プラス的 異世界の過ごし方

seo

文字の大きさ
上 下
5 / 849
1章 ここがわたしの生きる場所

第5話 鞄

しおりを挟む
 うちに針と糸があるかを聞いた。あといらない布があったら欲しいとも。尋ねると手をわずわらすことになるので気がひけるが、バッグがないと小さいから持てるものも少なく何も始まらない。
 布を二つに折って端をぬい、下は三角処理をしてマチを作る。手提げ部分を作れば手提げ袋の完成だ。

 糸を針に通すのも大変なら、縫うのも大変だった。なみ縫いさえも力がなくて普通には出来なくて、下から上にさす。上から下にさすをひたすら繰り返した。時間もかなりかかった。でもこれで、収穫できるものが増える。
 あとわたしのバッグがいる。こちらは布を三つ折りにして蓋がある感じにする。長めの紐をつけて斜めがけする。魚を包む布やら何やらを入れるのだ。

 兄さまたちはわたしのやることを、興味深そうに見ていた。そして、ちょっと納得いかないけれど、彼らは器用で優秀だった。わたしのやることを一度見るだけで、意図を汲み取り、そしてもっといいものを作り出すことができる。それは父さまと母さまもだった。
 わたしがバッグを作って見せびらかすと、それいいなぁとみんなあっという間に自分のものを作り上げた。見栄えもいい。なんでそんな上手なの? ずるくない?

 今日は午後から市場に行くというので、午前中は大人しく過ごした。お昼寝を午前中にするという荒技もした。時間が余ったので、兄さまに頼んでビワンの葉を多めにお茶っぱにしておく。

 午後にはみんなで町長さんの家に行った。初めましてのご挨拶だ。おじいちゃんだった。厳しい目をしていたが、市場に行くというと馬車を貸してくれた。いい人みたいだ。

 しばらく馬車を走らせると市場についた。わたしはヘロヘロだった。塗装されていない道を、ゴムではない車輪の上で揺られるのは、かなり過酷だった。領地に来たのも馬車だったと思うので、その時に前世の記憶がなくて良かったと思った。この距離を歩くのも大変だが、馬車厳しい!

 楽しみにしていた市場は活気はそこそこだが、領地の人々に嫌われているのを感じた。初めましてなのに、どうしてだろう?
 それでも父さまや母さまはにこやかに挨拶をして回った。野菜やパンもあまり質が良くなかったが、結構な量を買い込んだ。それからバターとミルクを買った。お金や値段のことがよくわからないので、帰りに教えてもらおう。お肉は塩漬け肉を。野菜の苗が売っていたので、高いのか兄さまに聞いてみる。安くはないとのことだ。そんな話をしていると父さまが覗き込んできた。欲しいのか?と聞かれて躊躇っていると、マルネギ(玉ねぎ)、ニンジ(人参)、の苗を買ってくれた。えへへ、大切に育てるよ。
 調味料は目を光らせて見ていたけれど、オイルと塩以外は砂糖がバカ高い値段であるぐらいだった。

 帰り道、お金のことを教えてもらう。十進法で助かった。
 単位はギル。
 1ギルは軽貨。1円玉みたいなアルミニウムみたいな軽い硬貨で枝の絵が描かれている。
 10ギルが青貨。青くて軽めの硬貨。花の絵が描かれている。
 100ギルが銅貨。飴色の硬貨で、教会みたいのが描かれている。
 1000ギルが銀貨。鹿の横顔みたいのが描かれているらしい。
 1万ギルが金貨。獅子の顔が描かれているらしい。
 10万ギルが中金貨で、金貨よりさらに大きい。
 100万ギルが大金貨で、中金貨よりさらに大きい。
 1千万ギルは板チョコサイズの金版で、1億ギルは大金版っていうのがあるんだって。

 6人家族の1日分のパンが1200ギルだった。ミルクは瓶で売られていて1本2リットル入りぐらいで500ギル。野菜は言い値だ。

 ついでに時間のことなど聞いてみたら、前世と似通っていた。
 1時間は60分で、1分は60秒。1日は24時間。0時から24時まであり、午前と午後とで12時までの呼び方があるのも一緒だ。
 火曜、水曜、土曜、風曜、光曜、休息日の6日を1週間として5週の30日でひと月。12の月を巡り1年とするようだ。春夏秋冬と四季があるんだって嬉しい!


