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<後編>
第57話 反撃6 侯爵様との食事
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エルウィス侯爵様から、正式な食事のお誘いがきてしまった。助けていただいたこともありお断りすることができないので、本日お出かけすることになった。
ドレスは陛下からいただいたもので、今年の流行になるんじゃないかと言われている前から後ろにかけて長さを変えているものを着た。薄い紫を基調としていて、ポイントに薄い黄色が使われている。
今日のメイクは侯爵様を意識してか、控えめな大人っぽいものだった。控えめながら意思の強い女性という感じだ。
「嫌なことされたら叫ぶのよ?」
ミリアは何の心配をしているの?
待ち合わせはお城の馬車乗り場だ。ご挨拶をするのにお兄様も一緒だ。
侯爵様は安定したかっこよさだった。浮かべた笑みも、爽やかにウイットに富んだ受け答えも上流貴族という感じがする。
スマートに挨拶をして、今日一日わたしの世話をしてくれるメイドさんを紹介してくれる。身分下のわたしがお供と行くことはできないので、心遣いだ。
「よろしくお願いしますね」
とわたしは挨拶をした。
お兄様を安心させるためか、馬車もメイドさんと同乗だ。
相手が侯爵様というところが微妙だが、お城の外に出られるのもまた嬉しい。
「どこか行きたいところはありますか」
と尋ねられ、思わず市場と言いかけたが飲み込み
「いえ、特には」と答えた。
馬車で王都の観光名所を回る。貴族は春の夜会にこぞって参加する。観光は必須でどこも混んでいるのではないかと思ったが、夜会に参加をしたら午前中はゆっくり休むのが普通らしく、人通りは少ない。馬車から降りるか聞かれたが、馬車で外観を見るので満足だった。外国人である侯爵様の方がこの国のことによっぽど詳しく、ウンチクを聞いてはわたしはほぉーと感嘆の声をあげていた。
馬車で流しただけだからか、予約した昼食の時間にはまだ早いと言うことで国立公園を散歩することにした。わたしも公園なら気が楽だ。
今日は白い物は見えないがキラキラした光がそこここにあって眩しい。
ハッ。侯爵様が眩しいのか!? 殿下もときどき発光しているんじゃないかと思えるから、美形というのは進化していつか自ら輝くのかもしれない。
たわいもないことを話した。侯爵様の国の流行っていることを教えてもらう。ユーモアがあり、小娘でも一端のレディのように扱ってくれるので気持ちがいい。
食用花があったのでガン見していたら、
「花が好きなのですね」
と誤解された。その方が令嬢っぽいかと思ったので、正さなかった。
時間になったので、レストランへ。予約半年待ちのレストランだそうだ。外国の方が半年前から予約したとは考えられないので、権力かーと思いながら、恩恵にあずかる。個室だったのでヴェールを外した。
食事もすっごくおいしかった!
前菜もいうことなかったが、メインのお肉が柔らかくてジューシーで。パンも驚くほど柔らかかった。野菜のソースをうまくとりいれているのが特徴で、相反するものが組み込まれていて。甘じょっぱい味は無限ループに陥りそうだった!
同じ個室に衝立をしてメイドさんが控えていたけれど、食後のお茶のタイミングで出て行かれた。いよいよ本題に入るのかとわたしは構えた。小娘を食事に誘うのは何か目的があってだろうからね。
「精霊を見たことがありますか?」
「いいえ」
わたしは首を横に振った。
ん? それが聞きたかったこと? わたしをわざわざ呼び出して?
