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新たな旅の始まり
もう戦士はいりません
しおりを挟む本当に大切なモノは、目には見えないんだな
「・・・・大切なものは目には見えない、か」
「どうした?急に」
クローディア達が旅立った後日。
執務室での書類作業を朝一から手がけていたジークフリートは、ふと独り言のようにつぶやく。
「いや、今朝久々にラインハルト団長が夢に出てきてな」
「珍しい」
最近は彼の夢など、全然見ていなかった。
「あぁ。本当に、久しぶりだ」
書類の手を少し休めると、ジークフリートはふうっ息を吐く。
その顔は、彼にしてはずいぶんと穏やかなものだった。
ジークフリートの表情を見たグレイも、口元だけ小さな笑みを浮かべる。
ラインハルト団長だけでなく同時にルイーズ副団長も失った、当時の騎士院にいたもの全員が肉体的にだけではなく、精神的にも大きな傷を遺した戦いだった。
そんな彼の最後の姿を見届けることになったジークフリートとグレイは、彼らのことを思い出す際は何年も苦痛を要し、まともな思い出話すらも最初の内は避けていたようにも思う。
悲しい思い出よりも、遥かに大事な日々の方が多かったはずだというのに。
そして、ジークフリートが彼の夢を見てこんな穏やかな顔をしているのを、グレイは初めて見た。
「大切なモノは目には見えない。だからお前達はそれを見誤るな。あの人の、最後の言葉だったな」
「・・・・あぁ」
快活な普段の彼らしからぬ、苦しそうに歪められた笑顔で伝えられた、遺言のように放たれた死ぬ前に見た彼が放った最後の言葉。
「この後、久しぶりに二人の墓参りに行ってくる」
「なら、俺の分まで花を添えてくれ」
「・・・・あぁ、分かった」
二人の墓参りすらも、忙しさを理由にしてまともに行けていなかった。
今思えば、本当はただそこに向き合うのが辛かっただけなのかもしれない。
『大事なもの』それはずっと己が守る民であり、王家であり国であった。
ラインハルト団長とルイーズ副団長を失ったあの日、2人の代わりにこの命を国の為に使おうと強く心に決めて打ち込んできたが、今ではその守るべき民の中でふわりと他よりも自分の心の中で眩しく笑う、一人の少女の存在があることが当たり前になったのは果たしていつからだったのか。
その存在に違和感を覚えた時期もあったが、今は彼女を想うと心臓の奥から熱が溢れ出てゆっくりと全身へとそれが伝わる。
自らの手でその存在を守ることができない今をもどかしくも思うが、彼女の大切な存在が暮らす『国を守る』ことが今の自分の大きな役割だ。
「・・・・・・・・・」
一瞬だけ、彼女が自分へと託してくれた『月の水鏡』に目線を送ると、全身に気合を入れ直し目の前にある山のように積まれた書類へと再び向き合う。
今日もアルカンダル王国の頭上では、全てを照らし見守り続ける太陽の光が温かく降り注いでいたーーーーーーー。
その太陽が西日となり、赤々と燃えるように空を茜色に染め上げた風の谷の空の下では、村全体に響き渡りそうなそれは大きな笑い声が鳴り響いていた。
「嬢ちゃん!あんたおもしれぇこと言うじゃねぇかっ!!いや~~まさか初対面でいきなり神様なんて言われるほど、俺が神々しく見えていたとはなぁ!!」
「!?!?」
ビシッと決めポーズを取ったままのクローディアの顔がゆでダコのように真っ赤なものへと代わる。
「・・・・・クローディア殿、大丈夫でござるか?」
黙ったまま震えるクローディアを心配した紅丸が声をかけるが、むしろ恥ずかしさに拍車がかかり全身がさらに震え始めていた。
とにもかくにも、ただただ恥ずかしい。
名探偵の陰では、必ずと言っていいほど真実と間違えた推理を披露するキャラクターがいて先に大失敗をおかしてその後真打登場の流れも多いが、普段は真打ばかりに目がいって引き立て役となったキャラクターへ思いをはせることはほぼない。
だが、今思うのはそのキャラクター達への賞賛と尊敬の意だ。
こんな恥ずかしい思いを毎回?のように味わい、それでも毎回めげずに自分の推理を皆の前で堂々と披露するキャラクターはどこまで鉄の心臓を持っているのか。
その鋼のような精神を今だけはぜひともお借りしたい。
少なくとも、この場にゲームの攻略キャラクターや関係者達が1人もいなかったのが何よりも救いだろうか。
もしいたら恥ずかしさのあまり、この場から猛ダッシュで走り去って崖から飛び降りてしまうかもしれない。
穴があったら、いやなくともスコップがこの場にあったら今すぐ穴を深く掘り進んでどこまでも潜りたい。
「いやぁ~~悪い悪い!山賊に間違えられたことは数あれど、聖職者でもない神様なんかほぼ無縁なだだのいっぱしの剣士が、まさかそんなものに間違われるとは思ったこともなくてなぁっ!」
バンバン!と固まったままの背中を笑われたままかなりの力で何度も叩かれる。
励ましてくれているのかもしれないが、正直痛い。
いや、水の魔力の守りがあるはずなのにこのダメージ量っておかしくない?
