姉さんの子なんだ」

 えええええええっ????????

「リー、目が落っこちそうだよ」

 アラ兄が本当に目が落ちたら受け取らなくちゃとでも思っているかのように、両手をお椀型にして差し出してくる。いや、落ちたら大問題だから! って、そうじゃなくて!

「兄さまの届けを出して、オレたちが1年あとになったから、5歳の時に3歳の届けを出したんだ。父さまと母さまの子として」

 ?

「……兄さまの届けって?」

「リーがみつけたのに覚えてないか。赤ちゃんだったもんな」

「兄さまは母さまの従姉妹の旦那さんの連れ子なんだって」

「え?」

 兄さまがなんだって?

「母さまの、従姉妹の、結婚した人の、前の奥さんとの子供」

 ええ? なんかこんがらがってきた。

「……アラ兄と、ロビ兄は?」

「オレたちは、母さまの姉さんの子供。リーとは本当は従兄弟。届け出は父さまと母さまの子になってるから、オレたちは兄妹だ」

 情報過多だ。一体何から驚けばいいのやら。

「リーは母さまと同じ髪の色で、父さまと同じ翠色の綺麗な瞳だよ」

 わたしの瞳は翠色なんだ。父さまと一緒なのか。

 それから何度か重複して聞いたことを合わせると。
 わたしが1歳の時に、母さまのお姉さんが双子を連れて母さまを頼り辺境まできて預け、そしてすぐに亡くなったそうだ。出自に曰くがあるのか、3歳の時には届けをしていない、つまり戸籍がなかった。
 その少し後、母さまの従姉妹が、やはり母さまを頼って、旦那の連れ子と辺境に忍んできた。雪が〝小休止〟したところで外にちょっと連れ出すと、わたしが〝あっち、あっち〟とうるさくあっちに行けとねだって、仕方なしに連れていくと子供を抱え込んだ女性が倒れていたという。それが母さまの従姉妹と兄さまで、兄さまは元気になったが、その時は一命をとりとめた従姉妹も、すぐに亡くなった。

 兄さまは複雑な出自で生きていることがわかると命を狙われるぐらいにまずいらしく、戸籍上では義母と一緒に亡くなったことにしたそうだ。
 兄さまはその時6歳で、髪の色を変え、辺境伯であるおじいさまの養子として3歳の届けを出したそうだ。当時の3年前だと父さまと母さまは留学中で、その時に子供を産んだことにはできなかった。とりあえず戸籍を作り、後から自分たちの養子にするつもりでいたそうだ。3人とも自分たちの子供にするつもりだったので、双子はその翌年に3歳の届けを出した。

 わたしが前世の話をした時、まだ小さな子供たちが〝死〟を理解していたのが心に残ったんだけど、そうか、みんな大切な人たちをなくしていたんだ。
 みんなが母さま繋がりなことはわかったが、本当のお父さんの話が全く出てこないのはどういうわけなんだろう?
 思うことはいろいろあるが、何て声をかけていいかわからず口ごもる。

「リー、オレたちは淋しくないよ」

 先回りされる。

「父さまも母さまもいて、兄さまも妹もできて、すっごく幸せなんだ」

「うん、リーは大切な妹。大切な家族だ」

「わたしも、アラ兄も、ロビ兄も、大好き。大切」

 わたしはみんなのことがとても大切。うん、それだけで十分だよね。
 初めてのテント、初めての寝袋。そのせいもあったけれど、どこでだって眠れちゃうわたしが、その日はなかなか寝付くことができなかった。
 ゆえに、次の日の朝もなかなか起きることができなかった。これはいつもか。
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