148 / 212
ウンディーネ様のいる闇の神殿へ
知らないところで動き出す
しおりを挟む黒い蝶が、ヒラヒラと空間の中を飛ぶ。
黒い世界でなぜその蝶が黒いと分かるのかと言えば、蝶は黒水晶のように光っていたから。
そして床には、細身の体の黒い蛇がスルスルと這いまわる。
その身体は蝶と同じく宝石のような輝きを持って、闇の中を動いていた。
黒蝶が何十と飛び交う中を、足元には何十匹もの蛇が蠢く中を黒い布にその身を全身包んだ人型の存在がゆっくりと足を運ぶ。
蝶と蛇が競うようにしてその身体にまとわりつくが、危害を加えようというよりもまるでそっと寄り添うように側にいる。
そこには、何の興味も示さず黒い布を纏ったものは大きな鏡の前へと現れた。
その鏡には、水の神殿の中で笑いあうクローディア達が映っている。
『あの、ウンディーネまでもが・・・・蘇った』
その名を呼ぶと、鏡の視点がウンディーネ中心のものに変わり、その美しい姿を鮮明に映し出した。
『ボルケーノ、イヴァーナ、ウンディーネ。これで、天界より地上に降り立った神はあと・・・・・』
『次の目星はついているのでしょう?』
『・・・・まぁね』
黒い世界に銀色の鎧を纏った存在が、静かに膝をおって頭を下げる。
『それよりも、例の娘はどうだった?』
『はい。平和な山奥の村で暮らしておりました』
『そう・・・・なら、丁重にもてなしてあげないと。丁重に、ね?』
『御意』
足元も立てずに、銀色の騎士はその場を静かに立ち去り暗闇に飲まれていく。
銀の騎士がいなくなると、鏡の視点はウンディーネから別の存在へと移りその姿を写した。
『君に、ステキなプレゼントを贈ろう』
そしてその鏡に映る1人の少女に向けて笑みを浮かべると、黒い布に包まれた存在は近くにいた黒い蝶を握り潰し、黒い蛇を踏み潰して高笑いを繰り返した。
場面はその鏡に映されていた、水の神殿へと変わる。
ルークはアイシスさんとカルロさんとまだ一緒に話すことがあるようで、先にクローディアとジークフリートが王都へと先に帰ることになった。
ウンディーネ様の魔力により、2人は王都近くまでワープでさせてもらうことになっている。
『2人を先に帰してよかったの?』
クローディア達が無事にワープしたあと、ふと疑問を零したのはアイシス。
「・・・・どういうこと?」
その疑問を、いつも通りのニッコリ顔でルークが受け止める。
『どうって、2人は想いあってるんでしょ?それにあなただって』
「大丈夫だよ。その為におまじないをしておいたんだから」
『おまじない?』
「そう。僕は欲しいものは必ず手に入れる。たとえ、どれだけ時間がかかってもね♪」
『!?』
ルークは嬉しそうに笑い、最後はアイシスが息をのむほどの美しさと危うさで微笑んだ。
「だって、僕にはたっぷりと時間ができたんだから」
『・・・・る、ルーク』
そんなルークに、同じ魔導師として色んな知識を共有したいとカルロが楽しそうに話かけ、次第に会話はどんどんレベルの高いものになっていってさらに盛り上がる。
わけのわからない単語ばかり並ぶ話の内容に途中から全くついていけず、2人の側から離れたアイシスは珍しく大きなため息をつきつつもその光景を笑顔で見つめていた。
『全く、誰に似ちゃったのかしら?』
彼の幸せを願う気持ちは変わらないものの、彼の好意を受ける相手の身の心配を思わずしてしまい、再びため息が無意識に出てしまう。
そして、その相手はまだそのことに全く気づいていなかった。
クローディアとジークフリートは、ウンディーネ様の魔力でもって王都近くまで飛ばしてもらい、そこから王都へ向かう道中の草原を2人で並んで歩いていた。
少し前までジークフリートから逃げ回って会わないようにあえて努力していたクローディアから何を話していいかも分からず、お互いに無言が続いている。
「・・・・・・・」
どうしよう。
いや、嬉しいですよ。
正直に言えばこんな風に2人きりになるのも、まともに会話ができるような時間があることもすごい久しぶり過ぎて心はどうしようなくワクワク・ドキドキしてるんだけど、じゃあ何から話せばいいのかって考えたら全く頭が動かない。
彼との約束を破り、黙って街を出て危ない目にあったのも事実だし、以前のお仕置きを思えば今回はどれだけ怒られるのか分かったものではないし、今度こそほっぺが赤くなって顔が余計に大きくなってしまったらそれこそ女として泣いてしまう!
