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【四章】王と魔王

十三話

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 ここまでの様子を見ていると、本当にクワルクは悪魔祓いになれそうだな。
 俺が感心していると、フィオーレは面白くなさそうに顔をしかめる。


「おかしくない~? 四人が子猫ちゃんを狙ってるのに、誰の心にも歪みがないってさぁ」


 フィオーレの言葉に俺は首を傾げた。
 四人は四人でないと成り立たない。四人もいるから俺の体の数が足りないと思う事はあるが、誰かを選ぶなんて選択肢は最初からないし、四人だって考えた事がないだろう。これが俺達のなのだ。


「ああ、そうか。一般的には一人を選ばなければいけないのか」
「普通は自分だけを見て欲しい、って本心では思ってるもんなんだよ人間は!」
「ふふふ、俺の四人は特別なんだ」


 なんてったって世界最高峰の魔術師達だ。ルービンの頃から特別な存在だった。実際に今は魔物を経て人魔になってそんじょそこらの人間とは一線を画している。ただの人間とは言い難いだろう。

 嬉しそうにしている俺に、フィオーレはげんなりした顔で言った。


「あのね~肉体的には色々変化したかもだけど、四人の魂は人間そのものだ。魂が完全に蝕まれたら人を襲う魔物になるからね」


 ほう、それは貴重な情報だ。カンタルの薬は魂を守る作用があるということだな。
 今俺は悪魔から直接情報を得てしまったが、カンタルは魂への影響だと根本的に理解せずとも、何もない状況から効果的な薬を作り上げたのだから本当にとんでもない存在だ。
 親馬鹿モードに入りかけていたが、突如クワルクが、狂信的なまでに語り始めた。


「ええ、ええ、私達は普通の人間です。誰かを出し抜きたいと思うのは、何かしら相手を優劣で見ている時でしょう。私以外の三人も替えがきかない存在で、そこに優劣は存在していません。誰が欠けてもいけないのです。そもそも王に選ばれた時点で争う相手ではありません。王の御意思が全てなのです。王の寵愛を得られた相手の事を、私は王と遜色ない程に愛していますよ。私達臣下四人は、王への忠誠という固い絆で結ばれていますので、決して関係が綻ぶ事はないのです。王を独占などと烏滸がましい考えを持つ者はまず王に選ばれる筈もありません。独占という考えがある時点で王を理解していない証拠。王は惜しみのない愛を平等に与えてくれます。ええ、勿論平等が常に正しいという訳ではありません。時と場合によって少しの差を設ける事も大切です。その匙加減も王は常に完璧で御座います。王からの愛情に不足を感じる事はありませんが、まあこれは王直々に愛された者にしか理解できぬ事でしょう。王からの愛が足りないと感じるのは、己に問題があると自覚できぬ者。そのような者は──」
「クワルク、ストップストップ!!」
「……失礼致しました。つい王の素晴らしさをお伝えしたく白熱してしまいましたね」


 さっきまでくたびれていたのに、クワルクの表情は晴れやかになり、顔色も良い。ツヤツヤしている。クワルクは本当に俺の事が好き過ぎる。
 元気になったクワルクとは対照的に、フィオーレはつまらなそうに頬杖をついて大きく息を吐いていた。
 クワルクのお陰で、俺が今まで常にフィオーレに感じていた気持ちの悪さや違和感が無くなりつつあった。
 もしかしたら、これが心の隙というやつなのだろうか。だが、完全にそれが無くなった訳ではない。気を引き締めなければ。
 俺は悪魔召喚で知りたかった事をフィオーレに直接問いかけた。


「フィー君はカースと契約していると思うが、俺とも契約は可能だろうか?」
「ルーシャン!?」


 クワルクが青ざめて叫ぶ。しかし、俺は見ないふりをした。
 一番簡単なのは、フィオーレを味方にする事だ。倒したり封じたりするより効率的だと思う。駄目で元々なのだからとりあえず確認してみたのだ。フィオーレはあっさりと言った。


「できるよ」
「では俺と契約しないか?」


 俺がフィオーレに契約を持ち掛けると、クワルクが非難めいた声をあげた。


「この悪魔が貴方を狙っているのを知っていてそんな危険な事を!」
「正確には俺じゃなくて腹の中のコレだろ」


 ポンポンと俺は自分の下腹を叩いた。
 フィオーレはラグリマとかいう穢れの結晶に興味があるだけで俺は重要ではない。そう思っているのは俺だけなのか、クワルクが食い下がって来る。


「貴方は自分への好意に鈍感なのを自覚してください!」


 そうは言われてもなぁ。鈍感を自覚した所で鈍感である事実は変わらない。
 ならば直接聞くのが一番良いだろう。


「ふむ……フィー君はどうなんだ?」
「どう答えた方が面白い事になるんだろうねぇ」


 フィオーレは値踏みする様に俺とクワルクの顔を交互に見てニタニタと笑った。

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