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アヴァロニア城への帰還
いつかダンスを
しおりを挟むラファエル王子とは、あの後すぐに彼のお付きものとやらが迎えに来てしまい話の途中で終わってしまった。
私もその後、ツノを生やしたエルザベスに引きづられるようにして地獄の部屋へと連れ戻され、何度も部屋から響いた私の悲鳴はもちろん誰の助けも得られなかった。
そして、ついに第一王妃の復活を祝うパーティーが城の大広間にて始まる。
色とりどりのドレスを身に纏った貴族のお嬢様たちが、ここぞとばかりに自らを美しく着飾ってパーティーへと参加していた。
彼女らのお目当ては今回の王妃の体調の回復にとても貢献したという、騎士院の長であるジークフリート=ウルンリヒ。
普段は王子の警備という名目以外は城にもほとんどいることのない、 見た目も大変に見目麗しくその実力もこの国一番の英雄と言われた男とお近づきになれる絶好の機会なのだ。
女性との浮いた噂1つない、真面目で仕事一筋の彼の心を一体誰が射止めるのか。
ここ最近の社交界の中で、それは一番の話題だった。
その中でも、長年彼のことを手に入れるために思い続けてきた女がここにも1人。
「マーガレット様、今日のドレスも本当に素晴らしいですわ~~!!」
「さすがは、あのグラッツィア家に次ぐ名家のリッカルド家ですわね!!」
「これはみなさま、ごきげんよう。今日のドレスは急きょ決まったパーティーなのに、お父様がすぐさま用意してくださった特注のものですのよ」
マーガレット・セレ・デ・リッカルド。
金髪の豊かで長い髪は大きな波をうってふんわりと胸元で広がり、その華奢な手足をつつむドレスは赤の生地に黒の薔薇の刺繍がびっしりと縫われた、ところどころに宝石も散りばめてある見た目にもとてもゴージャスなものだった。
顔立ちはどちらかというとツンとした猫のような大きなつり目の瞳を持つ可愛らしいマーガレットだったが、大人の女性になる為にと選んだドレスであり、メイクもいつもより大人っぽい雰囲気を作っている。
街で荒くれ者に助けて貰ったジークフリートに出会ってからずっと、マーガレットは彼に恋をしてきた。
王子や王の護衛として城のパーティーに参加する際には、必ず自分もファーストダンスの相手にと立候補してきたのだが、これまで彼はずっと誰からの申し出も全て丁重に断っている。
でも、その彼の心を動かすのはわたくしに違いないわ!!
わたくしなら、誰もが羨む美貌も地位も全て持っている!!
日々より美しくなる為の努力は惜しまなかったし、今日のドレスにも相当高価なものを選んだのだ。
わたくしが唯一ライバルと認めているのは我がリッカルド家が唯一無下に出来ない、公爵・グラッツィア家のエリザベート。
けれど、彼女は昔からアルフレド王子の婚約者でありわたくしの敵ではない。
そう、彼の横にはこのわたくしこそが相応しいのよ!!
「キャーーーー!ジークフリート様よ!!」
来たわ!!
「マーガレット様!ジークフリート様が!」
「えぇ、わかっていてよ」
大広間の入り口の方にいた、どこぞの貴族の娘達が黄色い歓声をあげる。
そう、今日ジークフリート様はいつものような王室の護衛ではない立場で参加をするのだ。
もしかしたら、エスコートのお相手にだって選んでもらえるかもしれない!
「ジークフリート様っ!!」
黄色い歓声が鳴り止まない入り口の真ん中で、その姿がマーガレットの視界に映る。
いつもの黒い鎧とマントではなく、他の貴族の男性と同じように礼服で参加していた。
紺の厚めの布地に金の刺繍が品良く全体に織り込まれた長めの上着の下には、純白のシャツを少し着崩して身につけているものの、それがまた彼の男らしさと色気を醸し出している。
腰の高い位置から伸びる長い足は黒のまっすぐなラインのズボンに包まれているものの、それがまた無駄な筋肉の一切ないそのシルエットをより引き立たせていた。
「なんて・・・・ステキなのかしら」
彼を取り囲むたくさんの女性達からは頭一つ分ほど彼の方が背が高いため、まだ遠くにいる彼の姿がとてもよく見える。
そうよ。
きっと彼が前を見たときにわたくしと目が合って、そして2人は恋に落ちるのだわ!
