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ウンディーネ様のいる闇の神殿へ

紅い世界

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 全身に走る鋭い身体の痛みでクローディアが目覚めると、どこからも光がささない真っ暗な暗闇の中だった。



よかった。

とりあえず、まだ生きてる。



確か、意識を失う直前に手足にナイフのような刃物が刺さったはずだと、その箇所を触ろうとして身体を動かした途端、激しい痛みが全身に走った。

節々から中心に渡って動かすたびにどこかしら痛みが走るので、不安になって身体のあちこちに触れてみるが、予想に反してそれらしい傷はどこにもない。

それでも痛みの為、立ち上がるまでに結構な時間を要してしまったが、なんとか態勢を整える。

当たり前のことがそうでなくなると、あんなにも簡単にできていたことがどれだけの労力を使うのかと、動けることのありがたさを噛み締めてしまう。


そういえば、前世で足の腱を痛めて歩けなくなった時も、家から徒歩5分のコンビニへ行くのでさえも慣れない松葉杖をついて30分近くかけないと辿り着かず、自分のおばあちゃんぐらいの女性に『大丈夫?』と心配されたことがあったな。

あの時は2週間ほどまともに動けず、歩けることの有り難さを泣きながら思い知ったっけ。

それでも、その気持ちは残念ながら長いことは続かない。

また気づけば動けることが当たり前になり、目の前のことでいっぱいになれば平気で無茶もしていた。


そんなことを考えていたらだんだんと痛みも無くなり、クローディアは安堵に大きく息をゆっくりと吐いた。



そして、ここはどこだろうか?

イヴァーナ様の時は痛みが終わると、イヴァーナ様が泣いていた不思議な色をした空間に辿り着いたが、ここもウンディーネ様の内面か何かなのだろうか?

キョロキョロと辺りを見回していると、ある一点に光が見え、そこに向かって歩みを早める。


「良かった!出口だ!」


クローディアは喜んでその光の中に飛び込んだが、その先に現れたのは見知らぬ小さな村?だった。

ここは、どこかの山の中だろうか?

自然あふれる山々に囲まれた空気のおいしい草はらの先に、ポツンと慎ましく立ち並ぶ歴史を感じる家々達。

この景色もその中で暮らしているだろう、目の前を通り過ぎる人にも見覚えがない。


「あの・・・・っ!」


その人達に声をかけたら、1人のおじさんが怯えた顔で逃げていく。


「なんで?」


それならばとお母さんぐらいの女性に声をかけたらやっぱり怯えられて、すぐさま逃げられてしまった。


「なんで、みんな私から逃げるの?」


初めて訪れる場所なのになぜ?と不安になりながら辺りに目線を向けていると、1人の青年が私に向かって指を指しながら大きな声を発した。


「ひ、人殺しだっ!!!」

「!?」


そして、その男の声をきっかけに村中の人達がクローディアに向かって同じ言葉を叫びながら指をさして逃げて行く。


どういうこと?

私は何もしてないっ!!


「ならば、お前のその手についた血はなんなんだっ!!」

「!?」


目の前にいる男の言葉のままに自分の手を見ると、そこは大量の血に濡れていた。



なに、これ?


「待って!私は何もしてない!本当に何もしてないのっ!!」


違う!

こんな血なんて、私は何も知らない!!


「!?」


その時、突然頭が痛くなり意識が一瞬だけ遠くなる。




そして、目覚めた時にはーーーーーーー。



「い、い、いやぁぁぁーーーーーッ!!!」


先ほどクローディアの周りにいた村人が皆血まみれで死んでおり、クローディアの手はさらにどす黒い血で汚れていた。

その血を服の裾で必死で拭いながら、クローディアはその場から急いで逃げ出す。

拭った血と恐らくは返り血で、クローディアの全身が血まみれだった。



なんで、なんでこんなことにっ!?



「あれ?クロエ、こんなところでどうしたの?」


そんなクローディアの前に、無邪気で爽やかな笑顔をした普段通りのレオナルドが現れる。


なぜ、彼がこんなところに?


という疑問の前に、自分を知る人間が現れたことへの安心で心がいっぱいになった。

だが、彼は私の『この姿』に何の疑問が分からないのだろうか?と恐る恐る下を向いて見たら、なぜか服も洗いたてのようにキレイなままだった。



「そっか・・・・全部、夢だったんだ」

「クロエ?なんか顔色悪いけど、大丈夫?」



なんてリアルな白昼夢だったんだろう。

ほら、まだ足元が恐怖で震えてる。



「レオ、私なんだかすごい怖い夢を見てたみたい」

「怖い夢?」

「そう!もう思い出すだけで全身が震えるぐらいの、ものすごい怖い夢!」



あれ?

なんだろう?

なんで私、レオの顔がちゃんと見れないの?

なんで視界がぼやけて、頭がまた痛くなるの?



やめて、お願い!

何か大きく、おぞましいものが私を覆い尽くしていく。




「・・・・・クロエ」

「レオ!お願い助けて!!なんだか私おかしいの!!」



霧がかかった視界がようやく開けていき、クローディアは夢中で目の前のレオの身体にしがみついた。




ピチャ。





何?この音。

何かの水音がクローディアの耳にやけに響く。




「クロエ・・・・なんで、俺のことを殺したの?」


「!?」



ピチャ。



その水音は、レオの体から落ちて下の紅き水溜りに落ちていく。



「あ・・・・・れ、レオ?」



抱きしめたはずのレオの身体を、背中から剣で貫いているのはクローディアの両手。

また、クローディアの手と身体が真っ赤に染まっていく。



「クロ、エ。なん・・・・で?」



ずるずるとレオの重い身体がクローディアにのしかかり、レオナルドを抱えたままのクローディアの足が血溜まりの中で崩れて座り込む。



「・・・・・・レオ?」



気がつけば、見上げた空が沈んでいく夕日でどこまでも赤かった。



「レオ?ねぇ、返事してよ・・・・レオ」



クローディアの目からは涙が落ちるが、それすらも顔についた誰かの血で赤い。



「いやァァァーーーーーーーッ!!!」



どこまでも紅い世界で、クローディアの絶叫が何度も繰り返された。
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