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200回記念・続学園モブ女子 本編少し待っててね
学園モブ女子 6
しおりを挟む全速力でその場を離れたクローディアは現場で1つの恋の花が咲き乱れたことなど露知らず、無事に紅丸とアルフレド達と合流しアルカンダル学園へと足を急いでいた。
それはもう、どこで◯ドアを今すぐ使って移動したいぐらいに急いでいるのだが、この紅丸とアルフレドという男達は実は他の人よりも敵が思ったよりとても多いことをうっかり忘れていた。
紅丸目当てには、伊賀だか甲賀だかの残党共が。
アルフレドには彼の腹違いの弟がおり、その本人は関係ないのだがその周りの人達との相続争いの為の暗殺隊が、あちこちから襲いかかってきたのだ。
「もうっ!!時間がないのに次から次へと湧き出て・・・・・だから、私の背後に立つんじゃねぇーーーーーー!!」
「ぎゃぁぁぁーーーーーーーッ!!!」
そんな刺客達を次々に迎え撃ち、苦労の末ようやく学園内へと戻ってきた時には、ちょうど例の授業開始のチャイムが鳴り響いていた。
「ーーーーーーーー!!!」
「お、おいっ!教室はこっちだろ!?俺を置いてどこへ行く気だっ!?」
クローディアにそれまでつきっきりで守られていたアルフレドは、ふと彼女の服の裾をつかんだままの自分の手に気がつき慌てて振り払おうとしたものの、それよりも先にかなり焦った様子の彼女からその腕を乱暴なまでに振り払われてかなりのショックを受けている。
「お、俺はオーギュスト財閥の息子だ!この俺の命令に背く気かっ!!」
「!?」
逆に離れていこうとするその腕をつかみ、反対側の手で彼女の後ろにある壁に手をついた。
いわゆる『壁ドン』であるが、これ相手が苦痛を感じたら犯罪の1つに当てはまってしまうらしい。
つまりは、ロマンチックどころか自称でないイケメンしか使えない危険な武器ということですね!
もちろんアルフレドはそのイケメン枠には入るものの、今はそこにドキっ!とか乙女ゲーム&少女漫画のヒロインのごとく無駄にときめいている暇はどこにもない。
ときめき&萌え放題でその頂点を極めるではないかという、課金ガチャしなければ拝めないような永久保存必須の最強スペシャルレアイベントがクローディアを待っているのだ。
「・・・・・・けんな」
「なに?」
「ようやくここまできたのに、これ以上まだ私の行く手を邪魔するなら、あんたでも絶対に許さない」
「ひいっ!!」
瞳孔が開ききった血走った目と、怒りを通り越した青い炎を思わす般若の表情からの強烈な圧迫に、アルフレドは思わずつかんでいた手を放してその場に黙ったまま立ち尽くした。
その横を、風のような勢いでクローディアが制服のスカートを翻しながら駆けていく。
「く、くそっ!!」
後ろで2人を黙ったまま見守っていた紅丸も、クローディアが動くと同時にアルフレドへと頭を下げその後を静かに追いかけていった。
「・・・・・・アルフレド様」
「!?!?」
そんな彼のところへ、音も立てずにスーツをビシッと着込んだ大柄な背と体格のサングラスをつけた1人の男が膝をついてその足元へと現れ静かに頭を下げる。
「お、遅いぞバーチッ!!!貴様この俺のボディーガードのくせに、いったい今まで何をしていたっ!!!!」
自分に向かって跪く男に向けて、アルフレドの怒号が空高く響き渡る。
「申し訳ありません。あなた様を連れ去った男達がかの手の者と知り、わたくしめは大元を抑えておりました。あなたの側に危険が及んだ際はすぐに飛び出せるよう直属の部下を何人か近くに配置しておりましたが、信頼できるボディーガードがすでについておりましたので、お役に立つことなく終わったようです」
「・・・・・ということは、お前は彼女を知っているんだな?」
あちこちから現れる刺客達を忍者風の少年とともに恐ろしいスピードで倒していく姿は確かに只者ではないと思っていたが、オーギュスト財閥におけるボディーガードの長を務めている彼が『信頼できる』と太鼓判を押すほどならやはりかなりの腕だということだ。
「はい。この世界ではかなり有名な会社の、新生ルーキーと聞いております。彼女自身がというよりも、彼女に手を貸しているその周りにいる者達の方が有名かもしれませんが」
「ふん!!それで、大元は?」