「そうですか。それなら精霊姫としての自覚は持ちにくいかもしれないですね」
「自覚、ですか?」
「ええ」
侯爵様はコーヒーを一口飲まれる。ブラックだ。
「ゲルスターでは精霊に好かれる要素を持ったものを緑の乙女と呼んでいます。ただその要素はもう血筋だけで、わたしは精霊を感じたことはないし、好かれるなんておこがましい話です。侯爵様の国では精霊姫と呼ぶのですね」
「精霊は緑の瞳と緑の髪を好むようですね。そして女性であること。それも重要な要素であると思いますよ」
「女性であること、ですか?」
まぁ、確かに緑の〝乙女〟しか聞いたことはない。
「女性だから愛したのでしょう」
「精霊に性別ってあるんですか?」
侯爵様は目をしばたく。
「そういえば精霊の性別に関することは創世記にも書かれていませんでしたね」
侯爵様はニヤッと笑って
「では、現、精霊姫は、なぜ精霊は姫を愛するんだと思いますか?」
「わたしは見たことがないし、感じたことがないので、自分が精霊に好かれていると思ったこともありません。物語としてでしたら、最初に触れ合った人間が緑の髪と緑の瞳で、緑を持つものに会うとその最初の人間を思い出して優しくしちゃうんじゃないかと思っていました」
あくまで物語として捉えたときに、そうじゃないかと思ったんだ。
精霊が信じられていて、そして見えた時代があったなら。人は80年ぐらいで人生を終えるけれど、精霊は悠久を生きる。仲良くなった者の子孫や面影を求めても不思議はない。
「闇と光の精霊が仲が悪いことはご存知ですか?」
「確かそれで昼と夜とに神様が活動する時間を分けたのですよね?」
創世記にそう書かれていたと聞いたことがある。
「こんな話があります」
侯爵様はそんなふうに話し出した。
光と闇の精霊はお互いを嫌っていた。ある日、光の精霊は闇の精霊に嘘をついた。
精霊姫は闇がキライだと。
大喧嘩になり、闇の精霊の攻撃が神の大地を破壊した。神は怒り、闇はしばらくの間、封印されることになった。そして光の精霊も嘘をついた罰として封印された。闇の精霊が光の精霊のついた嘘に気づかないと光の封印は解けない。
月日が流れ、闇の封印が解けた。闇は嫌われていると思っても、姫を慕わずにはいられなかった。けれど、血は薄れ、信仰も遠くなり、姫は嫌うどころか精霊に気づきもしなかった。闇の精霊は寝て、起きては姫のところに赴いた。精霊のひと眠りは人の世代を軽く越えていたが、そのことには気づかなかった。
ある時、姫に会いにいくと、哀しみに溢れ、闇の中に抱かれることを願う姫がいた。闇は喜んだ。いくらでも自分の中で癒すと思った。闇はそばで見守った。それなのに、姫はひと眠りして起きると別人のような強い心を持っていた。
「それでどうなったんです?」
続きを強請ると、侯爵様は首を傾げた。
「さあ」
え、そんな中途半端で終わりなの? 精霊の気づいてもらえない哀しい話なだけだ。
気づいてもらえない闇の精霊か、胸がちくんと痛む。精霊を信じたかった人がこしらえた物語だろうか。その人は精霊姫なら精霊を見られるのに、気づこうとしていないんだと呆れて、精霊が可哀想だとこしらえたんだろうか?
「……国によって伝承がいろいろあるのですね。その話は初めて聞きました」
「精霊は存在して、君が気づこうとしていないだけかもしれない」
緑の乙女なのに精霊を感じることができないと責められているのだろうか?
「精霊姫は精霊たらしだ。姫が姫というだけで、精霊たちは姫を崇め奉ると聞いている。なぜなのかなー? その理由、気にならないかい?」
普通に考えて、髪と瞳の色が緑な乙女が、精霊の心を鷲掴みにする何かをしたんじゃないかと思う。
「理由ですか? 理由があったとしてもそれは初代の緑の乙女の話でしょうね。今は身に緑を持つものさえ生まれないですし」
血筋でいえばわたしが緑の乙女だが、2つの緑を持つ乙女ではない。
そう告げれば、ひとつも見逃すまいとでもいうように纏わりついていた視線が和らぐ。ちょっとほっとする。
「……君はこの国で生きづらいのだね?」
そう聞こえたのだろうか? 自分の心に聞いてみる。
少し前までなら、そう思ったこともあるけれど。
「いえ、それほどでも」
皆様と会って、わたしは〝今〟を楽しんでいる自分に気づいた。
でも、そっか。この賭けが終わったら、皆様とも会えなくなって前の暮らしに戻る。そしたら、ちょっと淋しく感じるかもしれない。
今度こそ、陛下に掛け合ってでも領地を離れて働くことを許してもらおう。その前にどんな罰を言い渡されるかわからないんだけどね。
侯爵様がカップを弄んでいる。
すっきりしないので、聞いてみることにする。
