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モブ女子新しい旅へ オーギュスト王家の確執

なんだか新鮮です!

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王都を出て、まずは最初の森となる『さえずりの森』を私達はめざしている。


そこに向かう中でも『アルフレド王子の信頼を得て友人となり、他の人への信頼を得るための友情拠点となること』作戦はスタートしていた。

どうやってって?

もうお分かりでしょうが、私が人と仲良くなる為の知識&経験スキルは基本、保育士の時のものしかない。

なので、まずはそこから試してみることにしました。

つまりアルフレド、ここからはアルフ様を入園したての園児のように、心を開こうとしない彼の心をあの手この手でノックしてみよう!作戦です。


その1.名前を呼び、たくさん話しかけてみよう!



「アルフ様!」

「俺に気安く話しかけるな!!」



まぁ、返事をしてくれるだけまだマシなところでしょうか。


ついさっきも先頭をジークフリート様が歩くことは決定したものの、真ん中と後ろの位置について散々揉めたばかりだ。

私が真ん中になれば


「庶民のくせに、俺の前を歩くんじゃない!!」


と怒られ、ならばと後ろにくれば。


「俺様の背後に立つなっ!!」


と、怒られる。

お前はゴル○13かっ!!

そんなささいなことでいちいち揉めるもんで、中々仲良くなる糸口が少ないのだがとりあえず『その2』に行こうと思う。


その2.相手の外見や持ち物を褒めてみよう!



「アルフ様の持ってる剣って、すごいカッコいいですね!!」

「ふん!!庶民にこの剣のすごさが分かるわけがない!!」

「・・・・・そ、そうですね!王子が選ぶぐらいの、それはそれは由緒ある素晴らしい剣なんでしょうね~~!」

「当然だ!!我が王家に代々伝わる宝剣だからな!!これぐらいのものでないと、俺様にはふさわしくない!!」

「おぉっ!!もしや、エクスカリバー的な??」

「ーーーーーーーきさま、なぜこの剣がエクスカリバーンと知っている?」

「え?」



いや、ちょっと待って!

名前少し違うじゃん?
エクスカリバーンって、由来の色々が混ざってるじゃん?

なんで、怖い顔して剣の柄に手をかけてんですか王子様ッ!!



「さては、きさまこの宝剣を狙いに来た他国の間者だなっ!!」

「ち、違います!!宝剣とか、伝説の剣とかって言ったら、大抵エクスカリバーはその名が上がってくるもので・・・・ッ!」

「うるさい!!庶民のくせにどこでその名を聞いたか答えろーーーーー!!!」



ついに剣を抜いてしまったアルフレドが、私に向かって剣を振り上げて追いかけてくる。



「げ、ゲームとアニメと漫画と、ついでにウィキペディア先生ーーーー!!!」



そして、そこから全力で逃げる私。

前を歩くジークフリートが騒ぎに振り返って見れば、すでに本日何度目かの追いかけっこが始まっていた。



「・・・・・またか」



実は、アルフレドの持つ剣は本物にかなり近く似せたレプリカで、本物のエクスカリバーンは城の奥にある宝物庫に眠っている。

王者の資格を持つものだけが持てる剣というだけあって、歴代の王にその剣も受け継がれている為、まだその時ではないとレプリカを王は王子に渡したのだ。


いつか、本物を渡せる日が来ると信じて。




そうこうしているうちにアルフレド王子が石につまづき、クローディアごと原っぱの上に倒れていく。



「・・・・・ッ!!」



そしてジークフリートの目の前では仰向けに倒れたクローディアの上に、押し倒すようにして倒れこんだアルフレドが乗っかっていた。

エクスカリバー風の剣は、アルフレドが倒れた時に地面へと突き刺さったようで、その手のひらを離れている。



「イタタタタ・・・・・アルフ様、大丈夫ですか?」

「!?」



おぉ~~!!さすがはメインヒーロー!!

顔だけなら、やっぱりかなりの美形。

金髪に青い瞳の、正統派王子様スタイルのどアップが目に眩しい!

