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【五章】仙人と魔物
十二話 リヴァロ視点
しおりを挟む今まで俺達は王より上の存在を知らずにいたから、師匠にペコペコしているルーシャンの姿がとても新鮮だった。王ではないルーシャンは、わんぱくで良い意味で普通の青年なのだとわかり、一気に心が和んだ。
まあ、正直なところ、師匠とのあまりの仲の良さに少しだけモヤモヤする気持ちもあるにはあるんだけど。
ルーシャンの頭が師匠の締め付けから解放されると、エダムがやんわりと声を掛けた。
「あの……僕達も挨拶をしたい所なのですが、ルーシャンの荷物を入手次第戻らなければならないのです。立ち入りをお許しいただけないでしょうか」
「ん? おお、じゃあ入れよ。積もる話なんていつでもいい。俺はルーシャンの荷物に触ってないから勝手に持って行けばいいさ」
「感謝致します」
師匠は素手で樽に穴を空け、瓶を切ってロックグラスみたいにしてから酒を掬って飲み始める。本当に酒が好きなんだな。ゾロゾロとルーシャンの家に移動しようすると突然師匠がこちらに声を掛けた。
「おい、そこの焦げ茶のヤツ」
「……へ? お、俺っすか?」
この中で焦げ茶の髪は俺しかいない。四人の中では一番俺が地味だと思うが、他の三人の明るい髪色の中では逆に目立つ事もある。皆に先に行くよう言い、挙動不審になりながらも振り返るとすでに師匠は俺の目の前にいた。いつの間に。
驚いて固まっていると、師匠は俺の身体をペタペタと触り始めた。
「いいねー。しっかり鍛えてるなぁ。筋肉の肥大は抑えてるけど、密度があるっつーか……誰もがつくれる肉体じゃない」
「えっ、あ、ハイ……特別な事をするでもなく、急がず、ただ毎日少しずつじっくりとトレーニングを重ねました」
「うんうん。ルーシャンはすぐになんでもパワーで解決しようとする癖があって美しくねぇんだわ。でもお前さんは綿密というか、無駄がなくて綺麗な肉付きをしてる。気長そうだし、絶対仙人向きの性格だなぁ」
塔の中でコツコツと鍛えた数百年の努力をルーシャンの師匠に褒められて顔がニヤけてしまう。研究者は気長でなければやっていられない。仙人もすぐに結果を求めるのではなく、時間をかけて何かを紐解く存在なのだろう。
「そうですかね……嬉しいっす。俺、ルーシャンを素手で守れる男になりたくて……」
「ほお~~~~? へぇ~~~~??」
俺の言葉にニウルー師匠はニヤニヤと楽しそうだ。
「名前は?」
「リヴァロです」
「オッケー、リヴァロ君ね。今は忙しいみたいだけど、もし興味があれば今度仙人の修行を教えてやろうか」
「えッ!?」
願ってもないニウルー師匠からの申し出に俺が返事をする間もなく、横から驚きの声が聞こえた。声の方を向けばルーシャンが近付いていた。めちゃくちゃショックを受けた顔をしている。
「ルーシャン?」
「師匠!! 俺には絶対仙人の修行させてくれなかったのになんでリヴァロにはすぐオッケーするんですか!?」
「だーかーらー、お前には無駄だって何回言えばわかるんだよ」
子供のようにブーブーと文句を言うルーシャンに、師匠はうんざりとした表情でぞんざいにルーシャンを追い払おうとしている。
無駄と断言する理由が気になる。俺は師匠に訊ねてみた。
「ルーシャンには修行が無駄ってどういうことっすかね? 諦めさせるにしても、詳細な理由は伝えた方が納得すると思いますけど……」
「……まぁ、確かに。子供の時に断っただけで、そういや理由はちゃんと言ってなかったかもな」
ニウルー師匠は納得し、酒樽に腰掛けながら修行について説明してくれた。
「ん~、簡単に言えば……体内に使っていない空の器があるとしよう。その中に新たな力を蓄えるのが修行なんだよ。上手くいけば神が入る事もあるし、そもそも器を持っていない奴だっている。器があるだけでも才能なんだ。でもなぁ、ルーシャンに才能はあるが、生まれた時から既に器の中に何かがミッチミチに詰まってて、しかもそれが……金色の獅子……とでも言うか、めちゃくちゃ格が高い存在が入ってて修行の必要がねーんだよ」
師匠の言葉に、俺とルーシャンは自然と顔を見合わせていた。
「あー……もしかしなくても、それって……」
「んん……あ、ああ……多分それ……俺……だな……」
だから前世よりも小柄なルーシャンでもルービン様と同等の力を発揮できたのか。完全に納得した俺達とは反対に、ニウルー師匠が俺達の反応に首を傾げていた。
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