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モブ女子新しい旅へ オーギュスト王家の確執

国王陛下にお願いします!

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我がアルカンダルの歴代の王は王位を引き継ぐとともに、ある記憶を魔法によって受け継ぐ。


それは我が先祖である第25代目国王である、アレクシス王の記憶。

当時は魔のものと人との激しい交戦が続いていて、とうとう魔のものの何千という兵が我がアルカンダル王国に攻め入ろうと向かっているところだった。

だが我が国と人間を女神は最後まで見捨ててはおらず、本当に奇跡のような存在のおかげで魔のものの侵攻をを妨げ、長かった戦にようやく終わりを告げた。

その後その奇跡の存在は王国どころか世界から存在を消し、アレクシス王はかの者に何代かかってもその礼を伝えねば!と自分の記憶を魔法で封印し、子孫代々に引き継がせてきた。

39代目になるわし自身も、その記憶を引き継ぎ自分の体験したものではないにもかかわらず、それはいつだって鮮明に蘇ってくる。

できれば息子達には引き継がずに自分の代でこの記憶を終わらせたいとは思うものの、未だにその存在を見つけることは叶わなかった。



そう、今日のその時まではーーーーー。









アルカンダル王国のアヴァロニア城の謁見室には39代目・アレキサンダー王とその息子であり、第一王位継承権を持つアルフレド王子、そして騎士院の長であるジークフリートが玉座の前に立っていた。



「それではアルフレドよ、本当に今回の護衛もこのジークフリートだけで良いのだな?」

「構いません!と何回申せばいいのですか、父上!俺は他の護衛などいりません!!」

「はぁ~。ジークフリート、お主はそれでよいのか?」

「・・・・・アルフレド王子がそうおっしゃるなら、わたくしめに否やはございません」

「ううむ」



アレキサンダー王は頭を抱えて悩んでいた。

悩みどころは、この目の前の息子のこと。

彼は幼い頃の事件をきっかけに人に対して疑心暗鬼になり、それは自分の国の配下といえども例外ではなく、我が国から出るときの護衛は騎士院内で実力も人柄も誰もが太鼓判を押すジークフリート以外に許さなかった。

