クロと鈴香の将棋道-カラスが駒を見つけたら-

県田 星

文字の大きさ
上 下
34 / 41

第33話 カラスと対局するのを約束したら

しおりを挟む
月に2回開催される研修会が終わり、鈴香と歩美が満面の笑みで将棋会館を出てくる。
「よ・ん・れ・ん・し・ょー(4連勝)♪」と鈴香。
「4連勝ー♪」と歩美。
ともすれば付き添いで来ている母親達が置いてきがちになるくらいに、2人の足どりは軽やか。
「何だかねー、クロの将棋の勢いが私にも乗り移ったみたい」
「実は…私もそうなんだ」
鈴香の言葉に、歩美も笑顔で応える。
「強い人…って言うかカラスだけど、将棋って、そばで見てるだけでも勉強になるんだよね」
「そうそう」

2人の後方では、互いの母親が「いつもお世話になって…」「こちらこそ仲良くしていただいて…」なんて話をしている。

「本山先生との2枚落ちも完勝だった!」
「ああ、あれかー。終盤だけ見ることができたけど、手数もそんなになかったよね」

研修会の対局では会員となった子供同士で対戦するとともに、棋士や女流棋士、奨励会員らと対局することもある。もちろんハンデ無しでは厳しいので、研修会の上位であれば大駒落ちくらいで、下位になると2枚落ちや4枚落ちのハンデを付けた形となる。その勝敗は会員である子供同士の対局と同じ様に昇降級に関係してくるとともに、一般的な駒落ちの指導対局以上に上手となった棋士の側が厳しい手で迫ってくる。

今日の対局では、鈴香の4局目が本山六段との2枚落ちだった。

「うーん……」
ちょっと空を見上げた鈴香は4局目の将棋を思い出す。
「………っと、86手」
思い出して手数を答えたらしい鈴香に対して、歩美が少しびっくりしたような顔をした。
「ふーん、駒落ちに強くなったのも、クロのおかげ?」
「多分、そうだと思う。最近、クロとは2枚落ちで指してることが多いし」
「そっか…」
歩美は「ねえ」と鈴香に話しかける。
「またクロと指せないかな?」
「じゃあ、じいちゃん家にくる?」
「良いの?」
「ちょっと待っててね」
鈴香が母親のところに走って行く。
歩美もその後を追った。

「もう今日は遅いし…」
「来週の土曜か日曜なら…」
「聞いてみるから…」

この後すぐの訪問では時間が遅くなりがちなため、2人の母親が同意することはなかったものの、「来週の土日なら大丈夫かも」と鈴香の母から父、つまり馬場に電話して尋ねることにした。
「じゃあ、お姉ちゃんも良い?この前、クロと指したいって言ってたし」
そう歩美が言うと、「聞いてみるね」と鈴香の母親がスマートフォンを取り出した。

「あ、お父さん、うん…うん…実は、鈴香と歩美ちゃんがね…なの。大丈夫?そう…ありがと」

スマートフォンで話しつつ、鈴香の母が右手でOKサインを作る。
鈴香と歩美の顔が明るくなった。
菱子りょうこちゃんとは、いつぶりかなあ」
「うーん、最近は朝草将棋クラブじゃなくて、研究会に行ってるからねえ」

歩美の姉である菱子りょうこは中学1年生。
歩美とともに棋士である岸村和良九段の弟子であり、現在は奨励会の3級に所属している。
今の歩美や鈴香のように、菱子も子供の頃はよく朝草将棋クラブに通っていたが、奨励会に入会してからは岸村九段を始めとした棋士や奨励会員同士の研究会に参加することが増えた。そのため、朝草将棋クラブに顔を出すことは少なくなっていた。

「でも、クロと指したいって言ってたのはホントだから、来週は一緒に行くね!」
「うん!」
その後も鈴香と歩美の将棋話が続いた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

体育座りでスカートを汚してしまったあの日々

yoshieeesan
現代文学
学生時代にやたらとさせられた体育座りですが、女性からすると服が汚れた嫌な思い出が多いです。そういった短編小説を書いていきます。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

〈社会人百合〉アキとハル

みなはらつかさ
恋愛
 女の子拾いました――。  ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?  主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。  しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……? 絵:Novel AI

百合ハーレムが大好きです!〜全ルート攻略開始〜

M・A・J・O
大衆娯楽
【大衆娯楽小説ランキング、最高第7位達成!】 黒髪赤目の、女の子に囲まれたい願望を持つ朱美。 そんな彼女には、美少女の妹、美少女の幼なじみ、美少女の先輩、美少女のクラスメイトがいた。 そんな美少女な彼女たちは、朱美のことが好きらしく――? 「私は“百合ハーレム”が好きなのぉぉぉぉぉぉ!!」 誰か一人に絞りこめなかった朱美は、彼女たちから逃げ出した。 …… ここから朱美の全ルート攻略が始まる! ・表紙絵はTwitterのフォロワー様より。

処理中です...