上 下
21 / 84
第2章 オーディン

【21】 苦しくて愛しい

しおりを挟む
シルヴィがベッドに入ってから30分後に私は部屋に入る。
起きる恐れはないので、電灯を点けベッドに腰掛け寝顔を見る。
あぁ…天使とはこのような者のことを言うのだろう。
清らかで汚れを知らない体と心が無防備に私の前に横たわる。
私が守ってやらねば即座に汚されてしまうであろう。
上掛けをめくり、少し右向きに脱力し眠るシルヴィを眺める。
飽きることなくいつまででも見ていられる。
だが深い眠りの時間は限られている。
髪の感触を確かめるように指をすべらせ、その長い髪に顔を寄せる。すべらかで今宵も良い香りがする。
スゥスゥと規則正しい息が聞こえる。
長いまつ毛が時折ピクリと動くのも可愛い。
ピンクに色づく頬に顔を寄せ頬をすり合わせる。赤子のように柔らかな肌だ。
その頬に口づけると欲望がムクリと持ち上がるのを感じる。やめろ、まだ駄目だ…
少し開いた艷やかな唇から赤い舌が見える。
そっと口づけ、離す。
何度も繰り返すと「ん…」と言い、寝返りをうってしまった。
顕になったうなじが真っ白でなまめかしい。
そこにも口づけを落とす。ここに私の所有印を刻みたい…
見える場所はマズイと冷静な判断がまだ出来るようだ。首の後ろ側に舌を這わせ、吸い付き赤い痕を残した。
ここならば長い髪で、見えることはないだろう。
私のものだと全世界に言いたいのに、まだ言えないこのもどかしさが苦しくて愛しい。

この部屋は厳重に近衛の黒服達に守らせているが、王宮での仕事で帰りが遅くなる時もあり心配は尽きない。
今夜、黒服から受けた報告では、夕食時に1番年若のメイドとシルヴィが会話をしたそうだ。
内容は出た料理の素材についてだそうだが、その時のシルヴィが楽しそうに笑っていたと…。
この日を以てシルヴィに近づき世話をしてよいのは黒服のみと決めた。




次の日、私の異母弟でありシルヴィの従兄弟であるリュドミールの誕生祝いの品を買いにでかけた。
これがいわゆる初デートになるのだな。
放課後に行くので制服のままなのがデートっぽくないが、シルヴィと一緒ならどこでも楽しい。
車の窓から街並みを見て頬を染め「すごい」と感動するさまも、可愛らしい。
「あれは時計?凄く大きい」と指差す時計塔も、いつもより輝いて見える。
シルヴィと見るだけで世界はこんなにも違うものだろうか。
買い物中、ぬいぐるみ売り場に興味を示したシルヴィがその中の1つに指をツンツンした。
くっ…私もツンツンしてほしいぞ。
神の使いとされているその生物のぬいぐるみをシルヴィはつつきながら感触を楽しんでるようで、声を出して笑った。
その笑い顔がとてつもなく貴重な宝玉のように感じられ、永遠に見ていたいと思った。
黒服に指示し1番大きなその動物のぬいぐるみを手配させた。

シルヴィにスィーツを食べて帰ろうと誘われた。いよいよデートっぽいぞ。
だが安全面から唐突な飲食は出来ないと黒服が言うと、誠に残念そうな顔をした。
私の立場のせいで苦労をかけることに心が傷んだ。

不自由な思いをさせることも多かろうが、それを補って余りある愛情を注ぐ、私は神にそう誓った。

しおりを挟む
感想 21

あなたにおすすめの小説

全寮制男子校でモテモテ。親衛隊がいる俺の話

みき
BL
全寮制男子校でモテモテな男の子の話。 BL 総受け 高校生 親衛隊 王道 学園 ヤンデレ 溺愛 完全自己満小説です。 数年前に書いた作品で、めちゃくちゃ中途半端なところ(第4話)で終わります。実験的公開作品

私の事を調べないで!

さつき
BL
生徒会の副会長としての姿と 桜華の白龍としての姿をもつ 咲夜 バレないように過ごすが 転校生が来てから騒がしくなり みんなが私の事を調べだして… 表紙イラストは みそかさんの「みそかのメーカー2」で作成してお借りしています↓ https://picrew.me/image_maker/625951

嫁側男子になんかなりたくない! 絶対に女性のお嫁さんを貰ってみせる!!

棚から現ナマ
BL
リュールが転生した世界は女性が少なく男性同士の結婚が当たりまえ。そのうえ全ての人間には魔力があり、魔力量が少ないと嫁側男子にされてしまう。10歳の誕生日に魔力検査をすると魔力量はレベル3。滅茶苦茶少ない! このままでは嫁側男子にされてしまう。家出してでも嫁側男子になんかなりたくない。それなのにリュールは公爵家の息子だから第2王子のお茶会に婚約者候補として呼ばれてしまう……どうする俺! 魔力量が少ないけど女性と結婚したいと頑張るリュールと、リュールが好きすぎて自分の婚約者にどうしてもしたい第1王子と第2王子のお話。頑張って長編予定。他にも投稿しています。

平凡な男子高校生が、素敵な、ある意味必然的な運命をつかむお話。

しゅ
BL
平凡な男子高校生が、非凡な男子高校生にベタベタで甘々に可愛がられて、ただただ幸せになる話です。 基本主人公目線で進行しますが、1部友人達の目線になることがあります。 一部ファンタジー。基本ありきたりな話です。 それでも宜しければどうぞ。

完結・虐げられオメガ妃なので敵国に売られたら、激甘ボイスのイケメン王に溺愛されました

美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!

異世界転移して美形になったら危険な男とハジメテしちゃいました

ノルジャン
BL
俺はおっさん神に異世界に転移させてもらった。異世界で「イケメンでモテて勝ち組の人生」が送りたい!という願いを叶えてもらったはずなのだけれど……。これってちゃんと叶えて貰えてるのか?美形になったけど男にしかモテないし、勝ち組人生って結局どんなん?めちゃくちゃ危険な香りのする男にバーでナンパされて、ついていっちゃってころっと惚れちゃう俺の話。危険な男×美形(元平凡)※ムーンライトノベルズにも掲載

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

ハイスペックストーカーに追われています

たかつきよしき
BL
祐樹は美少女顔負けの美貌で、朝の通勤ラッシュアワーを、女性専用車両に乗ることで回避していた。しかし、そんなことをしたバチなのか、ハイスペック男子の昌磨に一目惚れされて求愛をうける。男に告白されるなんて、冗談じゃねぇ!!と思ったが、この昌磨という男なかなかのハイスペック。利用できる!と、判断して、近づいたのが失敗の始まり。とある切っ掛けで、男だとバラしても昌磨の愛は諦めることを知らず、ハイスペックぶりをフルに活用して迫ってくる!! と言うタイトル通りの内容。前半は笑ってもらえたらなぁと言う気持ちで、後半はシリアスにBLらしく萌えると感じて頂けるように書きました。 完結しました。

処理中です...