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2人の王子
帰ってきた2人の王子
しおりを挟むずっと光の中にいた気がした。
そこは温かくて、どこか懐かしい場所だったように思う。
すごく大事な『何か』を夢見ていたように感じたけれど、目覚めた時にはその全てをクローディアは頭の中からキレイさっぱりと忘れていた。
目が覚めた時、目の前には何か強力な力でもって破壊され崩れた古代神殿があって、しはらく呆然とその光景を見つめていた。
その後ハッと気がついて、慌てて辺りを見回し近くに立つルークと隣で仲良くお互いを守るようにして抱き合って眠る王子2人の姿を見つけ、その無事な姿に思わず全身の力が一気に抜けるほど深い息をはく。
「・・・・・目が覚めたみたいだね」
振り返った彼が笑う。
「ルーク、これは一体?」
あなたがやったの?という目線で見たら、それだけで彼には伝わったらしく、無言で首を横に振った。
「僕じゃなくて、君の魔力が爆発したらしいよ」
「・・・・わ、私のっ!?嘘っ!?全く覚えてないんだけど、ごめんなさい!私のせいで、国の大事な神殿を!!」
そうだ、思い出した!!
気を失う前にあの黒いローブの老人に何か魔法を仕掛けられて、死ぬかと思うくらいの痛みに襲われて気を失ったんだ。
なのに、なんでケガ1つなく生きているの?
ルークの言う通りなら、その痛みに耐えかねたクローディアが魔力を無意識に爆発させだということになるが、まさかあの老人はそのせいで死んだのだろうかーーーーーーーー。
「いや、たぶん・・・・君のせいじゃない」
「え?」
ルークの表情から笑顔が消え、彼にしては珍しく真剣な真顔を見せた。
「何かあったの?」
「・・・・分からない。僕が分かるのは、君の魔力が爆発したせいで神殿全てがその爆発に巻き込まれて壊れる中、なぜか僕らだけが無傷で助かったという、なんとも不思議な事実だけだ」
つまり、その爆発の瞬間は彼にもその記憶がないということだろうか?
「それよりも、君の体調は?これだけの魔力を一気に使ったんだ。だるかったりはしていない?」
「!?」
ルークの右手がクローディアの頬に添えられ、その美しい顔が間近に近づいてくる。
この芸術的な美貌にはずいぶん慣れてきたが、普段の何か企むような小悪魔的な表情ではなく、本気でこちらを心配しているようなこんな真面目な顔は見慣れてなくて思わず心臓が高鳴った。
「だ、大丈夫!なんか、逆に体がすごい軽いぐらいだから!」
彼のまっすぐな紫の瞳に思わず吸い込まれそうになり、クローディアは慌てて彼から離れて2人の王子の元へと向かう。
「・・・・・ちょ、ちょっとビックリしただけ」
頬が熱いのも、きっと気のせいだろう。
何か妙に全身に力がみなぎってる感じがするから、それのせいかもしれない。
みなぎってる理由は全然分からないけども。
「よし!ラファエル王子!ランディ王子!大丈夫ですか?」
頭を横に振って気持ちを切り替え、2人の王子に声をかける。
頭をうってたら大変と、激しく揺らさないよう気をつけながら、その体に触れて頬や肩をポンポンたたいて刺激を与えた。
「・・・・・んっ、ここは?」
お互いを庇い合いながら気を失っていた2人が目覚める。
「ランディ、大丈夫?!」
「!?」
最初に目を覚ましたラファエル王子がすぐさま隣のランディ王子に声をかけ、そのことで自分がラファエル王子にぴったりとくっついていた事実を改めて認めたランディ王子が、顔をゆでダコのように真っ赤にしてその場から飛びのいた。
「な、なんでお前がぼくの目の前にいるんだっ!!」
「元気そうで、よかった!」
「!?」
ニッコリと、心から嬉しそうな天使がランディ王子へとその眩しい笑顔で笑いかける。
ラファエル王子の溢れる好意にどう対応していいか分からないランディ王子は、真っ赤な顔のままそっぽを向いて戸惑っていた。
そんな2人をまた微笑ましく見守っていたクローディアに気がついたランディ王子に、何をヘラヘラした顔をしてるんだこのどブス!!と、その気持ちの葛藤を怒りに変えて全部こちらにぶつけてきた。
うーーーん。
ひどい八つ当たりだが、好きな子に対してどうしていいか分からない、小学生の頃によく見かけた男子の姿に似ている気がして、火に油を注いでしまうと分かっていても余計に笑いがこみ上げる。
「そしたら、そろそろ城へ戻ろうか?」
「うん!そうだね、城に戻ろう!」
ルークは普段通りの笑みを浮かべると、城へと繋がる魔法陣をその場に描く。
クローディア達が城の中庭に着くと、その場にいた何人かの兵士が驚きに声を上げるが、ルークが瞬時に眠りの魔法をかけてその記憶をごまかした。
なんとも便利な万能魔法使い様だ。
そのまま、仮の姿で過ごしているだろう自分たちの偽物がいる城の救護室へと向かう。
扉を開けた時、一番に私の目に飛び込んできたのは、『私』の側で椅子に座っていたその人で。
「・・・・・ッ!!」
周りには城のメイドも兵士もたくさんいる中で、なぜ自分の目はその人を一番に見つけ出してしまうのか。
その人を見ただけで、なぜこんなにも胸が苦しくなるのか。
「クローディアッ!!」
「・・・・・・・ジーク、フリート様っ!!」
ジークフリートが慌ててクローディアの元へと駆け出し、そんな彼へと引き寄せられるように近くまで歩いてきたクローディアの腕を掴むと、その腕を自分の元へと一気に引き寄せしっかりとその両腕で受け止め抱きしめた。
温かい。
あの黒いローブの老人との戦いの時、全身が引き裂かれるような痛みに襲われ心が砕けそうになった時、この人のことをどれだけ想ったことか。
死にそうな目に遭い、どれだけもう一度会いたいと感じたか。
感じた温もりを確かめるように、クローディアからもその背中をギュッと抱きしめる。
「クローディア、無事でよかった!」
「!?」
あれ?