「今日はなぜ、わたしを誘ってくださったんですか?」
侯爵様は嬉しそうに目を細めた。
「あなたに興味があったんです」
「わかったと思いますが、わたしは何の力もない小娘ですよ」
ふふふと侯爵様は笑う。否定はしなかった。
「あなたがあの坊やとダンスをしているところを見ましたよ。今夜の夜会で私と踊ってくださいませんか?」
「すみませんが、体が丈夫ではないのでお断りいたします」
「つれないですね。あの坊やとは踊っていたのに」
「あれが特別だったんです」
「令嬢の好みはあの坊やなんですか?」
「さぁ、どうでしょう?」
にこりと微笑んでおく。
「私はエルウィス家でも末端なんです」
わたしは聞きながら紅茶を一口いただく。
「それがここ何年かのうちに、後継者たちが体を壊したり不祥事を起こし、気がついたら私が当主になっていました。
「当主になりたくなかったんですか?」
ふふと笑われる。
「あ、失礼。普通の令嬢はここで皆一様に褒め称えるか何かで、そう聞かれたのはあなたが初めてだ」
「すみません、嬉しそうには見えなかったので」
それで思わず聞いてしまったのだ。
「嬉しそうではない、か。そうか、そうかもしれないな」
侯爵様が目を伏せた。
「本当につれないな。〝興味を持った〟といってもはぐらかすなんて。私はこれでもモテる方なんだが、あなたが全く靡かないのは、もう婚約者候補の中に心に決めた人がいるからなのかな?」
どの口が言う? 侯爵様みたいな方がわたしみたいな小娘に恋愛感情を持つはずがない。
向こうの方がうわてだから、侯爵様の思う通りにしておいた方が都合がいいかと思ったので答えておく。
「はい、お慕いしている方がおります」
微笑めば、驚いたようだ。
「そうですか、……それはそれでまた悔しいものですね」
侯爵様はそう話を終わらせてしまった。結局、わたしを食事に誘った真意はわからなかった。
精霊が見えるかどうかの確認だったのかな?
帰るとお兄様たちがひどく心配していてくれた。皆様もだ。わたしは精霊が見えるかどうか聞かれたが、目的がそれかどうかはわからなかったと告げた。
ドレスは陛下からいただいたもので、今年の流行になるんじゃないかと言われている前から後ろにかけて長さを変えているものを着た。薄い紫を基調としていて、ポイントに薄い黄色が使われている。
今日のメイクは侯爵様を意識してか、控えめな大人っぽいものだった。控えめながら意思の強い女性という感じだ。
「嫌なことされたら叫ぶのよ?」
ミリアは何の心配をしているの?
待ち合わせはお城の馬車乗り場だ。ご挨拶をするのにお兄様も一緒だ。
侯爵様は安定したかっこよさだった。浮かべた笑みも、爽やかにウイットに富んだ受け答えも上流貴族という感じがする。
スマートに挨拶をして、今日一日わたしの世話をしてくれるメイドさんを紹介してくれる。身分下のわたしがお供と行くことはできないので、心遣いだ。
「よろしくお願いしますね」
とわたしは挨拶をした。
お兄様を安心させるためか、馬車もメイドさんと同乗だ。
相手が侯爵様というところが微妙だが、お城の外に出られるのもまた嬉しい。
「どこか行きたいところはありますか」
と尋ねられ、思わず市場と言いかけたが飲み込み
「いえ、特には」と答えた。
馬車で王都の観光名所を回る。貴族は春の夜会にこぞって参加する。観光は必須でどこも混んでいるのではないかと思ったが、夜会に参加をしたら午前中はゆっくり休むのが普通らしく、人通りは少ない。馬車から降りるか聞かれたが、馬車で外観を見るので満足だった。外国人である侯爵様の方がこの国のことによっぽど詳しく、ウンチクを聞いてはわたしはほぉーと感嘆の声をあげていた。
馬車で流しただけだからか、予約した昼食の時間にはまだ早いと言うことで国立公園を散歩することにした。わたしも公園なら気が楽だ。
今日は白い物は見えないがキラキラした光がそこここにあって眩しい。
ハッ。侯爵様が眩しいのか!? 殿下もときどき発光しているんじゃないかと思えるから、美形というのは進化していつか自ら輝くのかもしれない。
たわいもないことを話した。侯爵様の国の流行っていることを教えてもらう。ユーモアがあり、小娘でも一端のレディのように扱ってくれるので気持ちがいい。
食用花があったのでガン見していたら、
「花が好きなのですね」
と誤解された。その方が令嬢っぽいかと思ったので、正さなかった。
時間になったので、レストランへ。予約半年待ちのレストランだそうだ。外国の方が半年前から予約したとは考えられないので、権力かーと思いながら、恩恵にあずかる。個室だったのでヴェールを外した。
食事もすっごくおいしかった!