国にいる時はある程度の護衛として他の兵士がそばにいることも一応は許しているが、それも一定の距離を置くことの条件がつく。

自分の身ならば自分で守る!!と剣技等はだいぶ強くなったようだが、敵は何も正面から正々堂々とくるわけではない。


一対一で来るわけでもない。


いくらジークフリートが我が国の英雄と名高い名戦士だとしても、1人で守るには限界というものがある。

以前後ろからこっそりと他の兵士を後につかせたこともあったが、自分へと暗殺なのでは!?と疑った王子に攻撃を受け、その兵士達は皆重傷を負って帰ってきた。

自国の王子に対して、自分を守る為とはいえ兵士達が攻撃を彼にできるわけもないから当然といえる。



国を統べる国王となるものが、共に国を守る仲間を信じられなくて何を治められようか。



「父上、いい加減にお許しください!今回だって場所は翠の森!距離的にはそんなに遠くはございません!!」

「いや、それはわかってはおるのだがな」



先ほどから何やら胸騒ぎがして、それが無視できない。

こんな感覚は戦の時ぐらいにしか起きないものだが、それとも何か違う。

血が騒ぐとでも言えばいいのか。




その時だった。



コンコン、と扉を叩く音が聞こえたかと思うとそこから見知った姿が入ってくる。


「大事なお話中に失礼いたしますわ、国王陛下!」


扉から入ってきたのは美しい紫の髪とドレスを身にまとった我が国の宝石と歌われた聖女であり、これからさらに大輪の花を咲かせんと日々美しさに磨きがかかる少女。


エリザベート・サラ・デ・グラッツィアだった。



「おぉ~~エリザベスではないか!あい変わらず美しいのう」

「アレキサンダー王、ご機嫌麗しゅう。わたくしごときに大変もったいないお言葉ですわ」

「して、今日はどうしたのだ?」


このように、エリザベスが何の連絡も寄こさず突然謁見室に入ってくるなど初めてのことだった。

何をやらせても人一倍優秀なエリザベスは、勉学だけでなく普段の生活も優等生そのもので我が息子と違い問題など何1つ起こさない。



「はい。実は今この場で陛下に会って頂きたい人がいるのです」

「今この場でか?」

「はい、わたくしの大事な方ですわ」



エリザベスの目を見てみると、そこに迷いは一切ない。



「エリザベス!!貴様、この神聖な場所で何をするつもりだ!!」


自分の婚約者である彼女の真意を知ろうともせずにただ騒いでいるアルフレド王子よりも、よほど肝を据えてこの場にいる。



「・・・・・・よかろう、呼ぶがよい」

「父上!!部外者をこの場に入れるなど何を考えてるんですかっ!!」

「クロエ、入ってきてもよろしくてよ!」

「なっ、クローディアだとっ!?」


エリザベスの口から出たその名に、先ほどまでは自ら決して言葉を何も発しなかったジークフリートが一気にうろたえる。


まさか、ジークフリートの知り合いか?


それならば屈強な戦士かどこかの傭兵辺りだろうか。



キイィィィ。



「!?」


そして、王がゴクリと喉を鳴らすとともに謁見室の重々しい扉がゆっくり開かれた。


「あ、あの、し、失礼します」

「!!??」


だが、扉から入ってきたのは予想を大幅に裏切り女性としては平均的な体型のどこにでもいるような町娘だった。



「クローディア、お前こんなところで何をしてるんだっ!」



彼女の姿を見たジークフリートが、すぐさま怒った様子で彼女の元へ急いで向かう。

彼が感情を公の前でこれほど出すのも珍しい。



「じ、ジークフリート様!?い、いやこれにはワケがですね!」

「わけは後から聞く。今すぐお前は帰れ!!」

「・・・・・・ジークフリード!!」

「へ、陛下!」


自分の言葉にジークフリードがすぐさま反応し、膝をついて頭を下げる。

そしてその隣にいた少女の手をひくと、自分と同じように膝をつかせて頭を下げさせた。


「よい。わしは何の為にその娘がこの場に来たのかが聞いてみたいのだ。娘よ、名は何と申す?」


あのエリザベスがこんな無茶をしてでもこの場に連れてきた娘だ。

ただの気まぐれではあるまい。

それに先ほどから、この少女の来訪に言葉を失っているアルフレドの存在も気になる。

普段なら何だ貴様は!!とさらに騒ぎ立てるところを、びっくりした表情はしているが言葉を失っている。

もしかしたら、彼も知っている娘なのかもしれない。



「あ、あの、クローディア=シャーロットと言います!」



見たところ、本当に普通の娘にしか見えない。

緊張し過ぎて全身が震えており、その様子を隣にいるジークフリードが心配した様子で見つめている。


「それで、そなたは何をしにここへ来たのだ?」

「ぶ、無礼を承知で申し上げます!!こ、今回のアルベルト王子の護衛に、私も連れて行ってください!!」

「!!??」



彼女の言葉に、ジークフリートとアルベルトが同時に驚愕の表情を浮かべた。

彼女の目は真剣そのもので、冗談を言うような瞳ではない。


それに、先ほどから胸騒ぎがさらに強くなっている。

何かの予感に体が本能で騒ぎ立てるなど、一体この先に何があるというのか。


ちらっとエリザベスの方を見れば、同じような真剣な眼差しでわしの方にただ一度だけ頭をスッと下げる。


「き、貴様!!何を言い出すかと思えば、この俺の護衛だとっ!?男ならまだしも、お前みたいな女の細腕で何ができる!!」



彼女の前までズカズカと歩いて行き、ビシッと指をさしながら初めに声を出したのはアルフレド。


「ほ、細腕かもしれませんが、魔法なら少し使えます!!」


体は震えながらも、アルフレドの視線からは目をそらさずに彼女も負けじと声を出す。


「クローディア、アルフレド王子の護衛などお前が関わることじゃない。これは俺の仕事だ!」

「そうだ、お前などが同行しても足手まといになるだけだ!そんなところをもし刺客にでも狙われたらどうするつもりだ!!」


「・・・・・・」



ジークフリートの方も彼女に向き直って、声を出し始めた。

その後大の男2人に囲まれて諦めるかと思いきや、しばらく下を向いていた彼女がキッ!!と厳しい顔になると、その場から走って玉座に座るわしの前に膝を追って頭から床につける姿勢をとる。