「・・・・・・・??」
「ま、マーガレット様、ジークフリート様こちらを見ませんね?」
「さ、さっきから、なんだか後ろの方ばかりを気にしてますわ!」
確かに、大広間に入ったはずのジークフリート様の視線はずっと後ろの方。
それも彼の少し下あたりを見ている。
そして、ようやくジークフリート様が入り口の何十という娘達の輪から解放され、こちらへと向かってきた。
「し、ジークフリートさ・・・・・ッ」
「ま、マーガレット様!!あの女はなんですかっ!?」
「どうして、ジークフリート様が手を引いてエスコートしてますのっ!?」
そう、今目の前でわたくしの前に現れたジークフリート様は、1人の女性を横に伴っていた。
「い、いったい、どこの令嬢っ!?」
「わかりません!あんな令嬢は、社交界でも見たことがありませんわ!」
その女は、黄色い大輪の薔薇をかたどった豪華なドレスを身につけていた。
華やかでそれでいて品もあり、よく見れば小さな宝石が散りばめられており、彼女が動くたびにそれが彼女をより光輝かせる。
髪型は緩く波うつ栗色の髪に、ダイヤモンドの宝石がいくつも連なって花の形をしたティアラをななめにしてつけていた。
耳元にも同じダイヤでできた、こちらはしずくの形をしたものがついており、首元から胸元間で大きく空いた肌の白さがより映えている。
その顔を見ても、確かに社交界でこれまで自分が会った記憶はない。
不細工ではないが、特別に美しいとも思えないどこにでもいそうな普通の娘だ。
そんなどこの家柄のものかも分からないような女が、なぜあの方に手を引かれて歩いているというのっ!?
「マーガレット様、分かりましたわ!あの女は、今回アルフレド王子と旅の同行をしたという庶民の女です!!」
「しょ、庶民ですってっ!?なんで庶民が王室と貴族のパーティーに紛れ込んでますのっ!!」
なんてことっ!!
庶民の分際で、このわたくしの目の前であの方の手を握るなど!!
マーガレットの顔が嫉妬に歪み、ドレスを握る手に力がこもる。
「ど、どうやら、王様が彼女も今回の件に貢献したからと、特別に招待したようです!」
「そ、そう!なら、王様の命令でジークフリート様は仕方なく、あの女のエスコートをしているということね!!」
そうだとしても、なんて腹立たしいのかしらっ!?
さっきから、ジークフリート様が見たこともないくらい優しいお顔でいるのに、なんでその視線の先がわたくしではないの?
なぜその大きな手をわたくしには差し伸べてはくれないの?
こんなに、こんなにわたくしはあなた様を思ってますのに!!
「・・・・・・・」
「ま、マーガレット様!ファーストダンスのチャンスがございますわ!!」
「そ、そうですわ!さすがのジークフリート様でも、まさか庶民の女をファーストダンスの相手になど選びませんよ!!」
「えぇ、そうね!」
社交界の中で、パーティー等の舞踏会でファーストダンスを踊る相手はとても重要視されている。
もちろん回数も大事だが、大抵は最初に踊った相手と繰り返し踊ることが多い。
普段の生活で中々交流の持てない貴族同士が、直接触れ合いながら関われるダンスの場は貴族の娘達には一生を左右するとても大事な場だった。
ファーストダンスの相手が、そのまま婚約者へと繋がることだってある。
そして、その踊っている姿を見せることで周りへの牽制にもなったりするのだ。
なんとしてでも、ジークフリート様のファーストダンスの座を射止めて彼の瞳にこの姿を映してもらわねば!!
「それと、アレも今すぐに用意しておきなさい!」
「え、アレですか?」
「そうよ・・・・それで庶民様には、すぐにお帰り頂きましょう!」
「わ、分かりました!」
そうよ、あそこに立つのはこのわたくしだわ!!
あの方の隣で笑うのも、その名前を呼ばれるのも愛されるのもーーーーーーあんな、庶民の女であるはずがないじゃない。
マーガレットはドレスの裾を掴むと、優雅な足取りで大広間の真ん中への向かう。
だが今夜はマーガレットだけでなくその場にいた何十人もの貴族の令嬢が、ジークフリートへの恋心に心を躍らせていた。
皆が自分を迎えに来る王子を求め、その王子に相応しいとジークフリートに夢を見ているのだ。
そして同時にその願いを叶えようとしている、彼がエスコートする女性には嫉妬と羨望の眼差しが一斉に突き刺さる。
その視線の意味を全くわかってない男と、正しく視線の意味を誰よりも理解した女が大広間の中心地へと向かって一緒に歩き進んでいた。
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