前菜もいうことなかったが、メインのお肉が柔らかくてジューシーで。パンも驚くほど柔らかかった。野菜のソースをうまくとりいれているのが特徴で、相反するものが組み込まれていて。甘じょっぱい味は無限ループに陥りそうだった!
同じ個室に衝立をしてメイドさんが控えていたけれど、食後のお茶のタイミングで出て行かれた。いよいよ本題に入るのかとわたしは構えた。小娘を食事に誘うのは何か目的があってだろうからね。
「精霊を見たことがありますか?」
「いいえ」
わたしは首を横に振った。
ん? それが聞きたかったこと? わたしをわざわざ呼び出して?
「そうですか。それなら精霊姫としての自覚は持ちにくいかもしれないですね」
「自覚、ですか?」
「ええ」
侯爵様はコーヒーを一口飲まれる。ブラックだ。
「ゲルスターでは精霊に好かれる要素を持ったものを緑の乙女と呼んでいます。ただその要素はもう血筋だけで、わたしは精霊を感じたことはないし、好かれるなんておこがましい話です。侯爵様の国では精霊姫と呼ぶのですね」
「精霊は緑の瞳と緑の髪を好むようですね。そして女性であること。それも重要な要素であると思いますよ」
「女性であること、ですか?」
まぁ、確かに緑の〝乙女〟しか聞いたことはない。
「女性だから愛したのでしょう」
「精霊に性別ってあるんですか?」
侯爵様は目をしばたく。
「そういえば精霊の性別に関することは創世記にも書かれていませんでしたね」
侯爵様はニヤッと笑って
「では、現、精霊姫は、なぜ精霊は姫を愛するんだと思いますか?」
「わたしは見たことがないし、感じたことがないので、自分が精霊に好かれていると思ったこともありません。物語としてでしたら、最初に触れ合った人間が緑の髪と緑の瞳で、緑を持つものに会うとその最初の人間を思い出して優しくしちゃうんじゃないかと思っていました」
あくまで物語として捉えたときに、そうじゃないかと思ったんだ。
精霊が信じられていて、そして見えた時代があったなら。人は80年ぐらいで人生を終えるけれど、精霊は悠久を生きる。仲良くなった者の子孫や面影を求めても不思議はない。
「闇と光の精霊が仲が悪いことはご存知ですか?」
「確かそれで昼と夜とに神様が活動する時間を分けたのですよね?」
創世記にそう書かれていたと聞いたことがある。
「こんな話があります」
侯爵様はそんなふうに話し出した。
光と闇の精霊はお互いを嫌っていた。ある日、光の精霊は闇の精霊に嘘をついた。
精霊姫は闇がキライだと。
大喧嘩になり、闇の精霊の攻撃が神の大地を破壊した。神は怒り、闇はしばらくの間、封印されることになった。そして光の精霊も嘘をついた罰として封印された。闇の精霊が光の精霊のついた嘘に気づかないと光の封印は解けない。
月日が流れ、闇の封印が解けた。闇は嫌われていると思っても、姫を慕わずにはいられなかった。けれど、血は薄れ、信仰も遠くなり、姫は嫌うどころか精霊に気づきもしなかった。闇の精霊は寝て、起きては姫のところに赴いた。精霊のひと眠りは人の世代を軽く越えていたが、そのことには気づかなかった。
ある時、姫に会いにいくと、哀しみに溢れ、闇の中に抱かれることを願う姫がいた。闇は喜んだ。いくらでも自分の中で癒すと思った。闇はそばで見守った。それなのに、姫はひと眠りして起きると別人のような強い心を持っていた。
「それでどうなったんです?」
続きを強請ると、侯爵様は首を傾げた。
「さあ」
え、そんな中途半端で終わりなの? 精霊の気づいてもらえない哀しい話なだけだ。
気づいてもらえない闇の精霊か、胸がちくんと痛む。精霊を信じたかった人がこしらえた物語だろうか。その人は精霊姫なら精霊を見られるのに、気づこうとしていないんだと呆れて、精霊が可哀想だとこしらえたんだろうか?
