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死の山からの帰還

帰ってきました!

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何だか、長い夢を見ていた気がする。



夢の内容を確かに覚えていた気がするのに、波にさらわれる砂のように。


その面影すらも、自分の記憶からしだいに消えていった。


とても大事な夢だった気がするのに。






「・・・・・・ん、うん」



目を開けると目の前には有名な外国の美術館で見るような、端正なでとても美しい顔立ちが視界いっぱいに映る。



「・・・・・キレイ」



伏せられた、自分よりも長いまつげの上で長めの黒い前髪が無造作に揺れていた。

その美しい顔がもっとよく見たいと、そっと手を伸ばして髪を触ろうと伸ばした手は目の前の人物にしっかりと捉えられている。




「!!??」


「おはよう、クローディア」




そして、そのまつげの中からどこまでも深い色をした光る黒曜石の双眸が現れる。

私は一瞬にしてその力強い眼差しに囚われてしまったかのように、瞬きもできずにその目を見つめていた。


そうだ。


どこまでもまっすぐで力強さを感じるこの瞳は、大好きなあの人の。




「じ、ジークフリート様ッ!!??」



目の前にいるのが誰かを認識した途端に、全身がバネになったかのようにものすごい勢いでその場から飛び上がる。


寝起きに、ジークフリート様の美しすぎるどアップ顔など!!


なんて心臓に悪いッ!!



一気に全身の血が心臓から動き送り出されて、身体中が大きな熱を持つ。


そして次の瞬間には、別の熱の塊が私の方へと突進してきた。



「クロエぇぇぇーーーーーーッ!!!」




ドッシーーーーーーーン!!!



「ゴフッッ!!!」



その熱の塊は、さながらラグビー選手が敵に向かって思いっきりタックルをかましたかのごとく!!

私の上半身に力いっぱい全身をぶつかってきた。



これ、食事あとなら確実に吐いてるよ!



せっかく起き上がった私の体は、再び床にむかって勢いよく熱い塊と一緒に吹き飛ばされた。

とにかく背中と腰が痛い。




「イタタタタ・・・・」



裏側に走る痛みに顔をしかめると、視界の隙間から栗色の髪の毛が自分の胸元に見える。

その短めの髪は少しクセがあって、無造作に色んな所へむかって跳ねていた。

そっとその髪に触れると、思ったよりも柔らかい。


そうだ、この髪は。




「・・・・・レオ?」


「く、く、クロエぇぇ~~~~!!!」



私の胸元に顔を伏せていたレオナルドが顔を上げると、もうすでに涙と鼻水とでぐちゃぐちゃだった。

その泣き顔と緑の瞳はイヴァーナの想い人であったジャックを思い出し、なんだか心が暖かくなる。



「レオったら、すごい顔!」

「クロエぇぇぇ~~~よかった!本当に、よかったよぉぉ~~~!!!」



そして私の顔を見るなり、私の胸の上でわんわんと子どものように泣き出してしまった。

腰はしっかりと彼の腕にホールドされてしまい、残念ながら私は起き上がれない。


正直言うと、少し苦しい。




『褒めてやれ、我が主よ。レオナルドもお主の為に色々頑張ったのだ』 


「・・・・ボルケーノ」 




いつもの力強さがなりを潜め、今のボルケーノはとても穏やかな顔をしている。

レオだけではなく、きっと彼にも色々無理をさせたのだろう。



「うぅぅ、クロエ!!うぅぅ~~!!」


「そっか。色々ありがとう、レオ」


泣いているレオの頭を片方の腕で包み込むようにして触れ、もう片方ではゆっくり何度も頭を撫で続ける。


そしてレオの頭を撫でながら、すでに起き上がって少し離れたところで私達を見つめているジークフリート様とふいに目があった。



「・・・・・ッ!!??」

「えっ!?」



目があったが、その途端にものすごい速さで顔を横に背けられる。


なんで??


そのあとも何度か目が合いそうになるが、その度にジークフリート様は私を避けるようにして思いっきりその顔を背けた。



も、もしかして私何かしでかしたッ!?


しかも、こんなあからさまに避けられるようなひどいことを?




「・・・・・・・・」




ガーーーーーーーーンと、何かに頭を強く殴られたような衝撃を受けて、私の顔色が真っ青になる。



「グスッ!どうかしたの、クロエ?」


目の前には大きなワンコ・・・じゃなくて、ようやく泣き止んだレオが私の方をキョトンと見ていた。



「い、いや、なんでもない」



きっと、何かの気のせいだ!

そうに違いない!と、自分の心に強く言い聞かせる。

そうでないと、好きな人にあんなにもハッキリ避けられるなんて、心が耐えられない!!




「そっか!ねぇ、クロエ!もっと撫でてよ!クロエに頭を撫でられるの、俺大好きなんだ!!」


「レオ・・・・・」



お前は一体いくつの子どもだ?

なぜゆえ自分よりもはるかに体格のいい、クローディアと年齢だけなら同い年の男を胸に抱きかかえていつまでも頭をよしよししなくてはならないのか。

私はお前のお母さんではないぞ?



そして、レオよ。



お前が嬉しそうに顔を埋めているその場所は、凹凸が少なかろうが間違いなく胸なんだ。

誰が否定しようともこれから富士山になるかもしれない、可能性に満ちた丘なのだ!

乙女のそれはそれは大事な部分に、君はなんでそんなにも嬉しそうな顔でグリグリと子どものようにいつまでも甘えているのか??