「!!??」

「・・・・・・・ッ!!!」

「クローディアッ!?」

「き、きさま何をっ!?」

「アレキサンダー王、お願いです!無理を言っているのは百も承知です!でも、私もこの国に住む民として王様達のおかげで平和な国で過ごせているからこそ、アルフレド王子の護衛に参加させて欲しいんです!私達民にも王子を守らせて下さい!!」

「なっ・・・・!!」



彼女の言葉に一番反応をする見せているのは、アルフレド王子。

命令や義務ではなく、こんな風に自ら彼を守りたい!と、願い出てきたものがこれまでいただろうか。



「国王陛下、少しよろしいですか?」


そして彼女の隣に静かに立ち、ドレスをつまんで礼を取ったエリザベスが口を開ける。


「何だ、エリザベス」

「今、街を賑わす数々の事件を解決しているのは目の前におります彼女ですわ」

「え、エリザベス様!!それ言っちゃう!?」

「ほぅ」



そういえば最近、不思議な事件が続いていると大臣が話しておったな。

なるほど、確かにただの町娘ではないようだ。




「国王陛下、その娘は十分強いですよ」


「!!??」



そして、室内に声だけが響く姿の見えない来訪者が訪れる。

この声ならば知っている。


「ルーク=サクリファイスか!」


なんと、この娘はあの男まで動かすのか!!


「こんにちは、クローディア」


我が国屈指の天才魔導師が、歪んだ空間から音も立てずに謁見室の中へと現れた。

紺のローブを目深に被った彼は玉座の前で頭を下げていたクローディアの手を取ると、騎士が貴婦人にする挨拶のようにその手の甲にそっと口づける。



「最初から、僕を頼ってくれたら簡単だったのに」

「あ、あんたに頼るのは一番最後です!」


魔法院から滅多に出てこないという、謎に包まれた魔導師は機嫌がよさそうにクローディアに向かってニコニコ笑っていた。

王宮に魔法院への依頼で来る時の、あの底の知れない冷たい笑顔とは大違いだ。


「る、ルーク=サクリファイス!!その女がお前の言うように強いというなら、今すぐ証拠を見せろ!!」

「これは、これは。アルフレド王子、お久しぶりです。そういえば、あなたはまだ彼女の魔力をその目で直接見たことがありませんでしたね」


そうアルフレド王子に顔だけを向けながら話すと、口付けたクローディアの手をそのまま自分のものと繋いで彼女をその場に立たせた。


「クローディア、見せてあげたらどう?」

「で、でも、ルーク!魔力を見せるって何をすれば?」

「彼を呼べばいいんです♪」

「あ!!」


ルーク=サクリファイスが、わざと彼女の顔の近くにまで顔を寄せて話す。

その向こうで2人を見ていたジークフリートの顔がどんどん険しいものになっているが、それだけ彼女が心配だということだろう。

そして彼女は天井に向かって顔を上げると、よく通る声で何かに向かって呼びかけた。


「お願い、ボルケーノ!!来て!!」

「ボルケーノ様っ!?」

「・・・・・??」

「ぼ、ボルケーノだと!?まさかッ!!」



我が息子以外はその聞き覚えのある名に驚いた表情を浮かべた瞬間に、天井の空間に大きな炎の塊が燃え上がる。




ゴオォォォッ!!





炎は塊から龍の姿に変化し、円を描きながら大柄の男の姿を作りその形をしだいにとどめていく。




わしは、夢を見ているのか?

