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【五章】仙人と魔物
十一話 リヴァロ視点
しおりを挟むユンセンを中心として穢れが発生して初めて魔物が生まれた。
その影響を知らない地域では人間に角が生えるなんてあり得ない事で、ましてや魔物の存在すら知らないのだ。
ルーシャンの師匠の言葉で、自分達が普通ではないという当たり前の事を思い出した。
パニールには人魔が沢山いるし、俺達は自分自身の変化を受け入れ、角なんて気にする事がなくなっていた。
それでも少し考えれば俺達が特殊だと自覚できるし、念のためにフードや帽子をかぶる程度の対策はしても良かったはずだ。そんな考えすら浮かばないほど俺達は現状が幸せで、完全に平和ボケしていたと言わざるを得ない。
俺達の間に『アチャー』という空気が流れたが、俺には現状をどこから説明すれば良いのか直ぐには浮かばなかった。とりあえず成り行きに任せてウルダがどう返事をするのかを見守る事にした。
ウルダは可憐に微笑んだ。
「この角は薬の副作用でできたものです。身体能力の向上以外に、こういった症状を持った者を人魔と呼びます」
「はーん。ドーピング中毒者みたいなもんか」
「はい」
はい、じゃねーぞ。
経緯全てを説明するにも今はあまり時間がないし、その説明でも大きく間違ってはいないが、本当にそれでいいのか突っ込みたくなった。
しかし、ニウルー師匠はそれで納得したのか、俺達に興味を無くしたのか、追加でもう一本瓶を開けて酒を呷り始めた。村の酒はアルコールがキツいはずなのに、ゴクゴクと水のように飲み干す姿は豪快でカッコイイ。
ルーシャンがメッセージで俺に師匠を紹介した理由がわかった気がする。己の肉体を鍛える者ならな、ニウルーに不思議と強い憧れを抱くのだ。
仙人とは別の国の神みたいな存在だというのはなんとなく知識にあった。それでもいざ目の前にすると、この師匠は魔力が人魔の俺達くらい高い水準にある事が感じ取れる。
体内に魔力を可能な限り留め、全身に巡らせる事で人魔化に近い能力を得ているのではないだろうか。仙人と人魔の違いが気になってしょうがない。
俺と一度手合わせしてもらえないだろうか、研究に付き合ってくれないだろうか、などと考えてウズウズしてしまう。
不躾にも俺がニウルー師匠の全身を見まわしていると、不意に彼と目が合ってしまった。マズいと思ったが、気を悪くした様子は無く微笑んでくれた。笑い方がルーシャンに似ていると思った。
ニウルー師匠は空になった瓶を人差し指の先に乗せてバランスを取って遊びながら俺達四人に視線を戻した。
「まぁ、ルーシャンとつるむってことはその四人は相当の実力者なんだろう」
そう言ったあと、ニウルー師匠は面白い事でも思いついたように歯を見せて笑った。
「こいつ、結婚の条件は“強さ”とか言って適齢期になっても全然嫁をとろうとしない変わり者だったからなぁ」
「師匠!!」
ルーシャンが慌てたようにニウルー師匠の口を塞ごうと飛び掛かったがひらりと躱される。顔を真っ赤にして師匠を追いかけるルーシャンは子供みたいだ。
「修行好きのルーシャンより強い女なんてこの近辺にいるワケねーし、挙句俺の所に来て『ニウルー様と結婚する~』って泣き喚いてたよな~?」
「や、やめてください! それは適齢期ではなく5,6歳の時の話でしょう!?」
「は~? 適齢期になってからは俺と強引に同居しただろーが。お前のせいで俺は世間から男色家ってことになったんだぞ」
「師匠は90年間独身なんですから今更どっちでも良いではありませんか──ぁあ゛いだだだだだだッ!!」
全く悪びれた様子のないルーシャンの頭部に師匠のアイアンクローが炸裂した。
ミシミシと音が聞こえそうなほど頭を締め付けるなんて俺達には絶対にできない事だ。それでも二人の間に悪い空気は無いため、この珍しい光景をただ眺めていた。
90年というワードが聞こえたが、師匠は見た感じ若そうだけど実は高齢なのだろうか。俺達も人の事を言えないくらい高齢だけど。
「なんでお前は昔っから偉そうなんだよ! 何様だこの野郎!」
「王様です!!」
「あぁん!?」
「イデデデデ!! すみません、スミマセンでしたぁ!!」
ルーシャンは必死に謝るが、俺も『我が王は根っからの王様気質なので申し訳ありません』と心の中で一緒に謝罪した。
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