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6章
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宰相との話の後、再度戦士を先頭に交易の女がいる牢の前まで来た。
槍を持つ二人の戦士の姿勢は変わらず、交易の女は寝台に寝転んでいたのだろう、起き上がり腰かけ髪を整えている。
女は覚悟を決めたように寝台に座り、俺を見据える。
「驚いた…。牢の鉄柵があるからかな?あたいでもあんたの瞳を見れるだなんて」
長い細い尻尾で体を守るようにしている蛇族の女と視線が交錯する。
「この女の罪は誘拐罪です、それ以外に久遠様がおわかりの罪が何かございますか?」
宰相がそう告げると、女が小刻みに震えだす。
岩の牢の簡素な寝台、用を足す穴。
俺が閉じ込められていた洞窟の牢よりは扱いはいいように見えるが、その心境はよくわかる。
永遠が現れたあの初春の数年前から、フラリと立ち寄っては物々交換をしてくれた。
誰もが恐れて俺を見ると逃げ出してしまうと言うのに、この交易の女だけは距離を取りながらも取引をしてくれた。
父母が亡くなってから会話をしたのなんて叔父である族長以外、この女だけだった。
俺の命より大事な永遠を攫った事は許せないし、今でも思い出すと腹の底がキリキリと傷む。
けれど俺の油断もあったし、この女には良くしてもらったこともたくさんある。
恐れをにじませながらも俺の採決を待つ女。
クウガ族の戦士3名と宰相も俺の言葉を待っている。
「永遠…あの白い幼体は今は成体となり俺と番った。おれの命より大事な番だ」
瞬膜という瞼のような蛇族特有のもので瞬きした女が不思議そうな顔をする。
「ああ、あの子は牡だ。だがそんなことは関係ない。ひとりぼっちで死んでいくはずだった俺の元に天から使わされた生きる希望だ、それをお前は攫った」
眼力が強すぎたのか女が寝台の上で後ずさる。
クウガ族の戦士3人と宰相も息をのみ俺の採決を待っている。
息を整え目を瞑り、よくよく考えた俺は--------
「お前が行ったことは不問にする」
そう言った途端、宰相がよろめき隣に立つ戦士がそれを支えた。
「久遠様」
宰相の責めるような感情が混じった言葉。
「不問だ」
2度目は宰相に向けて言った。
牢の中の女も信じられないと言う顔をしている。
「俺は独りぼっちだった。一生あのままだと思っていたが、1ウユーに数回だがこの女が持ってきてくれる様々な物に助けられたから、生きてこられたと言うこともある」
女を見ると寝台の上で上掛け布を握りしめ、じっとこちらを見ている。
「永遠を攫ったことは許せない、だが蛇族でなければ俺はきっと殺してしまっていたのだろう」
仮死状態という特殊能力を持った蛇族だったからこそ、俺は人殺しにならずに済んだ。
--------俺はずっと怖かったんだ。人を殺した汚れた手で永遠に触れていることに。
「だから…誘拐は大罪で許せないことだが、あの時俺を人殺しにしないでくれたことに感謝しているから不問だ、いいな?」
最後の言葉は宰相に向けて言ったものだ。
その場に跪き服従の礼を取る宰相
「おおせのままに」
その後、女は『二度と黒の王と白の番に近づかない』という誓約書を書かされたうえで釈放され、獣化して土へと潜り消えていった。
槍を持つ二人の戦士の姿勢は変わらず、交易の女は寝台に寝転んでいたのだろう、起き上がり腰かけ髪を整えている。
女は覚悟を決めたように寝台に座り、俺を見据える。
「驚いた…。牢の鉄柵があるからかな?あたいでもあんたの瞳を見れるだなんて」
長い細い尻尾で体を守るようにしている蛇族の女と視線が交錯する。
「この女の罪は誘拐罪です、それ以外に久遠様がおわかりの罪が何かございますか?」
宰相がそう告げると、女が小刻みに震えだす。
岩の牢の簡素な寝台、用を足す穴。
俺が閉じ込められていた洞窟の牢よりは扱いはいいように見えるが、その心境はよくわかる。
永遠が現れたあの初春の数年前から、フラリと立ち寄っては物々交換をしてくれた。
誰もが恐れて俺を見ると逃げ出してしまうと言うのに、この交易の女だけは距離を取りながらも取引をしてくれた。
父母が亡くなってから会話をしたのなんて叔父である族長以外、この女だけだった。
俺の命より大事な永遠を攫った事は許せないし、今でも思い出すと腹の底がキリキリと傷む。
けれど俺の油断もあったし、この女には良くしてもらったこともたくさんある。
恐れをにじませながらも俺の採決を待つ女。
クウガ族の戦士3名と宰相も俺の言葉を待っている。
「永遠…あの白い幼体は今は成体となり俺と番った。おれの命より大事な番だ」
瞬膜という瞼のような蛇族特有のもので瞬きした女が不思議そうな顔をする。
「ああ、あの子は牡だ。だがそんなことは関係ない。ひとりぼっちで死んでいくはずだった俺の元に天から使わされた生きる希望だ、それをお前は攫った」
眼力が強すぎたのか女が寝台の上で後ずさる。
クウガ族の戦士3人と宰相も息をのみ俺の採決を待っている。
息を整え目を瞑り、よくよく考えた俺は--------
「お前が行ったことは不問にする」
そう言った途端、宰相がよろめき隣に立つ戦士がそれを支えた。
「久遠様」
宰相の責めるような感情が混じった言葉。
「不問だ」
2度目は宰相に向けて言った。
牢の中の女も信じられないと言う顔をしている。
「俺は独りぼっちだった。一生あのままだと思っていたが、1ウユーに数回だがこの女が持ってきてくれる様々な物に助けられたから、生きてこられたと言うこともある」
女を見ると寝台の上で上掛け布を握りしめ、じっとこちらを見ている。
「永遠を攫ったことは許せない、だが蛇族でなければ俺はきっと殺してしまっていたのだろう」
仮死状態という特殊能力を持った蛇族だったからこそ、俺は人殺しにならずに済んだ。
--------俺はずっと怖かったんだ。人を殺した汚れた手で永遠に触れていることに。
「だから…誘拐は大罪で許せないことだが、あの時俺を人殺しにしないでくれたことに感謝しているから不問だ、いいな?」
最後の言葉は宰相に向けて言ったものだ。
その場に跪き服従の礼を取る宰相
「おおせのままに」
その後、女は『二度と黒の王と白の番に近づかない』という誓約書を書かされたうえで釈放され、獣化して土へと潜り消えていった。
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