43 / 50
第四章 不穏な動き
42.帰宅
しおりを挟む「只今戻りました」
自室でリリーを撫でながら微睡んでいたサクラは、玄関から聞こえた声に慌てて立ち上がり、急いで部屋を飛び出した。バタバタと駆けつけたサクラを見て、菖斗は「ただいま」と嬉しそうな笑みを浮かべる。
「お、お帰りなさいませ」
はしたなかったかしら…と頬を染めながらも、久しぶりの菖斗の姿にホッと胸を撫で下ろす。十日振りに目にする彼の表情には明らかに疲労の色がにじんでいた。少しやつれたようにも見える。
「お仕事大変なのですね…」
上着を預かりながら遠慮がちに声を掛けると、菖斗は「ちょっと立て込んでいてね…」と困ったように眉を下げた。
「でも捜査の目処が立ったから、久しぶりに休みを貰えたんだ」
決戦前に鋭気を養えという指示が出たらしい。「嗚呼、疲れた」と呟きながら菖斗は居間の長椅子へ身体を預ける。
「ひと段落着くまで、また暫く戻れないかもしれない。」
サクラの顔を見つめながら寂しそうに呟くと、菖斗は現在関わっている仕事について話し始めた。彼が捜査している術者襲撃事件は学院でも話題になっていたので、友人の少ないサクラでも大体の概要は耳にしている。
なかなか犯人の目星がつかないようだと聞いていたけれど…。
菖斗の話を聞きながら、やはり彼はこの事件の捜査に関わっていたのだなと一人納得する。
「リリーの呪いについても手掛かりが掴めそうなんだ」
襲撃事件の容疑者がリリーに呪術を掛けた可能性が高いと聞き、サクラは驚いて目を瞠った。「君の力もじきに戻るかもしれないね」と告げられ、リリーは嬉しそうに顔を輝かせて喉を鳴らす。
「呪術を扱う術者が容疑者だなんて…。随分と危険なのではないですか?」
不安に思って尋ねると、「確かに厄介な相手だね」と菖斗は困ったように微笑んだ。
「出来ればあまり戦いたくないのだけど…こればっかりはね」
遠い目をしながら告げる表情が気になったが、なんと尋ねていいのか分からない。掛ける言葉が見つからず齷齪するサクラを見つめ、菖斗がフフッ…と笑みを漏らす。
「僕一人で戦う訳じゃないし、大丈夫だよ」
大和ノ國の警護隊が優秀であることは百も承知だが、それでもやはり心配だ。万が一のことがあったらと思うと、居ても立っても居られなくなる。
でも、菖斗様は国を守ることがお仕事ですものね…。
将来彼の妻になる身として、こんなことでくよくよしてする様ではいけない。自分に出来ることは彼が安心して帰って来られるよう、家を守って待つことだけなのだ。
もっともっと菖斗の役に立ちたいと思うが、自分に出来ることはあまりにも限られている。せめて立派な女主人になれるよう精一杯努力しよう…。そうサクラが決意した時、
「サクラ、明日少し時間を貰えるかな?」
菖斗にのんびりと尋ねられ、何かあるのかなと不思議に思いながらも「勿論です」と頷いた。
「じゃぁ、明日はデートに行こう」
続けて告げられた予想外言葉に、驚きのあまり唖然とする。え…?この休暇は決戦に備えるためのお休みだと聞いたけど…?!
「い、いけません!せっかくの休日なのです。しっかり休んで頂かないと!」
頬を染め、しどろもどろになりながら反論するが、「一緒に過ごした方が安らぐから」と無邪気に微笑まれ、ぐっ…と言葉に詰まる。
こ、このまま流されてはいけない…!
その後も「ちゃんと休んで下さい!」と主張し続けたが、結局「情報屋にも会いに行かなきゃいけないから」と押し切られた。
「じゃぁ、明日楽しみにしているね」
満面の笑顔で告げられ、その破壊力に思わず息を呑む。これは絶対に分かってやっている…。諦めたように溜息を吐くサクラの耳元で、菖斗は追い打ちをかけるように「おやすみ」と囁き、顔を真っ赤にして固まる彼女を残して微笑みながら部屋を後にしたのだった。
0
お気に入りに追加
131
あなたにおすすめの小説
【完結】身を引いたつもりが逆効果でした
風見ゆうみ
恋愛
6年前に別れの言葉もなく、あたしの前から姿を消した彼と再会したのは、王子の婚約パレードの時だった。
一緒に遊んでいた頃には知らなかったけれど、彼は実は王子だったらしい。しかもあたしの親友と彼の弟も幼い頃に将来の約束をしていたようで・・・・・。
平民と王族ではつりあわない、そう思い、身を引こうとしたのだけど、なぜか逃してくれません!
というか、婚約者にされそうです!
