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3章
16
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クスクスと笑うアルゼが掛け布を独り占めし体に巻き付ける。
暖炉の火が部屋を暖めてはいるが、裸のままの俺の皮膚はふるりと震えた。
それを見たアルゼが慌てて布を大きく広げその中へ俺を迎え入れる。
暖かさを求めていた皮膚が喜びの声をあげる。
「おぇ だいすき」
1日に何度も告げられる言葉に
「俺もだ。」
照れくさくて「好き」と言う言葉は交合の時にしか言えない俺に何度でも好きだと告げてくれる。
もう誰とも話さないと思ってた--------
アルゼを村に連れていかれてから俺はまた独り言が増えていった。
アルゼがいた頃と違い生き物は全く寄って来もしない、山頂での一人きりの生活。
布の中で温まりだす体が心地よさにブルリと震えると、勘違いしたアルゼが俺の体をさすってくれた。
「おぇ さむい?ごめんね」
抱きしめた背中を撫でてくれるアルゼだが、そこは先ほどの交合でアルゼに爪を立てられてまだヒリヒリしていた。
そんなことは気づいてもいないアルゼがギュウギュウと抱きしめてくれる。
幸せすぎる--------
幸せであればあるほど春の訪れが恐ろしかった。
冬の終わりと共に迫りくる期限。
誰もが喜ぶ春の訪れが俺にとっては恐怖の足音だった。
*
雪どけがはじまった小道を手をつなぎ歩幅を小さく歩く。
村の見回りも慣れたもので、もうアルゼの説明を聞かなくてもどこが誰の家か把握していた。
「ここが族長の家」
「せーかい!」
俺が誰の家か言い当てるたびに説明が増えていく。
族長の1番目の奥さんの家でここには息子が二人いるらしい。
ギュッと握った手は、ちぃの母が作ってくれた皮の手袋に覆われて寒さは微塵も感じない。
真新しい同じものが俺の手にもはまっていて、これはアルゼがちぃの母に教わって作ってくれたものだ。
縫い目が不ぞろいだがアルゼが1つ1つ丁寧に縫ってくれたのがよくわかるとても温かい手袋だ。
「おぇ」
「なんだ」
つないだ手をブンブンと振り俺の顔を見上げてくるアルゼ。
「おーぇ」
「なんだよ」
フッと笑うと嬉しそうに笑い返してくれる。
皆が冬眠して眠る村の中をユックリと手をつないで歩いているのは不思議な気分だ。
最近は降る雪が軽く小さくなってきていて春の訪れをヒシヒシと感じていた。
「いっちょ、ね」
ポツリとつぶやく言葉に胸がズキンと痛む。
その短い言葉に込められた想いが俺の胸に突き刺さる。
置いていかないで--------
アルゼももう気づいているのだろう、こうしていられる時間がもうあと少しもないことを。
ザクザクと踏みしめて進む道の雪が融ける頃には、俺は山頂へと戻りアルゼとは離れ離れになる。
一緒に山頂の家に行きたいと伝えているアルゼに返す言葉が見つからなかった。
できれば俺もそうしたい。
けれど族長が村人たちがそれを許さないだろう。
アルゼから聞いた村での生活は、どれほどに村人たちがアルゼのことを大切に家族のように思っていたかが伺えるもので、恐ろしい悪魔のような俺の番になどと許してもらえるはずがなかった。
「また冬になったら…」
「めーの!」
また冬になったら会える。
そう言い終わらないうちにアルゼが言葉を遮る。
つないだ手をキツク握りしめ責めるように潤んだ瞳で見上げてくる。
「めー、のよ。いっちょ、いく」
真っ白な髪が風に舞い上がり、瞳からこぼれおちそうな雫が陽の光を浴びて煌めく。
なんという美しさだろう。
こんなに美しい愛らしい生き物を俺なんかが--------
許されない。
けれど…離れたくない。
瞳からあふれる雫が頬を伝い落ちる前に、俺は愛しい体を抱きしめていた。
「…遠くに」
2人で誰もいない遠い場所に行こうか。
そう言おうとした瞬間、全身が緊張感に包まれた。
「…?」
この道の先は、村のはずれの陋屋とは村を挟んで反対側の森へと続く道だ。
いつもと何ら変わらないように見える、その小道を見つめる俺の尻尾が警戒の形にピンと立ち上がる。
ザワザワと俺の背筋を這いあがるものが危険を知らせてくる。
「ゆっくりだ…ゆっくりと下がれ」
アルゼの体を離し、村の家のほうまで下がように伝える。