いやもう、それなら先に謝ってしまった方がいいんじゃないだろうか?
そうだよ!
悪いのは完全に約束を破った私だし、きちんと誠意をもって謝ればジークフリート様ならきっと分かって下さるに違いない!
よし、それしかないっ!!
やるんだ、クローディア!!
女は度胸!!
「あ、あの!!今回は、本当に申し訳ありませんでしたーーーーーーっ!!!」
ズザザザザザッ!!!
「!!??」
必殺!!
土・下・座ッッ!!
ジークフリートは突然目の前で起きたことに、思わず言葉を失っていた。
いきなり隣を歩いていたクローディアが、目の前で頭を額が地面に着きそうな勢いで伏せている。
しかも全身を震わせて。
自分のことを怖がっているんだろうか?
想いを自覚した相手に怖がられてしまうというのは、少なからずジークフリートの胸を痛ませる。
「どうしたんだ、急に。今回、お前はルーク=サクリファイスに頼まれての行動だったんだろう?」
「!?」
ジークフリートはクローディアの元にしゃがみこむと、その顔に手を添えて顔を上に向かせる。
その至近距離にクローディアの顔色がさっと赤く染まると、彼女の目がどこを見て良いか分からずあちこちに泳いでいた。
「・・・・だが、なんでまた俺に黙って行ったんだ?」
「!?」
彼女の体が強張る。
また怖がらせてしまっただろうか?
これは間違えたな。
怖がらせるつもりはないし、俺が言いたいことがこれでは全く伝わらない。
「いや、違うな。クローディア、心配したんだぞ・・・・本当に」
「ジーク、フリート様ッ」
ジークフリートの顔が優しく笑う。
あの時ーーーーーー心臓が凍りつくかと思った。
そう、銀の騎士がクローディアに向かって剣を向けているのを見て、その命が目の前で奪われそうになった時。
そして、ルーク=サクリファイスと一緒の姿を見た時。
全身が焼けるように熱かった。
「無事で、よかった」
「!?」
そのまま、クローディアの身体を強く抱きしめる。
最初はかなりびっくりしたようで微動だにせず石にでもなってしまったかのように固まってていたクローディアが、何度かジークフリードがその背や頭を撫でているうちに緊張が和らいだのか涙を流して泣き始めた。
ずっと、こうして彼女を抱きしめたかった。
クローディアへの想いを自分が認めた途端に、彼女とは全く会えなくなり初めて感じる感情ばかりが湧き上がり嵐のように吹き荒れた。
クロワッサリーの件もクローディアが頼んだことだと分かり、これまでのことも含めてどれだけ彼女に自分が知らぬ間に守られ支えられてきたのかを感じた。
しかも、そのことに周囲のほとんどの人間が気づいていたとは。
これから先は自分こそが彼女を守り支えたいと願った矢先に、恐らく似たような心を抱いた存在が目の前に現れたのだ。
普段は何を考えているのかあえて相手に分からないようふるまっている男が、とても分かりやすく敵意をぶつけてきた。
レオナルドのように全身全霊から溢れるのではなく、瞳の奥に静かに青い炎を燃やして。
「クローディア、俺は・・・・・お前が好きだ」
クローディアの身体を抱きしめる腕に力を入れ、彼女の耳元に囁く。
どんな答えが返って来ようとも、きちんとありのままこ気持ちを伝えたいと思った。
だが、幾度待てども彼女からの反応は一向にない。
「・・・・・・クローディア?」
