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ウンディーネ様のいる闇の神殿へ

神に愛された娘

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カルロさんとアイシスさんは2人揃って耳まで真っ赤な顔で、それは深く深くクローディアに向かって頭を下げながら謝罪をしてきた。


ちなみにアイシスさんはまだクローディアの体にインしたままなので、自分に謝られるというとても不思議な体験をしている。

感動の再会なのにその2人に頭を下げさせて謝らせてしまうのはどうかと思うが、さすがにファーストキスを他人に奪われるのは辛い。

それも、キスをした!という実感すらも奪われるなんて!



「あら、それは違うわよ!」

「・・・・えっ?」


至極真面目な顔で言われたが、訳が分からない。


「あの、それ、どういうことですか?」

「だから、今回のはあなたにとってのファーストキスじゃないわって言ったの!」

「いやだからそれが身に覚えがなくて、分からなくてですね?」



なんだろう?

変な汗が出てくる。



「身に覚えがないわけないわ!だって確かに、寝ているルークに・・・・
!!」

「わぁーーーわぁーー!!わぁーーーっ!!!」



そうでしたぁぁーーーーーーーっ!!!


人助けとはいえ、確かにちゃんと口をつけてました!!

で、でも、人助けならノーカウントですよね?


今すぐアイシスさんの口を両手で塞ぎたいのに、この透き通った体がそれを決して許さない。


なんて不便なんだ幽体はっ!!


「ちなみに、セカンドもサードも違うからね?」

「・・・・・・・・は?」


いやいやいや、そんな胸張られてどうだ!って顔でいわれても、全く意味が分かりませんから!


何ですか?

つまり、私の全然知らないところでファーストどころかセカンドもサードも終わってるってことですか?


そんでもって、身に覚えのあるルークへの人助けで満塁サヨナラホームランですか。


え?

いつ、誰と?

どんな風に?


その記憶がないって、私はどれだけ夢遊病の迷惑極まりないキス魔なんですかっ!?


とにかく、相手だけでも教えて下さい!
とアイシスさんに詰め寄ったけれど、それは秘密よ♪って遠くて近い子孫と同じような顔で似たことを言わないで下さい。

今夜から、しばらくは安心して寝られないじゃないですかっ!


「そんなに落ち込まなくても、きっとそのうちに分かるわ♪」

「・・・・それならいっそ、内緒にしておいて下さいよ」

「だって、黙ってたらファーストキスを私達に奪われた!って永遠に責められそうなんだもの!今回のは犬か猫にでも噛まれたと思ってちょうだい♪」

「・・・・・・・・」


愛する人との再会に浮かれまくってるアイシスさんにそれ以上言っても無駄だと悟り、とりあえずクローディアは自分の体を返してもらうことにした。

うん、これまでのよくわからない経験は全部リセットしてしまおう!

本人の私がしたことを覚えてないんだし、全部ノーカウントでいいよね!!


「キャン!キャン!キャン!!」

「ハハッ!くすぐったいよ、バルバロス!」


元の体へと戻るとすぐさまバルバロスが反応して駆け寄ってきて、抱き上げた私の顔を夢中でペロペロ舐めてきた。

よほど溺れかけたのが怖かったらしく、本来の主人であるボルケーノに唸りはしないものの、恨みがましく睨みつけている。

この可愛い存在が、実はあの凶悪な外見のケルベロス風モンスターなのだと誰が分かるだろうか。



「・・・・・クローディア=シャーロット。お前はウンディーネ様を解放する為にここれ来たということで、間違いはないんだな?」

「へ?あ、はい!!」


突然カルロさんから直に名前を呼ばれて、そういえば自己紹介もまだだったと改めて頭を下げるが、アイシスから全部聞いたと空中にプカプカ浮かぶ彼女へと目線を向けながら話す。


「あの、ウンディーネ様がこの神殿の奥に封印されてるって聞いたんですが!」


残念ながら、クローディアがウンディーネ様について知る情報はそれだけだ。

彼女?が現在、どんな風に封印されていて何をしたらその封印が解けるのかも、全くもって分からない。

それはアイシスさんも同じようで、目で解答を求めても静かに首を横に振られてしまった。

ボルケーノを見ても封印されたのは我の方が先だと、やっぱり首を横に振られる。


「そうか。なら、ウンディーネ様の元にお連れする前に少しだけ事情を話しておかなければいけないな」

「事情、ですか?」


何か訳ありな匂いをプンプンさせながら、カルロさんは私達にある少女とウンディーネ様のことを話し始めた。







その昔、ウンディーネ様が加護を与えた人間の中に『フェイ』という名の少女がいた。

幼い頃から精霊に愛されたその少女は、心優しく自然を愛する娘で虫も殺せないほどに気弱な性格だったという。

だが、ある日を境に彼女は変わった。

体の鎖骨の真ん中辺りに1つの黒い刻印が浮かび上がり、その印が深くなればなるほど感情は不安定で激しくなり、争いを決して好まなかったはずの少女は血を求め、しだいに動物の血肉を自ら殺して喜ぶような猟奇的な面を見せるようになっていった。

本来の優しい少女の心と、破壊衝動が止められないもう1つの心が幾度となくせめぎ合い、元々人よりも繊細だった彼女はしだいに狂い壊れていく。

そしてついにその心がいよいよ限界を迎えて発狂してしまうとなった時、少女はそんな自分をそれでも静かに見守っていてくれたウンディーネ様に自分を殺すか、封じてくれるよう必死に頼んだ。

ウンディーネ様はその想いに応え、少女を肉体ごとその魂も含めて自身の中に封じ込め、彼女の心を安らかにしようとしたのだが、ウンディー様ですらその深い闇の力に引きずられ、少しずつおかしくなり手遅れになる前にと今度は己自身を地下深くに封じた。


「・・・・・それが、今のウンディーネ様だ」

「ちょ、ちょっと待ってください!まさか、その少女はっ」

「あぁ、察しがいいな。そうだ、お前の予想通り彼女は今お前達が戦っている魔女の先先代、ボルケーノ様を封じ歴代最強と言われた黒い魔女だ」

「!?!?」


『なんと!!』


「クローディア=シャーロット、これだけはお前に知っておいて欲しい。黒い魔女は最初から残虐な心で生まれてくるわけじゃない。彼女達もまた、1人の無垢で優しい心も持つお前と何も変わらない普通の人間だった」

「・・・・・・ッ!」

「ウンディーネ様はそれを知っていたからこそ、その少女の望み通り自分の中へと封じ、そして今もあの方の意思でもって己自身を封じていらっしゃる。それを心にしっかりと置いた上で、ウンディーネ様に会ってくれないか?」

「・・・・・・・」


カルロさんの顔はどこか悲しそうに見えた。

彼もその『フェイ』という少女の人生を見てきたんだろうか?

彼女自身が望んでもいないのに、『黒い魔女』へとなっていく残酷な過程を。


もしカルロさんの話が本当なら、黒い魔女とは一体何なのか?

あの黒い魔女も、元々は普通の人間だったのだろうか?

ならば、彼女達が狂うきっかけとなったその刻印とは何の為につけられ、誰が彼女達をそのように変えていったのかーーーーーーー?





「ウンディーネ様のところに、連れて行ってください」

「・・・・・分かった。俺についてこい」


ウンディーネ様に会い、封印を解くことでその答えは出るのだろうか?

ただウンディーネ様を解放するだけでは終わらない、何か大きなフラグを感じてクローディアは息を飲み、腹を据えてカルロさんの後をついて行く。


「クーーーーーン」


緊張の走る私の顔を舐め、その体をすり寄せてくるバルバロスが居てくれたことが、今はとてもホッとする。

そして。


『案ずるな、我が主よ。そなたは絶対に我が死なせはせん』


「・・・・・うん、ありがとう!」


その炎に包まれた大きな手で、クローディアの頭をトントンとたたきながら力強い炎の神が笑う。

カルロさんの後をついて神殿の奥へと進むと、一番奥には全身を鎖で縛られ目を閉じた水の神、ウンディーネ様がそこにいた。
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