28 / 125
【二章】四人の魔術師
二話 クワルク②
しおりを挟む「王は、私達が取り込んでいた穢れを全て自分に移したようですね」
パッと見た感じ、三人は元の人間の姿に戻っている。私自身にもおかしなパーツは残っていない。あの状況でよくここまで綺麗に穢れを吸収できたものだ。さすが我が王と讃えるしかない。
「魔物だと思い込んでいる私達を否定せずに、自分がこれから魔王になる存在だと設定する事で、穢れによる自身の魔物化に違和感を持たせないとはやってくれましたね」
私の言葉にエダムが肩をすくめてため息交じりに言った。
「言葉選びを変えているだけで、内容に嘘はないから僕も対処ができなかった。まったく、あの御方は真っ直ぐ過ぎて困る」
悪意がない行動は本当に読みにくい。こちらがゴチャゴチャと考えている間に塔から放り出されてしまった。リヴァロが身の回りに落ちている物を集めながら手招きする。
「あはは~、俺達の部屋にあった私物が転がってるんだけど。大事なもんがあると思って一緒に出してくれたみたいだな。王様さぁ、気をまわす所違うっしょ~ウケるわ~。まあ、あの人らしいけど……あ、今の通貨まで用意してある」
ルーシャンがあんな状況でも私達の事ばかり考えていたのだと伝わってくる。だがリヴァロの言う通り、王は気を使う所を間違っている。確かに塔に持ち込んだ物は大切な物ばかりだが、王以上のものなど存在しないのだ。貴方がいなければなんの意味もない。
そう思いつつも荷物があるのは素直に助かるので、皆で魔法を使ってさっさと仕分けてしまおう。ウルダはジッと崩れた塔を眺めてから視線をこちらに向けた。
「王は、元気だから、とりあえず安全な場所へ行こう」
「わかりました。こんな深夜に野宿というのは良くないですからね。近くの村に向かいましょう」
ウルダの魔術で生み出されたカシュのお陰でどこにいてもルーシャンの状態がわかるのは本当にありがたい。だからこそ私達は冷静でいられる。瓦礫で怪我などもしていないのであれば一安心だ。
直前のルーシャンはとんでもなくエロ……淫ら……いやらし……なんかこう、凄かったから、まともに思考できる時間はなかっただろう。今はルーシャンがどこに隠れているのかはわからないが、そう複雑な対処はできなかったはずだ。しっかりこちらも環境を整えさえすればルーシャンを見つけ出すことは難しくない。
だが、ルーシャンを見付ける前に穢れを完全に消し去る手段を考えなければならない。以前のように常に穢れが世界に降り注ぐ様子もなく、後はルーシャンの体内に集まっている穢れの処理だけで良いということだ。それならば前よりも格段に難易度は下がっている。だからこそ、情報収集が今の私達には必要不可欠だ。
「私たちはゆっくり休んでから、変化した世界、現在の穢れ、魔物のことを調べ、王を救うための準備をしなければいけません」
私が目的共有のためにそう言うと、エダムがニヤリと笑った。
「ルーシャンからのメッセージには従わないんだね?」
エダムは自分宛の封筒を二本の指で挟んで左右に動かして見せる。
私が最後に渡された招待状には『 クワルク、お前が守ってくれた世界はとても平和で素晴らしい。是非楽しんでくれ。俺の故郷にクワルクの髪の色と同じ色をした花をつける木がある。気が向いたら訪れるといい。 そして、これが最後の命令だ。俺の事は忘れて幸せになること。以上。 ルーシャン 』と書かれていた。
そう言うのであれば故郷の名前くらい書いておいて欲しい。わからないのだから直接ルーシャンから聞くしかない。少し抜けている所は昔から変わっていないのだとわかり、私は嬉しくなった。
恐らく命令の部分は皆共通なのだろう。私は満面の笑みでこう言った。
「ルーシャンの命令に従う必要はありません。私達の主はルービン様であり、ルーシャンではありませんからね」
30
お気に入りに追加
1,689
あなたにおすすめの小説
【完結済】(無自覚)妖精に転生した僕は、騎士の溺愛に気づかない。
キノア9g
BL
完結済。騎士エリオット視点を含め全10話(エリオット視点2話と主人公視点8話構成)
エロなし。騎士×妖精
※主人公が傷つけられるシーンがありますので、苦手な方はご注意ください。
気がつくと、僕は見知らぬ不思議な森にいた。
木や草花どれもやけに大きく見えるし、自分の体も妙に華奢だった。
色々疑問に思いながらも、1人は寂しくて人間に会うために森をさまよい歩く。
ようやく出会えた初めての人間に思わず話しかけたものの、言葉は通じず、なぜか捕らえられてしまい、無残な目に遭うことに。
捨てられ、意識が薄れる中、僕を助けてくれたのは、優しい騎士だった。
彼の献身的な看病に心が癒される僕だけれど、彼がどんな思いで僕を守っているのかは、まだ気づかないまま。
少しずつ深まっていくこの絆が、僕にどんな運命をもたらすのか──?
いいねありがとうございます!励みになります。
推しの完璧超人お兄様になっちゃった
紫 もくれん
BL
『君の心臓にたどりつけたら』というゲーム。体が弱くて一生の大半をベットの上で過ごした僕が命を賭けてやり込んだゲーム。
そのクラウス・フォン・シルヴェスターという推しの大好きな完璧超人兄貴に成り代わってしまった。
ずっと好きで好きでたまらなかった推し。その推しに好かれるためならなんだってできるよ。
そんなBLゲーム世界で生きる僕のお話。
勇者の股間触ったらエライことになった
ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
勇者さんが町にやってきた。
町の人は道の両脇で壁を作って、通り過ぎる勇者さんに手を振っていた。
オレは何となく勇者さんの股間を触ってみたんだけど、なんかヤバイことになっちゃったみたい。
陰キャ系腐男子はキラキラ王子様とイケメン幼馴染に溺愛されています!
はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。
まったり書いていきます。
2024.05.14
閲覧ありがとうございます。
午後4時に更新します。
よろしくお願いします。
栞、お気に入り嬉しいです。
いつもありがとうございます。
2024.05.29
閲覧ありがとうございます。
m(_ _)m
明日のおまけで完結します。
反応ありがとうございます。
とても嬉しいです。
明後日より新作が始まります。
良かったら覗いてみてください。
(^O^)
もふもふ獣人転生
*
BL
白い耳としっぽのもふもふ獣人に生まれ、強制労働で死にそうなところを助けてくれたのは、最愛の推しでした。
ちっちゃなもふもふ獣人と、騎士見習の少年の、両片思い? な、いちゃらぶもふもふなお話です。
腐男子ですが、お気に入りのBL小説に転移してしまいました
くるむ
BL
芹沢真紀(せりざわまさき)は、大の読書好き(ただし読むのはBLのみ)。
特にお気に入りなのは、『男なのに彼氏が出来ました』だ。
毎日毎日それを舐めるように読み、そして必ず寝る前には自分もその小説の中に入り込み妄想を繰り広げるのが日課だった。
そんなある日、朝目覚めたら世界は一変していて……。
無自覚な腐男子が、小説内一番のイケてる男子に溺愛されるお話し♡
だって、牛乳配達のお兄さんが美味しそう。
モト
BL
人間と淫魔が共存する世界。牛乳配達のお兄さんがインキュバスに狙われる話。ゆっくり甘々トロトロに進みます。
インキュバス×牛乳配達のお兄さん
エッチばかりです(笑)
独自設定あり。大変緩い甘口な話です。R18
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる