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いざ、ルークとともに新しい旅路へ!
一緒に狩りに行こうぜ!
しおりを挟む「ルーク!!お願いだからあんたも手伝ってよっ!!!」
「がんばって~~♪」
「!!??」
汗だくになりながら足元の悪い岩場を全力疾走で逃げているクローディアの後ろから、耳が痛くなるほどの大きな鳴き声が響く。
そして、その後ろから前世において図鑑や映像でしか見たことのない肉食恐竜のような巨大ドラゴンがクローディアを食べようと、その鋭い牙を見せながら勢いよく襲いかかってきていた。
その体は全身がありとあらゆる濃さの緑の鱗で覆われており、ところどころエメラルドの宝石を思わせる輝きを放っている。
「い、い、いやぁぁぁーーーーーーーっ!!!」
リアルジュラシックパークの世界を絶叫で駆け抜けているクローディアに、少し離れた高台の岩場に座りこんでくつろいでいるルークは、ニコニコしながらがんばれ~と心のこもらない応援をしているだけだった。
なぜいきなりこんなことになっているのかといえば、詳しい話はこの少し前に遡る。
ルークから聞いた情報によると、闇の神殿に入るにはある重要アイテムが必要だとのことで、王都を出た私達はそのアイテムをまず手に入れなければならないとのことだった。
ゲームによくある、ダンジョンにまず入るための冒険をしなくてはいけない。
しかもそのアイテムの在り処はすでに分かっているとのことで、ルークに連れて行かれたのは王都から西にある大きな街『ローバーン』の裏街道にある、色んなものが正規の取引である法をくぐり抜けて物々交換が行われる闇市場。
ここに連れて来られた時点で、もうすでにやばいと思いました。
昨日の夜は、中身は三十路の女が学生の恋愛のように恋する人を想って泣いて少女漫画してたのに、あの乙女の平和な時間は一体どこにいったのでしょう?
ここでは戦の場から拾われたり、奪ったり盗んだりした武器や防具、遺跡からは国を通さずに勝手に発掘したレアアイテムなどが各自の責任において物々交換が行われている。
だから、目に入る武器や防具には血の跡があちこちについていてその匂いも正直すごかった。
人間の血だけではなく、モンスターの血肉が腐った臭いだ。
まことに残念ながら、この世界にファ○リーズがない。
「・・・・・・うっ」
確かにゲームの中でも裏街道は出てくるし怪しげな店もたくさんあるが、そこでやり取りされる武器はプレイヤーには見た目も臭いも全く関係ない。
デザインと武器防具の機能数値、そしてそこに性能の内容のレベルが高ければ見た目や出所がどんなものでも気にせず私自身も遠慮なく使っていた。
だが、実際の裏街道は色んな危険の溜まり場で先ほどから下卑た笑みを浮かべる男達の値踏みをされているような、足元から頭上まで舐め回すように動く目線がとても気持ち悪い。
今すぐその足元から燃やしてしまいたい!!
というこの思考は『普通』だろうか?
「フフ・・・・裏に来るのは初めてだよね?大丈夫?」
ルークはといえば予想通りかなり慣れた様子で、かなり入り組んだこの道の中を何の迷いもなく進んでいる。
さらにここでも有名なのか、通り過ぎる人の中にはルークだと分かると怯えて姿を隠すものがいるくらいだった。
一体何をやらかしてここまで怯えられているのやら。
「全然大丈夫じゃないです。いやそれよりも、まだその例の店とやらにつかないの?」
周りの人に聞こえないよう、私からルークへ話しかける時はヒソヒソ話くらいの小さな声で答える。
裏に住む人達にとっては、そんなことしても無駄なことだと分かってはいても堂々とはできません。
ちなみに、この裏街道に足を踏み入れてからかなり奥の方まで細い道を右へ左へと移動して歩いてきている。
途中で今すぐ逃げ出したい気持ちに何度もかられたが、1人で元の道へ帰れる自信は全くない。
いざとなったら、マーズを呼んで空中に逃げてやる!!
「もうすぐ・・・・・あぁ、この店だよ♪」
「この店って、ここってバー?」
「そう、この下に店があるんだ」
もちろん、お酒を飲む方のBARだ。
かなり廃れた入り口と内装であちこちには壊されたのだろう場所が見受けられ、中にいるのは屈強な体格&強面の全身に傷跡のある目つきの悪いゴロツキばかり。
一斉に視線がこちらに向けられた瞬間、私の顔の表情も一気に引きつりました。
その方々と目が決して合わないように目線をそらせつつ、ルークの後を必死に早歩きで追いかける。
ルークとともに螺旋の階段を降りていくと、そこには今にも雪崩が落ちそうなほどあらゆる書物や物が溢れ返った小さなお店に出た。
魔法院のルークの部屋によく似ている。
そこには色んな魔法薬?なのか、レアなアイテムなのか?よく分からない物がたくさんごった返していた。
暗い部屋には、部屋のあちこちにあるオレンジ色のランプが淡く辺りを照らしている。
ちなみに、そのランプの周りには小さな虫が飛んでます。
部屋の入り口には、大きな木で出来た看板が付いておりそこには『よろず屋・カチャンダール』と書かれていた。
「・・・・カチャン、ダール?」
「ふぇっふえっふえっ!なんじゃ客人か?」
「ひいっ!?」
突然、誰もいなかったはずの店の入り口には腰がかなり曲がりクローディアの半分ほどしか背丈のない、顔中がしわくちゃのおばあちゃんが木の杖をついて現れる。
短く真っ白なくせのある髪に、ルークのように深い紺のローブを頭から被ったその人の、シワのあるやせて骨ばった手にはキレイな石のついた指輪がいくつもつけられ、その胸元にはおそらく何らかの骨で作られたネックレスをつけていた。
「お久しぶりです、ヴァレンティーナ」
「ふぇっふえっふえっ!なんじゃ、ルーク=サクリファイスかえ?これは珍しい。今度は何が欲しいんじゃ?一瞬で殺せる猛毒つきのナイフか?それとも、離れている相手でも呪い殺せる強力な魔具かえ?」
「・・・・・そんなのばっかり、買ってたわけですか」
裏の世界に来るからにはそういうのが主なのだろうけれど、何に使ったのかは怖くて聞けない。
「ふぇっふえっふえっ!しかもなんじゃ、今回はずいぶん毛色の面白い娘を連れておるではないか!」
あの、外見のみで面白いって褒め言葉じゃないですよね?
「一応ぼくのつれなんで、攫ったり食べたりしないでくださいね?」
「!!??」
「ふぇっふえっふえっ!それはつまらんのぉ~」
「っ!!」
さ、攫うだけならまだしも、食べたりっ何っ?!
お、お、おばあちゃん!
残念そうにため息ついてるけど、さりげなくその手に持ってるそれって包丁ですよねっ!?
しかも普通の包丁じゃなくて、かなり大きい出刃庖丁っ!!
ぎょろり、と出目金みたいな大きな目に見つめられて、真っ青な顔になった私は思わずルークの背中にしがみつく。
「ひいぃぃぃっ!!」
「ヴァレンティーナ、この店に太陽の鍵があると聞いてきたんです」
な、なるほど!
それが闇の神殿に入る為のレアアイテムなんですね!
「ふぇっふえっふえっ!太陽の鍵ならほれ、ここにあるぞえ?」
ヴァレンティーナがすぐそばの引き出しの中から、黄金でできた淡い光を放つ鍵をその手に持つ。
鍵の上の部分には赤い石が埋め込まれていて、その石を囲むようにして何かの古代文字のようなものが刻まれていて、王冠のデザインになっていた。
すごい!
さすがはルーク!冒険に必要なレアアイテムがこんなに簡単に手に入った!
