グッバイ、親愛なる愚か者。

鳴尾

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 坊主頭は、僕がどれだけ無視をしていても懲りずに話しかけてきた。毎朝会えば僕におはようと言い、昼になれば一緒に昼食を食べようと言い、授業が終われば僕の隣を歩いて学生寮へ帰り、他愛のない話をべらべらと話し続けた。そして僕が寮室に入る直前、必ず「また明日」と言った。僕が医務室へ逃げ出したときに追いかけてくることはなかったけれど、かといって距離を取ったりもしなかった。他のクラスメイトたちのように好奇の目を向けることもなく、普通に話しかけてくるこの坊主頭のことが、僕はどうしても分からなかった。
 教師やクラスメイトたちの目には、僕と坊主頭はそれは仲の良い友人に見えていたことだろう。僕は坊主頭のことを無視こそすれ、拒絶や否定はしなかったから。あいつがずっと喋り続けていたから、僕がちょっと無口でも…ひと言たりとも喋っていなかったけれど、ともあれ傍から見れば会話しているようには見える。この坊主頭は僕に構い続けてはいたが、僕を心配するような言葉は一度だって吐かなかった。毎日べらべらと話し続けていたのに、僕が医務室に行こうが同室の彼と一緒に授業を休もうが、それに関することだけは何も言わなかった。つくづく変なやつだ。
 僕に直接話しかけてきたのは坊主頭ただひとりだったが、僕のことを話す声は教室のあちこちから聞こえていた。授業中に倒れることはあるのだろうかとか、どうして同室の彼を巻き込むのだろうかとか、可哀想じゃないのかとか、くだらないことをべらべらと。それでいて僕と目が合ったらイタズラがバレたみたいに気まずそうな顔をして黙り込む。だったら僕にも聞こえる声量でやるなよ。

「あの子の看病のためにあなたまで授業を休むことはないよ。医務室に連れて行けばそれでいいでしょ。短い学生生活を無駄にしているよ。」

彼の友人が彼に言った言葉は、彼だけでなく教室にいた全員の耳に入っただろう。坊主頭がどんな顔をしていたのかは見ていないから知らないけれど、きっと聞こえていたに違いない。
 坊主頭は一瞬言葉を詰まらせたあと、また何事もなかったかのように話し始めた。僕は放っては置けないからとか善人ぶった言い訳を苦笑いでしている彼を見ながら、坊主頭のくだらない与太話を聞いていた。

 坊主頭はなんとも不思議なやつだ。四六時中僕に構って、ほかに友人はいないのだろうか。たまに先生から何か格闘技の表彰状を受け取っているのを見るに何かはしているのだろうが、聞くたびに格闘技の種類が変わっているせいでよく分からない。強いことだけは分かるが結局何をしているんだろう。
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