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【二章】四人の魔術師

二話 クワルク②

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「王は、私達が取り込んでいた穢れを全て自分に移したようですね」


 パッと見た感じ、三人は元の人間の姿に戻っている。私自身にもおかしなパーツは残っていない。あの状況でよくここまで綺麗に穢れを吸収できたものだ。さすが我が王と讃えるしかない。


「魔物だと思い込んでいる私達を否定せずに、自分がこれから魔王になる存在だと設定する事で、穢れによる自身の魔物化に違和感を持たせないとはやってくれましたね」


 私の言葉にエダムが肩をすくめてため息交じりに言った。


「言葉選びを変えているだけで、内容に嘘はないから僕も対処ができなかった。まったく、あの御方は真っ直ぐ過ぎて困る」


 悪意がない行動は本当に読みにくい。こちらがゴチャゴチャと考えている間に塔から放り出されてしまった。リヴァロが身の回りに落ちている物を集めながら手招きする。


「あはは~、俺達の部屋にあった私物が転がってるんだけど。大事なもんがあると思って一緒に出してくれたみたいだな。王様さぁ、気をまわす所違うっしょ~ウケるわ~。まあ、あの人らしいけど……あ、今の通貨まで用意してある」


 ルーシャンがあんな状況でも私達の事ばかり考えていたのだと伝わってくる。だがリヴァロの言う通り、王は気を使う所を間違っている。確かに塔に持ち込んだ物は大切な物ばかりだが、王以上のものなど存在しないのだ。貴方がいなければなんの意味もない。
 そう思いつつも荷物があるのは素直に助かるので、皆で魔法を使ってさっさと仕分けてしまおう。ウルダはジッと崩れた塔を眺めてから視線をこちらに向けた。


「王は、元気だから、とりあえず安全な場所へ行こう」
「わかりました。こんな深夜に野宿というのは良くないですからね。近くの村に向かいましょう」


 ウルダの魔術で生み出されたカシュのお陰でどこにいてもルーシャンの状態がわかるのは本当にありがたい。だからこそ私達は冷静でいられる。瓦礫で怪我などもしていないのであれば一安心だ。
 直前のルーシャンはとんでもなくエロ……淫ら……いやらし……なんかこう、凄かったから、まともに思考できる時間はなかっただろう。今はルーシャンがどこに隠れているのかはわからないが、そう複雑な対処はできなかったはずだ。しっかりこちらも環境を整えさえすればルーシャンを見つけ出すことは難しくない。
 だが、ルーシャンを見付ける前に穢れを完全に消し去る手段を考えなければならない。以前のように常に穢れが世界に降り注ぐ様子もなく、後はルーシャンの体内に集まっている穢れの処理だけで良いということだ。それならば前よりも格段に難易度は下がっている。だからこそ、情報収集が今の私達には必要不可欠だ。


「私たちはゆっくり休んでから、変化した世界、現在の穢れ、魔物のことを調べ、王を救うための準備をしなければいけません」


 私が目的共有のためにそう言うと、エダムがニヤリと笑った。


「ルーシャンからのメッセージには従わないんだね?」


 エダムは自分宛の封筒を二本の指で挟んで左右に動かして見せる。
 私が最後に渡された招待状には『 クワルク、お前が守ってくれた世界はとても平和で素晴らしい。是非楽しんでくれ。俺の故郷にクワルクの髪の色と同じ色をした花をつける木がある。気が向いたら訪れるといい。 そして、これが最後の命令だ。俺の事は忘れて幸せになること。以上。 ルーシャン 』と書かれていた。
 そう言うのであれば故郷の名前くらい書いておいて欲しい。わからないのだから直接ルーシャンから聞くしかない。少し抜けている所は昔から変わっていないのだとわかり、私は嬉しくなった。
 恐らく命令の部分は皆共通なのだろう。私は満面の笑みでこう言った。
 

「ルーシャンの命令に従う必要はありません。私達の主はルービン様であり、ルーシャンではありませんからね」

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