しかし、なんでこの世界はメインヒーローですらみんなまつげも長く肌もこんなにキレイなんでだろう?

モブキャラにもその愛を少しでいいから分けてください製作陣!!


って、あれ?

なんだか、王子の顔がどんどん赤く。



「き、きさま!!いつまで俺様のことを許可なく見ているっ!?さ、さっさとどけ!!」

「いやどけって言われてもアルフ様がどいてくれないと、私動けなくてですね」

「う、うるさいっ!!!」



あらら、王子様ったら耳まで真っ赤っか!


アルフレド王子は大慌てで私から飛び退くと、地面に突き刺さったままの愛剣を手に取り鞘に収めていた。

その様子を黙って見ながら、私もよっこいしょ!とその場から立ち上がる。

あ、今こういうところが若くない!って思ったでしょ?

すぐにみんなわかるよ、気づくと無意識に言い始めるから!



「・・・・・・・」

「!?!?」



立ち上がった私とアルフレド王子の目が偶然合うが、すぐさまアルフレド王子が真っ赤な顔のまま、勢いよく顔を横にそらす。

身近にいる男性代表のレオもグレイさんも顔が近づこうが少し過剰なスキンシップがあろうが、赤くなることも恥ずかしがることもなく、レオにいたってはここぞとばかりに甘え倒してくるから、王子の反応がなんだかすごく新鮮だ!

相次ぐ美形との遭遇率の高さに、だんだん慣れ始めている自分がいてびっくりです。

ほら、こんな美形をこんなに至近距離で見てても、心はとても不思議と冷静です。

慣れって怖いわ~~。

乙女ゲームのヒロインのほとんどが総じて鈍いのは、スーパーイケメンしかいない環境のせいじゃないだろうか?


あ、ジークフリート様は、私の方が先に鼻血吹きそうなほど興奮してしまうから問題外!

ルーク?あの男が恥ずかしがる姿は、想像すらできません。


うん、少しだけ王子が可愛く見えてきたかも!






王都を出てから、俺はどこかおかしい。

旅に出てからというもの、アルフレド王子とクローディアは俺の後ろですぐにケンカを始める。

大抵は王子がどんなに小さなことでもクローディアに突っかかっていき、そこからさてはきさま間者か刺客だな!と彼女を追い回すところまでが大体セットになって、繰り返されている。