ゆっくりと腕の力を緩めてクローディアの顔を見てみればその瞳は閉じられ、その口元からは穏やかな寝息が繰り返されている。
「!?」
その時、彼女の手の甲にあったあの薔薇の印が淡く光っているのが見えた。
「ーーーーーーっ!!」
今のクローディアの状態が誰のせいで引き起こされたのかなど、考えなくとも選択肢は1つしかない。
ようやく得た2人きりの時間だっただけに、ジークフリートは思わず眉間のしわをさらに深く刻むが目の前でジークフリートの腕の中で静かに寝入るクローディアの姿にその怒りをどうにか沈める。
「・・・・まぁ、いいさ。お前に負けるつもりはない」
クローディアをそっと横抱きにして抱きかかえると、眠る彼女のその額にゆっくりと口づけてからジークフリートは王都へと足を進めた。
0
お気に入りに追加
851
あなたにおすすめの小説
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
冷宮の人形姫
りーさん
ファンタジー
冷宮に閉じ込められて育てられた姫がいた。父親である皇帝には関心を持たれず、少しの使用人と母親と共に育ってきた。
幼少の頃からの虐待により、感情を表に出せなくなった姫は、5歳になった時に母親が亡くなった。そんな時、皇帝が姫を迎えに来た。
※すみません、完全にファンタジーになりそうなので、ファンタジーにしますね。
※皇帝のミドルネームを、イント→レントに変えます。(第一皇妃のミドルネームと被りそうなので)
そして、レンド→レクトに変えます。(皇帝のミドルネームと似てしまうため)変わってないよというところがあれば教えてください。
【完結】言いたいことがあるなら言ってみろ、と言われたので遠慮なく言ってみた
杜野秋人
ファンタジー
社交シーズン最後の大晩餐会と舞踏会。そのさなか、第三王子が突然、婚約者である伯爵家令嬢に婚約破棄を突き付けた。
なんでも、伯爵家令嬢が婚約者の地位を笠に着て、第三王子の寵愛する子爵家令嬢を虐めていたというのだ。
婚約者は否定するも、他にも次々と証言や証人が出てきて黙り込み俯いてしまう。
勝ち誇った王子は、最後にこう宣言した。
「そなたにも言い分はあろう。私は寛大だから弁明の機会をくれてやる。言いたいことがあるなら言ってみろ」
その一言が、自らの破滅を呼ぶことになるなど、この時彼はまだ気付いていなかった⸺!
◆例によって設定ナシの即興作品です。なので主人公の伯爵家令嬢以外に固有名詞はありません。頭カラッポにしてゆるっとお楽しみ下さい。
婚約破棄ものですが恋愛はありません。もちろん元サヤもナシです。
◆全6話、約15000字程度でサラッと読めます。1日1話ずつ更新。
◆この物語はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。
◆9/29、HOTランキング入り!お読み頂きありがとうございます!
10/1、HOTランキング最高6位、人気ランキング11位、ファンタジーランキング1位!24h.pt瞬間最大11万4000pt!いずれも自己ベスト!ありがとうございます!
【完結】父が再婚。義母には連れ子がいて一つ下の妹になるそうですが……ちょうだい癖のある義妹に寮生活は無理なのでは?
つくも茄子
ファンタジー
父が再婚をしました。お相手は男爵夫人。
平民の我が家でいいのですか?