「ふぇっふえっふえっ!これと交換するアイテムの条件は、いくらお主でも妥協はせぬぞ?」
「はい、分かってます♪」
「・・・・・・・え?条件?」
ゲームの中で、よく道具のトレードで特別なSランクの道具を得る場合、同じランクの道具かもしくはその下のランクの道具いくつか交換する場合が多い。
聞けば今回の『太陽の鍵』はまさにそのSSランク並のスペシャルアイテムだそうで、ヴァレンティーナは交換の条件を5つのおそらくはSランクアイテムを指定してきた。
1.火鳥の鎧
2.月のしずく草
3.大地の腕輪
4.エメラルドドラゴンのウロコ
5.水神の盾
「い、5つもあるのっ!?」
「ふぇっふえっふえっ!もし、その宝の在り処が分からなければ、場所だけはわしが教えてやろう」
「フフ・・・水神の盾は、噂の幽霊船ですよね?」
「ゆ、幽霊船っ!?」
「ふぇっふえっふえっ!そうじゃ!その船のどこかにあると言われておる!」
「ありがとうございます♪それじゃ、行こうか?クローディア」
「へっ!?お、お化けは私ちょっとにが・・・・・ッ!!??」
私の言葉が言い終わるまえに、元から書かれていたらしい何かの魔方陣の描かれた床が突然光だし、その中心にいたクローディアとルークを光で包み込んだまま消えさる。
「ふぇっふえっふえっ!大サービスで、その場所までは送り届けてやるぞい!」
視界を覆っていた光が消えたクローディアの目の前に現れたのは、ボロボロの船の上で動く全身が骨だけの骸骨と、肉がまだ残ってるゾンビ、骨すらもなくなり亡霊として現れる幽霊の3タイプ。
空は暗雲が立ち込め、雨が降り出している。
それと同時に風が強くなり、波が大きくうねるたびに舟が揺れた。
ここは荒れる海の上。
そして、目の前の敵キャラを見る限り、間違いなくヴァレンティーナとルークが話していた『幽霊船』。
「・・・・・・・・」
どなたでもご自分が好きなタイプのホラー映画に、に仕上げられます!
ちなみに私は、ホラー全般が大嫌いです。
「じゃ、ぼくは船内で水神の盾を探してくるから、君はお化けたちをどうにかしてね?」
「・・・・・・・ッ!?」
水神の盾がどんな物なのかも全く知らないクローディアは敵の囮になってその注意を引きつけておくことしか出来ず、木の船の上で炎を使うことは危険な為に氷の魔法を駆使してお化け達に立ち向かうこととなった。
ゾンビはまだいい。
何度も彼ら?とは戦った経験があるし、多少は心も慣れてる。
次に骸骨。
ここは理科室、あれは標本!と言い聞かせてなんとか乗り切った。
魔法で凍らせてしまえば、しばらくは動きも止められる。
問題は3タイプ目の、幽霊。
実態のない彼らには魔法が効かず、かといって物理攻撃も効かず、ただクローディアが目の前の恐怖とひたすら戦うことが強要された。
一言つけたそう、海賊の幽霊である。
海賊同士の戦でやられたものや海賊に殺された街や村の人など、その無念や後悔・怨念のようなものまで叫んでくるものもあり気が狂いそうだった。
ようやくルークが船底から『水神の盾』を見つけて、クローディアの元へ戻ってきたときはあまりの恐怖に耐えかねて気絶する寸前で、ルークの姿に思わず安心したクローディアはそのまま泡を吹いて意識を手放しぶっ倒れた。
次に目覚めた時には一度ヴァレンティーナの店を経由したらしいが、『水神の盾』を渡した後で『エメラルドドラゴンのウロコ』があるこの岩場に魔方陣で飛ばされたというわけです。
ウロコがあるということはその本体がいるということで、現在そのウロコを少しだけ拝借しようと奮闘中。
しかもこのウロコ、エメラルドドラゴンが死んでからだとその輝きを無くしてしまい何の価値もないただの『竜のウロコ』になってしまうらしい。
魔法もウロコが傷ついたら価値が薄くなる為に使えない為、エメラルドドラゴンの隙をついてそのウロコを小さなナイフと素手で取るしかないとのことだった。
