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第四章 不穏な動き
44.デート(2)
しおりを挟む「これはこれは、本条院の坊ちゃま!ようこそいらっしゃいました!」
リリーに干し柿を買い与え、和菓子屋を出たサクラ達は情報屋が営む装具屋を訪れていた。店内へ足を踏み入れると、店主が明るい声で出迎える。相変わらず頭巾を目深にかぶっている為、その表情を伺うことは出来ない。
「聖獣使いのお嬢様もお久しぶりでございます。この度は本条院家とのご婚約、誠におめでとうございます!」
祝いの言葉を述べると、店主はいきなりギュッとサクラ両手を握り、ブンブンと勢いよく上下に振り始た。強引な祝福に目を白黒させながらも、サクラは「ありがとうございます」と礼を言う。
「嗚呼!お求め頂いた髪飾りもよくお似合いですね!お嬢様の可憐な雰囲気に大変似合っております!」
目ざとく菖斗から贈られた髪飾りに目を付けた店主は、困惑するサクラを余所に「さすがは本条院様が選んだお品です!」などと褒め称えながら腕を振り続ける。
「人の婚約者の手を気安く握らないで貰えるかな?」
「ゴホンッ」という咳払いの後、一向に手を離さない店主に黒い笑みを向けながら菖斗が低い声で告げる。
「嗚呼!これは大変失礼いたしました!お会いできたことが嬉しくてつい!…おや、お嬢様顔が赤いですね…」
恥ずかしさと照れから真っ赤になっているサクラの顔を店主が「可愛らしいですねぇ…」と興味深そうに覗き込む。そのあまりにも不躾な行動にリリーが低く唸り始めた。
「いい加減にしろ」
菖斗は軽く店主を睨むと、彼から遠ざけるようにサクラの肩を抱き自分の方へと引き寄せた。再び感じる菖斗の体温にドキリと心臓が跳ねる。一気にいろんなことが起きすぎて頭と感情が追い付かない…。
「いやはや、失礼いたしました」
激しく動揺するサクラを見て、店主は悪びれる様子も無く「揶揄い甲斐がありますなぁ…」と面白そうに笑った。
「仲がよろしいようで羨ましい限りです。…冗談はさておき、本日もお嬢様に似合いそうな品をたくさん入荷しております。遠慮なくお選びください!」
「何でも坊ちゃまがご購入してくださいますよ!」と厚かましく声を上げながら、サクラの前に商品を並べ始めた店主を見て、菖斗は呆れたように溜息を吐いた。
「まずは頼んでおいた情報について聞かせて貰いたいのだが?」
冷ややかな声で告げる菖斗を横目に「余裕のない男は嫌われますよ」と肩を竦めながら、店主は残念そうに手を止める。
「警護隊の睨んだとおり、今回の件に南条樹が関わっていることは間違いありません。…ただ、奴を手引きしている人物はかなり慎重に行動しているようで未だに尻尾を掴めておらず…」
情報屋の報告を聞き、菖斗は「進展なしか…」と険しい表情で腕を組む。一気に張りつめた空気に、サクラは思わず姿勢を正した。二人の会話から今回の事件は敵勢力の詳細が掴めず、警護隊も動きが取れないのだと理解する。
考え込む菖斗に向かって、情報屋が「あと、少し気になる話がありまして…」と続けて口を開いた。
「勤務中に襲われた警護隊員は除きますが…。被害に遭った有力な術者達は皆、襲われる数日前に豊島家と商談を行っているらしいのです。」
久しぶりに耳にする名前にサクラはぴくりと肩を揺らす。情報屋の言葉に菖斗は「ふむ……」と興味深そうな表情を見せる。
「豊島家は帝都随一の商店を営んでいる。襲われた術者達が、贔屓にしていたとしても不思議ではないが…」
「一応調べてみることにしよう」と呟く菖斗の言葉に、「同じように商売をする身として気になることもございますので…」と情報屋が頷いた。
「とにかく、状況を見ると五年前の事件が関係していることは確かです。本条院の坊ちゃまもどうぞお気をつけくださいませ…」
意味深な言葉を告げ、恭しく頭を下げる情報屋を見ると急に不安が募る。恐る恐る菖斗の表情を窺うと、彼は真剣な表情でこくりと頷いていた。
「用心するよ。そちらも新しい情報が入ったら直ぐに知らせてくれ」
そう告げると、この話はお終いとばかりにサクラに向き直って笑みを向ける。
「さて、サクラ。何か気にいた品はあったかい?」
突然の問いかけに慌てて「大丈夫です」と告げるも、結局菖斗と店主に進められるがままに品物を購入することとなった。
「またのお越しをお待ちしております!」
嬉々とした声を上げる店主に見送られ、サクラ達は店を後にする。
「こんなに買っていただいて…ありがとうございます」
両手いっぱいに抱えた包みを眺めながら申し訳なさそうに礼を述べると、「情報屋への報酬でもあるからいいんだよ」と笑って返された。
「今日は久しぶりに一緒に過ごせて楽しかったよ」
不意打ちでの言葉に頬がカッと熱くなる。最近隊舎に籠りきりだったからなぁ…とのんびりと告げる菖斗の姿を見るとなんだかくすぐったい気持ちになった。
「私も楽しかったです…。」
照れながら小さな声で告げると、菖斗は満足そうに「それは良かった」と微笑む。
「明日からまた頑張れそうだよ」
「くれぐれもお身体にはお気を付けくださいね…」
先程の情報屋でのやり取りを思い出し、また不安が押し寄せる。菖斗が危険に晒される可能性があるということなのだろうか…。心配そうに眉を寄せながら思案するサクラの髪に、ゆっくりと菖斗の手が触れる。
「大丈夫、すぐに戻るよ」
あやすように優しく髪を梳かれ、本日何度目になるだろう…心臓がまたドクドクと激しく音を立て始めた。
そうだ、信じて待つと決めたんだ…。
菖斗が帰った時に疲れを癒せるよう、今は自分の術を磨くことに専念しよう…。菖斗を優しい眼差しで見つめ返し「はい…」と返事をしようとした瞬間------、
突然日が陰り、辺りに激しい突風が吹き荒れた。あまりの風圧に思わず身体を低くしてギュッとを目を閉じる。
「……やぁ、菖斗久し振りだね」
嘲笑うような声を耳にして恐る恐る目を開けると、赤く輝く巨大な飛鳥が翼を広げてサクラ達の行く手を遮っていた。
■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□
\お読みいただきありがとうございます!/
更新が遅くなってしまい申し訳ありません…。
ちょっとバタバタが続いておりまして、
お待たせすることもあるかもしれませんが…
引き続き執筆は続けて参りますので、
気長にお待ち頂けますと幸いですm(._.)m
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