疑問に思うものの、よくよく聞けば、相手も再婚で、娘が一人いるとのこと。
義妹はそれは美しい少女でした。義母に似たのでしょう。父も実娘をそっちのけで義妹にメロメロです。ですが、この新しい義妹には悪癖があるようで、人の物を欲しがるのです。「お義姉様、ちょうだい!」が口癖。あまりに煩いので快く渡しています。何故かって?もうすぐ、学園での寮生活に入るからです。少しの間だけ我慢すれば済むこと。
学園では煩い家族がいない分、のびのびと過ごせていたのですが、義妹が入学してきました。
必ずしも入学しなければならない、というわけではありません。
勉強嫌いの義妹。
この学園は成績順だということを知らないのでは?思った通り、最下位クラスにいってしまった義妹。
両親に駄々をこねているようです。
私のところにも手紙を送ってくるのですから、相当です。
しかも、寮やクラスで揉め事を起こしては顰蹙を買っています。入学早々に学園中の女子を敵にまわしたのです!やりたい放題の義妹に、とうとう、ある処置を施され・・・。
なろう、カクヨム、にも公開中。
【本編完結】さようなら、そしてどうかお幸せに ~彼女の選んだ決断
Hinaki
ファンタジー
16歳の侯爵令嬢エルネスティーネには結婚目前に控えた婚約者がいる。
23歳の公爵家当主ジークヴァルト。
年上の婚約者には気付けば幼いエルネスティーネよりも年齢も近く、彼女よりも女性らしい色香を纏った女友達が常にジークヴァルトの傍にいた。
ただの女友達だと彼は言う。
だが偶然エルネスティーネは知ってしまった。
彼らが友人ではなく想い合う関係である事を……。
また政略目的で結ばれたエルネスティーネを疎ましく思っていると、ジークヴァルトは恋人へ告げていた。
エルネスティーネとジークヴァルトの婚姻は王命。
覆す事は出来ない。
溝が深まりつつも結婚二日前に侯爵邸へ呼び出されたエルネスティーネ。
そこで彼女は彼の私室……寝室より聞こえてくるのは悍ましい獣にも似た二人の声。
二人がいた場所は二日後には夫婦となるであろうエルネスティーネとジークヴァルトの為の寝室。
これ見よがしに少し開け放たれた扉より垣間見える寝台で絡み合う二人の姿と勝ち誇る彼女の艶笑。
エルネスティーネは限界だった。
一晩悩んだ結果彼女の選んだ道は翌日愛するジークヴァルトへ晴れやかな笑顔で挨拶すると共にバルコニーより身を投げる事。
初めて愛した男を憎らしく思う以上に彼を心から愛していた。
だから愛する男の前で死を選ぶ。
永遠に私を忘れないで、でも愛する貴方には幸せになって欲しい。
矛盾した想いを抱え彼女は今――――。
長い間スランプ状態でしたが自分の中の性と生、人間と神、ずっと前からもやもやしていたものが一応の答えを導き出し、この物語を始める事にしました。
センシティブな所へ触れるかもしれません。
これはあくまで私の考え、思想なのでそこの所はどうかご容赦して下さいませ。
家庭の事情で歪んだ悪役令嬢に転生しましたが、溺愛されすぎて歪むはずがありません。
木山楽斗
恋愛
公爵令嬢であるエルミナ・サディードは、両親や兄弟から虐げられて育ってきた。
その結果、彼女の性格は最悪なものとなり、主人公であるメリーナを虐め抜くような悪役令嬢となったのである。
そんなエルミナに生まれ変わった私は困惑していた。
なぜなら、ゲームの中で明かされた彼女の過去とは異なり、両親も兄弟も私のことを溺愛していたからである。
私は、確かに彼女と同じ姿をしていた。
しかも、人生の中で出会う人々もゲームの中と同じだ。
それなのに、私の扱いだけはまったく違う。
どうやら、私が転生したこの世界は、ゲームと少しだけずれているようだ。
当然のことながら、そんな環境で歪むはずはなく、私はただの公爵令嬢として育つのだった。
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
愛していました。待っていました。でもさようなら。
彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。
やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる