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第14話 魔法少女再び

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マジョール王国の王都タランガ。
その周辺には天然の薬草が生えている森や草原がある。そのため駆け出しの冒険者が採集に向かうことが多いのだが、あまり遠方に行き過ぎると危険の度合いが上がるので注意が必要だ。

魔法の研究に熱心なラシャンスも、そうした森や草原に出かけることがある。
そして、出かける際には15歳の姿になることが多かった。これは余計な犯罪に巻き込まれるのをできる限り防ぐためと、回復薬の効果を調べるための、2つの目的があった。前者については目的を達成していたし、後者に関してもいろいろなデータを集めることに成功していた。

「ある程度魔法を使った方が、時間が長くなるってのは興味深いなあ」
ラシャンスがつぶやく。

回復薬を飲んで15歳になる。その時に何もしない場合より、多少魔法を使った方が15歳になったままの姿を長めに維持できた。ただし魔法を使いすぎると、いきなり7歳のレトワール・シフォナードの姿になってしまうので、十分に注意が必要だ。

「どうしてそんな効果を付与したんでしょうか?」
ピョコンと顔を出したメリナがラシャンスも感じた疑問を口にする。
「その効果の程も分かれば、回復薬の改良に役立つかも」

こちらはラシャンスの願望。
と言うのは、ラシャンスが熱心に取り組んだにも関わらず、変身魔法や回復薬の究明は進んでいなかったからだ。
改めて魔法書を解読し直したうえで、魔法陣を描き直したり素材を加減したり調合を工夫したりと、いろいろ試したものの、一進一退の状況が続いていた。

「さてと…」
今日、ラシャンスがお出かける目的は、ポーションとなる素材の採集。
どちらかと言えば、ラシャンス自身が気分転換する目的が強めながら、「ポーション作りは天然素材で新鮮さが重要!」と信じているラシャンスにとっては、森に入って素材を自分で採集するのも大事だった。

「あった、あった!」
お目当ての薬草は簡単に見つかった。薬草の群生地をいくつも知っているラシャンスには難しい作業でなかったが、時折、他の採集者が先行していることもあるため、油断はできない。

「まあ、森はみんなのものだしねー♪」
そんなことを即興で歌にしてつぶやきつつ、採集した薬草を片っ端からローブのポケットに収納していった。できるだけたくさんの薬草を確保したかったが、あまり一カ所で採集しすぎると、群生地を台無しにしてしまうことになる。
「取りすぎないようにー♪加減は難しいねー♪…って、あれ?」

薬草の採集を終えてひと息ついていたラシャンスは、遠くから悲鳴のような叫び声があがったのを聞いた。
「こっちかな?」
木々や草をかき分けて悲鳴のする方へと走る。同時に気配を感知する魔法を使うと、何人かの人間が魔物に襲われていることが分かった。

「見つけた!」
男が3人、女が2人、合わせて5人の冒険者らしき人達が、巨大な黒い熊に襲われていた。ただし熊には前足が4本あり、顔が2つもついていた。
「魔獣か…」
魔獣で気を付けないといけないのは、普通の獣と勘違いすること。今回も普通の熊なら並みの冒険者でも退治できるのだが、魔獣となればベテランの冒険者でなくては手に負えないだろう。

5人の冒険者のうち、既に2人は負傷している。かろうじて無事な3人が負傷者の2人をかばいつつ撤退しようとしているものの、魔獣の追撃はそれを許さなかった。

「もっと集まって!」

そんな5人の冒険者に、どこからか少女の声が聞こえた。
5人が辺りを見回すと、近くの木の上に仮面を被った少女が立っていた。

5人は仮面の少女が言ったことに納得したわけではなかったものの、何となく身を寄せた5人に防御の魔法がかけられる。間一髪、そこに魔獣の一撃が加えられたが、少女がかけた防御魔法のおかげで、5人は傷ひとつ負わなかった。

