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第二章
36. さあパーティだ!
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フローラが歩く。
スポットライトが彼女を追っていく。
さらに、魔術による演出も加わり、フローラはきらきらと輝いていた。
彼女の姿は幻想的であり、多くの生徒を虜にしている。
その虜にされている生徒の一人、エリザベスは、
――さすがはフローラ様。敵いませんわね。
と感心していた。
自分よりも目立っているフローラを妬む気持ちはなく、純粋にフローラのことを称賛していた。
エリザベスは度胸があるほうだ。
しかし、現在の流行を真っ向から否定するようなドレスを着る勇気はない。
それを軽々とやりのけたフローラに拍手を送る。
また、生徒会長であるハリーは、
――先鋭的なドレスも、その美しき外見も、洗練された動きも、全てはフローラ嬢だからこそ輝きを放つ。
と大きく頷いた。
彼はおおよその事情を把握していた。
フローラが何者かによってドレスを汚されたこと。
新しいドレスに着替えており、パーティに遅れているということ。
それらを事前に知っていたから、フローラたちの登場を演出できた。
だが、ハリーの下手な演出など不要と言わんばかりにフローラは美しかった。
――まさか現在の流行りとは全く違うドレスを、この場で披露するとはな。
彼はひたすらに感心する。
その度胸や知恵を。
次に会場の反応を見てハリーはふと思った。
――これも貴族と平民の軋轢をなくすための一手なのか?
特に平民の反応が良い。
新入生歓迎パーティとは聞こえが良いが、実際は貴族のためのパーティとなっていた。
それがハリーの悩みでもあった。
しかし、フローラの登場で平民達の満足度が向上。
さらに、もし彼女の着ているシンプルな型のドレスが流行れば、平民の貴族に対する見方も変わるかもしれない。
フローラの行動がそこまでを見越したものであれば、
――彼女はどこまで先を見通して行動しているのだろうか?
とハリーは思った。
もちろん全て勘違いである!
フローラはクラゲのように流れに流され、その結果、たまたま新ドレスを披露しただけだ。
なんなら彼女はパーティを休みたいと思っていた。
しかし、ハリーはフローラの心情を知らない。
知らないほうが幸せなこともあるのだろう。
ハリーはちくりと胸の痛みを覚えた。
――なぜ、フローラ嬢の隣を歩くのが自分ではないのか?
と、ハリーは考えたのだ。
それはノーマンに対する小さな嫉妬である。
しかしハリーは今まで嫉妬など経験したことがない。
そのため、自分の感情を正しく理解できていなかった。
ノーマンは優雅にフローラをエスコートする。
とても様になっている。
通常であれば多くの乙女がうっとりした表情でノーマンを見つめるだろう。
そしてノーマンの隣を歩く女性に嫉妬の目を向けるはずだ。
事実、去年のダンスパーティでノーマンの相手を務めた人物はパーティの間ずっと睨まれていた。
だが、今回に限って言えばノーマンは飾りでしかない。
主役はノーマンではなくフローラだ。
今はみなフローラを見ていた。
ノーマンは久しぶりに緊張を覚えていた。
彼が女性のエスコートに緊張するのは初めてのことである。
ノーマンは笑顔を心がけて、緊張が顔に出ないように意識していた。
みながフローラを見ている。
みながフローラに目を奪われている。
そんな視線を一斉に受けていたフローラだが……。
彼女はため息を吐きたい気分だった!
――はあ……パーティなんて休みたかったのに。マシューのやつめ。余計なことをしやがって。
それは例えるなら……。
台風で学校が休みになると喜んだのも束の間。
台風の進路が逸れて普段通りに授業が行われることになっときの小学生のような気分だ。
――なんか途中で参加したせいで人の目を集めてるんだけど? 目立ちたくないんだよなぁ。
フローラの鬱々とした表情も、他の人から見れば憂いの美少女に見えてしまう。
会場の者たちはフローラマジックにかかっていた!
