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いざ、翠の森へ
森の中の魔女
しおりを挟む光の指し示す方向を歩いて行くと、先ほど目印をつけた場所を通りながらも全然別の景色のところへとようやく進み、その先に様々な色の花畑に囲まれた小さな小屋の前へとたどり着いた。
「おい、ここに緑の魔女がいるのか?」
「・・・・た、たぶん?」
ゲームだと、こういう小屋の中のツボ辺りからまた別の次元にワープしたりするけどさすがに現実でそれはないと思いたい。
コンコン
とりあえず、森の中の木の実や蔓・葉で作られたリースの飾られている玄関の戸をノックしてみる。
「・・・・・・はい」
中からは、キレイなソプラノトーンの女性と思われる声がした。
それと同時に、扉がひとりでに開く。
「中へどうぞ」
姿が見えないものの、その声に案内されながら中へとおそるおそる入る。
「お、おじゃましまーーす」
足を踏み入れると中の床も壁も木でできており、その板の隙間からは花や草がところどころ生えていた。
家の中だというのに、その花々の周りには幻想的な黒と青のコントラストがとても美しい蝶々が何匹も舞い飛んでいる。
そしてその奥からは、海の蒼さをそのまま移したかのような豊かで長い髪を緩く三つ編みして体の前に垂らした、見た目的には40代くらいの、落ち着いた女性が椅子に腰掛けていた。
「あらあら・・・・こんなところに人間のお客様がいらっしゃるなんて、何百年ぶりかしら?」
「あ、あの、初めまして!私はクローディア=シャーロットと申します!」
「あなた、その印は」
緑の魔女と思われる女性は、ゆっくり椅子から立ち上がるとクローディアの手の甲の光を見つけて真剣な目でその手に取る。
「この印は、どうしたの?」
「こ、これはその、る、ルーク=サクリファイスという名の、ま、魔導師がですねっ」
つけた経緯を思い出しクローディアが真っ赤な顔&慌てた様子で告げると、女性の顔が驚きに目をパチクリさせた。
「まぁ!この印をあの子がっ!」
「え?し、知ってるんですか?」
「えぇ、知ってるわ。彼の親戚が私の友人なのよ。まさか、あの子がこれを他人につけるなんて!」
「・・・・ッ!」
真剣な目をしていた女性は急に穏やかな表情を浮かべると、とても嬉しそうに笑った。
「失礼いたします。わたしは、アルカンダル王国の騎士を務めておりますジークフリート=ウルンリヒと申します。緑の魔女様とお見受けしましたが、この印は一体どのようなものなのでしょうか?」
「!?」
その女性のすぐ前で膝をつくと、ジークフリート様は名乗るとともに頭を下げた。
しまった!
偉い人なら、頭を下げるのが先だったか!
「あらまぁ、これはご丁寧に。頭を上げてちょうだいジークフリートさん。魔女といっても、人より少し知識が多くて長生きしてるだけで、特別に偉いわけではないのよ」
ニコニコと人が良さそうに笑いながら、女性は膝を折ったジークフリートの目の前でしゃがむと、クローディアとジークフリート、そしてその後ろで固まっているアルフレドへと順番に目線を向けながら自己紹介を始める。
「わたしはサーラ=エスペランサ。せっかく来てくださったのにこんな入口ではなんですから、お茶でもいれてそこで話しをしましょう」
その笑顔は、窓から差し込む陽だまりのように暖かいものだった。
緑の魔女ことサーラと名乗った女性は私たちをテーブルのある部屋の椅子に座らせると、木の小屋には少し似つかわしくない感じがする立派なアンティークのコップにお茶を入れてくれた。
匂いを嗅ぐと、現代で飲んだりんごのような香りがあるカモミールのハーブティーに近い匂いが鼻をくすぐる。
風邪をひいたときや、疲れている時の癒しとして最適なハーブティーだと母親が気に入ってよく買ってきてくれていた。
「いい匂いで、すごくおいしいです!」
「よかったわ、お口に合ったみたいで。お二人も大丈夫かしら?」
「ありがとうございます、おいしいです」
「・・・・・・」
すぐにお礼を伝えたジークフリートの横で、眉間にしわを寄せたアルフレドは黙ったまま。
カップに口どころか、手さえ触れていない。
アルフレドの分のハーブティーは目の前で毒味したのだが、まだまだ警戒しているのが丸わかりだ。
「す、すいません!サーラ様!アルフレド様はちょっと人見知りなんですっ!!」
「まぁ、そうなの?でも、気にしていないから大丈夫よ」
あぁ、癒される。
このハーブティーもおいしいけれど、このサーラ様のどこかのんびりとした柔らかな雰囲気が、今の私にはマイナスイオンそのものだ。
「・・・・それで、サーラ様。先ほどの印の話ですが」
「ぶふぉーーーーっ!!」
誰もいない方向を向いていて正解です。
本当に、吹きました。
噴水のように。
「きさま、なんて汚いことをっ!!」
「す、すみません!!」
「フフフッ、大丈夫よ。そうそう、さっきの印の話だったわね」
「さ、サーラ様、それよりも!!」
「あれは、祝福の口づけというのよ」
「!?」
あぁ~~~・・・やっぱりそんな名前なんですね。
もうちょっとひねって欲しかったです。
あんなに頑張ったのに、あっさりバレました。
「祝福の・・・・口付けですか?」
「!?」
な、なんでしょう?
さっきから、ものすごい寒気が!!
「えぇ。これはこの森の精霊と契約を交わした者にしか使えない印なんだけど、相手のことを大切に思う心がないと使えないのよ」
「!?」
「ぶふぉっっ!!」
危ない!!
さっきよりはお茶を少なめに含んでたから、そんなに吹かなくてすみました。
「お前はまたっ!!」
「ご、ごめんなさい!」
いやいや、今回はそんなに吹いてないですよ?
「た、大切にってことは、ないんじゃないですかね~~?か、彼とは、友人ですけども」
けっこう、ひどい目ばっかりあってますよ?
止まらない寒気とともに、冷や汗がダラダラ出てきてこちらも止まらない。
「そんなことないわ。確かに、表面では意地悪なことをするかもしれないけど、本当は優しい子だもの」
「・・・・・ッ!」
穏やかな彼女の笑顔の奥には、彼に対する強い思いと信頼を感じた。
『お守り・・・・まぁ、念のためのね♪』
そうなのだ。
ひどいことをたくさんされたけれど、結局は彼に助けられていることも多い。
彼が私を『大切』に思ってくれているのかどうかは、彼はそのことも隠してすぐに気づかせないから全くよく分からないのだけれど。
「・・・・・・はい」
返事をしてから、気持ちを落ち着かせようとカモミールティーに似た味でのお茶を一気に飲みこむ。
きっとこの、温かいお茶のせいだろう。
顔はまだ少し熱い気がした。
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