「・・・・・・ッ!?」
空きっ腹だからなんとかいいものの、これ何か食べてたら間違いなく口からリバースするやつですよね?
キラキラしたモザイクかかって、静かな音楽と自然の映像が挟まれちゃうやつですよね?
○ロしても許されるのは、元々が可愛いヒロインだけですからね!!
可愛ければゲ○しても、目が○○向いてもい、口が○○○れてても、鼻○ジしてもヒロインとして成り立ちますけど、クローディアは残念ながら外見偏差値平均点かそれ以下です。
そんなことをしたって誰の何の萌も与えられませんからっ!!
そんでもって、痛みに無反応でも必死に耐えてるだけで確実にHPは減らされてますから!!
ステータス猛毒並みに追加ダメージくらって、ステータス画面がオレンジから赤に変わってますからぁ!!
いや、まさか君の性格はあの『豪傑』ですかっ!
あれ、力はものすごい上がるけど他はてんでダメだからね?
あなたは素晴らしい人です!ってめちゃくちゃ褒められても、力以外のステータスはカスだからね?
それよりも、それは性格なのか?っていうお色気系の性格がステータスバランスダントツってどういうことですか?
セクシーで世界は救われるんですか!?
色気がない女はステータスもカスですかぁっ!?
確かに、ゲームキャラはかなりの確率でセクシーキャラがいる!!
けど、どんな性格にしても途中で必ず『男○り』か『セクシー○○○』になってましたけどね!!
「・・・・・・って、いや本当マジで痛いんですけどっ!!どんだけ人の背中に紅葉まんじゅう作る気ですかぁーーーーーー!!!」
叩かれすぎてその耐えきれない痛みにとうとう恥ずかしさを怒りが超えた為、クローディアの怒りの鉄拳はまっすぐ男に向かって伸びていた。
「!?」
けれど、その拳が男の体に届く前にクローディアの手首は大きな手にガシッ!と掴まれ、今度は頭を反対側の手でガシガシと大きな動きでもって撫でられる。
「ちょっ!な、何するんですかっ!!」
「ハハッ!!そう怒るなって!!せっかくの可愛い顔が台無しだぞ?」
「!?」
普段言われ慣れない言葉に反応して、つい顔が再び熱を持つ。
男は顔面をくしゃっとさせた笑顔のまま、クローディアの方へぐっと顔を寄せてきた。
「・・・・・お、怒ってませんから、もういい加減離して下さいっ!!」
掴まれていた手を乱暴に振りほどいてなんとか側から離れると、ぜえぜえと荒い呼吸を繰り返してなんとか息を整えた。
恐るべしは、イケメン&イケボパワー!!
特にイケボには普通の人の何百倍も萌が反応しやすいクローディアにとって、この男はベスト5に入るほどのいい声をしていらっしゃる。
もちろん、ナンバーワンはジークフリート様です!!
