21 / 46
インテルメッツォ-21 内心/亡心
しおりを挟む
「そう。そうですか。そうなのですね」
ぽつりぽつりと、溢れ落ちるように少女は一言ずつ言葉を紡ぐ。
それは軋むような音に似て、心の殻が剥がれ落ちていくような呟きだった。
そこに覗くは、底無しの虚無。
「それが、あなたの決められた選択なのですね」
男の言葉が、少女には意味が解らない。
どうして男が、報われないと解っていながら歩み進み続けることを選んだのか。
「それが、あなたが選ばれた決断なのですね」
男の気持ちが、少女には理解出来ない。
どうして男は、唯一人残されながらそれでも一人で生きてゆくことを決めたのか。
「本当にそれが、あなたがわたしに対するお応えなのですか」
そしてこれだけは、少女にとっては不可能だ。
これでは、何の為に自分を最優先して二の次にまでしたのか分からない。
何故男は、自分が折角用意した結末を享受しようとしないのか。
こうなっては、手間を掛けてまで男に最低限でも配慮した理由が消える。
それでも男にとって、あれが最適なことに間違いはないはずなのに。
これこそが、男にとって、最も正しい選択肢のはずなのに。
それこそが、男にとって最も善い決断のはずなのに。
その為に、わざわざ二つも新しい道を示してあげた。
自分にとって望んだ最高の結末と。
男にとって最も適当な最適を。
何よりも、その選択を男に選らせてあげた。
その決断を、男に決めさせてあげた。
なのに、何故。
どこまでも頑なに、自分の言葉ばかりを拒むのか。
どうして自分以外の誰かの道を、そう安易に採ってしまうのか。
少女には、到底納得することは不可能だった。
それも、あんな姿になってまで。
かつての姿を知る者ならば、今の男に何を見るのか。
少女にとってそれは、あまりに惨めで痛ましくて見ていられない。
あんな姿に至るまで、男は如何なる道を辿ってきたのか。
少女は、哀切と痛切を伴って想わずにはいられない。
故に、少女はその全てを憎悪する。
男にそこまでさせた者達、その全てを嫌悪する。
しかしだからこそ辿り着き得たひとつの結果、その唯ひとつだけの成果を除いて。
だが、少女が存在を許可する事実はただそれのみ。
それ以外の無駄で無価値な有象無象は、十把一絡げに廃棄する。
男が何と想っていようと、少女はそんなことを考慮しない。
男が何を信じてようと、そんなことは少女には関係ない。
少女は、その全てを跡形もなく消し去ってしまいたいのだから。
男の今迄進んできた道程、これまで歩んできた軌跡。
自分と袂を分かってから彷徨い続け、遺してきた足跡の全てを。
何故ならそれは、他人の為に進むしかなかった道だから。
他人に歩かされた道に過ぎないからだ。
自分が歩むべきと信じた道が、ただ後ろを付いてくる誰かの道を切り拓く為でしかなかった。
自分が進まなければと想った道が、誰かが踏むための道を舗装しているだけだった。
そんなことは許せなかった。
そんな誰かも解らぬ烏合の衆を理由に自分を受け容れないなどと。
そんなことを、少女が許せるはずがない。
ならば、少女が採るべき道は唯ひとつ。
「そこまであなたが仰るのでしたら、あなたにそこまで言わせた無駄で無価値な塵芥のその全て。あなたが縋り寄る辺とする脆弱な繋がりのその全て。わたしが綺麗に断ち切って、何もかも失くして差し上げます」
ぽつりぽつりと、溢れ落ちるように少女は一言ずつ言葉を紡ぐ。
それは軋むような音に似て、心の殻が剥がれ落ちていくような呟きだった。
そこに覗くは、底無しの虚無。
「それが、あなたの決められた選択なのですね」
男の言葉が、少女には意味が解らない。
どうして男が、報われないと解っていながら歩み進み続けることを選んだのか。
「それが、あなたが選ばれた決断なのですね」
男の気持ちが、少女には理解出来ない。
どうして男は、唯一人残されながらそれでも一人で生きてゆくことを決めたのか。
「本当にそれが、あなたがわたしに対するお応えなのですか」
そしてこれだけは、少女にとっては不可能だ。
これでは、何の為に自分を最優先して二の次にまでしたのか分からない。
