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2人の王子

ずっと願っていたもの

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クローディア達がランディ王子のお母さんがいるという謁見室に入った時、その場にはアルカンダル国王夫妻にアルフレドとエリザベスまでもが同席していた。


ちなみに、ルークは調べたいことがあるからとさっさと魔法院へ帰ってしまった。


ランディ王子と手を繋ぎながら部屋に入ってきたラファエル王子の姿に、エリザベスが安心したような表情を浮かべていたのが見える。

そんな彼女に、頬を赤く染めながらラファエル王子は小さく会釈をして応えた。



そして国王夫妻の前には、国賓であるグランハット王国の王妃となる女性と、その護衛として側についているだろう髭を生やした、体格が良く威風堂々とした姿のルドラ将軍が側に付き従っている。

その女性はアルカンダル王妃であるマーサ様とはまた全然違った快活な雰囲気で、細身だが華奢な感じではなく城の中よりも街中や森の中を走り回っている方が似合いそうな感じがした。

ランディ王子とよく似た、草原を思わすグリーンの豊かな髪を頭の高い位置で結いあげている。

瞳もランディ王子と同じ紺碧で、その少しつり上がった猫のような勝気な目から感じられる、どこかツンとした雰囲気もよく似ていた。

だが彼女はそれを隠したいのか、隣のルドラ将軍に何かを耳打ちされては小さなため息とともにその顔を不安気でどこか頼りない雰囲気のものに変えて醸し出すが、少しするとすぐに彼女の本来の姿がどこか見え隠れしているような、不思議な違和感を覚えた。


「ランディ王子よ、勉強中にお呼び立てしてすまぬな!そなたの母上がどうしてもそなたに会いたいと、自国で待つのも我慢できずに遠路はるばる我が国までお越しになったそうだ!」


アレキサンダー王が2人に目配せしながら呼びかけるが、ランディ王子は彼女を見ないようにとわざと大きくその顔を逸らす。


「・・・・・・ッ」

「ほら、ランディ!ちゃんと向き合うって決めたんでしょ?」


彼の葛藤する気持ちも分かると、しっかりと繋いだ指をもう一度強く握りながらラファエル王子がその顔を覗き込めば、ランディ王子はどこか怯えたような目をして震えていた。

彼の頭の中に今在るのは、実の母から向けられた化け物を見るようにして怯えたその顔と、放たれた拒絶の言葉。



『わたくしの側に近寄らないで!!』


『いや!!こんな化け物を呼ぶような子は、わたくしの子どもじゃないわ!!』


『可愛いわたくしの子どもを返して!!』



それは、実の親子であるにも関わらず遠くからでしかその姿を見ることすらも許されなかった母上に、ある日城の中庭で見つけたキレイな花を見せたかっただけだった。


きっと喜んでくれると、ちいさな鉢植えに植え替えた珍しい青い花を持って行ったら、怯えたその手でその鉢植えは地面に投げ捨てられ、泣き叫びながらパニックになった母上はその場にいた兵士にすぐさま連れて行かれた。


他の子どもは泣いたら母親が心配して駆けつけて来てくれるのに、ぼくはどれだけ泣いても母上に顧みられることは決してなく、その最後ですらも母上の目にぼくが映ることは一瞬たりとてなかったのだ。



「・・・・・・・ッ」



これまでの様々な記憶と気持ちが一気に押し寄せて来て、息が上手く出来ない。



胸が苦しくてーーーーー言葉が出てこない。




「大丈夫ですよ、ランディ様」


「!?」

 

その時、急に体が温かい温もりに包まれて息が楽になった。



「ラファエル様、少し彼をお借りしますね」

「は、はいっ!」

「お、おいお前っ!?何をするんだ、このブス!!今すぐぼくを下ろせっ!!」



急に目線が高くなったかと思ったら、ランディの体はクローディアに腰をしっかりと抱えられながらその腕に抱きかかえられていた。

こんな風に抱かれることなど、実の父親にもろくにされて来なかったランディにとって、物心ついてから多分初めてに等しいことでもあり恥ずかしくて仕方がない。

顔から今にも火を噴きそうなほど赤くなりながら、ランディ王子は彼を抱えるクローディアの腕の中でその手足をバタつかせた。


「ちょっと!あんまり暴れないでくださいよ!」

「う、うるさい!!早くおろせ!今すぐ下ろせ!このブスっ!!!」

「もう!あんまり暴れると・・・・・今ここで、アレをお見舞いしますよ?」


「!!??」



クローディアが耳元でこっそり囁いた言葉に、ランディ王子の体がビクッと大きく反応し途端におとなしくなる。


どうやら、思った以上に効果があったらしい。


怒鳴って大きな声を出したことで先ほどよりも緊張感の減ったその体を、クローディアはもう一度しっかりと抱きしめた。


「大丈夫。もしまたあなたの心が傷つくことがあったら、その時は嫌がられても私があなたのお母さんになりますから」

「!?」


クローディアの首に無理やり回され、赤い顔を隠すためその肩口に顔を伏せたランディ王子の腕に力が込められる。


「・・・・・・お前みたいなブスの母上なんか、お断りだ」

「それなら、目の前にいる美人のお母様とちゃんと話してきてください」

「!?」


クローディアがランディ王子を抱きかかえながら歩いた先にいるのは、優しいクリーム色のドレスを身にまとった、これからグランハット王国王妃となり国とランディの母となる女性。


「初めまして、ランディ様。私はティナ、ティナ=イヴメーテルと申します」

ティナ、と名乗った女性がドレスの裾をつまみあげながら、あいさつとともに静かにお辞儀をした。


「・・・・ ・・ッ!!」



クローディアにしがみついていたランディ王子も、恐る恐るその声のする方へと振り返り『彼女』に向き直る。


その人は笑っていた。


怖がっても怯えてもおらず、奇異の目を向けるわけでもない。



「これからは、末永くよろしくお願いしますね?」

「・・・・・は、はは、上?」


ランディ王子の消え入りそうな小さな声にティナは満面の笑みを浮かべ、その両手を彼に向けて大きく広げた。


「!?」


とん、とクローディアがランディ王子の背中を押し、彼をティナの元へと歩かせる。


そのままランディ王子はティナの元へ転びそうな勢いでその腕の中へ飛び込み、そしてその体はこれ以上はないぐらいにしっかりと抱きしめられた。





おかあ・・・・・さん。






そして、次の瞬間ーーーーーーー。



「ランディ!!あんた、女の子に向かって何度ブスなんてきたない言葉を使うんだっ!!このバカ息子っ!!!」


「いってぇーーーー!!!」



なんとティナの鉄拳が、ランディの頭に炸裂した。



「ティ、ティナ様っ!!ここは我が国ではないのですから!いや、我が国とて許される事ではありませんが、せめて、せめてこの国にいる間はおとなしくしてくださるという約束だったではありませんかっ!!」



その光景を目にした、大慌てのルドラ将軍がすぐさまティナがさらに振り下ろそうとするその鉄拳を身をもって抑える。


「うるさいっ!私は元々貴族でもなんでもないんだ!こんな動きづらいだけのひらひらしたドレスも、お淑やかな女のフリももうたくさん!!」


ティナはなんのためらいもなく着ていたドレスをその場で乱暴に脱ぎ捨て、そのドレスをルドラ将軍に投げつけると両手を大きく空に広げて体を思いきり伸ばした。

ドレスの下に着ていた、動きやすい柔らかな白い生地の薄手のワンピース姿一枚になったティナは、本来持っていたものであろう生き生きした快活な表情に戻っている。


「・・・・・・・・」


そんなティナを、呆然とした表情でランディが見つめていた。


そうか、この女は父上の命令で『母上』のフリをしていたのか。


「!?」


顔をうつむかせ傷ついた表情をしたランディに気がつき、彼の側に行こうとしたクローディアは彼に向かってまっすぐに歩いてきた『彼女』の姿にその足を止めた。


「そう、私はいけ好かない貴族なんかの娘になる為にここにきたんじゃない。ランディ、あんたのお母さんになる為にここまで会いに来たんだよ!」


「・・・・・・え?」


ティナの言葉に驚き、思わず顔を上げたランディの頭を同じ目線になるべく膝を曲げてしゃがみかみながら目の前に来たティナの白い手が優しく包み込む。


「いきなりたたいてごめんね、ランディ。でも、女の子にブスなんて言葉は一番言っちゃダメ。私があんたのお母さんになるからには、これからはその辺も一から叩き直してやるから覚悟しな!!」


「ふ、ふひゃへんなっ!!」


ランディ王子の両頬がギュッと握られ、ニッコリと満面の笑みを浮かべたティナによってお餅のように横に伸ばされる。



わかる、わかるよ、ランディ様。

見てるより結構痛いんだよね、それ。



「あぁ、セイアッド王になんと報告をすればいいのか!!」



ティナの脱ぎ捨てたドレスを片手で抱えながら、ルドラ将軍は頭を抱えながら天を仰いだ。

ここに来るまでにも相当彼の頭と胃は痛んだに違いないことが、その姿から予想がつく。


「いちいちうるさいね、あんたは!こんな私がいいって、王妃にと選んだのはセイアッドじゃないか!」

「ち、父上が?」


散々ひっぱられ、赤くなった頬を押さえながらランディ王子はティナへと不思議そうな顔をして向き直った。


「正確には、あんたのお母さんになって欲しいって王がこんな庶民の私に頭を下げたのさ」


「!?」


「まぁまぁ・・・・・2人とも、せっかくの親子の対面なのですから、お茶でも飲みながらゆっくりいたしませんこと?」


そんな2人のもとに深いワインレッドのドレスを身にまとった、この国の王妃がその場に座り込みティナの肩にはそっとレースのローブをかけた。


「・・・・・・・ッ」


その気品と母性に溢れた姿が女神ナーサディアの化身とまで言わしめたそのあまりの美貌に、一瞬で目を奪われ頬を赤く染めたランディ王子に、笑いながらティナがその小柄な体を後ろから羽交い締めにする。


「こーーーら!あんたのお母さんはこっちだろ?」

「き、気安くくっつくな!!」

「やだね!あんたがこれから先いくら嫌だって言ったって、絶対に離れてなんかやらないよっ!!」

「!?」


さらに抱きしめる力を強めたティナに見えないように、ランディ王子がその顔を横にそらせる。


「・・・・・ッ!!」



だが、その顔は近くにいたクローディアやラファエル王子ににバッチリと見られてしまい、その涙ぐみながら照れているあまりに可愛らしい顔に思わず2人して小さく笑っていたら、ランディ王子の怒りの叫びが一際大きく飛んだ。
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