そして、なんでそんな無体を私はいつまでも許してしまっているのかーーーーーーー。




「クロエ、だーーーーいすき!!!」

「ぐっ!!!」




分かった、これだ!!

このレオの緑のキラキラお目目だ!!



イヴァーナ様の過去を実体験のようにリアルに見せられ、

あのジャックの熱くも熱いどころか大やけどをして、それでもなお熱く煮えたぎる愛情に溢れた!!

それでいていつまでも純粋な子どものような、このキラキラ光線に今の私は完全に弱くなっている!!


なんて破壊力のある光線だ!!

さすがは神様を落としたラブビーム!!


瞳の色が似ているのもよくない!!



いい加減にしろッ!!と

いつものように簡単に殴って振り解けない程度には、可愛いやつめ~~!と頭を両手でグリグリと思いっきり撫で回して、思う存分可愛がりたい衝動に駆られている。




「クロエ~~~♪」


「・・・・・・・・」



いや、落ち着けクローディア=シャーロット。



レオは人間だ。

しかも、いい歳した立派な青年!!

なぜか彼の頭部に耳と、お尻にブンブン横に揺れるしっぽがはっきり見えるが彼は人間だ!!



しかも保育園の子どもたちのように、心から思いっきり抱きしめて可愛がるような幼い対象でもないッ!!




「えへへ~~クロエがいつもと違って怒らないから、俺嬉しい♪」



チュ!!



「!!??」



私がいつものように拳を飛ばさないことにこれはいける!!と思ったのか、レオは腰に回してがっちりホールドしていた手を床について私の顔に自分の顔を寄せてくる。


ちなみに、今触れたのは左の頬。



「ちょ、ちょっとレオ!!やめなさ・・・ッ!!」

「いーやーだ!!俺もクロエにたくさんチューしたい!!」



今度は、ご機嫌のワンちゃんよろしく顔中に降りかかる触れるだけのキスの嵐。


俺もって、お前しかしてないだろうがッ!!


と叫びたいが、それもキスの嵐に邪魔されて吐き出せない。


そして動きの止まったレオが私の顔の横に手をつき、まっすぐで真剣な目を向けてくる。



「クロエ」

「・・・・・れ、レオ??」



さっきまでのワンちゃん的な悪ふざけ☆では済まない雰囲気に、身体中が緊張感に包まれて動けなるーーーーーーーーー。




「クロ・・・・・ぐっ!!!」

「!!??」



バタンッ!!!



突然、レオが白目を向いて私の横に倒れた。



これは、あれだ!

漫画とかでしかみたことのない、必殺技!!

首トン、バタンの『手刀』だ!!



あれ漫画で横から見てるとすごくかっこいいのに、目の前でその瞬間を見させられるとものすごくホラーーなんですね。




「いい加減にしろ!!レオナルド!!」

「じ、ジークフリート様!」

「大丈夫か?」

「は、はい!!」



ジークフリート様の手に引かれて、私はようやく立ち上がることができた。



「身体はどこも痛くないか?」

「はい、大丈夫です!」

「そうか」



そう、私の目の前に立っているのはジークフリート様だ。

イヴァーナ様の過去を何十年単位で一気に見てしまったこともあり、何やらすごく久しぶりのようにも感じてしまう大好きな人の姿に私の心が自然と浮きたつ。



やっぱりかっこいい~~~ッ!!



「・・・・・・っ!!」


「!?」



でも、やっぱり目がしっかりとあった瞬間に顔を背けられてしまった。

ときめき全開でバッチリと見てしまったのがいけなかったのか。

いや本当に、私が気を失っている間に何があったんだろう。



『そんなに落ち込むな、主が悪いわけではない』



シュンとなっている私に、そばにいたボルケーノがそっと肩に手を置きながら優しく語りかけてくる。



『そしてイヴァーナのこと、本当に感謝している』


「・・・・・ボルケーノ」




彼はイヴァーナ様の過去をどこまで分かっているだろう。

あの悲劇を、知っているんだろうか?



「私は、何もしてないよ」



そう言う私の頭をポンポンとボルケーノが暖かくのせる。

イヴァーナ様の心が落ち着いたら、ボルケーノとも早く会えたらいいな。

私の右手は自然とイヴァーナ様の眠る胸の上で光り輝く紅い石の上にのり、その石をギュッと握りしめた。


そして赤い魔女様の気配はもう感じられないと、ボルケーノ様が言う通り何度話しかけても紅い石は反応がない。


彼女にもちゃんとお礼が言いたかったのだけれど、いつか会える日が来るだろうか。




「じゃあ、みんなでそろそろ王都に帰ろっか!!」


『そうだな。家に帰ろう』


「あぁ」




ちなみに、気を失ったままのレオナルドはジークフリート様が担いでいる。



『はぁーーー!!ぬうぅぅんッ!!!』



そんな私達を一箇所に集めると、ボルケーノは気合を嬉しそうに思いっきり力を込め、おなじみのモリモリマッチョポーズで炎を生み出した。




ゴオォォォーーーーーーーッ!!!




ボルケーノの手のひらから生まれた激しい炎が私達をサークル状に包み込むとさらに激しく燃え上がり、そして一気に炎ごと私達の姿が消える。



残ったのは抜けるようなどこまでも青い空と、降り注ぐ太陽の光りに反射してキラキラと輝くとても美しい純白の雪山だけだったーーーーーー。



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