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第四章 不穏な動き
40.浮かび上がった人物 ※菖斗視点
しおりを挟む術師襲撃事件から三日が経過し、警護隊舎はいつになく慌ただしい雰囲気に包まれていた。隊員達は泊まり込みで捜査を続けているものの、依然として犯人の特定には至っていない。手掛かりが掴めない焦燥感と、いつ襲撃されるか分からない緊張感が徐々に隊員達の体力を奪っていく…。
そんな張り詰めた状況の中、新たな犠牲者が出たとの報告が入った。襲われたのは見回り業務に当たっていた警護隊員である。過去の被害者と同様に肩から腹にかけて斬撃を受けたような傷跡が残っている。
現場へ駆けつけた菖斗は、微かに残る術の痕跡を感じ取り顔を顰めた。やはりこの気配や傷跡には覚えがある。意識の無い隊員を救護部隊へと預け、手早く検証を終わらせると、報告の為に警護隊舎へと急ぐ。
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隊長室の扉を叩くと直ぐに「入れ」と返事があった。入口で深く一礼した後、部屋の中央へと歩みを進める。
「現場検証を終え、只今戻って参りました」
「…どうだった?」
報告に来た菖斗を厳しい表情で見据えながら、第二特殊警護隊の隊長である平山幹太郎が続きを促す。名家の出身ではないが、生まれ持った高い魔力と身体能力を武器に数々の輝かしい戦績を残し、名だたる術者達を抑えて隊長へと昇り詰めた叩き上げの軍人である。
そんな百戦錬磨の彼でも、今回のように犯人の特定に苦戦する事案は初めてだという。大和ノ國に属する術者は政府によって厳しく管理されており、通常であれば術を使った事件が発生すると直ぐに犯人が特定されていた。
三日経過しても特定出来ないとなると、やはり“落ち”が関わっていると考えるのが妥当だろう……。
一連の襲撃は管理範囲外の術者が関わっている可能性が高い。先日思い当たった心当たりを報告していた菖斗は、その真偽を確かめるべく指示を受けて現場捜査の指揮を執っていた。
「やはり、一連の事件には南条樹が関わっている可能性が高いです。襲撃を受けた術者の中に意識が回復した者がいたのでそちらにも聞き込みを行ったところ、”鳥のようなものに襲われた”と証言していました。おそらく奴の聖獣のことでしょう」
菖斗の報告を厳しい表情で聞いていた幹太郎は「やはりそうか…」と深い溜息を吐く。
南条樹とは東洋魔術五大名家に名を連ねる「南条家」の長男で、その高い能力を買われて魔術学院を卒業後直ぐに警護隊員となり、幹太郎率いる当時の第二特殊警護隊にて副隊長を務めていた優秀な術者である。そして警護隊員で唯一の聖獣使いでもあった。
近い将来、国防の中心を担うと人物だと期待されていた樹だったが、五年前にとある事件をきっかけに反逆罪を犯し、南条家を勘当、魔力を封印されて国外追放に処されていた。
まさか、本当に樹さんが関わっているとは……。
菖斗はかつての上司を思い出して、唇を噛む。警護隊に入隊直後、教育係としてとても世話になった。あの優しい樹がこんな凄惨な事件を起こすなんて…。やはり五年前のあの出来事が彼の心に影を落としたのだろう…。
「まさか“落ち”るとはな…。しかし、五年前の国外追放の際に奴の聖獣も同時に封印されたのではなかったか?」
幹太郎に尋ねられ、ハッと我に返った菖斗は姿勢を正して報告を続ける。
「地下牢の看守に確認したところ、最初の襲撃があった日に聖獣の封印が解かれていたそうです」
「被害者には地下牢の看守も含まれています」という菖斗の言葉を聞き、幹太郎は顔を歪めて舌打ちをする。
帝都随一の防塞と言われる地下牢は、優秀な術者によって強固な結界を張られ厳重に警衛されていた。その地下牢に易々と侵入され、封印を解かれた上に逃げられるとは…完全にしてやられた。
「おそらく手引きした協力者がいるのでしょう。入国も地下牢への侵入も彼一人の力では不可能です」
内情に詳しい共犯者がいる可能性が高い。こちらについても早急に調査を進めなければ。
また暫く家には帰れそうに無いな……。
今後についての指示を受けた後、執務室へと向かいながら菖斗は疲れた頭でぼんやりとサクラのことを考える。直ぐにでも帰って顔を見たいが、危険人物を放置しておく訳にはいかない…。
早く尻尾を掴まなければ。
菖斗は気合を入れ直し、足早に執務室へと歩みを進めた。
■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□
\ お読み頂きありがとうございます! /
いつも小説を読んで頂きありがとうございます!
毎日1話ずつ執筆を進めているのですが、少し仕事が立て込み始めて執筆時間の確保が難しくなってきました…。。
出来るだけ毎日更新を心掛けますが、小説が上がらなかった際は、「忙しかったんだな」と察して頂けますと幸いです…_(:3 」∠)_
出来る限りお待たせしないように、頑張りますので何卒よろしくお願い致します!
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