「……国によって伝承がいろいろあるのですね。その話は初めて聞きました」
「精霊は存在して、君が気づこうとしていないだけかもしれない」
緑の乙女なのに精霊を感じることができないと責められているのだろうか?
「精霊姫は精霊たらしだ。姫が姫というだけで、精霊たちは姫を崇め奉ると聞いている。なぜなのかなー? その理由、気にならないかい?」
普通に考えて、髪と瞳の色が緑な乙女が、精霊の心を鷲掴みにする何かをしたんじゃないかと思う。
「理由ですか? 理由があったとしてもそれは初代の緑の乙女の話でしょうね。今は身に緑を持つものさえ生まれないですし」
血筋でいえばわたしが緑の乙女だが、2つの緑を持つ乙女ではない。
そう告げれば、ひとつも見逃すまいとでもいうように纏わりついていた視線が和らぐ。ちょっとほっとする。
「……君はこの国で生きづらいのだね?」
そう聞こえたのだろうか? 自分の心に聞いてみる。
少し前までなら、そう思ったこともあるけれど。
「いえ、それほどでも」
皆様と会って、わたしは〝今〟を楽しんでいる自分に気づいた。
でも、そっか。この賭けが終わったら、皆様とも会えなくなって前の暮らしに戻る。そしたら、ちょっと淋しく感じるかもしれない。
今度こそ、陛下に掛け合ってでも領地を離れて働くことを許してもらおう。その前にどんな罰を言い渡されるかわからないんだけどね。
侯爵様がカップを弄んでいる。
すっきりしないので、聞いてみることにする。
「今日はなぜ、わたしを誘ってくださったんですか?」
侯爵様は嬉しそうに目を細めた。
「あなたに興味があったんです」
「わかったと思いますが、わたしは何の力もない小娘ですよ」
ふふふと侯爵様は笑う。否定はしなかった。
「あなたがあの坊やとダンスをしているところを見ましたよ。今夜の夜会で私と踊ってくださいませんか?」
「すみませんが、体が丈夫ではないのでお断りいたします」
「つれないですね。あの坊やとは踊っていたのに」
「あれが特別だったんです」
「令嬢の好みはあの坊やなんですか?」
「さぁ、どうでしょう?」
にこりと微笑んでおく。
「私はエルウィス家でも末端なんです」
わたしは聞きながら紅茶を一口いただく。
「それがここ何年かのうちに、後継者たちが体を壊したり不祥事を起こし、気がついたら私が当主になっていました。
「当主になりたくなかったんですか?」
ふふと笑われる。
「あ、失礼。普通の令嬢はここで皆一様に褒め称えるか何かで、そう聞かれたのはあなたが初めてだ」
「すみません、嬉しそうには見えなかったので」
それで思わず聞いてしまったのだ。
「嬉しそうではない、か。そうか、そうかもしれないな」
侯爵様が目を伏せた。
「本当につれないな。〝興味を持った〟といってもはぐらかすなんて。私はこれでもモテる方なんだが、あなたが全く靡かないのは、もう婚約者候補の中に心に決めた人がいるからなのかな?」
どの口が言う? 侯爵様みたいな方がわたしみたいな小娘に恋愛感情を持つはずがない。
向こうの方がうわてだから、侯爵様の思う通りにしておいた方が都合がいいかと思ったので答えておく。
「はい、お慕いしている方がおります」
微笑めば、驚いたようだ。
「そうですか、……それはそれでまた悔しいものですね」
侯爵様はそう話を終わらせてしまった。結局、わたしを食事に誘った真意はわからなかった。
精霊が見えるかどうかの確認だったのかな?
帰るとお兄様たちがひどく心配していてくれた。皆様もだ。わたしは精霊が見えるかどうか聞かれたが、目的がそれかどうかはわからなかったと告げた。
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