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わたし、魔法少女には自分の意志でなったんです(それが同じことだったとしてもです)

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 わたしが魔法少女になったわけ。
 わたしが魔法少女になれたわけ。
 それはわたしの意志でもって選んだからってわけじゃなく。
 そこにわたしの意志をこめて決めたからってわけでもなく。
 、わたしを魔法少女にさせたのでした。
 そしてその他人とは、何とわたしのお母さんなのでした。
 それって他人じゃないじゃん。
 でも、たしかにびっくりだね。
 お母さんがわたしを、魔法少女にしてくれるなんて。 
 そんなことまでしてくれるなんて、
 だから、ホントに。

 そのわたしの言葉を聞いて、緑の目が何も言えずに固まった。
 そこに、でも見たように。
 そこで、でも聞いたように。
 これはまた、本当に珍しいこともあるもんだ。
 とういうか初めてだ。
 こんなふうになった緑の目を見るなんて。
 何がおかしかったんだろうか?
 何かおかしなことでもあったんだろうか?
 ここにいるのは変わらずわたしのままで。
 何も変なことなんて言ってないのに。
 そうして固まっていた緑の目が、絞り出すように言葉を発する。
 ギリギリと、錆びついたような声で。
「……キミは、ふたつ、
 わたしが間違ってる? ふたつも? 何を?
「わたしの、何と何が、間違ってるの?」
「キミが本能で演算した解釈と、キミの本質が導いた解答が、だよ」
 はあ、わたしの解釈と解答が、と言われても。
 
 だからわたしは思ったことをそのまま返した。
「別に何もおかしくないよ、普通だよ」
 むしろおかしいのはあんたのほうだよ。
 
「ああ、そうか。やっぱりキミは
 それ、前にも似たようなこと言ったよね。
 でも似てるってことは
 いまはあのときと違って、とっても寂しそうだよ。
 とっても、悲しそうだよ。
「キミは魔法少女にされたんだよ」
「うん、そうみたいだね」
「キミの母親にそうされたんだよ」
「うん、わかってるよ」
「これまでの全てが、、キミは戦うことになったんだよ」
「うん、そうしたよ」
「キミのことなんて関係なく、これからの全てが、死ぬかもしれないんだよ」
「うん、そういこともあるかもね」
「なら、それなのに、なんでそんなに、
 そんなこと言われても。
 だって、
 だから、それで変わることなんて何もない。
 それよりも、何で
 何でそんなに、辛そうなの?
 それじゃあまるで、自分が悪いみたいだよ。
 わたしに、罰してほしいみたいだよ。
 あんたに罪なんて、何もないのに。
「だって、同じことだもん」
「同じこと?」
 何の嫌味も皮肉もなく、ただオウム返しにわたしの言葉に答えてくる。
 これも初めて見る緑の目の姿だった。
 何だかさっきから、緑の目の初めてをいっぱい知るなあ。
「最初からひとに決められてたって、初まる前からそうさせられるって決まってたって、わたしは同じことをした。そのことを全部位知ってても、必ずわたしは同じことをする。何回だろうとわたしの選択は変わらない。何回やってもわたしの決意は揺るがない。どれだけ迷って躊躇しても、何度でも同じ覚悟をもって、何度でも同じ確信を刻んで、わたしはわたしの意志で、魔法少女に
 そして何度でも、同じことをやるんだから。
 同じように何度でも、楽しく殺して愉しんじゃうんだから。
「だから、同じことだよ。。それに結果が同じなら、。そこにある、自分の意志さえ忘れなければ。そしてそこまでの、自分の意志を信じていれば」
 そうすれば、光は必ず見えるはず。
 あとはその光を、手に入れるまで進むだけ。
「だから、わたしの想いは。ふたつだけじゃくね」
「キミは……」
 そう言って緑の目が口ごもる。
 ホント、今日は初めてのバーゲンセールだね。
 わたしと仲良くなりたいからわたしのことを知りたいと、この緑の目は言った。
 それじゃあわたしが緑の目のことをもっと知れば、仲良くなれるんだろうか。
 お互いに仲良くなっていけるんだろうか。
 そのために、本当は何て言おうとしたのか、このとき知るべきだったんだろうか。
「あのときに、わたしに魔法少女の資格があるって言ったよね」
「それは確かにそう言ったよ」
 わたしの願いを叶えられるって言ったのはあんただよ。
「あのときを、何とかできるちからがわたしにあるって言ったよね」
「それも確かにそう言ったよ」
 わたしの望みを果たすことが出来るって言ったのもあんただよ
 だったら。
「だったら、もう。そんなに自分で自分を責めないで。それじゃあ
「もし、そうだとしたら?」
「えっ」
「魔法少女になることが、魔法少女にされてしまうとが、最悪の手段だしたら?」
「ねえ、それって」
「魔法少女になるには代償が、いや、、最低の代価だとしたら?」
「どういうこと?」
「さっきボクが言った通りだよ。キミは他人の願いのせいで魔法少女にされ、他人の都合のせいで魔法少女で在り続けなければならない。その願いの代価を払い切るまで終わることができない。死んでも何があっても絶対に、ね」
 もっとわかりやすく言ってほしいんだけど、えーと、ということは。
「自分じゃ魔法少女をやめられないってこと?」
「そういうことだよ。そして自分では始めることもできない。さっきキミが言った、魔法少女の資格と力もそうだよ。それは他人が願いを叶えたために課せられた義務を、遂行するためのものにすぎない。ここまで言えば、もう解るよね?」
 そこまで言われればいくらわたしでも何となくわかる。
 わたしに自分で、わかってもらいたがってるのが。
 要はあれでしょ、魔法少女っていうのは。
「そう。魔法少女っていうのは、他人の都合でその存在と可能性の全てを捧げらた生贄。他人が願いを叶えるために代償にされ、その願いを叶え続けるための代価を払い続ける徒花。本人の意志を踏みにじった他人の都合の結実。それがの正体だよ」
 ああ、そうなんだ。
 それが、魔法少女なんだ。
 わたしが、モノなんだ。
 でも。
「それでもキミは、さっきと変わらず同じことが言えるのかい?」
「言えるよ」
 こうやって即答できるくらいに。
 魔法少女がどんなモノか、よくわかったよ。
 でも、
 いま大事なことはそんなことじゃない。
 いま大事なこと。それは。
「他人の都合なんて関係ない。わたしはわたしの意志で魔法少女になったんだ。そしてそれはとっても嬉しいことだよ。だってわたしは、
 それを聞いた緑の目は大きくため息をついたみたいだった。
 そんなことすると幸せが逃げちゃうのに。
「そうか。キミはそう
「そうだよ。何度でも変わらず同じことがね」
「だから、あんたにひとつだけ訊きたいことがあるんだけど」
「なんだい?」
 そう応える緑の目の声は優しかった。
 でもそれは疲れ切って諦めきったすえに、という消去法の優しさだった。
 それでも全然構わない。
の願いは叶ったの?」
 そう訊かれた緑の目は一瞬意外そうに瞬きしたあと、それでもすぐに答えてくれた。
「キミ自身が何よりの証明で、どんなものより保証だよ」
 そっか、それなら。

 そうして、わたしはこころの底から思ったことを、言葉にすることができたのだった。
 



 ――何度でも変わらず同じこと。
 そう口にしたときから、わたしの行き着く果ては決まっていたのかもしれない。
 行き着いたその果てで、ずっとひとりで終り続けていくことが。
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