でも、彼の側には偽物の私がいたはずなのに?
不思議そうに顔をあげて見上げたクローディアに、ジークフリートが優しい笑みを浮かべながらクローディアの目尻からにじんでいたその涙を指でそっと拭う。
「本当のお前を、俺が間違えるわけがないだろう?」
「!?」
ジークフリートの言葉に、以前白い魔女の幻の中での偽物の彼の正体をすぐに気付けなかった自分が思い出された恥ずかしさと、自分をしっかりと見抜いてくれたことへと嬉しさとで顔が真っ赤に染まり、クローディアはジークフリートの胸にその顔を隠すようにして埋める。
「あ、ありがとう・・・・ござい、ます」
「別に、礼を言われるようなことじゃない。お前が今ここにいる、それで十分だ」
「!!??」
そんな彼女を、ジークフリートはもう一度その身が『ここ』にあることを確かめるようにもう一度力を込めてしっかりと抱きしめた。
この時、嵐のように巻き起こるときめきで舞い上がっていたクローディアは全く気づかなかったが、彼女を抱きしめたままジークフリートはクローディアの頭にそっと唇で触れる。
「・・・・ブス、あいつのところに行っちゃったけど、あんたはそれでいいわけ?」
その光景を、少し離れたところにいたランディ王子が彼の側で涼しげな笑顔を浮かべて立つルークに話しかける。
ラファエル王子は、自分達そっくりに魔法で作られた偽物の王子2人に興味深々で、先ほどから3人で何やら楽しそうに話しながら盛り上がっていた。
周りのメイドも兵士も、かなり驚いた様子は見せたものの、天才魔導師ルーク=サクリファイスの姿に何か高等な魔法なのだろうと、何も言わずとも自分を納得させ混乱で慌てふためくことはない。
「もちろん、これでいいと思ってるよ・・・・今はね」
「あっそ」
表面的には笑っているが、その目の奥は決して笑っていないのがランディ王子にもよく分かり、彼にこれ以上深く関わるのは危険だと本能で感じたランディ王子は逃げるようにしてラファエル王子の元へと向かう。
「あ、ランディ王子!すごいよね!ほら見て、君とぼくのそっくりさんだよ?本当に魔法って、色んなことができるんだね!」
「・・・・・・・」
純粋な驚きと喜びの為に頬を赤くさせて嬉しそうにはしゃぐラファエル王子の姿に、心が温かくなる感覚を覚えてランディ王子もその顔を少しだけ綻ばせた。
そんな中、1人の兵士が焦った様子で救護室へと突然現れる。
「失礼します!!ランディ殿下にとり急ぎご報告がございます!殿下の母君とおっしゃるご婦人が、グランハット王国のルドラ将軍とともに、我が城へと尋ねてまいりました!!」
「!?」
「ーーーーーーッ!?」
兵士のその言葉により救護室に緊張感が一気に走り、その中で一番衝撃が走ったであろうランディ王子は勢いよく立ち上がったことで座っていた椅子が後ろへと倒れた。
「ぼ、ぼくの・・・・・母上だって?」
血の気が引いた、といえばいいのか。
彼の顔が驚愕の表情のまま白くなり、その手の平が緊張から冷たくなっていく。
「ランディ王子!」
「!?」
そしてその手を、細く白い手がしっかりと包み込んだ。
「大丈夫、何があってもぼくが君の側にいるから!」
「・・・・・・ッ!!」
ラファエル王子の力のこもった瞳と目が合い、不安に揺れていた目をしたランディ王子が息を飲んだ後、自然にその目線が彼女へと向かう。
黒い鎧に包まれたジークフリートの側に立ったクローディアは、そんな彼に向かって笑顔のままゆっくりと何も言わずに頷いた。
『大丈夫!絶対、そういうお母さんが来るよ!』
まだ見ぬ父上が選んだという『母親』が、どんな人なのかは全く分からない。
それでももし叶うのなら、今度こそケンカしてぶつかりながらでもいいから、向き合って共に生きられる家族になっていきたい。
「・・・・・分かった。ぼくを、その母上がいるところまで案内しろ!」
「ランディ!」
ラファエル王子と握り合った手に力が込められ、顔を上げたランディ王子の顔にはもう先ほどまでの不安は見られず、腹を決めたとても強い瞳をしていた。
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