プラス的 異世界の過ごし方

seo

文字の大きさ
上 下
12 / 849
1章 ここがわたしの生きる場所

第12話 ボス猿

しおりを挟む
「リーも、もふさまもどうしたの?」

 戻ってこないからだろう、双子が呼びにきた。

「話、してた」

 ふうんと双子は頷く。

「あれ? お水飲みにきたんじゃないの?」

 お皿が汚れていないからだろう。

「もふさま、お水飲む?」

『もらおうか』

 わたしはお皿をもふさまの座る椅子に置き、テーブルの上にある瓶をそーっと倒さないようにとって、浅いお皿にお水を入れた。瓶が重たくて注ぐときに盛大に瓶を揺らしたが、広いお皿だったのでこぼさずにすんだ。
 もふさまはぺちゃぺちゃと音をたて、上手にお水を飲んでいる。

『これは波動の上がった水だな。聖域から持ってきたのか?』

「違うよ。井戸の水をちゃふつしたの」

『ちゃふつ?』

「しゃ、ふ、ちゅ」

 なんて言いにくい言葉なんだ!

『くっ、煮沸と言ったのか。ほう、煮沸すると波動が上がるのだな面白い』

 波動はわからないけれど、10分沸かし続けたお湯を飲むといいと聞いたことがある。わたしは沸騰してからゆっくり30を数えてから火を消すことにしていた。なんとなくそのタイミングがおいしいというか、体に馴染む気がしたからだ。


 もふさまを抱っこして居間に戻る。椅子によじ登って気になっていたことを聞いた。

「わたし、いつ5歳?」

 父さまと母さまが顔を合わせた。

「誕生日が知りたいのかい?」

「それもだけど、いつ、魔力通す、する?」

「ああ、魔法が楽しみなんだね? リディーは10月17日・光曜日の生まれだから、10月に入ったら光の曜日に祝福をしてもらえるよ」

 祝福という名の魔を通してもらう儀式は誕生日月に入って、同じ曜日にやるものなのか。

「あとどれくらい?」

 みんなクスクス笑っている。

「明日から10月だから、5日後。その日に教会に行こうか」

 わたしは頷いた。それまでに子供たちに探ってもらう算段を立てなきゃね。

「母さま、寝て。父さま、看病。兄さまたち、ご飯とりに行こう」

 願わくば、子供たちと会えるといいんだけど。

「もふさま、どうする?」

『どうするとは?』

「お家帰っちゃう?」

『お前が光魔法を使い媒体を破壊するまで、ここにいないとだろう?』

 もふさまを抱きしめる。

「ありがとう!」

『友達、だからな』

 わたしは大きく頷いた。

 川に行ったり、森に行って、ご飯の材料をとりに行くつもりだというと一緒に行くという。


 歩いていると、兄さまがもふさまに尋ねる。

「もふさまはリディーだけでなく、私たちが何を言っているかわかるんですよね?」

『わかるぞ』

「わかるって」

「なぜ、リディーはもふさまの言っていることがわかるのか、わかりますか?」

 ああ、それはわたしも不思議に思ってたんだ。

『ふむ。おそらくリディアのギフトに関係するのではないかと思う』

「わたしのギフト、関係しているかもって」

 なるほど、と兄さまたちと頷き合う。
 兄さまはわたしたちに約束するように言った。

「リディーともふさまが話せるのは内緒にしよう」

「内緒に?」

「なんで?」

「父さまも言っていただろ、変わったことができると、評判になるかもしれないって」

「「あ」」

 双子が声を揃えた。

「もふさま、今は森の主人さまというのを隠していてもいいですか?」

『我も煩わしいのは好きじゃない。それでいいぞ』

 兄さまたちに伝える。

「リディーが一番気をつけないとだめだよ。約束できる?」

 わたしは頷いた。


 それにしても目の前を歩いていくもふさまの尻尾が可愛すぎる。小さくてもふっとい、もふもふなのだ! ふさふさで頬擦りしたくなる。
 外を歩くときは兄さまと手を繋ぐ。ひとり逸れてしまったから、今日はきつく握られている。
 もふさまは双子の後をとっととついていっている。
 あの背中にリュックがあったら可愛いかも。羽とかつけちゃう?

「リディー、街で私たちを探る人を突き止めるのに、私たちは母さまの子供ってわかってしまうよね?」

「うん、だから、カールたちにお願いしたい」

「カールたちに?」

 双子が振り返る。

「会ったばかりだよ」

「兄さま、出番」

「どういうこと?」

「兄さま、カリスマ発揮。みんな子分になる。子分、親分の言うこときく」

「かりすまって何?」

 アラ兄に尋ねられる。

「うんとかっこいい、意味」

 ちょっと違うけど、面倒だからいいや。

「リディー?」

 兄さまが足を止めた。

「ん、なあに?」

「おやぶんとか、こぶんとか、そんな考えはよくないよ。普通にお願いすればいいことなんだから」

 そっか、そうだねと兄さまたちは頷き合っている。

 兄さまたち、ピュア!
 でも、そうだね。ただお願いすればいいだけのことか。
 わたしの薄汚れた考えを持ち込んじゃいけないね!

 ……と思った時もあったけれど、そうは問屋がおろさなかった。


 いつもの川原に行くと、子供たちがわらわらといた。その中にはカールたちもいて、ノッポのカールとぽっちゃりのサロはわたしたちを見て、眉を下げた。
 ん?

「来たよ」
「領主の子だ」
「かっこいい」
「バカ、何言ってんだ、領主んとこの子供だぞ?」
「ふわふわの犬だ」

『我は犬でない!』

 もふさまがキッと子供たちを睨んだが、ちっとも怖くなく、逆に子供たちに興味を持ったみたいに見えて可愛い。

「お前たち、何しに来た?」

 比較的体の大きい子が、腕を組んで意地悪げに言った。
 明るい茶色の髪に、深緑色の目をしている。

「魚をとりに来たんだ」

 兄さまが告げると、鼻をならした。

「ここはオレたちが魚をとるんだ。だから他のところでやってくれ」

 数人がクスクス笑っている。
 嫌な感じ。

「小さい子もいるし、ここ以外は流れが急だから危ないよ」

 カールが口を出すと、女の子に言うなって感じで服を引っ張られている。
 そういうことか。

「ここで一緒にとっちゃダメなの?」

 アラ兄が尋ねると、鼻で笑った。
 茶髪はここのボス猿みたいだ。みんな彼を信頼して従っているみたい。ボス猿をうかがっている。

「領主の子供が目につくところをうろつくな!」

 攻撃的な口調で言われる。

「君に会うのは初めてだと思うけど。私たちが何かした?」

 おお、兄さま、優しいだけじゃなく、言うときは言うんだね。

「何かしたじゃねーだろ? 領主のせいで、町がどんだけひどい目にあったと思ってんだよ!」

 前領主、何したんだよ、子供にこんなこと言わせるなんて……。
しおりを挟む
感想 45

あなたにおすすめの小説

生まれ変わりも楽じゃない ~生まれ変わっても私はわたし~

こひな
恋愛
市川みのり 31歳。 成り行きで、なぜかバリバリのキャリアウーマンをやっていた私。 彼氏なし・趣味は食べることと読書という仕事以外は引きこもり気味な私が、とばっちりで異世界転生。 貴族令嬢となり、四苦八苦しつつ異世界を生き抜くお話です。 ※いつも読んで頂きありがとうございます。誤字脱字のご指摘ありがとうございます。

女性として見れない私は、もう不要な様です〜俺の事は忘れて幸せになって欲しい。と言われたのでそうする事にした結果〜

流雲青人
恋愛
子爵令嬢のプレセアは目の前に広がる光景に静かに涙を零した。 偶然にも居合わせてしまったのだ。 学園の裏庭で、婚約者がプレセアの友人へと告白している場面に。 そして後日、婚約者に呼び出され告げられた。 「君を女性として見ることが出来ない」 幼馴染であり、共に過ごして来た時間はとても長い。 その中でどうやら彼はプレセアを友人以上として見れなくなってしまったらしい。 「俺の事は忘れて幸せになって欲しい。君は幸せになるべき人だから」 大切な二人だからこそ、清く身を引いて、大好きな人と友人の恋を応援したい。 そう思っている筈なのに、恋心がその気持ちを邪魔してきて...。 ※ ゆるふわ設定です。 完結しました。

どうして私が我慢しなきゃいけないの?!~悪役令嬢のとりまきの母でした~

涼暮 月
恋愛
目を覚ますと別人になっていたわたし。なんだか冴えない異国の女の子ね。あれ、これってもしかして異世界転生?と思ったら、乙女ゲームの悪役令嬢のとりまきのうちの一人の母…かもしれないです。とりあえず婚約者が最悪なので、婚約回避のために頑張ります!

公爵夫人アリアの華麗なるダブルワーク〜秘密の隠し部屋からお届けいたします〜

白猫
恋愛
主人公アリアとディカルト公爵家の当主であるルドルフは、政略結婚により結ばれた典型的な貴族の夫婦だった。 がしかし、5年ぶりに戦地から戻ったルドルフは敗戦国である隣国の平民イザベラを連れ帰る。城に戻ったルドルフからは目すら合わせてもらえないまま、本邸と別邸にわかれた別居生活が始まる。愛人なのかすら教えてもらえない女性の存在、そのイザベラから無駄に意識されるうちに、アリアは面倒臭さに頭を抱えるようになる。ある日、侍女から語られたイザベラに関する「推測」をきっかけに物語は大きく動き出す。 暗闇しかないトンネルのような現状から抜け出すには、ルドルフと離婚し公爵令嬢に戻るしかないと思っていたアリアだが、その「推測」にひと握りの可能性を見出したのだ。そして公爵邸にいながら自分を磨き、リスキリングに挑戦する。とにかく今あるものを使って、できるだけ抵抗しよう!そんなアリアを待っていたのは、思わぬ新しい人生と想像を上回る幸福であった。公爵夫人の反撃と挑戦の狼煙、いまここに高く打ち上げます! ➡️登場人物、国、背景など全て架空の100%フィクションです。

野草から始まる異世界スローライフ

深月カナメ
ファンタジー
花、植物に癒されたキャンプ場からの帰り、事故にあい異世界に転生。気付けば子供の姿で、名前はエルバという。 私ーーエルバはスクスク育ち。 ある日、ふれた薬草の名前、効能が頭の中に聞こえた。 (このスキル使える)   エルバはみたこともない植物をもとめ、魔法のある世界で優しい両親も恵まれ、私の第二の人生はいま異世界ではじまった。 エブリスタ様にて掲載中です。 表紙は表紙メーカー様をお借りいたしました。 プロローグ〜78話までを第一章として、誤字脱字を直したものに変えました。 物語は変わっておりません。 一応、誤字脱字、文章などを直したはずですが、まだまだあると思います。見直しながら第二章を進めたいと思っております。 よろしくお願いします。

無一文で追放される悪女に転生したので特技を活かしてお金儲けを始めたら、聖女様と呼ばれるようになりました

結城芙由奈@12/27電子書籍配信中
恋愛
スーパームーンの美しい夜。仕事帰り、トラックに撥ねらてしまった私。気づけば草の生えた地面の上に倒れていた。目の前に見える城に入れば、盛大なパーティーの真っ最中。目の前にある豪華な食事を口にしていると見知らぬ男性にいきなり名前を呼ばれて、次期王妃候補の資格を失ったことを聞かされた。理由も分からないまま、家に帰宅すると「お前のような恥さらしは今日限り、出ていけ」と追い出されてしまう。途方に暮れる私についてきてくれたのは、私の専属メイドと御者の青年。そこで私は2人を連れて新天地目指して旅立つことにした。無一文だけど大丈夫。私は前世の特技を活かしてお金を稼ぐことが出来るのだから―― ※ 他サイトでも投稿中

世の中は意外と魔術で何とかなる

ものまねの実
ファンタジー
新しい人生が唐突に始まった男が一人。目覚めた場所は人のいない森の中の廃村。生きるのに精一杯で、大層な目標もない。しかしある日の出会いから物語は動き出す。 神様の土下座・謝罪もない、スキル特典もレベル制もない、転生トラックもそれほど走ってない。突然の転生に戸惑うも、前世での経験があるおかげで図太く生きられる。生きるのに『隠してたけど実は最強』も『パーティから追放されたから復讐する』とかの設定も必要ない。人はただ明日を目指して歩くだけで十分なんだ。 『王道とは歩むものではなく、その隣にある少しずれた道を歩くためのガイドにするくらいが丁度いい』 平凡な生き方をしているつもりが、結局騒ぎを起こしてしまう男の冒険譚。困ったときの魔術頼み!大丈夫、俺上手に魔術使えますから。※主人公は結構ズルをします。正々堂々がお好きな方はご注意ください。

婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪

naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。 「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」 まっ、いいかっ! 持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

処理中です...