「あらかたの首謀者は捕らえております。かなり近しい側近も今回は裏で動いておりましたので、これ以上の言い逃れはできないかと」
「分かった。後のことは頼んだぞ」
「御意!」
バーチが深々と頭を下げる姿に短くため息をつくと、アルフレドは腕を組みながら彼女が去っていった方向をじっと見つめる。
『安心はできないかもだけど、あんたは私が守るから』
「・・・・・・・」
オーギュスト財閥の息子である自分に向かって、あんな風に目を逸らさず堂々としていた女はこれまで側にはいなかった。
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実際のところ、彼女はただ自分の想い人のことを考えての行動をしていただけなのだが、そんなことは今のアルフレドには分からない。
「ちゃんと、最後まで守れよ」
「アルフレド様?」
「バーチ!お前に至急調べて欲しいことがある」
「はっ!喜んで!」
アルフレドはある人物の名を告げると、そのまま自分のクラスへと足を運ぶ。
これまでアルフレドは『アルカンダル学園』に行く意味を見出せず、家で専属の家庭教師からハイレベルの勉強を直接指導されていた方がよっぽど効率的でいいと休みがちだった。
学園側も多大な寄付をしてくれているオーギュスト財閥の機嫌を損ねるわけにはいかず、何よりアルフレドの成績は学園に通わずともとてもハイレベルだった為、強く来させようとはできなかった。
だが、その日からは1日足りとも休むことはなく学園へ毎日通うことになる。
彼はそれまで知らなかったのだ。
『学校』は勉学だけではなく、他にもたくさんとても大切なことを学ぶ特別な場所なのだということに。
それを彼が少しずつ知っていくのは、また別の物語となるーーーーーーーー。
その頃、クローディアはというと。
エリザベスと一緒に行くはずだった『秘密のイベント場所』へと全速力で向かっていた。
途中で携帯が鳴り、相手の名前を見た瞬間に彼女の顔が一気に青ざめる。
「レオッ!!まさか、ジークフリート様に何かあったのっ!?」
「・・・・く、く、クロエっ!俺っ!」
電話の向こう側にいるレオナルドは泣いているようで、声に嗚咽が混じっていた。
「ちょ、ちょっと、何があったのっ!?大丈夫!?え?泣いてたら分からないって!」
「うぅ。さ、さっき!すっごい怖い夢を見て!」
「は?」
思わず、すっ転びそうになったところを何とか耐える。
「もう!すっげーすっげー怖かったっ!!お願いだから、早く帰ってきてっ!!」
お母さん!と、後に続きそうな?勢いで泣きながらレオナルドは電話の向こうで泣き叫んでいた。
「・・・・レオ、ちなみにジークフリート様は?」
「へ?たぶん普通に授業終えて、次の温水プールに向かったはずだけど?」
「たぶん?」
「うん!授業の最後の方はついつい寝ちゃったからよく分からないけど、大きな音はしなかったよ!」
「やっぱりかこのおバカっ!!何仕事中にグースカ寝てんのっ!!」
この場に彼がいたら確実にその頭をはたいてやるものを!
心配していたとおり、レオナルドは見事睡魔に勝てず居眠りをしていたようだ。
内容は覚えていないらしいがかなり怖い夢だったようで、エリザベスの待つ秘密の場所にちゃっかり護衛も兼ねて?一緒に合流していたレオナルドは、クローディアが到着するなり飛びついてきてそれからしばらくその背中から決して離れようとはしなかった。
顔は笑顔になっていたが、背中に触れている彼の身体が震えていたから怖い夢云々は本当の事だろう。
「クロエっ!!あなたどこで油売ってましたの!?もうラジオ体操は終わってましてよ!!」
「クロエぇぇぇーーーーーーー!!!」
「ごめん、エリザベスっ!!えぇ!?ら、ラジオ体操終わっちゃったの!?うぅ・・・・・スーパー激レアものの貴重な時間が!!」
「安心なさいクロエ!このエリザベスに抜かりはなくってよ?お二人の素晴らしい姿は、ちゃんとここにおさめましたわ!」
「あぁっ!!女神様っ!!!!」
後ろからすぐに振り解けないほどのかなり強い力でレオに抱きしめ(締め付け)られているクローディアは、携帯のムービー画面を彼女に印籠のごとく向けながら鈴のような声で高らかに笑うエリザベスに泣きながら頭を何度も下げた。
そこにはキリッとしたいつも通りの真面目な表情のまま、黙々と誰よりもキレのいい動きで完璧なラジオ体操を踊る愛しい人が!!