特に貴族子弟の反応が劇的だった。
彼らはゴテゴテに飾られた貴族子女を見飽きていた。
横長の歩きにくそうなスカートや、装飾品をふんだんに使ったドレスは、男からの受けが良くない。
それと比べてフローラの素朴な服装は貴族子弟の心をぎゅっと鷲掴みにしていた。
もちろん、フローラの登場を快く思わない生徒もいる。
主に身分の高い貴族子女だ。
あんなドレスを受け入れられない。
と、拒否反応が出る生徒もいた。
しかしエリザベスが好意的な反応をみせたことで、否定的な意見を述べる貴族子女はいなかった。
好意的な視線が8割、否定的な視線が1割、どちらでもない視線が1割。
良くも悪くもフローラは注目を浴びていたのだ。
大勢の視線に晒されながらノーマンとフローラはハリーのもとまで行く。
「遅くなり申し訳ありません」
とフローラが深々と頭を下げて告げる。
「事情は聞いている。問題ない」
ハリーは鷹揚に頷いた。
続いて彼は言う。
「まだパーティは始まったばかりだ。存分に楽しんでくれ」
フローラは顔を上げて静かに頷いた。
こうしてダンスパーティが幕を開けた。
◇ ◇ ◇
フローラ・メイ・フォーブズはファッションリーダーとしても有名である。
凝ったデザインのドレスが主流だった時代に、体に密着したシンプルなドレスを流行らせたという。
ファッションの歴史を学ぶ者で、フローラを知らない人物はいないだろう。
また彼女はマーケティングの視点を持っていたとも言われている。
敢えて学生パーティで新ドレスを披露したのは型破りなドレスが認められやすい場であるからだ。
見事フローラの狙いは功を奏し、そして徐々に彼女が披露したドレスは貴族社会に浸透していくことになった。
余談だが、歴史家の中にはフローラの意図は他にあったと言う者もいる。
フローラは革命を起こさせないために従来のドレスを否定した、という説だ。
当時の平民は貴族の無駄遣いに対して嫌悪感を抱いていた。
その怒りが爆発して革命になっていただろう。
と、唱える歴史家もいる。
もちろん、そう考えるのは一部の歴史家だけある。
しかし、フローラの行いによって平民の貴族に対する反発心が和らいだのは、紛れもない事実だ。
かの偉人フローラ・メイ・フォーブズがどこまで想定していたかは本人にしかわからないことだ。
だが、彼女が非常に優れた人物であったことは疑いようがない。
スポットライトが彼女を追っていく。
さらに、魔術による演出も加わり、フローラはきらきらと輝いていた。
彼女の姿は幻想的であり、多くの生徒を虜にしている。
その虜にされている生徒の一人、エリザベスは、
――さすがはフローラ様。敵いませんわね。
と感心していた。
自分よりも目立っているフローラを妬む気持ちはなく、純粋にフローラのことを称賛していた。
エリザベスは度胸があるほうだ。
しかし、現在の流行を真っ向から否定するようなドレスを着る勇気はない。
それを軽々とやりのけたフローラに拍手を送る。
また、生徒会長であるハリーは、
――先鋭的なドレスも、その美しき外見も、洗練された動きも、全てはフローラ嬢だからこそ輝きを放つ。
と大きく頷いた。
彼はおおよその事情を把握していた。
フローラが何者かによってドレスを汚されたこと。
新しいドレスに着替えており、パーティに遅れているということ。
それらを事前に知っていたから、フローラたちの登場を演出できた。
だが、ハリーの下手な演出など不要と言わんばかりにフローラは美しかった。
――まさか現在の流行りとは全く違うドレスを、この場で披露するとはな。
彼はひたすらに感心する。
その度胸や知恵を。
次に会場の反応を見てハリーはふと思った。
――これも貴族と平民の軋轢をなくすための一手なのか?
特に平民の反応が良い。
新入生歓迎パーティとは聞こえが良いが、実際は貴族のためのパーティとなっていた。
それがハリーの悩みでもあった。
しかし、フローラの登場で平民達の満足度が向上。
さらに、もし彼女の着ているシンプルな型のドレスが流行れば、平民の貴族に対する見方も変わるかもしれない。
フローラの行動がそこまでを見越したものであれば、
――彼女はどこまで先を見通して行動しているのだろうか?
とハリーは思った。
もちろん全て勘違いである!