女官になるはずだった妃
夜空 筒
恋愛
女官になる。
そう聞いていたはずなのに。
あれよあれよという間に、着飾られた私は自国の皇帝の妃の一人になっていた。
しかし、皇帝のお迎えもなく
「忙しいから、もう後宮に入っていいよ」
そんなノリの言葉を彼の側近から賜って後宮入りした私。
秘書省監のならびに本の虫である父を持つ、そんな私も無類の読書好き。
朝議が始まる早朝に、私は父が働く文徳楼に通っている。
そこで好きな著者の本を借りては、殿舎に籠る毎日。
皇帝のお渡りもないし、既に皇后に一番近い妃もいる。
縁付くには程遠い私が、ある日を境に平穏だった日常を壊される羽目になる。
誰とも褥を共にしない皇帝と、女官になるつもりで入ってきた本の虫妃の話。
更新はまばらですが、完結させたいとは思っています。
多分…
天才と呼ばれた彼女は無理矢理入れられた後宮で、怠惰な生活を極めようとする
カエデネコ
恋愛
※カクヨムの方にも載せてあります。サブストーリーなども書いていますので、よかったら、お越しくださいm(_ _)m
リアンは有名私塾に通い、天才と名高い少女であった。しかしある日突然、陛下の花嫁探しに白羽の矢が立ち、有無を言わさず後宮へ入れられてしまう。
王妃候補なんてなりたくない。やる気ゼロの彼女は後宮の部屋へ引きこもり、怠惰に暮らすためにその能力を使うことにした。
完)嫁いだつもりでしたがメイドに間違われています
オリハルコン陸
恋愛
嫁いだはずなのに、格好のせいか本気でメイドと勘違いされた貧乏令嬢。そのままうっかりメイドとして馴染んで、その生活を楽しみ始めてしまいます。
◇◇◇◇◇◇◇
「オマケのようでオマケじゃない〜」では、本編の小話や後日談というかたちでまだ語られてない部分を補完しています。
14回恋愛大賞奨励賞受賞しました!
これも読んでくださったり投票してくださった皆様のおかげです。
ありがとうございました!
ざっくりと見直し終わりました。完璧じゃないけど、とりあえずこれで。
この後本格的に手直し予定。(多分時間がかかります)
一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!
当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。
しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。
彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。
このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。
しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。
好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。
※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*)
※他のサイトにも重複投稿しています。
公爵様、契約通り、跡継ぎを身籠りました!-もう契約は満了ですわよ・・・ね?ちょっと待って、どうして契約が終わらないんでしょうかぁぁ?!-
猫まんじゅう
恋愛
そう、没落寸前の実家を助けて頂く代わりに、跡継ぎを産む事を条件にした契約結婚だったのです。
無事跡継ぎを妊娠したフィリス。夫であるバルモント公爵との契約達成は出産までの約9か月となった。
筈だったのです······が?
◆◇◆
「この結婚は契約結婚だ。貴女の実家の財の工面はする。代わりに、貴女には私の跡継ぎを産んでもらおう」
拝啓、公爵様。財政に悩んでいた私の家を助ける代わりに、跡継ぎを産むという一時的な契約結婚でございましたよね・・・?ええ、跡継ぎは産みました。なぜ、まだ契約が完了しないんでしょうか?
「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいませええ!この契約!あと・・・、一体あと、何人子供を産めば契約が満了になるのですッ!!?」
溺愛と、悪阻(ツワリ)ルートは二人がお互いに想いを通じ合わせても終わらない?
◆◇◆
安心保障のR15設定。
描写の直接的な表現はありませんが、”匂わせ”も気になる吐き悪阻体質の方はご注意ください。
ゆるゆる設定のコメディ要素あり。
つわりに付随する嘔吐表現などが多く含まれます。
※妊娠に関する内容を含みます。
【2023/07/15/9:00〜07/17/15:00, HOTランキング1位ありがとうございます!】
こちらは小説家になろうでも完結掲載しております(詳細はあとがきにて、)
【完結】浄化の花嫁は、お留守番を強いられる~過保護すぎる旦那に家に置いていかれるので、浄化ができません。こっそり、ついていきますか~
うり北 うりこ
ライト文芸
突然、異世界転移した。国を守る花嫁として、神様から選ばれたのだと私の旦那になる白樹さんは言う。
異世界転移なんて中二病!?と思ったのだけど、なんともファンタジーな世界で、私は浄化の力を持っていた。
それなのに、白樹さんは私を家から出したがらない。凶暴化した獣の討伐にも、討伐隊の再編成をするから待つようにと連れていってくれない。 なんなら、浄化の仕事もしなくていいという。
おい!! 呼んだんだから、仕事をさせろ!! 何もせずに優雅な生活なんか、社会人の私には馴染まないのよ。
というか、あなたのことを守らせなさいよ!!!!
超絶美形な過保護旦那と、どこにでもいるOL(27歳)だった浄化の花嫁の、和風ラブファンタジー。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる