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【三章】人魔の王

十四話

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 当時のムフローネの王は、魔力を持たない俺を毛嫌いしていたが、国同士としては争いを起こすほどの交流もない。気に食わないからと戦争を吹っ掛けるような愚かな王でもなかった。
 暗黙の了解でお互い関わらないという選択をしていたのだ。だからどこで俺がムフローネの恨みを買ったのか、皆目見当がつかない。


「はぁ……悪魔を使ってでも俺を苦しめたいなんて、どんだけ俺は恨まれてんだ」


 俺が頭を抱えると、エダムが肩を竦めて息を吐いた。


「理由なんて考えても無駄だよルーシャン。人間だって悪魔と同じで全部が全部、整合性の取れた行動をする訳じゃない。どんなに頑張って100人中99人に好かれても、1人は“八方美人が気に食わない”とか言い出すものさ」
「そうだねぇ、パパは他国からも人気あったし……パパの意図してない所でこじれててもおかしくはないかも……」


 まあ、もう過ぎた事だ。
 心当たりの無い後悔など意味はないからな。これから起きるかもしれない悲劇を回避するだけだ。
 カンタルはキラキラした瞳で俺に言った。


「パパはさ、今の姿でも強い?」
「ああ。やっとを出せる環境になったからな」
「良かった……ならパニールは絶対に安全だね!」


 ヒー! 可愛い息子にそんな事言われたらパパ頑張っちゃう! カッコイイ所を見せてやらなきゃな。
 その時だ、町の外を見張っていたリヴァロからの声が脳に響いた。


『なんか来たよ~。めっちゃ強そうなでっかい魔物が』


 この声の様子だと特に脅威は感じていないようだ。それならば俺が焦る理由もない。


「とりあえずはお前達だけで問題ないだろう」
『もちろん』
「ゆっくりそちらに向かうよ」
『えー、早く来てくれないと俺の活躍見せられないじゃん~』


 リヴァロの不満気な言葉を最後に脳に響く声は途絶えた。
 俺もカンタルに良い所は見せたいが、ようやく四人は広い場所で力を振るえるのだ。俺が機会を全て取ってしまっては可哀想じゃないか。
 動きを止めた俺を見て何かを察したカンタルが言った。


「パパ、敵襲かい?」
「でかい魔物が現れたらしい。カンタルよりでかいだろうか」
「オレの方がおっきいよ!」


 まだ見ぬ魔物と張り合うカンタルが可愛い。カンタルはカサカサとズルズルの二種類の音をさせながら、背後にあるカンタル専用の大きな出入口の扉に移動した。カンタルは俺を背中に乗せ、エダムにも顎で乗れと指示する。


「うわ~大きい背中に乗れるってロマンがあるなぁ」


 カンタルの背に飛び乗ったエダムがはしゃいだ声をあげる。わかるぞ。俺も凄くテンションが上がっている。


「昔の姿じゃあパパをおんぶなんてできないからね」


 カンタルは魔物になる事をとても前向きに捉えている。だからこそ人魔という存在の柱になれたのだろう。
 両親が魔物化して自身も食われ掛けたのだ。魔物というもの自体を恨んで、憎んで、排除に動いてもおかしくないのに立派なものだ。成長の喜びに目が潤んでしまう。


「心身共に逞しくなったなぁ……」
「もう無力で我儘な子供でいるのは嫌だったんだ。魔物化だろうと何だろうと、力には違いないんだって思えるようになったのはパパがいたからだよ」


 前をしっかり向き、カンタルはそう言って歩みを進めた。
 町に出ると『長だ!』とか『長、どこ行くんですか?』などと、沢山の住民に声を掛けられている。
 商人の息子だったカンタルが、今では人間にも人魔にも慕われ、人魔の王と言える存在になっていた。


「……まるで王だな」
「ははは、やめてよパパ。オレは王の器なんかじゃない。それにさすがにもう年だからね……若者が率いてくれないと困るよ。でも……パパの子供って認められたみたいで嬉しい」
「俺はずっとカンタルを心から我が子として可愛がっていたつもりだが!?」


 なんてこった。俺は最初から最後までカンタルを息子として大切に育てたつもりだ。
 周りに認められる認められないの話ではないと思っていたので、その言葉はとてもショックだ。しかし、エダムがカンタルを援護した。


「いやいや、平民がいきなり王の養子なんて重圧は普通じゃ耐えられないですよ……コンプレックスがあってもしょうがないかと」


 そうか、俺だけが認めていた所で、周りからの視線や空気は厳しいものであるのは変わりない。カンタルにしかわからない辛さがあったのだろう。
 俺はカンタルを全然理解してやれてなかったんだな。今更凹んでしまう。


「パパは何も悪くないよ! オレが自分で『パパの息子だ』と胸を張れるようにって勝手に目標にしてただけだし……パパからの愛を疑ったことはないよ」


 俺の生前、頑なに父親と呼んでくれなかったのは、反発だけでなくカンタル自身のケジメでもあったのだな。
 胸の奥が温かくなるのを感じながら、町の出入り口にまできた。トコトコとこちらに向かって歩いて来るウルダの姿が見えた。


「ウルダ。魔物の襲撃という割には随分と静かだな」
「町の人、驚くと大変だから、結界と遮音してる」
「ああ……だから誰も外を気にしてなかったのか。やるなぁ」
「えへへ、パニック起こした味方、一番邪魔だから」


 うん、良い笑顔で辛辣だ。まあ事実なのだから反論のしようもない。

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