上 下
109 / 125
【五章】仙人と魔物

十一話 リヴァロ視点

しおりを挟む
 

 ユンセンを中心として穢れが発生して初めて魔物が生まれた。
 その影響を知らない地域では人間に角が生えるなんてあり得ない事で、ましてや魔物の存在すら知らないのだ。
 ルーシャンの師匠の言葉で、自分達が普通ではないという当たり前の事を思い出した。
 パニールには人魔が沢山いるし、俺達は自分自身の変化を受け入れ、角なんて気にする事がなくなっていた。

 それでも少し考えれば俺達が特殊だと自覚できるし、念のためにフードや帽子をかぶる程度の対策はしても良かったはずだ。そんな考えすら浮かばないほど俺達は現状が幸せで、完全に平和ボケしていたと言わざるを得ない。

 俺達の間に『アチャー』という空気が流れたが、俺には現状をどこから説明すれば良いのか直ぐには浮かばなかった。とりあえず成り行きに任せてウルダがどう返事をするのかを見守る事にした。
 ウルダは可憐に微笑んだ。


「この角は薬の副作用でできたものです。身体能力の向上以外に、こういった症状を持った者を人魔と呼びます」
「はーん。ドーピング中毒者みたいなもんか」
「はい」


 はい、じゃねーぞ。
 経緯全てを説明するにも今はあまり時間がないし、その説明でも大きく間違ってはいないが、本当にそれでいいのか突っ込みたくなった。
 しかし、ニウルー師匠はそれで納得したのか、俺達に興味を無くしたのか、追加でもう一本瓶を開けて酒を呷り始めた。村の酒はアルコールがキツいはずなのに、ゴクゴクと水のように飲み干す姿は豪快でカッコイイ。

 ルーシャンがメッセージで俺に師匠を紹介した理由がわかった気がする。己の肉体を鍛える者ならな、ニウルーに不思議と強い憧れを抱くのだ。
 仙人とは別の国の神みたいな存在だというのはなんとなく知識にあった。それでもいざ目の前にすると、この師匠は魔力が人魔の俺達くらい高い水準にある事が感じ取れる。
 体内に魔力を可能な限り留め、全身に巡らせる事で人魔化に近い能力を得ているのではないだろうか。仙人と人魔の違いが気になってしょうがない。
 俺と一度手合わせしてもらえないだろうか、研究に付き合ってくれないだろうか、などと考えてウズウズしてしまう。

 不躾にも俺がニウルー師匠の全身を見まわしていると、不意に彼と目が合ってしまった。マズいと思ったが、気を悪くした様子は無く微笑んでくれた。笑い方がルーシャンに似ていると思った。
 ニウルー師匠は空になった瓶を人差し指の先に乗せてバランスを取って遊びながら俺達四人に視線を戻した。


「まぁ、ルーシャンとつるむってことはその四人は相当の実力者なんだろう」


 そう言ったあと、ニウルー師匠は面白い事でも思いついたように歯を見せて笑った。


「こいつ、結婚の条件は“強さ”とか言って適齢期になっても全然嫁をとろうとしない変わり者だったからなぁ」
「師匠!!」


 ルーシャンが慌てたようにニウルー師匠の口を塞ごうと飛び掛かったがひらりと躱される。顔を真っ赤にして師匠を追いかけるルーシャンは子供みたいだ。


「修行好きのルーシャンより強い女なんてこの近辺にいるワケねーし、挙句俺の所に来て『ニウルー様と結婚する~』って泣き喚いてたよな~?」
「や、やめてください! それは適齢期ではなく5,6歳の時の話でしょう!?」
「は~? 適齢期になってからは俺と強引に同居しただろーが。お前のせいで俺は世間から男色家ってことになったんだぞ」
「師匠は90年間独身なんですから今更どっちでも良いではありませんか──ぁあ゛いだだだだだだッ!!」


 全く悪びれた様子のないルーシャンの頭部に師匠のアイアンクローが炸裂した。
 ミシミシと音が聞こえそうなほど頭を締め付けるなんて俺達には絶対にできない事だ。それでも二人の間に悪い空気は無いため、この珍しい光景をただ眺めていた。
 90年というワードが聞こえたが、師匠は見た感じ若そうだけど実は高齢なのだろうか。俺達も人の事を言えないくらい高齢だけど。


