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第二章 出会い

12.小さな綻び ※杏視点

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東十条家にて、サクラの緊張が最高潮に達していた頃―――。
杏は七条家へと戻る馬車に揺られながらギリギリと爪を噛んでいた。


取り巻き達を使ってサクラを虐めているところを寄りにもよって東十条様に見られてしまった…。


今日は珍しく、金魚の糞のようについて回る
聖獣が居なかったので、気が大きくなっていたのだろう。


サクラへの嫌がらせは聖獣に邪魔され不発に終わることも多かった。その鬱憤が溜まっていたこともあり、派手にやりすぎた。


…あんな目立つやり方をしたら、こちらに非があるのが明らかではないか。


サクラに術で水をかける取り巻き達の姿を思い出し、顔を歪めて舌打ちする。本当に使えない。


咄嗟に誤魔化したけれど、東十条様には怪しまれてしまったかも…。


自身を見据える籐子の厳しい表情を思い出し、首筋が冷える。名家の筆頭である東十条家とは懇意にするに越したことは無い。にも拘らず不信感を持たれてしまった。

それに……


何故、あいつを…?


サクラの手を取り、去っていた籐子の後ろ姿を思い返し唇を噛む。自分が知らないだけで元々親交があったのだろうか。


…例えこれまでの嫌がらせを言いつけられたとしても、どうってことないけど。


学院への根回しは出来ている。生徒は勿論、教師でさえも皆が口を揃えて杏の味方をするだろう。


どうせ東十条様にも、すぐに愛想を尽かされるわ…。


サクラには杏のような能力も気量も無いのだ。そうなったら、いくらでも籐子に取り入ることが出来る。


焦ることはない、次は上手くやろう…。


すぐにそう思い返すと、杏は意地の悪い笑みを浮かべた。


——


屋敷へ辿り着き、馬車を降りると「やぁ」と声を掛けられた。婚約者の梨久がひらひらと手を振っている。


「梨久様!会いに来て下さったのですね!」


杏は媚びるような声を上げて駆け寄り、梨久の腕に手を回した。


「是非上がって下さい。今日は父も母も出かけておりますの。」

上目遣いで梨久を見つめ、屋敷へと誘う。彼が姉の婚約者だった頃から、屋敷に来たら杏の私室で…というのが恒例だった。当然今日もそうだろうと、ぐいぐい腕を引いていたが、


「いや、今日は遠慮しておくよ。それより、サクラを知らないかい?」


意外にもさらりと断られた。サクラについて尋ねられ杏は眉を顰める。


「知りません。…どうされたのですか?」

「いや、少し用があったんだけど…出直すよ。」


梨久はそれだけ告げると、またねと微笑み杏に背を向けて去っていった。


久しぶりに会いに来てそれだけ…??


婚約者の背中が見えなくなるまで視線を送るが、梨久が振り返ることは無い。


…一体何なのだ。婚約を破棄して以降、一度もサクラを気にしたことなど無かったではないか。


杏は不機嫌な表情を隠すことなく、屋敷へと戻って行った。
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