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【二章】四人の魔術師
二十一話 ライバル クワルク視点
しおりを挟む婚約者。はいはい、なるほど。
衝動的にテーブルをひっくり返さなかった事を褒めて欲しい。ルーシャンは何をしているんだ。
自らを売るような事をして私達の待遇を良くしようなど、私達が喜ぶはずない。死ぬ前提だったから生きていた時の事はどうでもよかったのか?
そもそもシャウルスは王族なのに男を伴侶にしている場合か。世継ぎはどうする。婚約者と言いつつ愛妾扱いだったら殺す。いや、本気の婚約でも全力で阻止するが。
ハッ……時代は変化している。もしかして男も子供が産めるようになっているのか!?
まあ待て落ち着け私。冷静になれ。この若造とルーシャンが婚約した意味を考えろ。我が王がなんの意味もなくそんな事をするとは思えない。きっと何か意図があるはずだ。
私は努めて冷静にシャウルスに問いかけた。
「婚約者、ですか。その婚約に際しては一体どのような契約を交わしたのですか?」
政略結婚ならば取り決めがあるだろう。まずはそれを探ろうと思ったのだが、何故かシャウルスがもじもじと顔を赤らめた。
「そんな政略結婚のような言い方はやめて欲しいな。恋愛結婚に契約なんてある訳がないだろう……」
あ、これルーシャンは完全に口約束で逃げる気だ。悪い大人に騙されている純粋な少年が目の前にいる。
契約書が無いのであればこんな約束事どうとでもなってしまう。
私達に関連するもの全てに書類が存在しているのに、婚約に関してのみ書面で残していないなんて露骨過ぎる。恋愛結婚を強調して言いくるめられたシャウルスの事を考えると、私も他の三人も同情の視線を向けてしまう。
ルーシャンというか、ルービン様は歴戦の王だ。まだまだひよっこのシャウルスでは交渉事でも勝ち目がない。
しかも惚れてしまった相手との交渉ならば尚更だ。ルーシャンが自ら誘惑したとは思えないため、シャウルスに芽生えた恋心を察して利用したのだろう。本当に我が王は恐ろしい。だがそこが良い。好きだ。
シャウルスの護衛達も気まずそうにこちらを見た。あちら側も口約束でなんの効力もない婚約だと理解して放置しているようだ。恋愛くらいは自由にさせてあげたい親心のようなものがあるのかもしれない。
のらりくらりルーシャンが躱している間にシャウルスに正式な婚約者ができ、そこでルーシャンが身を引く。といった筋書きになっているのではないだろうか。
まあ、ルーシャンを愛する気持ちは私達もよくわかる。眠っているルーシャンとの面会くらいは良いだろう。
ライバルに対してといえど、その程度の余裕は持ち合わせている。私は改めて背筋を伸ばしてシャウルスに声を掛けた。
「シャウルス様。ルーシャンは二日前に目覚めた時に私達と会話をしましたが、記憶が混濁しており私達の事すら覚えていませんでした。それから再びルーシャンは眠り続けています。もしかしたら目覚めてもシャウルス様の事を覚えていないかもしれません」
「そ、そなたらの事すら……」
ルーシャンが私達を忘れた事実に何故かシャウルスが大きくショックを受けた様子だった。
私達の存在がルーシャンにとって特別である事を理解している証拠と言えるのかもしれない。
ルーシャンがシャウルスに私達の事を頼んだ理由がわかった気がした。素直で大らかで、状況判断も正確にできる王なのだろう。
背筋を伸ばし、居ずまいを正したシャウルスが真剣な面持ちで告げる。
「眠っているのであればーシャンの顔を見られるだけで良い。生きていてくれるだけで今は十分だ」
「……そうですか。ご理解に感謝致します。では、こちらへどうぞ」
私達は地下の部屋にシャウルスと護衛の者を案内する。来客が大所帯になる事を想定して広い部屋にしておいて良かった。
シャウルスはすぐにルーシャンの眠るベッドに駆け寄った。ベッドに腰掛けたシャウルスが、愛おしげにルーシャンの髪や頬を撫でる。シャウルスの熱の籠った視線は、ルーシャンに対する恋心を如実に表していた。
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