そして『秘密の場所』の窓からは温水プール内の水の中へと次々に入っていく男子生徒達の姿が!
その中にジークフリートとグレイの姿を見つけると、2人の黄色い声援が大音量で鳴り響く。
な、な、な、なんて素晴らしいっ!!
スクール水着という体の一部だけを隠すアイテムにその身を包み、普段は制服で決して見ることのできない鍛え抜かれた筋肉がバッチリ肉眼で見えるほとんどが肌色の世界っ!!
筋肉フェチじゃないけど、目に見える全てが眩しくてしかたがないっ!!
そこにいる全員が水に濡れた姿を晒しているはずなのに、なぜそんなにもあなたは強烈な色気を放っているのかっ!!!
水で濡れた髪をかきあげる、その何でもない仕草ですでに今にも鼻血を吹きそうです!!
え?
護衛はどうしたのかって?
もちろん、ジークフリート様に仇なす輩はたとえ最強レベルのときめきと萌えに脳内がピンクの世界になっていたとしても決して許しはしません。
さっきも、ジークフリート様をいつも成績で敵わないと敵視しているクラスメイトのある男子生徒がプールサイドにいる彼をつき落とそうとしているのが分かり、すぐさま彼の髪の毛だけを一瞬で燃やしてやった。
きっと明日には丸坊主で登校してくるだろう。
彼と同じクラスメイトだろうが、彼を少しでも害そうとする輩は決して許しはしない。
愛と正義の、ブレザー制服、美少女にはなれないと分かっているモブ戦士、クローディア=シャーロット!
ジークフリート様の死亡フラグを少しでも立てちゃうやつは、乙女ゲームの神と全国の乙女ゲームを愛するどれだけ腐ってもその中心には汚れのない心清らかな乙女の心を持った色々な者達に変わってーーーーーーーお仕置きどころか、地獄の業火で燃やし尽くしちゃうぞ☆
はい、これちゃんと完璧なポーズ取ってますから!
え?今はそれ古いだろって?
いやいや、これは永久不滅ですよ?
何?お前が犯罪にならないのかって?
いえいえ、これは盗撮ではなく護衛の為の大切な任務です!
しかもそこに写されてるのはジークフリート様しかいないって?
ターゲットに危険が起きないように、いついかなる時でもその周りから目を離さず見つめ続けるのは大事なお仕事です!
へ?鼻血が出てる?
おっと、これは失礼!
いやいや、ゲームのスチルでもイケメンの裸は(上半身です)たまらないのに、生身の人間でこの眩しい姿が拝めるなんて興奮と妄想とにやけとシャッターを押す手が止まりません!!
夢の中でもこの景色が拝めるよう、深く深く脳内の隅々までこの光景を焼きつかせなくては!!
「もう、裸が見たいならいつだって俺が脱ぐのに」
「うへへへへ・・・・・ん?レオ、何か言った?」
後ろから抱きついたままのレオナルドが何かぼそっと耳元で呟くが、全神経を前方に向けていたクローディアの耳には届いていない。
「ベーーつに!何でもなぁーーい!!」
「ぐえっ!ちょ、ちょっと苦しいってば!」
それは十分分かっているもののやっぱり面白くないと、レオナルドはより力を込めて彼女の体を抱きしめる。
「・・・・・一番近くにいるのは俺なのに。クロエのバカ」
首元に顔をうずめながら頬を膨らませて漏らされたその寂しげな響きの言葉は、彼女に届く前にある女性の悲鳴に近い叫び声にて掻き消された。
「クロエっ!!次はジークフリート先輩とグレイ様の一騎打ちですわ!!!」
「うおっしゃぁぁぁーーーーーーー!!今回も絶対ジークフリート様の勝利間違えなし!!」
「あら~~?お生憎様!お二人の次の競技は背泳ぎ!!背泳ぎでグレイ様の華麗なる腕裁きの右に出る者は、この学園には一人としていなくてよっ!!」
「くっ!確かに。グレイ先輩の一糸乱れぬあの完璧なフォームからの滑らかな泳ぎは素晴らしいけど、でも勝つのは絶対にオールマイティに何でもできるジークフリート様ですっ!!」
「いいですわ!ならば正々堂々、勝負ですわ!!」
「望むところだっ!!」
バチバチバチバチッ!!!!