何故男は、自分が折角用意した結末を享受しようとしないのか。
こうなっては、手間を掛けてまで男に最低限でも配慮した理由が消える。
それでも男にとって、あれが最適なことに間違いはないはずなのに。
これこそが、男にとって、最も正しい選択肢のはずなのに。
それこそが、男にとって最も善い決断のはずなのに。
その為に、わざわざ二つも新しい道を示してあげた。
自分にとって望んだ最高の結末と。
男にとって最も適当な最適を。
何よりも、その選択を男に選らせてあげた。
その決断を、男に決めさせてあげた。
なのに、何故。
どこまでも頑なに、自分の言葉ばかりを拒むのか。
どうして自分以外の誰かの道を、そう安易に採ってしまうのか。
少女には、到底納得することは不可能だった。
それも、あんな姿になってまで。
かつての姿を知る者ならば、今の男に何を見るのか。
少女にとってそれは、あまりに惨めで痛ましくて見ていられない。
あんな姿に至るまで、男は如何なる道を辿ってきたのか。
少女は、哀切と痛切を伴って想わずにはいられない。
故に、少女はその全てを憎悪する。
男にそこまでさせた者達、その全てを嫌悪する。
しかしだからこそ辿り着き得たひとつの結果、その唯ひとつだけの成果を除いて。
だが、少女が存在を許可する事実はただそれのみ。
それ以外の無駄で無価値な有象無象は、十把一絡げに廃棄する。
男が何と想っていようと、少女はそんなことを考慮しない。
男が何を信じてようと、そんなことは少女には関係ない。
少女は、その全てを跡形もなく消し去ってしまいたいのだから。
男の今迄進んできた道程、これまで歩んできた軌跡。
自分と袂を分かってから彷徨い続け、遺してきた足跡の全てを。
何故ならそれは、他人の為に進むしかなかった道だから。
他人に歩かされた道に過ぎないからだ。
自分が歩むべきと信じた道が、ただ後ろを付いてくる誰かの道を切り拓く為でしかなかった。
自分が進まなければと想った道が、誰かが踏むための道を舗装しているだけだった。
そんなことは許せなかった。
そんな誰かも解らぬ烏合の衆を理由に自分を受け容れないなどと。
そんなことを、少女が許せるはずがない。
ならば、少女が採るべき道は唯ひとつ。
「そこまであなたが仰るのでしたら、あなたにそこまで言わせた無駄で無価値な塵芥のその全て。あなたが縋り寄る辺とする脆弱な繋がりのその全て。わたしが綺麗に断ち切って、何もかも失くして差し上げます」
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
性的に襲われそうだったので、男であることを隠していたのに、女性の本能か男であることがバレたんですが。
狼狼3
ファンタジー
男女比1:1000という男が極端に少ない魔物や魔法のある異世界に、彼は転生してしまう。
街中を歩くのは女性、女性、女性、女性。街中を歩く男は滅多に居ない。森へ冒険に行こうとしても、襲われるのは魔物ではなく女性。女性は男が居ないか、いつも目を光らせている。
彼はそんな世界な為、男であることを隠して女として生きる。(フラグ)
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
【完結】私だけが知らない
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
御機嫌ようそしてさようなら ~王太子妃の選んだ最悪の結末
Hinaki
恋愛
令嬢の名はエリザベス。
生まれた瞬間より両親達が創る公爵邸と言う名の箱庭の中で生きていた。
全てがその箱庭の中でなされ、そして彼女は箱庭より外へは出される事はなかった。
ただ一つ月に一度彼女を訪ねる5歳年上の少年を除いては……。
時は流れエリザベスが15歳の乙女へと成長し未来の王太子妃として半年後の結婚を控えたある日に彼女を包み込んでいた世界は崩壊していく。
ゆるふわ設定の短編です。
完結済みなので予約投稿しています。
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる