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インテルメッツォ-44 赤/朱
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「お前のものになった覚はない、などと抗言するのは最早無粋というものか。お前を違えることなどありえないと自負しているが、こうも難なく正鵠を射ることになろうとはな。少々予想と期待を裏切られたが、まあ良い。所詮は俺にしか関わりのない些事に過ぎん」
そこで不承不承の体ながらも、了承したようにひとつ頷いた。
少女の語った端末、それがもたした結果に心からの満足を示して見せた。
「だが、あ奴らにはそうではるまい。故に、それこそがあの連中には相応しい。その程度の因を以てひとに殺され、己の死を以て果と為す。そうして死して尚、己を殺したひとに遣われ続けるのだ。あの連中にとって、これ以上の本望があろうはずがないだろう。必ずや、草葉の陰で感涙の涙を滂沱と流しているに違いあるまい。あ奴らの最期を幕引くに、それ以下の理由など必要あるまい。そのような軽々たる他愛のなさに絡め取られて天へと還ったのだ。その魂は無窮永劫、浮かばれることはあるまいて」
魔王は口の端を歪めたまま愉快げに、脆弱であった神へと労いと称賛の言葉を向ける。
ひとの為の貴重な資源と成れたのだ。
それは何よりも素晴らしいことだと言うように。
少女の為してしまったその成果。
殺され死して遣われる、終わりなき神の終わりを心底から嘲笑いながら。
「ああ、それは違いますねぇ。あなたはひとつ思い違いをしてらっしゃいますようぉ。ですが後学の為に、その点は訂正して差し上げましょう」
先程の意趣返しや気慰みなどとは、少女の心には欠片も浮かんではいないだろう。
しかし意識の何処かにl残っていたか、あるいは全くの無意識か、奇しくもふたりの言葉は重なった。
「最初から、あれらに浮かぶ瀬などありはしませんよぉ。首と身体が二つに別れて漸く、地に足を着けることが出来たのですからぁ。そうして自分は見下ろすばかりだと思い込んでいた愚かな頭は、そこで初めて自身の頭上にも世界は広がっていることを知ったのですよぉ。まあ、若干遅きに失っした感はありますがぁ。それでも最後の最期に己の見識を深めることが出来たのですから、あれも内心では喜んでいたことでしょう。今際の際に何やらくっちゃべってましたが、それもわたしへの感謝の言葉に違いありません。何分汚らしくも血を吐きながらの言葉だったのでよく聞き取れはしませんでしたが、きっと間違いないでしょう。だってあの顔は、今でも思い出せるくらいには傑作でしたからねぇ」
そう言って実際にその顔を思い出してでもいるのか、少女は目を細めてくすくすと嘲笑いを溢す。
「ほう、お前がそこまで言うのだから、さぞや面白い見せ物だったのであろうな。機会があれば、俺も一目拝んでみるとしようか」
魔王が示した関心に、少女はすかさず応えを返した。
「そうですねぇ。機会さえあれば、何時でもご覧に入れて差し上げますよぉ。老婆心ながら、そのときは嘲笑いを堪える覚悟と準備をしておいてくださいねぇ。他の方のご迷惑になりますからぁ。全く耐えきれなかったわたしが、あなたにご忠告申し上げるのも大変心苦しいのですがぁ。失敗してしまった経験を少しでもあなたの糧として頂きたいというわたしの細やかなお節介だとでも思って、どうかここはご容赦くださいねぇ」
「そうだな、有り難く頂戴するとしよう。して、身体の行方は掴めたが、件の頭はどうしたのだ? 真逆、その身の何処かに括り付けておるのではあるまいな?」
魔王は訝しむように少女に向かって問い掛ける。
「まぁさかぁ。そんなみっともない真似、出来る訳がないじゃないですかぁ。あんなものその場で潰しましたよ。だって、わたしには必要ありませんでしたから」
それがどうかしたのかと言わんばかりの、この少女らしい気楽な口振り。
それは、まるで虫でも踏み砕いたかのように。
だがそれは少女にとって、その二つは変わらず同じものなのだ。
そしてその区別など、初めからつけていないのだった。