クローディアもどんなに疑われても剣を向けられても怒り返すことはなく、王子と仲良くなろうと自分から何度も積極的に関わっていた。

それはとても微笑ましいもののはずなのに、時折2人の姿に胸の奥がざわつくことが増えている。

前から時々ふとした瞬間に訪れていたそのざわめきは、2人が仲良くなればなるほど俺の体の奥底でグツグツと何かが蠢いている。


「ジークフリート様!!そろそろ、一度ごはんの時間にしませんか?アルフ様と走ってたらお腹すいちゃって」

「・・・・・そうだな」

「なっ、こんなところで食事だとっ!?きさま、ここはまだ草原じゃないかっ!!街は近くにないのか!!」

「森の中に入ったらゆっくりできないかもしれないし、今のうちに腹ごしらえしちゃいましょ!それに、少しでも荷物減らしたいし」

「おい!庶民の女、俺様の話を聞けっ!!」

「アルフ様、私は確かに庶民のモブ女ですけど、ちゃんと名前がある町民Aなんですから名前を呼んでください」

「な、名前だとっ!?」

「ま、まさか!!頭がよくて記憶力もいいアルフ様ともあろう方が、もう何度も何度も聞いたはずの私の名前を覚えていらっしゃらないんですか!?」

「ふ、ふざけるなっ!!!ちゃんと知っている!!」

「じゃ、次からは名前で呼んでくださいね」

「・・・・・ッ!!!」


真っ赤な顔で怒った表情のまま、悔しいながらも言葉を無くして全身を震わせている王子に、クローディアは口に手を当てて小さく笑っていた。




ギリッ。




また、胸の奥で小さな痛みが走る。

先ほど俺の目の前で2人が草むらに倒れた時は、身体中が沸騰したかのように一瞬熱くなった。

だがその痛みも熱さも、しばらくすればなくなる。



「ジークフリート様!すみません、荷物重かったですよね?すぐに食事の支度しますから、その場に下ろしちゃって下さい」

「・・・・・あぁ、分かった」



分かっている。

彼女と出会ってからの俺は、何かがずっとおかしい。


クローディアは荷物の中に入っていた大きめの布を広げると、その上に持ってきたお弁当や飲み物を手早く広げていく。

確かに、すごい量だ。

それでも半分ぐらいは途中騎士院によって分けて来たのだと、彼女は話していた。

母親が疲れている中で寝ずに作ってくれた、大切なものだから食べ残して無駄にはしたくないと。

俺とクローディアが弁当を食べ始めても、アルフレド王子は布の端っこに座って絶対に食べようとはしなかった。

毒でも入っていたらどうする!?と、クローディアを頑なに突き返している。

クローディアも何度か色んな種類のおかずを見せてチャレンジはしていたが、惨敗のようだった。

母親が作った食べ物に対しても、しょせん庶民が作った食事のくせに、と王子から中には酷い言葉を含んだことを言われて悲しい顔をしていたが、一度も王子に対してそのことで怒ったりはしない。

最後には気が向いたら食べてみて下さいと、王子の脇におにぎりを置いて戻ってこようとしていた。


だが次の瞬間ーーーーーー王子がそのおにぎりに手を伸ばし、原っぱの向こうになげつける。



「!!??」



そして俺が止める間もなく、クローディアがアルフレド王子の頬に平手をを打っていた。



「き、きさまっ!!次期国王であるこの俺様に向かって手を挙げるなど、今すぐ死刑にしてやるッ!!!」

「うるさいっ!!今すぐ謝れ!!!」



クローディアは本気で怒っていた。



「なっ、なんで俺様がお前に謝らなければならないっ!!」



アルフレド王子も、そのことにびっくりしてうろたえていた。

どんなことを言われても、剣を向けられてさえも怒らなかったクローディアだからこそ余計にだろう。



「私にじゃない!!その食べ物を作ってくれた人、育ててくれた全員に謝って!!!王子だろうがなんだろうが、自分の国の人達が苦労して作ったものを簡単に投げ捨てるなんて、次期国王様になる方ならなおさらあんたは本気で大バカ野郎王子だっ!!」

「!!??」



そのまま、クローディアは森の方へと走りさってしまう。

俺の横を通り過ぎた彼女の顔は、泣いていた。



「クローディアッ!!」



すぐさま追いかけようとした俺の腕を、王子が掴む。



「俺は、俺は間違ってない!!俺は自分の身を守っただけだッ!!」

「アルフ・・・アルフレド様」



幼い時より食事や飲み物に毒を混ぜられ何度も死にそうな目にあい、それ以来王宮での食事ですら唯一信頼できる料理長の手によるものしか口をつけなくなったという。



「・・・・あの食事は、クローディアの母親が仕事後の疲れている中、寝ないで夜通しほとんど休むことなく心を込めて作ってくれたものだそうです」

「!!??」

「アルフレド様や俺に食べてもらえるならと、相当疲れているにも関わらず色々考えて手をかけてくれたものなんだと」

「・・・・・・・」



俺の言葉に、アルフレド王子は複雑そうに顔を歪ませる。



「もし、マーサ様が思いを込めて作ったものを目の前で他人に捨てられたら、アルフレド様はどうですか?」

「は、母上だと!?そんな輩、俺が今すぐ斬って捨ててやるっ!!」

「そうですよね。クローディアも、同じ気持ちなんです」


「・・・・・・くそッ!!!」



眉間にしわを寄せて怒りの表情を浮かべたアルフレド王子は、そのままクローディアの向かった森の中へと走っていく。

その背中をしばらく見つめていたが、2人だけで森の中にいさせるには少々環境が危険な為、ジークフリートも荷物をまとめてからすぐさま後を追いかけていった。





本当は、俺こそが真っ先に彼女を追いかけて行きたかった。

泣いているであろう彼女を、抱きしめてやりたかった。


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