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第一章

第四話・御嬢様の汚部屋

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「まぁ何にしてもダメなものは駄目。負けたなら大人しくここから出て行くように」
「ま、まってつかぁさい! 私の……アタイの話を聞いてクレメンス!」

 何だか良く分からない。クレメンスさんがどうかしたのだろうかと思っていると身の上話が始まった。
自分はヴァンパイアの王族で家臣の反逆に遭い一族郎党皆殺しにされて逃げて来たらしい。
明らかに嘘くさい身の上話にどう対処していいものかとても迷いながら話が終わるまで聞いてみた。

ちなみに何で嘘くさいかと言うと、ヴァンパイアの王は魔王と同等のレベルだし
その家臣はその血を分け与えられ耐えられた者で、主とは同等のレベルになりえないと言われている。
更に血の呪縛があるので家臣が主を殺害は不可能だとも聞いた。

「どうです?」
「え、ああ大変だね。どうかこの先の旅路に幸多からんことを」

「話聞いてる!?」
「聞いたけどだから何? って感じ。この地上に一個の根を生やし復讐戦を挑めば良かろうもん」

「良くないもん! そんなの無理だもん!」
「じゃあどうすんのさこんなところに閉じこもって」

「そ、それはその……」

 再度沈黙が訪れました。何回沈黙するんだこの話。とは言え嘘くさくはあってもその中に真実も
含まれている気がする。どうしてもここに居なければならない理由が彼女にはあるんだろうな。

自暴自棄になって刹那的な行動をしてしまったけどこうして彼女と渡り合って正気を少し取り戻せた。
このままここを奪ってしまうとアイツらと同じになってしまう。

「分かったよ。君には人に言えない理由があってここに居たいって言うんだね? なら僕は他所を探すよ」

 石壁の魔法ウォールロックを解くと目の前で彼女は膝を着き母猫を探す子猫のような丸い目で
こちらを見上げて居た。そう言えばヴァンパイアは魅了の魔法チャームを自然と有していると聞く。

なるほど僕みたいに愛とか恋とかいまいち分からないのでもこれはちょっと効いてしまう。
何とか堪えねば……。

「そう? でも別にここに一緒に居ても良いわよ?」
「いや別に一緒に住みたい訳じゃ」

「良いじゃない別に旅は道連れ世は情けって言うでしょ?」
「言うかもしれないけど僕は旅には出ないの。引き籠りたいんだよ余生をゆっくり過ごしたいんだ」

「じゃあ別にゆっくり過ごす分には私が居ても問題無いでしょ? さ、下まで案内するわ!」

 全く話を聞いてない。人に話聞いてるのかって言った人間と同じとは思えないな。
僕の手を強引に引いて下まで行こうとするも水浸しで先に進めない。

一旦入口まで戻ってからもう一度津波の魔法タイダルウェーブで洞窟を埋め尽くしてから
轟炎の魔法ステルクフラムを放って水を蒸発させ、疾風の魔法ベンダバール
水蒸気や熱気を全て外に出すべく下まで届くよう強く一発放った。

暫くして竜が口を開けて息を吐くような風が洞窟の奥から飛んで来たのを確認してから
中へと再度戻る。

「変な臭いが消えてる」
「汚れも全部一回水浸しにした後炎で蒸発させて水蒸気とか熱気と一緒に外に出したから大丈夫でしょ。と言うか入り口付近とかどうする予定?」

 僕が尋ねるとナタリアは一旦入口を封じて欲しいと頼んで来たので石壁の魔法ウォールロックで簡易的に入口を塞いだ。
真っ暗になったのでナタリアが触媒を使用し光の玉を生成して浮遊させ指先でコントロールしつつ先導させる。

この洞窟はかなり深いようでさっきナタリアと出会った場所から更に左へ下り右へ下りと何度か繰り返すと豪華な装飾の施された二メートルくらいの門が現れた。

「ああ良かった! 私の部屋は無事だわ!」

 ナタリアは喜んだけど僕としては驚きを禁じ得ない。僕の魔法であれだけ色々やられたのに傷一つ付いてないなんて……。

「さ、入って入って! ちょっと汚いけど!」

 ナタリアが手を当てるとガチャリと音がして扉がこちらへ向けて開いたので二人で一歩下がる。
僕は女性の部屋に入るのは初めてなのでドキドキしたけど、中が露になるにつれ気分が悪くなってきた。

一言で言うなら汚部屋だ。本は本棚があるのに積み上げられ触媒や衣類は当たり前のように散乱し
人体模型はバラバラにしてそこらに撒かれている。

ただ理解しがたいのは部屋の中が本の匂い以外は変な臭いはしないというところだ。
虫が居ても可笑しくなさそうな環境なのに虫も居ない。
何の奇跡が起きたらこんな状態になるんだろう。

「ちょっとちょっとぉ~女の子の部屋入るの初めて? 残念だけど下着の類は見当たらないわよぉ~」
「うんナタリアが女の子じゃなきゃね、極大波動魔法クロウブラスターで消滅させるところだよ」

 ニヤニヤしながら見当違いの挑発をして来たので精一杯の笑顔を作りながら言葉で思い切り返した。
ナタリアはまたまたぁとか言いつつその色々な物が散乱した部屋の中へ掻き分けながら入って行く。

臭いがしないだけでホコリは舞いその景色を見るだけで頭痛がしそうなので扉から少し離れて待つ。
暫くしてナタリアは一枚の紙を手に戻って来た。

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