大人イケメンに低音イケボと、この鍛え抜かれたいい体格にあの強さ。
神はこの男に一体どれだけの恩恵を与えているというのか。
どう考えてもゲームにおけるメイン攻略相手か、隠し攻略相手としてしか考えられない。
それともクローディアが知らないだけで実は前世の死後、ゲームの続編が出て追加キャラクターでも生まれたんだろうか?
「・・・・・あの剣の腕前と体の動き、そなたこの村のものではないでござるな?一体何者でござる?」
「べ、紅丸!」
その時、クローディアと男の間に鉄の爪を構えた紅丸が真剣な眼差しで立ち塞がる。
「おっと!いや、俺はどこににでもいる旅の剣士だ」
いやいやいや、こんなのがどこにでもいたらメインキャラクターしかいないそれは濃い世界になって、むしろ存在感の薄っぺらいモブが目立ってしまいますよ。
「ただ・・・・」
「ただ?」
「どっかで頭を打ったらしくて、少し前からの記憶がすっぽり抜け落ちてるんで、実は俺にも俺がどこの誰かわからねぇーんだけどなっ!!」
「はいぃぃぃっ??」
満面の笑顔だった男が困ったように苦笑を浮かべ最後は豪快に笑いながら答えたのは、やっぱりお前『黒』だろ!!と全力でクローディアが突っ込みたくなるような内容だった。
大人イケメンに低音イケボと、この鍛え抜かれた体格にあの強さ、そんでもって怪しさしかない記憶喪失という特殊ステータス。
これでただのモブだと言うには特別オプションがつきすぎているが、とりあえず攻撃態勢のまま構えている紅丸に武器を向けさせることだけは辞めさせた。
そうじゃないと、自分の身の安全と店がこれ以上壊れることに恐怖しているマスターの寿命がガンガン削られていってしまいますからね。
「あの、記憶喪失ってことはもしかして、自分の名前も分からないんですか?」
あなたは一体、何者ですか?
「うーーーん、実は頭の中に強く残ってた言葉があったから、たぶんそれが俺の名前なんじゃねーかとは思ってんだがな」
「残っていた言葉?」
「あぁ・・・・・ルイーズ。それが、今の俺の名前だ」
「!?」
どこかで聞いた名前だと思ったけれど、すぐにはそれがなんだったか思い出せずにいた。
「で、嬢ちゃん。あんたの名前は?」
「私は、クローディア=シャーロットです」
「クローディアか。いい名じゃねぇかっ!よしっ!これからよろしくなっ!」
「あ、はい。よ、よろしくお願いします!」
太陽のように眩しい満面の笑顔とともに目の前に差し出されたルイーズと名乗る男の手につられて、うっかり手を伸ばしてしまったクローディアの手が大きな手に掴まれてブンブンと勢いよく上下に振られる。
ん?
これから?
「えっと、ルイーズさん。これから、とは?」
「何言ってたんだ!神様探しの旅だろ?いやぁ~~考えるだけでも楽しそうで腕がなるぜっ!!」
「・・・・・・へ?」
こうして、今回の旅のパーティーになぜか『旅の戦士』が有無を言わさず無理やり入ってきた。
なぜまた戦士??
紅丸は『武闘家』としても、『戦士』はクローディアとレオがすでにいる。
4人ともが攻撃メインって、作戦名は『ガンガン行こうぜ!!』一択ですか?
これどう考えてもすぐに死ぬパーティーですよね?
魔法使い系の敵に囲まれた際に、魔法を連続でくらって1ターンで全滅する
あれですよね?
いいんですよ、遠慮しなくて。
遠慮せずおしとかやで可愛い女の子の僧侶を出しても、ちょっとセクシーな胸元にボリュームのある色気あるお姉さん魔法使いが来ても、誰も文句なんて言いませんから!!
むしろ、全力で愛でて可愛がりますからっ!!
お願いだから、イケメンよりもイケてる回復能力星☆5つキャラクターを引かせて下さいっ!!!
クローディアの心の底から頼み込んだ切なる願いは、どこかにいるだろう神には届かなかった。
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