上 下
97 / 125
【四章】王と魔王

二十三話

しおりを挟む


 俺に近付いてきたエダムは疲れを感じさせないように優しく微笑んだ。


「ルーシャン、今日は可愛い髪型してるね」
「クワルクがしてくれた。気に入ったか?」
「勿論。整っていれば整っているほど乱し甲斐があるよね」


 エダムは冗談めかしながら、セットが乱れないように髪に触れる。
 ゆっくりと俺の腰に手をまわして抱き寄せたが、エダムからは性的な触れ方が見られなかった。
 単純に人肌で癒しを求めているような動きだ。シャウルスの側近は色々と大変だったのだろう。

 臣下を労うのも俺の重要な役割なので抱き締められつつもエダムの背中をゆっくり撫でた。
 クワルクもエダムの余裕の無さを感じ取り、心配そうな顔をしながらも静かに家から出て行った。

 二人きりになると、エダムが横になりたいと言ったので俺はリビングの大きなソファで膝枕をしてやる事になった。
 エダムの髪を撫でると気持ち良さそうに目を閉じる。俺はこのまま寝かせた方が良い気がして、エダムにどうしたいか聞くことにした。


「エダム……休んでから報告するか?」
「ん~……もうちょっとこのまま話したいかなぁ。ルービン様の話を聞かせてよ……昔の姿に戻った感想は?」


 俺は感じた事を素直に口にした。


「ルービンの肉体の方が慣れ親しんでいるが、今こうして戻ってみればルーシャンの方が良いな」
「へぇ、意外。なんでだい?」
「単純に若さだな。エダムならわかるだろう」
「わかりたくなかったけど、わかってしまうね」


 四人の中で最年長のエダムはルービンの気持ちが一番わかる。
 肩に謎の痛みが走ったり、疲れやすさを感じたり、三十代、四十代、五十代と、鍛えていても段階的にどこかしらにガタを感じるようになる。
 二十代のルーシャンにはまだそれが無いのだ。


「どこにもガタがきていないというのは快適だぞ。この身体の有難みを痛感してしまった」
「ただでさえルービン様は魔力が無いし、魔力補助ができないから僕よりキツいよね。それに人間だもんねぇ……クワルクとして大丈夫だったの?」


 真面目にセックスの心配をされてしまった。人魔と人間だし、年齢差もある。心配される要素しかないな。
 実際、クワルクが人魔であるとか関係なく、ルービンへの愛が重いクワルクはどんどん歯止めがきかなくなっていた。
 めちゃくちゃ気持ち良かったが、関節はだいぶ悲鳴をあげていたし、途中からは喘ぐ体力すら残っていなかった。ヤり殺されるかもしれないと思ったのはあれが初めてだ。
 ルービンの姿が一夜限りだからどうにかなったようなものだ。


「大丈夫ではなかったな。ルーシャンに戻ってなかったら数日寝たきりだったと思う」
「くっ……ふふふ、あっははは!」


 俺が神妙な顔でそう言えば、エダムは少し元気が戻ったのか堪えきれない様子で大きく笑った。
 楽しそうに存分に笑ったあと、エダムは俺の髪をいじりながら話し始めた。


「クワルクは誰から見てもルービン様が好きってわかるくらいだったからねぇ」
「うっ」


 その言葉に俺は思わず胸元を押さえてしまう。
 よく懐いてくれてるなぁ、で終わらせてた過去の自分に大ダメージだ。


「色眼鏡で見ない所がルービン様の信頼に繋がっていたから誰も責めないけど……言い方を変えれば貴方が鈍いのも事実だ」
「自覚は、している……」


 それだけ俺は王として必死だったんだ。多少は鈍くなっても仕方ない部分もあったと思う。
 かといって、今の俺が相手の好意がわかるのかといえばそれも疑問だから反論などできるはずもない。
 エダムは微笑んでいた口元を引き締め、小さく溜息をつく。それから重々しく口を開いた。