フローラはクラゲのように流れに流され、その結果、たまたま新ドレスを披露しただけだ。
なんなら彼女はパーティを休みたいと思っていた。
しかし、ハリーはフローラの心情を知らない。
知らないほうが幸せなこともあるのだろう。
ハリーはちくりと胸の痛みを覚えた。
――なぜ、フローラ嬢の隣を歩くのが自分ではないのか?
と、ハリーは考えたのだ。
それはノーマンに対する小さな嫉妬である。
しかしハリーは今まで嫉妬など経験したことがない。
そのため、自分の感情を正しく理解できていなかった。
ノーマンは優雅にフローラをエスコートする。
とても様になっている。
通常であれば多くの乙女がうっとりした表情でノーマンを見つめるだろう。
そしてノーマンの隣を歩く女性に嫉妬の目を向けるはずだ。
事実、去年のダンスパーティでノーマンの相手を務めた人物はパーティの間ずっと睨まれていた。
だが、今回に限って言えばノーマンは飾りでしかない。
主役はノーマンではなくフローラだ。
今はみなフローラを見ていた。
ノーマンは久しぶりに緊張を覚えていた。
彼が女性のエスコートに緊張するのは初めてのことである。
ノーマンは笑顔を心がけて、緊張が顔に出ないように意識していた。
みながフローラを見ている。
みながフローラに目を奪われている。
そんな視線を一斉に受けていたフローラだが……。
彼女はため息を吐きたい気分だった!
――はあ……パーティなんて休みたかったのに。マシューのやつめ。余計なことをしやがって。
それは例えるなら……。
台風で学校が休みになると喜んだのも束の間。
台風の進路が逸れて普段通りに授業が行われることになっときの小学生のような気分だ。
――なんか途中で参加したせいで人の目を集めてるんだけど? 目立ちたくないんだよなぁ。
フローラの鬱々とした表情も、他の人から見れば憂いの美少女に見えてしまう。
会場の者たちはフローラマジックにかかっていた!
特に貴族子弟の反応が劇的だった。
彼らはゴテゴテに飾られた貴族子女を見飽きていた。
横長の歩きにくそうなスカートや、装飾品をふんだんに使ったドレスは、男からの受けが良くない。
それと比べてフローラの素朴な服装は貴族子弟の心をぎゅっと鷲掴みにしていた。
もちろん、フローラの登場を快く思わない生徒もいる。
主に身分の高い貴族子女だ。
あんなドレスを受け入れられない。
と、拒否反応が出る生徒もいた。
しかしエリザベスが好意的な反応をみせたことで、否定的な意見を述べる貴族子女はいなかった。
好意的な視線が8割、否定的な視線が1割、どちらでもない視線が1割。
良くも悪くもフローラは注目を浴びていたのだ。
大勢の視線に晒されながらノーマンとフローラはハリーのもとまで行く。
「遅くなり申し訳ありません」
とフローラが深々と頭を下げて告げる。
「事情は聞いている。問題ない」
ハリーは鷹揚に頷いた。
続いて彼は言う。
「まだパーティは始まったばかりだ。存分に楽しんでくれ」
フローラは顔を上げて静かに頷いた。
こうしてダンスパーティが幕を開けた。
◇ ◇ ◇
フローラ・メイ・フォーブズはファッションリーダーとしても有名である。
凝ったデザインのドレスが主流だった時代に、体に密着したシンプルなドレスを流行らせたという。
ファッションの歴史を学ぶ者で、フローラを知らない人物はいないだろう。
また彼女はマーケティングの視点を持っていたとも言われている。
敢えて学生パーティで新ドレスを披露したのは型破りなドレスが認められやすい場であるからだ。
見事フローラの狙いは功を奏し、そして徐々に彼女が披露したドレスは貴族社会に浸透していくことになった。
余談だが、歴史家の中にはフローラの意図は他にあったと言う者もいる。
フローラは革命を起こさせないために従来のドレスを否定した、という説だ。
当時の平民は貴族の無駄遣いに対して嫌悪感を抱いていた。
その怒りが爆発して革命になっていただろう。
と、唱える歴史家もいる。
もちろん、そう考えるのは一部の歴史家だけある。
しかし、フローラの行いによって平民の貴族に対する反発心が和らいだのは、紛れもない事実だ。
かの偉人フローラ・メイ・フォーブズがどこまで想定していたかは本人にしかわからないことだ。
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