自分の体が細胞が騒ぎ立てる。

自分のものではないはずの記憶が、鮮やかに蘇る。


何十代の王がその願いを託され叶えることができずに無念のままで終わったその思いが、今果たされようとしていた。



『呼んだか、我が主よ』


「・・・・・・・ボルケーノ、様」




何千・何万と敵が一気に国へと押し寄せて来た、あの恐怖と絶望。

兵が次々と戦の中で死んでいき、民は魔のものに蹂躙されほとんど抵抗もできないまま殺されていった。

それでも希望を持って最後の砦の王都を守るべく、兵士ではない民もみなが共に戦うと立ち上がったあの感動と喜び。

だがその中で突然現れた何千という魔のものの兵隊に、我が軍も民も希望を失いかけた。




その絶望の中で、奇跡は突然現れた。


奇跡は偉大で神々しさと力強さに溢れ、神々の途方もしれない力に我々は心も体も神さえも、ひれ伏した。



それは、たったの一撃。




紅き手の平から燃え盛る焔を生み出し、今まさに王都を襲わんとする何千といるモンスター達をその炎は一瞬で燃やし尽くした。

普段は抜けるように青い空がその時は夕方でもないのに赤々と燃えていて、とても美しいと感じた。

その光景を、体感すらしたことない自分ですらつい昨日のことのように感じてしまっている。


「な、何なんだッ!?おい、ジークフリート!!あ、あれは、あれは一体何だッ!?」


息子はあまりに突然の出来事に、腰を抜かしてその場にひっくり返っている。


「あの方は、ボルケーノ様。炎の化身でありその炎を司る神です」

「か、神だとっ!?」


息子の驚愕した目線が、その神をたった今目の前で召喚した少女に強く向かう。



「ごめんね、ボルケーノ」


『よい。それよりもここはアヴァロニア王宮か、懐かしいな』


「ぼ、ボルケーノ様ッ!!」


まさか、こんな奇跡が我が身に起こるとは!


「こ、国王陛下!!」

「父上!?」


空中で腕を組んで佇むボルケーノに向け、この国1番の権威を持つ国王が玉座から降り膝をついて頭を下げたことに息子と家臣が思わず声をあげる。


「ボルケーノ様。ようやく、ようやくあなた様に会えました。我がアルカンダル王国を助けて頂いたご恩を、我がオーギュスト家は決して忘れたことはありませぬ」


『おぉ!アレクシスではないか!久しいな!』


「申し訳ありません。わたくしめはアレクシス王の子孫である、アレキサンダーと申します。アレクシス王はあなた様の炎のおかげでこの国が平和になったことを心から感謝しておりました。そして、いつかこのお礼をあなたに直接伝えたいと、その記憶を我々は代々受け継いだのです」



国王陛下は泣いていた。



『そうか、アレクシスはもう死んでしまったのか。あやつとはよく一緒に酒を飲んだものだが、人の命とはやはり儚いものだな』


炎の神は天井から空を見上げると何かを考えているのか、そのまま押し黙った。


「クローディアよ」

「えっ!?あ、は、はい!!」


涙を止めたアレキサンダー王がクローディアのそばまで歩いていくと、その手を両手でしっかり握って頭を下げた。


「そなたには、何度礼を言っても足りぬ。何百年・何世代という我が王家が抱えてきた望みを、そなたが今叶えてくれたのだ」

「あ、あの!いや、頭をお上げください、王さま!!」



見た目はどこにでもいる普通の少女なのに、何という娘だろう。

エリザベスにあのルーク=サクリファイスまで動かし、まさか我が王家の宿願であるボルケーノ様との奇跡の再会をさせてもらえるなど!!



「いや、何度頭を下げても下げたりぬ。そなたは我が王家の恩人だ」

「えぇっ!?わ、私本当に何もしてません!ボルケーノの封印はルークが!!」

「封印を解いたのは、君でしょう?」

「そ、そうだけど!」

「クローディア、ありがとう」

「は、はい」

「そなたになら、是非とも息子の護衛をわしの方からお願いしたい」

「!?」

「ち、父上!俺はまだ承諾しては!!」

「黙れッ!!お前は我が王家にもたらされた幸運がどれほどかまだわからぬのかっ!!怖がるばかりで相手の表面だけ見て決めるのではなく、相手の奥の奥まで見れるよう、お前は今回の旅で色々学んでくるがいい!!」


人を信じられぬままなら、アルフレドは王には決してなれない。


「・・・・くっ!!!」



まだ納得できてないようだったが、国王の権限で有無は言わせない。

我が国を救って頂いたボルケーノ様の加護を受けた彼女が側にいれば、並の兵士が護衛につくことの何百倍心強く信頼できることか。



「ジークフリートも、よいな!!」

「国王陛下のご命令とあらば」



ジークフリートも全部の納得はできてないようだったが、それは表には出さない。



「それでは、出発は明日の朝一じゃ!それまで各自しっかり体を休ませるがいい」

「あ、ありがとうございます!!!」

「よかったですわね!」

「面白くなりそう♪」




『ん?我は何の為に呼ばれたのだ?」



ボルケーノだけが、この状況がよくわからないと最後まで首をかしげていた。

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