 馬車で町長さんのお家に帰って、馬車を返却する。父さまはお礼にお酒を買ったみたいだ。おお、お酒あるのか、それなら料理の幅も広がるね。
 町長さんはわたしの頭を撫でた。そして斜めがけしている鞄に目を止めて、これはなんだと尋ねられた。

「カバン、です」

「北部ではこういうのが流行っているんですか?」

「いえ、それはうちの娘が考えたものです」

「なんと」

 と驚いている。いや、バッグぐらいあるだろうと思ったが、斜めがけするのが珍しかったらしい。ひょっとしてリュック系もないのかな?
 だったら売れるかも!

 買ってきたものを片付けてお茶を飲んでいるときに、わたしは父さまの膝に乗り込んだ。

「ん、どうした?」

 頭を撫でてくれる。

「兄さまたちが父さまが伯爵言った。本当?」

「……ああそうだよ。シュタイン伯を賜っている。リディーは伯爵令嬢だ」

「ここ、シュタイン伯の領地?」

「リディーは賢いな。そうだよ」

「父さま、うち、貧乏?」

 頭を撫でる手が止まる。

「そうか、リディーは前の記憶があるんだもんな。そうなんだ、うちも領地も貧乏で。でもそれは先代がこの地を貧乏にしたんだ。だから父さまはこの領地を立て直さないといけないんだ。せっかくの伯爵令嬢なのにがっかりしたかい?」

 わたしは膝から降りて、父さまを見上げた。そして首を横に振る。

「貧乏なら、これから豊かにするだけ! わたし、ここに生まれてよかった!」

「リディー」

 ぎゅーっと抱きしめられる。えへへ。

「父さま、他の領地にバッグ売ろう」

「バッグ?」

「えと、かばん。いろんな形、キレイ、可愛い。お金ある人に売るもの作る」

「ああ、なるほど! それはいいな。ただその前にその布やら何やらを買う先立つものがない」

「まず、一個作る。それで手応えみよう」

 頭をかき混ぜられる。

「そうだな、そうしよう」

「……母さま、具合悪い。心配。なるべく休んでほしい。わたし、いろいろ手伝う!」

 父さまの目が大きくなった。

「……レギーナがそうか、無理をさせてるな。わかった。父さまも気をつける」

 そうと決まれば、母さまはなるべく休ませる方向で。
 食糧の確保。家事の分担。それからカバンの試作品を作るのと。森ももうちょっと探検しないとね!
しおりを挟む
感想 45

あなたにおすすめの小説

生まれ変わりも楽じゃない ~生まれ変わっても私はわたし~

こひな
恋愛
市川みのり 31歳。 成り行きで、なぜかバリバリのキャリアウーマンをやっていた私。 彼氏なし・趣味は食べることと読書という仕事以外は引きこもり気味な私が、とばっちりで異世界転生。 貴族令嬢となり、四苦八苦しつつ異世界を生き抜くお話です。 ※いつも読んで頂きありがとうございます。誤字脱字のご指摘ありがとうございます。

女性として見れない私は、もう不要な様です〜俺の事は忘れて幸せになって欲しい。と言われたのでそうする事にした結果〜

流雲青人
恋愛
子爵令嬢のプレセアは目の前に広がる光景に静かに涙を零した。 偶然にも居合わせてしまったのだ。 学園の裏庭で、婚約者がプレセアの友人へと告白している場面に。 そして後日、婚約者に呼び出され告げられた。 「君を女性として見ることが出来ない」 幼馴染であり、共に過ごして来た時間はとても長い。 その中でどうやら彼はプレセアを友人以上として見れなくなってしまったらしい。 「俺の事は忘れて幸せになって欲しい。君は幸せになるべき人だから」 大切な二人だからこそ、清く身を引いて、大好きな人と友人の恋を応援したい。 そう思っている筈なのに、恋心がその気持ちを邪魔してきて...。 ※ ゆるふわ設定です。 完結しました。

どうして私が我慢しなきゃいけないの?!~悪役令嬢のとりまきの母でした~

涼暮 月
恋愛
目を覚ますと別人になっていたわたし。なんだか冴えない異国の女の子ね。あれ、これってもしかして異世界転生?と思ったら、乙女ゲームの悪役令嬢のとりまきのうちの一人の母…かもしれないです。とりあえず婚約者が最悪なので、婚約回避のために頑張ります!