「ブルーミーの王は、代々交渉事に強かったでしょ?」
「え……? ああ、そうだな」


 何故ここでブルーミーの王が出てくるのかわからずに俺は困惑した。
 いや、この流れで出てきたということは……もしや。


「まだ十代とは思えないシャウルス王の落ち着きっぷりとか、違和感あると思わない?」
「それはずっと感じていた」


 そう。シャウルスは見た目以外は老成した王の風格を備えている。まるで俺と近い存在のような……。
 エダムは更に続けた。


「ブルーミー王家の血筋はとても平凡だったらしい。武に秀でてもいなければ、特別魔力が高い訳でもない。優れた知能を持つでもなく、外見が少し整っている程度というのが初期の評価だそうだよ」
「えらく踏み込んだ情報を手に入れたな……」
「シャウルス王が直々に教えてくれたからね。僕が側近として置かれたのも、内密な話がしやすいからみたいだ」


 つまり、シャウルスはエダムを通して俺に伝える事があったのだろう。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結済】(無自覚)妖精に転生した僕は、騎士の溺愛に気づかない。

キノア9g
BL
完結済。騎士エリオット視点を含め全10話(エリオット視点2話と主人公視点8話構成) エロなし。騎士×妖精 ※主人公が傷つけられるシーンがありますので、苦手な方はご注意ください。 気がつくと、僕は見知らぬ不思議な森にいた。 木や草花どれもやけに大きく見えるし、自分の体も妙に華奢だった。 色々疑問に思いながらも、1人は寂しくて人間に会うために森をさまよい歩く。 ようやく出会えた初めての人間に思わず話しかけたものの、言葉は通じず、なぜか捕らえられてしまい、無残な目に遭うことに。 捨てられ、意識が薄れる中、僕を助けてくれたのは、優しい騎士だった。 彼の献身的な看病に心が癒される僕だけれど、彼がどんな思いで僕を守っているのかは、まだ気づかないまま。 少しずつ深まっていくこの絆が、僕にどんな運命をもたらすのか──? いいねありがとうございます!励みになります。

[R18]難攻不落!エロトラップダンジョン!

空き缶太郎
BL
(※R18) 代々ダンジョン作りを得意とする魔族の家系に生まれた主人公。 ダンジョン作りの才能にも恵まれ、当代一のダンジョンメーカーへと成長する……はずだった。 これは普通のダンジョンに飽きた魔族の青年が、唯一無二の渾身作として作った『エロトラップダンジョン』の物語である。 短編連作、頭を空っぽにして読めるBL(?)です。 2021/06/05 表紙絵をはちのす様に描いていただきました!

勇者の股間触ったらエライことになった

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
勇者さんが町にやってきた。 町の人は道の両脇で壁を作って、通り過ぎる勇者さんに手を振っていた。 オレは何となく勇者さんの股間を触ってみたんだけど、なんかヤバイことになっちゃったみたい。

陰キャ系腐男子はキラキラ王子様とイケメン幼馴染に溺愛されています!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 まったり書いていきます。 2024.05.14 閲覧ありがとうございます。 午後4時に更新します。 よろしくお願いします。 栞、お気に入り嬉しいです。 いつもありがとうございます。 2024.05.29 閲覧ありがとうございます。 m(_ _)m 明日のおまけで完結します。 反応ありがとうございます。 とても嬉しいです。 明後日より新作が始まります。 良かったら覗いてみてください。 (^O^)

腐男子ですが、お気に入りのBL小説に転移してしまいました

くるむ
BL
芹沢真紀(せりざわまさき)は、大の読書好き(ただし読むのはBLのみ)。 特にお気に入りなのは、『男なのに彼氏が出来ました』だ。 毎日毎日それを舐めるように読み、そして必ず寝る前には自分もその小説の中に入り込み妄想を繰り広げるのが日課だった。 そんなある日、朝目覚めたら世界は一変していて……。 無自覚な腐男子が、小説内一番のイケてる男子に溺愛されるお話し♡

だって、牛乳配達のお兄さんが美味しそう。

モト
BL
人間と淫魔が共存する世界。牛乳配達のお兄さんがインキュバスに狙われる話。ゆっくり甘々トロトロに進みます。 インキュバス×牛乳配達のお兄さん エッチばかりです(笑) 独自設定あり。大変緩い甘口な話です。R18 

魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました

タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。 クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。 死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。 「ここは天国ではなく魔界です」 天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。 「至上様、私に接吻を」 「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」 何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?

処理中です...