この愛を貴方に。

平井ゆづき

文字の大きさ
上 下
6 / 7

06

しおりを挟む
王宮について、各自別行動となる。
もっとも、アンとスティーブとは一緒だが。ついでにクリスも。

クリスはこんなのでも王国の第二王子だ。
一応敬わなければ。
もう既に嫌われているのだから関係ない気もするが……。


「おいおい、君も一緒か。まだ貴族を名乗っていたんだな。誰の子かもわからないような娘がよくもこのパーティーに来ようと思えたものだ。」


帝国の公爵令嬢であったお母様を馬鹿にするなんてこの人大丈夫か?

誰の子かわからない子はそこのアンとスティーブでしょ。
どちらも母親似だから何も言われていないだけで。


「申し訳ございません。本当はパーティー参加を辞退しようと思っていたのですが、年に一度の王宮パーティー参加は貴族の義務でもありますので……。」

「ふんっ。まあいい。惨めな格好で笑い者になるのがおちだな。」


言い捨てるだけ言い捨てて二人は腕を組んでいちゃつき始めた。

私に見せつけているつもりなんだろうか?

二人が無駄にいちゃついている間にもひっきりなしに人が挨拶に来る。
当然二人が真面目に挨拶なんてするはずもなく……。

はい、とかご苦労、とかを繰り返している。

しかし王子でも無視しにくい相手が来てしまったようだ。


「お久しぶりです、クリス王子。この度はお招き頂き光栄です。」


その相手は、流れるようなエメラルド色の髪を結ばずに肩まで流した目元にほくろのある美しい、まさに貴公子という言葉の似合う男性だった。
年は私たちよりも二、三歳上に見える。

アンなんか、婚約者がいるのに無視して見とれている。


「久しぶりだな。レオナルド王子は相変わらずのもてっぷりだな。」

レオナルド王子と言えば、帝国の王太子様の名前だ。
と言うことは彼がそうなのだ。

確かに先程まで大勢の女性が集まっているエリアがあったと思ったが、それはレオナルド王子のいる場所だったのか。

確かに色っぽい顔やしぐさをしているので女性は虜になってしまうのだろう。


「ところでそちらの三人の方はどなたなのかご紹介頂いても?」


そう言ってレオナルド王子はチラッと私を見た気がした。
この人は流行に敏感そうだから去年流行のこのドレスを変に思ったのかもしれない。 


「ああ。隣にいるこの女性が私の最愛の婚約者、アン・アスター公爵令嬢だ。そしてその後ろにいるのがその姉のサーラと弟のスティーブだ。」


「そうなのですね!では、サーラ様、私とダンスをお願いできますか?」

「なっ、ちょっと待って下さい!姉は足を怪我していましてダンスは……。」

「アンは黙っていてください!」


王族相手に何を言っているのか。
私たちのような貴族が断っていい相手じゃない。

大方、自分より先に私がこの美しい王子と踊るのが気に食わないのだろう。


「どうしてお姉さまはそんなにきつい口調でおっしゃるの?私はただお姉さまにダンスはお辛いと思って……。」

「そうだぞ!なぜいつもアンを虐げるのだ。こんなにも優しく思いやりに溢れている女性を私は今まで見たことがない。だからお前は私に婚約破棄などされるのだ!」

「そうなのかい?」


気のせいか、レオナルド王子の口から冷たい声が出ていたような気がする。


「いや、何でもないよ。それなら尚更サーラ嬢をダンスに誘わないといけないな。仲のよい二人の邪魔をするなんて野暮だからね。」


レオナルド王子はふたりにウィンクをして、エスコート役のスティーブに断りをいれると私の手を引いてダンス会場に導いてくれた。


「足を怪我しているなんてあの子の嘘なんだろう?」


へえ、あの子の嘘を見破る男がいたんだ。
でも嘘を認めていいことなんてない。


「いえ、本当です。」

「そう?じゃあダンスはここら辺でやめにして端の方で休憩しようか。」

「え?」



この王子は何がしたいんだろう……。




しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

拝啓、婚約者さま

松本雀
恋愛
――静かな藤棚の令嬢ウィステリア。 婚約破棄を告げられた令嬢は、静かに「そう」と答えるだけだった。その冷静な一言が、後に彼の心を深く抉ることになるとも知らずに。

わたしは婚約者の不倫の隠れ蓑

岡暁舟
恋愛
第一王子スミスと婚約した公爵令嬢のマリア。ところが、スミスが魅力された女は他にいた。同じく公爵令嬢のエリーゼ。マリアはスミスとエリーゼの密会に気が付いて……。 もう終わりにするしかない。そう確信したマリアだった。 本編終了しました。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

王子様、あなたの不貞を私は知っております

岡暁舟
恋愛
第一王子アンソニーの婚約者、正妻として名高い公爵令嬢のクレアは、アンソニーが自分のことをそこまで本気に愛していないことを知っている。彼が夢中になっているのは、同じ公爵令嬢だが、自分よりも大部下品なソーニャだった。 「私は知っております。王子様の不貞を……」 場合によっては離縁……様々な危険をはらんでいたが、クレアはなぜか余裕で? 本編終了しました。明日以降、続編を新たに書いていきます。

愛しき夫は、男装の姫君と恋仲らしい。

星空 金平糖
恋愛
シエラは、政略結婚で夫婦となった公爵──グレイのことを深く愛していた。 グレイは優しく、とても親しみやすい人柄でその甘いルックスから、結婚してからも数多の女性達と浮名を流していた。 それでもシエラは、グレイが囁いてくれる「私が愛しているのは、あなただけだよ」その言葉を信じ、彼と夫婦であれることに幸福を感じていた。 しかし。ある日。 シエラは、グレイが美貌の少年と親密な様子で、王宮の庭を散策している場面を目撃してしまう。当初はどこかの令息に王宮案内をしているだけだと考えていたシエラだったが、実はその少年が王女─ディアナであると判明する。 聞くところによるとディアナとグレイは昔から想い会っていた。 ディアナはグレイが結婚してからも、健気に男装までしてグレイに会いに来ては逢瀬を重ねているという。 ──……私は、ただの邪魔者だったの? 衝撃を受けるシエラは「これ以上、グレイとはいられない」と絶望する……。

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。

鶯埜 餡
恋愛
 ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。  しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

気まぐれな婚約者に振り回されるのはいやなので、もう終わりにしませんか

岡暁舟
恋愛
公爵令嬢ナターシャの婚約者は自由奔放な公爵ボリスだった。頭はいいけど人格は破綻。でも、両親が決めた婚約だから仕方がなかった。 「ナターシャ!!!お前はいつも不細工だな!!!」 ボリスはナターシャに会うと、いつもそう言っていた。そして、男前なボリスには他にも婚約者がいるとの噂が広まっていき……。 本編終了しました。続きは「気まぐれな婚約者に振り回されるのはいやなので、もう終わりにします」となります。

【完結】引きこもりが異世界でお飾りの妻になったら「愛する事はない」と言った夫が溺愛してきて鬱陶しい。

千紫万紅
恋愛
男爵令嬢アイリスは15歳の若さで冷徹公爵と噂される男のお飾りの妻になり公爵家の領地に軟禁同然の生活を強いられる事になった。 だがその3年後、冷徹公爵ラファエルに突然王都に呼び出されたアイリスは「女性として愛するつもりは無いと」言っていた冷徹公爵に、「君とはこれから愛し合う夫婦になりたいと」宣言されて。 いやでも、貴方……美人な平民の恋人いませんでしたっけ……? と、お飾りの妻生活を謳歌していた 引きこもり はとても嫌そうな顔をした。

処理中です...