岩場についた途端にルークが緑に光る岩を壁に見つけて、わざわざクローディアにそれを知らせて触らせたあげく、実はそれこそがエメラルドドラゴンの尻尾の先端で、本来眠っていたはずのドラゴンが怒りに起きてクローディアに襲いかかってきたわけです。
「お、お願いだから、1枚だけ譲ってェェェーーーーーー!!!」
「グオォォォーーーーーー!!!!」
エメラルドドラゴンの吐く炎のブレスは、ボルケーノの加護もあって熱さもダメージもない。
要は気絶させて意識を失っているあいだに一枚だけ、輝く光を放つ鱗の部分をちょっと拝借させて頂きたいのだ。
その力加減がクローディアには難しく、うっかりやり過ぎてしまえばこのドラゴンの命を奪いかねない。
エメラルドドラゴンは世界にほんの一握りしかいない絶滅危惧種らしく、もしその命を奪ってしまったら死刑は免れないとのことだった。
かといって、手加減した魔法ではとてもこのドラゴンに何の効き目もなくその足を止めることすらできない。
「ルークのバカッ!!私にどうしろって言うのよ!!」
「グオォォォーーーーーー!!!」
「はんぎゃぁぁぁーーーーーーーっ!!!」
およそ、乙女とは思えない太い叫び声をあげながらクローディアは岩場の中をとにかく走って逃げまくった。
不意をつくにしても、まずはエメラルドドラゴンの視界から姿を消さなきゃいけないのに、このドラゴン体が大きいのにメチャクチャ足が速い。
ついには行き止まりの岩場にまで追い詰められ、背水の陣となってしまった。
「ど、ど、どうしよう・・・ッ!」
「グオォォォーーーーーー!!!」
クローディアの姿を捉えたエメラルドドラゴンの大きな咆哮が、空一体に響き渡る。
「フフ・・・・大丈夫?このままだと、君死んじゃうよ?」
「!?」
エメラルドドラゴンの少し先にある岩場の上に、ニコニコ笑うルークが見えた。
たぶん彼は見てるだけで、一切の手助けしてくれないだろう。
ジリジリと近づいて来るエメラルドドラゴンの恐怖に耐えかねたクローディアはーーーーーーーーキレた。
「ふ、ふ、ふざけんじゃねェェェーーーーーー!!!!こんなわけのわからないところで死んでたまるかぁぁぁーーーーー!!!!」
ゴオォォォッ!!
燃え盛る炎がクローディアを中心にエメラルドドラゴンの周り現れ、壁をつくる。
以前ブラックドラゴンを焼き殺した神炎と同じだが、殺さないように円形で距離を保ちながらくるんで逃げられないように囲むだけ。
「・・・・ちょっと痛いだろうけれど、我慢してねドラゴンちゃんっ!!!!」
炎に戸惑うエメラルドドラゴンの目の前には、炎の鳥に乗り空に浮いたまま自分の体の何倍も大きな氷の塊を両手で抱えてそれを今まさにこちらへ投げつけてくる獲物が映る。
「グオォォォーーーーー!!!」
その氷の塊はエメラルドドラゴンの頭部に強くぶつかり、その衝撃の強さに叫び声をあげながらそのまま意識を失って横の壁へと倒れこんだ。
「フフ・・・・・お見事♪」
その様子を、嬉しそうな表情でルークが手をパチパチたたきながら賞賛する。
そんなルークにクローディアは何も言わずにものすごい顔で睨みつけてくるが、その眼差しですらルークには心地が良い。
「あと、3つだね♪」
小さく呟くと、ルークはその美しい指を素早く動かして何かの呪文を唱えた。
すると、倒れたエメラルドドラゴンの足にいつ間にかついていた古代文字の羅列が消えていく。
クローディアは知らない。
幽霊船の時も今回も、実はこの魔導師に影からしっかりと手助けをされていたことを。
幽霊は彼女の周りを浮遊し脅すことはするものの、決して危害を加えて来なかったのはそれが『できなかった』から。
そんな2人の旅は、まだまだ始まったばかりだ。
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