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第1章 シルヴァリオン

【11】 裸の付き合い

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日曜日、学園が休みの今日もオーディンはお仕事で出かけていった。
一人暇なボクに『皇子宮を案内してあげて』とオーディンが黒服さんに言ってくれた。

皇子宮は建築様式で言うとゴシック建築のようだった。
大きな窓に色とりどりのステンドグラス、精巧な彫刻の数々に目を奪われる

(皇帝の宮殿はロココ調だな)

現世にいた頃からヨーロッパの古い建築に興味があって、大学3年になったら友人とヒッチハイクで旅をしながら様々な国を巡りたかった

ここは昔の皇帝の宮殿だったらしい、納得の豪華絢爛さだ。
舞踏会の広い部屋、謁見室、通路すら美しい絵画で彩られ美術館のようだ。
客間、執務室、使用人の部屋、厨房と隅々まで見て回る。
そのたびに数え切れないほどの使用人がボクに頭を下げる。

(どんだけ広いんだ…)

最後に連れてこられたのは露天風呂付きの大浴場だ。
温泉大好きのボクのテンションはあがる。(温泉なのかは定かではないが)
エーリスは雪国だが温泉も出るのだ。
部屋のお風呂ばっかし使ってたけど、こんなのあるなんて知らなかった。
オーディンにお願いして、今夜入らせてもらおう。

一人で昼食を食べた後は庭の散策だ。
広大な宮殿を取り巻くお庭は、小川が流れていたり、池があったり、温室や東屋があったりして、完璧なイングリッシュガーデンとはこんなのだろうかというような美しい庭だ。
温暖なシアーズ皇国では年中花が咲き乱れている。
それに引き換えエーリスは…
ボンヤリそんなことを考えている、内門まで来た所で「これより先は行けません」と制されてしまった。
遠くに見える外門には沢山の人がいて、門兵さんの交代式を見に来た観光客のようだ。
(ボクも見てみたい)
お願いしてみるも黒服さんの答えはNOだった。
「オーディン様の許しを得てください」の一点張りだった。
観光客の女子がボクのほうに手を振っているのが見える。
あの子が手にしている飲み物は、現世で流行っているタピオカミルクティーに似ていた。
ダメ元で黒服さんに「あれ買いに行きたい」と言ってみたがやっぱりNOだった。
「買ってきますので」と言われたが、そういうことじゃないんだ。

鉄の門扉がボクを閉じ込める檻のように感じて息苦しくなった。





帰ってきたオーディンに大浴場に入りたいとお願いしてみると、夕飯後に案内するよと言ってくれた。

(すっごい楽しみ!)

バスタオルと着替えを手に持って、オーディンについて大浴場に向かう。
『あのお風呂は温泉だから24時間沸いていて、いつでも好きな時に入っていいよ』と言われた。

(朝から温泉とか贅沢もできちゃうな)

映画で見たローマのお風呂みたいな大浴場にテンションがあがる。
入り口にメイドさんが控えていた、ボクの荷物を奪い取ると中に案内される。

(ちょっと待って!もしかしてこの人達、着替えもお風呂もついてくる気じゃ!?)

脱衣場であろう場所で、オーディンは数人のメイドさんに次々と脱がされていってる。
(待て待て待てーーーい!)
ボクに群がるメイドさんたちを全力で拒絶し一人で出来るからと言うと、オーディンが「全員下がれ、呼ぶまで来るな」と言ってくれた。
ふー危なかった あんなキレイなメイドさんたちに脱がされるなんて、ある意味天国で地獄だ。

オーディンと二人きりになって、ほっとしたのもつかの間「脱がせてやろう」の一言で、あっという間に裸にひん剥かれた。
男同士だから!と自分に言い聞かせつつ持ってきたバスタオルを体に巻きつけると、「脱がせてくれ」とイケメンが言ってきた。
メイドさんに途中まで脱がされてたオーディンのシャツのボタンが全部はずれてて、割れた腹筋が見える。 
男のボクがこうなりたいと願う体がそこにあった。
生白いボクの体とは全然違う小麦色の肌は日焼けのためじゃなく民族性だろう。
(自分で脱ぎなさいよ)と言いたいが、ボクのせいでメイドさんがいなくなっちゃったので…
オーディンの後ろに回りシャツを脱がせる、背中や脇腹にも美しい筋肉がついている。
前に回り、見ないようにベルトをはずしズボンを下ろした。

「男同士なのに、何を恥ずかしがる」愉快そうに言うオーディンが意地悪だ。
下着に手を掛け、一気に下ろすと籠に投げ入れ、逃げるように浴場のほうに走った。

昼間見た浴場は、ほんの一部だったことがわかった。
木々の向こうにいくつもの湯船が見え、小高い岩場になってるところからは滝のように温泉が流れ落ちている。
(あそこに見えるのはサウナだろうか)
見惚れるボクをよそにオーディンが1番大きな湯船に入った。
(かかり湯…なんてしないのか どうせここに入れるのはオーディンだけだもんね)
でも日本人の礼儀としてボクは端っこでかかり湯をしてから、できるだけオーディンに見えないようにバスタオルをはずし湯船に浸かった。
(股間を隠す小さいタオル持ってくればよかった…)
オーディンから1番遠い場所に座ってお湯の感触を楽しんでいたら、オーディンがすぐ側まで来ていた。




広い湯船なのに、すぐ隣まで来たオーディン。
恥ずかしいのでそっちを見ないようにしてたら、オーディンの指がツツーッとボクのうなじを触った。

「細いな」

いつもは長い髪を下ろしているけどお湯に浸かるといけないと思って頭頂部でお団子にしてたから、うなじの細さが目立ったんだろう。
オーディンの首を見るとガッシリとして首まで筋肉質だ。
ファイットー! いっぱぁーーつ!!のCMの人みたいな体で羨ましい。

湯でリラックスしてると恥ずかしい気持ちが薄れてきた。
(そうだよ現世じゃ兄貴とよく銭湯に行ってたし、兄貴だと思ったらヘッチャラだ)
ザバッと湯から出て洗い場で髪と体を手早く洗った。
(変に体なんて隠すから恥ずかしいんだ)
他の湯船も入ろうかなっと振り向くと、さっきの湯船の縁に座ったオーディンがじっとこっちを見てた。

(まさかずっと見てた…?)
堂々と股間を隠さず、でも視線をそらして次の湯船に向かう。
とても浅いこの湯船は、なだらかな坂になっていて寝転ぶようにして入るようだ。
寝転んでみると、ちょうど下半身が湯に浸かるほどの湯量で頭には柔らかな枕があたっている。
美しい月と星が見えた。

オーディンは?と見るとさっきの場所から動かずこっちを見ていた。
(もしかして…自分じゃ洗えないんだろうか?)
髪洗いましょうか?と言うと嬉しそうに微笑んだ。
洗ってあげた後、体はどうしよう…と悩む。

多分この人は生まれてこの方、自分で洗ったことがないのであろう。
それでいいんだろうか?大国シアーズが滅びる未来がないわけでもない。
一般庶民の暮らしをこの人は知ってるんだろうか?
知る必要もないのかも知れない、だけど……

「オーディン様 少しづつでもいいので自分で洗う練習しませんか?」
ボクがそう言うと不思議そうな顔をした後

「こうして毎日一緒にこの風呂に入ってくれるなら」と約束してくれた。


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