「あとは任せて!」
木から飛び降りた仮面の少女は、暴れ狂う魔獣に向き合う。
「おい!危ないぞ!」
冒険者が叫ぶが、仮面の少女は何事もないように立っている。そんな少女に魔獣の太い4本の腕が降り降ろされたが、ここでも既に防御魔法を用意していたようで、少女はびくともしなかった。
「こんな手ごたえのある相手は久しぶりかな?」
何度も魔獣の腕が襲ってくるが、仮面の少女はその場に立ったまま、腕組みを続けていた。

「ご主人様、あまり魔法を使うと…」
「平気、平気、このくらいは十分に耐えられるから」

ラシャンスも無計画に魔獣の攻撃を受けているわけではない。これまでの経験から、この程度の魔獣の攻撃であれば、どのくらい受けていられるかを十分に計算していた。
「でも、そろそろ攻撃してみようかしら」
防御魔法を解いたラシャンスが人差し指を2度振る。途端に魔獣から2本の腕が落ちた。
ラシャンスの実力を悟った魔獣は、ここから逃げるか、このまま襲い続けるかを迷ったようだが、そんな迷いを見透かしたかのように、ラシャンスはもう1回人差し指を振った。

グオーッ!

魔獣は大きな悲鳴を上げた後、太い首を落とした。やや時間をおいて、首を無くした胴体が転がった。

「大丈夫?」
魔獣を倒した仮面の少女は5人の冒険者に近づく。
彼らにとって仮面の少女は命の恩人のはずだったが、仮面を被ったままで魔獣と戦った少女があまりにも不気味すぎた。
「お前、何者だ?」
冒険者の1人が剣をかざした。
「何者って言われても、まあ、命の恩人だと思うけど…」
からかうように答える。

ラシャンスにすれば、この程度の剣を突き立てられても、怪我ひとつしないのは分かっている。それと同時に自分が不審に思われていることも自覚していた。

「待て!」
負傷した冒険者が、剣をかざした冒険者を止める。
どうやらその男がリーダーらしい。
「あなたは…ローズマスクですか?」
聞かれた仮面の少女が戸惑う。
「そうですよね。祭りの時に騒動を止めた。あの場所に俺もいたんですよ」
仮面の少女は何も言わずにうなずいた。
それを見た冒険者は、いまだに剣をかざしたままの仲間をとがめる。
「俺達を助けてくれたんだ!恩人に失礼なことは止めろ!」
「あ、ああ」
剣を収めた冒険者は、仮面の少女に向かって頭を下げた。
「申し訳ない。いや、ありがとう、か」
仮面の少女は「いえ」とうなずくと、「ポーションはあるの?」と尋ねる。
「ああ、持ってる」
冒険者は荷物からポーションを取り出すと、負傷した仲間に飲ませた。十分に回復したところで、もう一度「ありがとう」とお礼を言った。
「今日はもう帰ることにするよ」
冒険者の言葉を聞いた仮面の少女は「ええ」と了承した。しかし次の言葉は冒険者達を驚かせた。
「魔獣はあなた達に任せる。好きに処分して」

これだけの魔獣となれば、皮や肉を捨て値でたたき売っても、そこそこのお金に換えることができる。つまり冒険者にとっては十分な収入だ。
「良いのですか?」
仮面の少女はうなずくと、木立の間に姿を消した。

木々の間を走るラシャンス。いつの間にか仮面を外していた。
そんなラシャンスにメリナが話しかける。
「ご主人様、どうして仮面を持ってたんですか?」
メリナの口調は明らかに不満そうだ。
「何か使うチャンスがあるかなって」
ラシャンスがニヤッと笑う。
「ねえ、ローズマスクだって」
ニャニヤ顔をするラシャンスの一方、メリナは不満を隠さない。
「隠れて魔獣を攻撃すれば良かったですよね。わざわざ姿を現さなくっても」
「なんか…さ、やってみたかったのよ」

王都に戻った5人の冒険者により魔法少女ローズマスクの活躍が話題になった。噂話は冒険者ギルドを起点にあっという間に広まっていく。冒険者の中にはローズマスクの存在を疑う者達もいたが、5人の冒険者が持って帰った魔獣の皮や肉がスッパリ切られた部分を見ると、相当な力量を持った魔法使いであることが伺えたため、渋々納得するよりなかった。
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