公爵夫人アリアの華麗なるダブルワーク〜秘密の隠し部屋からお届けいたします〜

白猫
恋愛
主人公アリアとディカルト公爵家の当主であるルドルフは、政略結婚により結ばれた典型的な貴族の夫婦だった。 がしかし、5年ぶりに戦地から戻ったルドルフは敗戦国である隣国の平民イザベラを連れ帰る。城に戻ったルドルフからは目すら合わせてもらえないまま、本邸と別邸にわかれた別居生活が始まる。愛人なのかすら教えてもらえない女性の存在、そのイザベラから無駄に意識されるうちに、アリアは面倒臭さに頭を抱えるようになる。ある日、侍女から語られたイザベラに関する「推測」をきっかけに物語は大きく動き出す。 暗闇しかないトンネルのような現状から抜け出すには、ルドルフと離婚し公爵令嬢に戻るしかないと思っていたアリアだが、その「推測」にひと握りの可能性を見出したのだ。そして公爵邸にいながら自分を磨き、リスキリングに挑戦する。とにかく今あるものを使って、できるだけ抵抗しよう!そんなアリアを待っていたのは、思わぬ新しい人生と想像を上回る幸福であった。公爵夫人の反撃と挑戦の狼煙、いまここに高く打ち上げます! ➡️登場人物、国、背景など全て架空の100%フィクションです。

野草から始まる異世界スローライフ

深月カナメ
ファンタジー
花、植物に癒されたキャンプ場からの帰り、事故にあい異世界に転生。気付けば子供の姿で、名前はエルバという。 私ーーエルバはスクスク育ち。 ある日、ふれた薬草の名前、効能が頭の中に聞こえた。 (このスキル使える)   エルバはみたこともない植物をもとめ、魔法のある世界で優しい両親も恵まれ、私の第二の人生はいま異世界ではじまった。 エブリスタ様にて掲載中です。 表紙は表紙メーカー様をお借りいたしました。 プロローグ〜78話までを第一章として、誤字脱字を直したものに変えました。 物語は変わっておりません。 一応、誤字脱字、文章などを直したはずですが、まだまだあると思います。見直しながら第二章を進めたいと思っております。 よろしくお願いします。

無一文で追放される悪女に転生したので特技を活かしてお金儲けを始めたら、聖女様と呼ばれるようになりました

結城芙由奈@12/27電子書籍配信中
恋愛
スーパームーンの美しい夜。仕事帰り、トラックに撥ねらてしまった私。気づけば草の生えた地面の上に倒れていた。目の前に見える城に入れば、盛大なパーティーの真っ最中。目の前にある豪華な食事を口にしていると見知らぬ男性にいきなり名前を呼ばれて、次期王妃候補の資格を失ったことを聞かされた。理由も分からないまま、家に帰宅すると「お前のような恥さらしは今日限り、出ていけ」と追い出されてしまう。途方に暮れる私についてきてくれたのは、私の専属メイドと御者の青年。そこで私は2人を連れて新天地目指して旅立つことにした。無一文だけど大丈夫。私は前世の特技を活かしてお金を稼ぐことが出来るのだから―― ※ 他サイトでも投稿中

世の中は意外と魔術で何とかなる

ものまねの実
ファンタジー
新しい人生が唐突に始まった男が一人。目覚めた場所は人のいない森の中の廃村。生きるのに精一杯で、大層な目標もない。しかしある日の出会いから物語は動き出す。 神様の土下座・謝罪もない、スキル特典もレベル制もない、転生トラックもそれほど走ってない。突然の転生に戸惑うも、前世での経験があるおかげで図太く生きられる。生きるのに『隠してたけど実は最強』も『パーティから追放されたから復讐する』とかの設定も必要ない。人はただ明日を目指して歩くだけで十分なんだ。 『王道とは歩むものではなく、その隣にある少しずれた道を歩くためのガイドにするくらいが丁度いい』 平凡な生き方をしているつもりが、結局騒ぎを起こしてしまう男の冒険譚。困ったときの魔術頼み!大丈夫、俺上手に魔術使えますから。※主人公は結構ズルをします。正々堂々がお好きな方はご注意ください。

婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪

naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。 「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」 まっ、いいかっ! 持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

処理中です...