「知ってましたかぁ? あれって、あんなのでも流す血の色は赤いのですよぉ」
「ああ、知っているさ」
男は、確信を込めて少女の問いに応えを告げる。
「血の色ならば、この世の全てはとうに見た」
そこで不承不承の体ながらも、了承したようにひとつ頷いた。
少女の語った端末、それがもたした結果に心からの満足を示して見せた。
「だが、あ奴らにはそうではるまい。故に、それこそがあの連中には相応しい。その程度の因を以てひとに殺され、己の死を以て果と為す。そうして死して尚、己を殺したひとに遣われ続けるのだ。あの連中にとって、これ以上の本望があろうはずがないだろう。必ずや、草葉の陰で感涙の涙を滂沱と流しているに違いあるまい。あ奴らの最期を幕引くに、それ以下の理由など必要あるまい。そのような軽々たる他愛のなさに絡め取られて天へと還ったのだ。その魂は無窮永劫、浮かばれることはあるまいて」
魔王は口の端を歪めたまま愉快げに、脆弱であった神へと労いと称賛の言葉を向ける。
ひとの為の貴重な資源と成れたのだ。
それは何よりも素晴らしいことだと言うように。
少女の為してしまったその成果。
殺され死して遣われる、終わりなき神の終わりを心底から嘲笑いながら。
「ああ、それは違いますねぇ。あなたはひとつ思い違いをしてらっしゃいますようぉ。ですが後学の為に、その点は訂正して差し上げましょう」
先程の意趣返しや気慰みなどとは、少女の心には欠片も浮かんではいないだろう。
しかし意識の何処かにl残っていたか、あるいは全くの無意識か、奇しくもふたりの言葉は重なった。
「最初から、あれらに浮かぶ瀬などありはしませんよぉ。首と身体が二つに別れて漸く、地に足を着けることが出来たのですからぁ。そうして自分は見下ろすばかりだと思い込んでいた愚かな頭は、そこで初めて自身の頭上にも世界は広がっていることを知ったのですよぉ。まあ、若干遅きに失っした感はありますがぁ。それでも最後の最期に己の見識を深めることが出来たのですから、あれも内心では喜んでいたことでしょう。今際の際に何やらくっちゃべってましたが、それもわたしへの感謝の言葉に違いありません。何分汚らしくも血を吐きながらの言葉だったのでよく聞き取れはしませんでしたが、きっと間違いないでしょう。だってあの顔は、今でも思い出せるくらいには傑作でしたからねぇ」
そう言って実際にその顔を思い出してでもいるのか、少女は目を細めてくすくすと嘲笑いを溢す。
「ほう、お前がそこまで言うのだから、さぞや面白い見せ物だったのであろうな。機会があれば、俺も一目拝んでみるとしようか」
魔王が示した関心に、少女はすかさず応えを返した。
「そうですねぇ。機会さえあれば、何時でもご覧に入れて差し上げますよぉ。老婆心ながら、そのときは嘲笑いを堪える覚悟と準備をしておいてくださいねぇ。他の方のご迷惑になりますからぁ。全く耐えきれなかったわたしが、あなたにご忠告申し上げるのも大変心苦しいのですがぁ。失敗してしまった経験を少しでもあなたの糧として頂きたいというわたしの細やかなお節介だとでも思って、どうかここはご容赦くださいねぇ」
「そうだな、有り難く頂戴するとしよう。して、身体の行方は掴めたが、件の頭はどうしたのだ? 真逆、その身の何処かに括り付けておるのではあるまいな?」
魔王は訝しむように少女に向かって問い掛ける。
「まぁさかぁ。そんなみっともない真似、出来る訳がないじゃないですかぁ。あんなものその場で潰しましたよ。だって、わたしには必要ありませんでしたから」
それがどうかしたのかと言わんばかりの、この少女らしい気楽な口振り。
それは、まるで虫でも踏み砕いたかのように。
だがそれは少女にとって、その二つは変わらず同じものなのだ。
そしてその区別など、初めからつけていないのだった。
「知ってましたかぁ? あれって、あんなのでも流す血の色は赤いのですよぉ」
「ああ、知っているさ」
男は、確信を込めて少女の問いに応えを告げる。
「血の色ならば、この世の全てはとうに見た」
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