「なんでお前は昔っから偉そうなんだよ! 何様だこの野郎!」
「王様です!!」
「あぁん!?」
「イデデデデ!! すみません、スミマセンでしたぁ!!」


 ルーシャンは必死に謝るが、俺も『我が王は根っからの王様気質なので申し訳ありません』と心の中で一緒に謝罪した。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結済】(無自覚)妖精に転生した僕は、騎士の溺愛に気づかない。

キノア9g
BL
完結済。騎士エリオット視点を含め全10話(エリオット視点2話と主人公視点8話構成) エロなし。騎士×妖精 ※主人公が傷つけられるシーンがありますので、苦手な方はご注意ください。 気がつくと、僕は見知らぬ不思議な森にいた。 木や草花どれもやけに大きく見えるし、自分の体も妙に華奢だった。 色々疑問に思いながらも、1人は寂しくて人間に会うために森をさまよい歩く。 ようやく出会えた初めての人間に思わず話しかけたものの、言葉は通じず、なぜか捕らえられてしまい、無残な目に遭うことに。 捨てられ、意識が薄れる中、僕を助けてくれたのは、優しい騎士だった。 彼の献身的な看病に心が癒される僕だけれど、彼がどんな思いで僕を守っているのかは、まだ気づかないまま。 少しずつ深まっていくこの絆が、僕にどんな運命をもたらすのか──? いいねありがとうございます!励みになります。

推しの完璧超人お兄様になっちゃった

紫 もくれん
BL
『君の心臓にたどりつけたら』というゲーム。体が弱くて一生の大半をベットの上で過ごした僕が命を賭けてやり込んだゲーム。 そのクラウス・フォン・シルヴェスターという推しの大好きな完璧超人兄貴に成り代わってしまった。 ずっと好きで好きでたまらなかった推し。その推しに好かれるためならなんだってできるよ。 そんなBLゲーム世界で生きる僕のお話。

[R18]難攻不落!エロトラップダンジョン!

空き缶太郎
BL
(※R18) 代々ダンジョン作りを得意とする魔族の家系に生まれた主人公。 ダンジョン作りの才能にも恵まれ、当代一のダンジョンメーカーへと成長する……はずだった。 これは普通のダンジョンに飽きた魔族の青年が、唯一無二の渾身作として作った『エロトラップダンジョン』の物語である。 短編連作、頭を空っぽにして読めるBL(?)です。 2021/06/05 表紙絵をはちのす様に描いていただきました!

僕が玩具になった理由

Me-ya
BL
🈲R指定🈯 「俺のペットにしてやるよ」 眞司は僕を見下ろしながらそう言った。 🈲R指定🔞 ※この作品はフィクションです。 実在の人物、団体等とは一切関係ありません。 ※この小説は他の場所で書いていましたが、携帯が壊れてスマホに替えた時、小説を書いていた場所が分からなくなってしまいました😨 ので、ここで新しく書き直します…。 (他の場所でも、1カ所書いていますが…)

勇者の股間触ったらエライことになった

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
勇者さんが町にやってきた。 町の人は道の両脇で壁を作って、通り過ぎる勇者さんに手を振っていた。 オレは何となく勇者さんの股間を触ってみたんだけど、なんかヤバイことになっちゃったみたい。

陰キャ系腐男子はキラキラ王子様とイケメン幼馴染に溺愛されています!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 まったり書いていきます。 2024.05.14 閲覧ありがとうございます。 午後4時に更新します。 よろしくお願いします。 栞、お気に入り嬉しいです。 いつもありがとうございます。 2024.05.29 閲覧ありがとうございます。 m(_ _)m 明日のおまけで完結します。 反応ありがとうございます。 とても嬉しいです。 明後日より新作が始まります。 良かったら覗いてみてください。 (^O^)

もふもふ獣人転生

  *  
BL
白い耳としっぽのもふもふ獣人に生まれ、強制労働で死にそうなところを助けてくれたのは、最愛の推しでした。 ちっちゃなもふもふ獣人と、騎士見習の少年の、両片思い? な、いちゃらぶもふもふなお話です。

腐男子ですが、お気に入りのBL小説に転移してしまいました

くるむ
BL
芹沢真紀(せりざわまさき)は、大の読書好き(ただし読むのはBLのみ)。 特にお気に入りなのは、『男なのに彼氏が出来ました』だ。 毎日毎日それを舐めるように読み、そして必ず寝る前には自分もその小説の中に入り込み妄想を繰り広げるのが日課だった。 そんなある日、朝目覚めたら世界は一変していて……。 無自覚な腐男子が、小説内一番のイケてる男子に溺愛されるお話し♡

処理中です...