2人の間に、激しい火花が散る。
自分の推しメンの為ならば、長年の友情だろうとも横に置いておくこの戦いにおいて遠慮は一切なく、お互い自分の想い人の方がよりカッコいい!!素晴らしい!尊い!!と論争はどんどん激しさを増すばかり。
これがお互いの彼氏自慢ならばまだいいものの、残念ながら片思い同盟だ。
『もう1人の親友』は長年の幼馴染からの彼氏持ちな為、毎回生暖かい目でこの戦を見守られている。
隣に立つ親友、エリザベスは美人でプロポーションも抜群。品行方正、成績優秀、家柄もオーギュスト家に次ぐ名門の出という非の打ち所がないステータスを持つ、その立ち居振る舞いも完璧なお嬢様であるが、恋愛に関しては全くダメダメらしく告白なんてもってのほかですわ!!と、こうしてクローディアと影からひっそりと側で見つめ続ける日々だ。
「・・・・・・あ」
そんな火花が散る戦場の最中、クローディアの視界に幾つかの暗い影が映る。
「レオ、何か聞こえる?右上と左上。あと、前方にいるやつら」
ぴったりとくっいているのを無理に離そうとしなかったのは、この為でもある。
ボディーガードということをエリザベスには黙っている為、内緒話をするにもこの距離ならば違和感なく話ができるからだ。
彼の耳元に向けて小声で要件を伝える。
「えっとね・・・・・・ここにはいない。狙う相手は金髪の男だって」
「!?」
先ほど倒しきったと思ったが、まだ残っていたらしい。
「・・・・・紅丸」
「承知でござる」
後ろで静かに控えていた紅丸が、その一言とともに部屋から姿を消す。
うん、これでしばらくは大丈夫だろう。
「クロエ!!ラストスパートですわっ!!」
「えっ?あ!すごい!!どっちも同じスピードっ!?」
気がつけば、生徒会会長VS副会長の一騎打ちの対決に他のクラスメートの男子生徒達も大いに盛り上がって応援している。
勉強もスポーツも、ほとんど毎回のようにワンツーフィニッシュを決めている2人であり普段はあまり本気になる姿を周りに見せない2人だからこそ、この一騎打ちには皆が手に汗を握りしめながら熱く見守っていた。
そして、その結果はーーーーーーーー。
「ど、同率一位ですって?」
「うん。コンマ1秒単位で同時だって、聞こえてきたよ?」
「・・・・・は、はいぃぃ?」
何がどうすごいのか、もはや全く理解ができない。
とにかく、今回も決着はつかずじまいだということだ。
「さ、クロエ!そろそろ次の授業の準備に行きますわよ!」
「へ?いや、だって今2人が水から上がってハイタッチしてて」
まさにスチルにして何度でも拝みたい、激レアシーンだ。
「何を言ってますの!これ以上のサボりはわたくしが許しませんわ!」
「いや、だって1時間も2時間も変わらな・・・・痛っ!え、エリザベス!うで、腕がもげるからっ!!」
「このあとは、初等部の生徒が見学に来ますのよ?こんなところでサボってる姿は、彼には見せられませんわっ!!」
そう、初等部には確かアルフレドの腹違いの弟がいて、名前は確かラファエル君だっけ?
エリザベスは彼の家庭教師をしているらしく、今日の日をすごく楽しみにされていて困ると、困るどころか顔を赤くしつつ恥ずかしそうな大変可愛らしい顔で話していた。
「そうだよ!いい先輩として、早く授業に行かないと!」
「!?」
なぜかにっこりと満面の笑みを浮かべたレオナルドが反対の腕を引っ張り、クローディアは2人から引きずられる形でその場から引き剥がされそうになる。
「ふ、2人でなんて卑怯すぎる!あ、嫌!待って!私の天国がぁぁ~~!!」
足をどれだけばたつかせて踏ん張ってみても、2人からグイグイ引っ張られては何の意味も持たない。
「ジークフリート様ぁぁ~~~!!」
目の前に映る、ジークフリート様の水も滴るいい男姿は視界からどんどん離されて行き、それを涙をだばだばと流しながらクローディアは最後までその一点だけを名前を叫びながら見つめ続けた。
「・・・・・・・・」
3人が秘密の部屋から出て行った後、プールサイドではタオルで髪を拭きながら立ってたジークフリートが、ある一点を無言のまま見つめている。
「どうした?」
そんな彼に、同じくタオルで髪を拭いていたグレイが声をかけた。
「いや、また猫がいたと思ってな」
「ねこ?」
「あぁ・・・・ねこだ」
この男はそこまで猫好きだっただろうか?と、グレイが首をかしげるほどその眼差しは彼にしては珍しく優しいものに溢れていたという。
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