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氷の神と赤髪の少年

氷の神と赤髪の少年 2

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その日から、ジャックがもう来なくなると思ったがーーーーーーーー彼は思った以上にとてもとてもしぶとかった。




吹雪の中でも、その吹雪をあの手この手でかいくぐっては会いにくる。

魔法で強制的に村に戻しても、こりずにまた登ってくる。

怖いモンスターの幻影を見せても、びびるどころかカッコいい!と喜ぶ始末。

毎日のように彼が山に登ってきても私は一切姿を見せなかったが、彼は気にせず山の頂から私への気持ちを大きな声で叫ぶのだ。



『神様ーーーーー!!!俺はあんたが好きだーーー!!大好きだーーーーーー!!』



村一番の美しい娘にこっそり夢のお告げで頼んで誘惑してもらったこともあったが、これにも全く見向きすらもしない。

申し訳なさすぎて、後から娘には私から心から謝罪と山の幸を送らせてもらった。



それでもいつかは気持ちが冷めていくだろうと、そんなことを繰り返して気づけばあっという間に5年が過ぎた頃。

これまで平和だったグラン村に、ついに戦の火の手が伸びてきた。

隣の国が村の近くにある山の幸の豊かさに目をつけて、奪うために襲いかかってきたのだ。

村中の男達が戦に行き、そしていくつもの命が散っていった。




そしてーーーーーーー。





『ジャックッ!!!』

『・・・・・神、さま??』



目の前で、今まさに命を奪われそうになったその青年を私は助けてしまった。

人の争いには双方に手を貸さないと、強く決めていたはずなのに。

傷を負ったジャックを戦場に居させられない!と、自分の山へとすぐさま移動する。




『よかった・・・・よかった!ジャック!』

『こうして会えるの、本当に久しぶりだね神様。やっぱりあんたは、すごいキレイだ』




山に着くと、ジャックは私の身体を抱きしめてあの頃と何ら変わらない無邪気な笑顔を見せた。



『ねぇ、神様。俺は今も、あんたが好きだ』

『ジャック、お前はまだそんなことを言って』

『だって、あんたはいつも1人だった』

『え??』




ジャックにだけ見えていた氷の女神。

他の人からは見えず、会話すらもできなかった。

いつもいつも、彼から見た彼女は1人だった。

それが当たり前だと話していたが村の家族の仲が良い様子をみて、少し寂しそうな顔で見ていたその横顔が今も忘れられない。




『俺は、あんたと家族を作りたい。あんたに家族を作りたいんだ』


『じゃ、ジャックッ!?』



神にももちろん子どもは作れるらしいが、1人で永遠の命を生きられる神が家族を作ることはほぼなく、気まぐれでのことも多い。

それに、恋愛などというよく分からない感情は神同士には生まれない。



『お前は何をバカなことを言ってるんだ!!私に家族だと!?』

『そうだよ。俺との子どもができて、その子どもがまた親になって、子が出来て。そうやってあんたの家族が繋がっていけば、俺が死んでもあんたはその家族を見守れる。あんたは1人じゃなくなるんだ!』

『・・・・・ジャック』



私に家族??

子どもだなんて、何を言ってるんだ。



『あんたのただの気まぐれでも構わない。けど、俺はあんたと家族を作りたいんだ!俺が愛してるのは、あんただけだ!!』


『・・・・・ッ!!』




なんてバカな人の子だ。

そんなことを何年も考えていたのか。

こんなバカげたことを全身全霊で泣きながら叫ぶなんて、お前は本当にバカだ。



神が1人で、何がおかしい??

それを寂しいと思ったことはない。

思ったことは、ないはずなのにーーーーーーー。




『ジャック、私の名前はあんたではない』

『あ!ごめん、でも俺あんたの名前は神様しか知らないし』


『・・・・イヴァーナだ』

『えっ!?』



私はジャックの顔を両手で包み込むと、人間の男女がやっていたように、その唇にそっと触れた。



『なるほど、温かいな』

『え、えぇ!?えぇぇーーーー!!!』

『ジャック、なんて顔だ?だらしのない』



ジャックの顔は真っ赤を通り越して今にも噴火しそうだ。

アワアワして、なんとも面白い表情をしている。

でも、何をしても落ち込むこともしなかったあのジャックが困っている姿を見るのは新鮮かもしれない。



『な、なんで?なんで?!』

『私はお前が人の中でも特に気に入っているんだ。そのお前が願うなら、ままごとにも少しだけつきあってやろうかと思ってな』

『ま、ままごとって、あん・・・い、イヴァーナ!!』

『なんだ、ジャック?』

『俺は昔も今も、生まれた時からずっとイヴァーナが大好きだ!!愛してる!!』

『それは十分に知っている。それで、家族になるためにはまず何をしたらいいんだ??子作りか??』

『こっ・・・・・て、手を繋ぐ!!!』

『なんだ、それじゃあ本当に子どものままごとじゃないか』



私の手をつかんでぐいぐい引っ張っていくジャックは、耳まで真っ赤だ。



『いいの!!俺はゆっくり、イヴァーナと家族になりたいんだからさ!』



あぁ、私の大好きなジャックの笑顔だ。

この5年、姿は見ていたがこうしたやり取りは本当に久しぶりだ。




『そ、それに、まずは家族の前に恋人だしね!!』

『恋人?それは具体的に何をするものだ?先ほどの口付けはもうしただろう??』

『も、もう!イヴァーナのバカ!!!』

『神に向かってバカとはなんだ、バカとは!』

『さっきのキスだって、最初は俺からやりたかったのにっ!!!』




顔を真っ赤にしながら、ジャックはほおを膨らませて不機嫌になっている。

ふむ、どうやら私は何か間違えたらしいな。

人間の恋人と呼ばれる男女は、ああして口を重ねているところをよく見かけたんだが。




『つ、次は、必ず俺からするから!!』

『そうか、わかった』




まぁ、色々ジャックに教えてもらおうか。

あと、人の姿にも化けなくてはな。

このままではジャックしか姿が見えなくて、ジャックが人から見たら大分おかしな人扱いになってしまう。

その姿を、ジャックは気に入ってくれるだろうか??



『イヴァーナ!!』

『うん?なんだ??』

『一生、一緒に幸せになろうな!!』

『あぁ』





私の一生は遥か彼方で、ジャックの一生は私からすれば一瞬のこと。

それでも、お前と過ごす時間は私にとって宝物のようにキラキラした時間になることだろう。





私も昔からずっと、お前のことをは愛しいと思っているよーーーーーーージャック。


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