アルゼが安全な場所まで下がったのを確認した俺が振り返って目にしたものは、荒らされ扉が壊された1軒の家だった。
暖炉の火が部屋を暖めてはいるが、裸のままの俺の皮膚はふるりと震えた。
それを見たアルゼが慌てて布を大きく広げその中へ俺を迎え入れる。
暖かさを求めていた皮膚が喜びの声をあげる。
「おぇ だいすき」
1日に何度も告げられる言葉に
「俺もだ。」
照れくさくて「好き」と言う言葉は交合の時にしか言えない俺に何度でも好きだと告げてくれる。
もう誰とも話さないと思ってた--------
アルゼを村に連れていかれてから俺はまた独り言が増えていった。
アルゼがいた頃と違い生き物は全く寄って来もしない、山頂での一人きりの生活。
布の中で温まりだす体が心地よさにブルリと震えると、勘違いしたアルゼが俺の体をさすってくれた。
「おぇ さむい?ごめんね」
抱きしめた背中を撫でてくれるアルゼだが、そこは先ほどの交合でアルゼに爪を立てられてまだヒリヒリしていた。
そんなことは気づいてもいないアルゼがギュウギュウと抱きしめてくれる。
幸せすぎる--------
幸せであればあるほど春の訪れが恐ろしかった。
冬の終わりと共に迫りくる期限。
誰もが喜ぶ春の訪れが俺にとっては恐怖の足音だった。
*
雪どけがはじまった小道を手をつなぎ歩幅を小さく歩く。
村の見回りも慣れたもので、もうアルゼの説明を聞かなくてもどこが誰の家か把握していた。
「ここが族長の家」
「せーかい!」
俺が誰の家か言い当てるたびに説明が増えていく。
族長の1番目の奥さんの家でここには息子が二人いるらしい。
ギュッと握った手は、ちぃの母が作ってくれた皮の手袋に覆われて寒さは微塵も感じない。
真新しい同じものが俺の手にもはまっていて、これはアルゼがちぃの母に教わって作ってくれたものだ。
縫い目が不ぞろいだがアルゼが1つ1つ丁寧に縫ってくれたのがよくわかるとても温かい手袋だ。
「おぇ」
「なんだ」
つないだ手をブンブンと振り俺の顔を見上げてくるアルゼ。
「おーぇ」
「なんだよ」
フッと笑うと嬉しそうに笑い返してくれる。
皆が冬眠して眠る村の中をユックリと手をつないで歩いているのは不思議な気分だ。
最近は降る雪が軽く小さくなってきていて春の訪れをヒシヒシと感じていた。
「いっちょ、ね」
ポツリとつぶやく言葉に胸がズキンと痛む。
その短い言葉に込められた想いが俺の胸に突き刺さる。
置いていかないで--------
アルゼももう気づいているのだろう、こうしていられる時間がもうあと少しもないことを。
ザクザクと踏みしめて進む道の雪が融ける頃には、俺は山頂へと戻りアルゼとは離れ離れになる。
一緒に山頂の家に行きたいと伝えているアルゼに返す言葉が見つからなかった。
できれば俺もそうしたい。
けれど族長が村人たちがそれを許さないだろう。
アルゼから聞いた村での生活は、どれほどに村人たちがアルゼのことを大切に家族のように思っていたかが伺えるもので、恐ろしい悪魔のような俺の番になどと許してもらえるはずがなかった。
「また冬になったら…」
「めーの!」
また冬になったら会える。
そう言い終わらないうちにアルゼが言葉を遮る。
つないだ手をキツク握りしめ責めるように潤んだ瞳で見上げてくる。
「めー、のよ。いっちょ、いく」
真っ白な髪が風に舞い上がり、瞳からこぼれおちそうな雫が陽の光を浴びて煌めく。
なんという美しさだろう。
こんなに美しい愛らしい生き物を俺なんかが--------
許されない。
けれど…離れたくない。
瞳からあふれる雫が頬を伝い落ちる前に、俺は愛しい体を抱きしめていた。
「…遠くに」
2人で誰もいない遠い場所に行こうか。
そう言おうとした瞬間、全身が緊張感に包まれた。
「…?」
この道の先は、村のはずれの陋屋とは村を挟んで反対側の森へと続く道だ。
いつもと何ら変わらないように見える、その小道を見つめる俺の尻尾が警戒の形にピンと立ち上がる。
ザワザワと俺の背筋を這いあがるものが危険を知らせてくる。
「ゆっくりだ…ゆっくりと下がれ」
アルゼの体を離し、村の家のほうまで下がように伝える。
アルゼが安全な場所まで下がったのを確認した俺が振り返って目にしたものは、荒らされ扉が壊された1軒の家だった。
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